口腔・かみ合わせと全身の関係

咬み合わせと全身、不定愁訴との関係

歯科医学において解明できていることが多いと捉えるか、未だ不明なことが多いと考えるかによって我々歯科医師の診断力、説明にも差が出てくるのではないでしょうか?

現代医学が素晴らしい発展を遂げているのは疑いの余地はありませんが、その反面現代医学ではなかなか治癒しない慢性疾患も多いのが実情です。

病名の付けられない疾患が約15,000以上あるとの報告もあるくらいです。

肩・首の凝り、筋肉の張りを鍼・灸・整体マッサージなどで症状を取り除いても、数日も経てばまた以前と同じ辛い症状が戻ってきたことがある人は多いのではないでしょうか?

歯科臨床医としてある程度経験を積んでくると、かみ合わせと全身症状との間にEvidenceはないまでも、何らかの因果関係が潜んでいることを認識してきます。

当医院を受診される皆様の中には口腔内の悩みではなく、いろいろな全身症状を訴えてお越しになられる方が少なくありません。

そのような方に共通しているのは他科の受診歴が多いことです。

もし、かみ合わせに起因している不定愁訴であれば、他科では診断、処置のしようがないわけであり、最終的にはWandering Patientとして各科をさまようことになるのではないでしょうか?

歯科領域の可能性(ブログより)

 咬み合わせの異常(不正咬合)が成長発育とともに体幹の歪みを引き起こし、そのまま大人になり40~50代を迎えるころに様々な不定愁訴を抱え、病院通いするようになる。不定愁訴とは、本人は身体の不調を訴え病院で検査を受けるものの、検査結果では異状がないというもの。何も異常がないことに安堵はするものの、ではなぜ体の具合が良くならないのかと新たな不安に駆られ、次なる病院にて更に検査を繰り返す。世の中にはこのようにドクターショッピングをする方が実に多くいる。当医院にお越しの方にも、財布の中に複数枚の診察券を入れている方をお見受けすることがある。「歳をとると毎日病院のはしごですよ!」なんてことを耳にする機会もある。歳をとると‥‥?。明治の頃は平均寿命が50歳そこそこでしたから、身体の不調が現れた頃には天寿を全うすることになったのでしょう。今は平均寿命で30年は伸びているわけですから、不定愁訴を抱えている方が増加しても不思議はないと私は考えています。そこで突き止めたいのが、不正咬合と不定愁訴の関係です。腕、脚が痺れる、腰が痛くて長く歩けない、深い呼吸が出来ていない、いびきが凄い、その他症状は多種多様ですが、体幹の連動性が悪い状態のまま何年も放置すれば、身体の動きが制限され、動かしやすいところだけ無意識に酷使することになり、筋肉、筋膜、筋の緊張による神経の圧迫などが起きてきます。但し、一人の人間を長期にわたって記録を取り続けることができない中で、不正咬合と全身の歪み・全身疾患との関連性をEvidenceとして明らかにすることには高い壁が立ちはだかります。来院患者さんの年代別の不正咬合の種類、全身症状(不定愁訴を含む)、生活習慣の記録から今年はEvidence(科学的根拠)への糸口が見えてくる、今年はそんな年になりそうです。医科で改善できない症状を歯科で治す、口腔領域には未病を防ぐ多くの可能性が潜んでいることは間違いなく、当方も含めて歯科医がどこまで踏み込んでいけるか、探求は続きます。

2023,1,2

歯科領域の可能性

咬み合わせの改善と姿勢・気道容積の変化

咬み合わせと気道容積の改善の関係

9歳4ヶ月から2年間

1)口唇を閉じる

2)舌を口蓋に付ける

3)口呼吸を鼻呼吸に改善する

4)正しい嚥下(飲み込み)が出来るようにする

のトレーニングを毎日地道に実施した結果、口唇が閉じている状態と気道容積が大きくなっていることがレントゲンでも確認できる。これは身体の機能を正しく改善することで、生体の各組織器官が本来の成長軌道に戻ったことを意味するものと考えられる

睡眠時の咽頭気道の改善と考えられる症例(現在治療継続中)

睡眠時の咽頭気道の改善と考えられる症例

主訴)前歯の重なりがコンプレックスで人前で笑えない。歯並びを改善したい。  当医院に来院された女子高生の悩みは前歯の乱れである。歯列矯正治療は成人になってからするつもりではいたが、母親の勧めで先ずは診査診断を受けてみたいということでお越しになられた。当医院を受診される前に2件の歯列矯正専門医に掛かってきたが、どちらの医院でも上下小臼歯抜歯を勧められたため治療をためらったとのこと。歯列矯正治療の考え方には違いがあり、患者さんの立場で考えればドクターの説明に納得できなければ無理に治療を受けるべきではないというのは基本的な姿勢であろう。  この方の場合、まず最初にお伝えしたことが、このままの歯並び、咬み合わせで体にとって何が良くないかということである。本人の主訴は前歯の重なりの改善であるが、そこだけの改善で良ければ、抜歯矯正で時間も比較的早く目的を達成できるかもしれない。ドクターは患者の主訴のみを改善するだけでよいのだろうか。不正咬合の原因を根本的に理解して頂き、患者さんの協力も得ながら矯正治療後も健康増進に寄与できることが望ましい。その観点から考えると、この方の上顎歯列はトライアングル型、下顎はスクウェア型であり、本来の理想的な半円を描くような歯列弓を呈していないことから、日常生活において舌が口蓋に貼り付いていないことが診えてくる。上顎歯列は舌が口蓋を押し当てることで出来上がり、口蓋骨がきちんと成長発育することで、その上の上顎骨・鼻骨を成長する。舌が口蓋に貼り付いていないということは、常に低位舌にあることを示しており、嚥下、咀嚼機能も正常ではないことが診査の結果判明した。7~11歳であれば顎骨の成長に合わせて筋機能の習癖の改善を行えば、顎顔面骨格の正常な成長発育を獲得でき、歯並びの改善も得られるが、成長期後半及び成人では筋機能の改善だけでは歯並び・咬み合わせの改善を得ることは難しい。従ってワイヤー矯正などの専門的な医療介入によって形態を改善させ、合わせて筋機能の改善を行うことが後戻りの防止、更には正しく身体の各機能を働かせる上では欠かせない。  この女子高生は現在治療途中ではあるが、「2ヶ月ぐらい前から仰向けでも寝ることが出来るようになってきた」と言ってきた。皆さん、これは非常に重要な発言で、今までは横を向かないと眠れなかったということで、舌によって咽頭気道が閉塞されてしまうので鼾(いびき)もあったものが、歯列矯正治療を進めたことで舌房(舌のスペース)が確保され、睡眠時もやっと普通に呼吸が出来るようになってきたということです。  不正咬合が引き起こすと考えられる睡眠障害、閉塞性睡眠障害の研究はこの数年で進むものと考えていますが、Evidenceも大事ですが、今の時点で体調不良を抱えている患者さんにとっては“今”をなんとかしたいのであり、そんな思いを強く受け止めて当医院ではできることを精一杯提供させていただいております。

子供と大人の不正咬合への治療の考え方の違い

 “歯並びは上下の歯列の並びのこと、咬み合わせは上下の歯列が咬み合わさった状態のこと”と理解して頂くと、不正咬合にも様々な状態があることを理解して頂けるかと思います。

 ではなぜ不正咬合が生じるのか?オーストラリアのDr Chris Farrell、イギリスのDr John Flutterは“不正咬合の原因は口呼吸と間違った嚥下”と述べています。皆さん、正しい呼吸の仕方をご存知でしょうか?生まれてこの方正しい呼吸の仕方など親からも誰からも教わりませんよね?

 正しい呼吸とは、1)口唇を閉じて 2)口蓋に舌が張り付いて 3)横隔膜を使う のが正しい呼吸です。

 唾液を飲み込むときには口唇を閉じなければ飲み込みが出来ません。口を開いたまま唾液を飲み込んでみてください。できますか?もしできるとしたら、舌を含めた顔面の表情筋を不自然に動かして飲み込んでいると思います。それが筋肉の間違った使い方であり、習癖となって習慣化されてしまうと、子供の身体の成長発育を阻害することになり、頭蓋顔面骨格が正しい方向に成長しなくなることで顎が大きくならないから歯が顎に収まらなくなり、不正咬合となってしまうのです。医療とは疾病の原因を取り除くことです。身体の成長発育の盛んな時に、歯を間引いてワイヤーを使って歯並びを動かすことが、原因を除去することになるか考えてみてください。世の中には歯列矯正治療と言っても様々な考え方が存在します。当医院における子供達の咬み合わせの治療を進める上では、親御様のしっかりとしたご理解が必要となります。

 尚、ホームページで全てをお伝えすることは出来ませんので、より詳しくは当医院にお越し頂き、スライドなどを使って説明をさせて頂きます。

不定愁訴の根本原因は‥‥

 スポーツトレーナー・鍼灸師の治療によって身体の張り、凝りがなくなり、健康体を取り戻せたと実感するが、数日経つと調子が悪くなることを経験されている方は多いのではないでしょうか?私も同様の経験はあるのだが、現代医学ではなかなか治癒しない慢性病(病名は付かない不定愁訴)は今も昔も多くあるのではないか?歯科の仕事に25年以上携わってくると、咬み合わせと全身症状との間には、何らかの有機的な因果関係が潜んでいることを認識する。人は身体の成長発育において、産まれて直ぐに母親の乳首を舌で口蓋(上顎)に押さえつけることで母乳を飲み始めるのだが、それによって口蓋の骨及び舌を含めた口腔周囲筋の発育のスイッチが入り成長していく。しかし、そのスタートから成長プログラムが狂い始めると、人によってはある成長のステージにおいて不定愁訴を抱えるようになるのだろう。明治時代の平均寿命は約50年であったが、約80歳を超える現代においては50歳以降に不定愁訴を訴える人が増えているのは不思議ではない。当医院では、咬み合わせのバランスを崩した方に多く認められる不定愁訴を丁寧に聞き取り、咬み合わせ由来と疑われる主訴に対しては、機能的歯列矯正治療も含め、acu placeの大饗先生のご協力も得て少しでも身体の症状の軽減につながる取り組みを続けて参ります。(2020.8.2ブログより)

不正咬合(歯並びの歪み、上下咬み合せの偏位)を放置したら‥‥

高血圧と咬み合わせ

 当医院を受診されている患者様の中には血圧が高くなった原因は分からないが会社の健康診断で血圧が高いと指摘され、病院から血圧を下げる薬を飲み続けている方がいる。原因が分からないのに・・・

 口腔内の状態、咬み合わせを歯科的に問題を探っていくと、奥歯の歯が失われたまま放置していることで咬み合わせが長い期間低い状態で過ごされている。生体は適応能力があるので歯が失われても他の残存する歯で咀嚼をすることはできるが、顎の位置が徐々に偏位していく。顎の位置が偏位するということは、咀嚼筋の緊張状態が続くことになり、筋肉の拘縮、体幹のねじれなどによって頸椎の間を走行している椎骨動脈が圧迫を受け続けることで血流が障害されると、必然的に生体で最も酸素消費量が多い脳へ心臓が酸素を送り込むために供給過多となって血圧が上昇してもおかしくはない。

 そのような場合当医院では先ずは奥歯の低いかみ合わせの状態を改善させるために奥歯にスプリントというプラスティックのプレート(着脱可能)を装着することを提案させて頂き、使用していただく。継続使用するなかで日常の血圧に変化が現れるか経過を診る治療となる。

 治療は改善しない症状に対して方程式のように進めるのではなく、経過を診ながら慎重に進めることが極めて大切なことです。

咬み合わせと体幹の関係

咬み合わせと腕の痺れ、肩凝りの関係
 10年以上前から左股関節、左足首に違和感を感じながら生活をされているという50歳代の男性。この1年ぐらい前からは左肩、左首周りの凝りが出始め、2ヶ月ぐらい前からは左腕が痺れたりする日もあるとのこと。毎日左側のどこかを揉んでいないと筋肉が凝って凝って辛いという訴え。整形外科や大学病院にも身体に異常がないか検査にも行っているが、結果は問題なしとのこと。当医院のHPを見てもしかしたら咬み合わせが良くないのかもしれないと藁をもつかむ思いで来院された。口腔内所見としては下の前歯が全く見えないぐらい咬み合わせが深く(低位咬合、Ⅱ級骨格)、左側の小臼歯は上下で咬んでいない。過去を遡ってこの方の身体の状態の変化を推測すると、顎位が低い(奥に下がっている)ことによる咀嚼筋の緊張、左側の小臼歯が咬んでいないことから、下顎骨が舌骨とともに左に偏位していることが疑われた。診断用も兼ねて先ずは2週間、下顎を前方に引き出し、臼歯部を挙上するタイプのスプリントを装着していただいた。すると、患者さんの言葉では「左側の脚の違和感がものすごく減り、プレートを装着した夜からは肩こり、首の凝りもほぼなくなった。気が付くと左腕の痺れのような症状も今はない。この2週間左側を揉むこともなかった。」とのこと。当院では同様な症例を数例経験しているが、これは不正咬合によって下顎骨と舌骨がともに偏位することから、それと連動して胸鎖乳突筋、僧帽筋、中斜角筋、前斜角筋などが一緒にいっしょに引っ張られて拘縮(緊張)し、それによって頸椎も偏位して腋窩神経、筋皮神経を圧迫するためと考えている。今後はかみ合わせと体幹との関係をより詳しく調べていく必要性を感じている。

不正咬合が体幹に及ぼす影響

変えろ!口呼吸から鼻呼吸へ!
 むし歯の氾濫時代が過ぎて久しいが、当医院における新規患者さんのケースを診ても、歯科における疾病概念が完全に変わってきていることを実感する。来院理由の主訴として「歯が欠けた、顎が開きにくい、家族から歯ぎしりがひどいといわれた」など様々である。このような患者さんの口腔内にみられる共通事項として「歯並びが悪い、上下の咬み合わせが良くない、歯の干渉が強い」などである。要は舌を含めた口腔周囲筋のよる力のコントロールが上手くいかないために、機能的な問題が構造的な問題を引き起こしているのである。。
これが現実!咬み合わせの生理的変化!!
写真左上は子供の初診時とトレーニング経過途中であるが、身体が出来上がるときに機能を改善できなければ、大人になって右上の写真のような状態になり、歯の生理的な移動と重なり、成人になっても歯並びが更に悪くなり、咬み合わせの乱れの代償が、頸椎や体幹のバランスを乱すことに繋がっても不思議ではない。

口腔・鼻腔・咽頭と全身疾患(病巣感染)との関係

病巣疾患とは

すでに生じてしまった病気を水量が増えて反乱を起こした川の下流に見立てると、その根本原因のある場所はしばしば川の上流に存在し、そこでは川の氾濫はありません。人間が生きていくために必要な食物と空気の入り口に位置する口腔、鼻、咽頭は様々な病気において川の上流となる宿命を負います。重要なことは、川の上流では大した異常と認識されなくとも川の下流には甚大な影響を及ぼす可能性が潜んでいます。上流の口腔、鼻、咽頭の「点」を扱うのは歯科、耳鼻咽喉科ですが、その下流の「点」を扱うのは分野別に細分化された内科、皮膚科、整形外科、神経科など多岐にわたります。「点」と「点」を結ぶ「線」を探求するということは川の上流から下流までをトータルに俯瞰することが必要で、そのためには診療科の垣根を越えた取り組みが不可欠です。(日本病巣疾患研究会)

 当医院はそのような趣旨から2013年に設立されました日本病巣研究会に入会し、“上流医療”の重要性を皆様にお伝えしております。

病巣疾患

「病巣疾患」という言葉は一般の方にはもちろん、医師や歯科医師にとってもあまり馴染みがないかも知れません。どいうことか?

口、鼻、のど(咽頭)から始まる全身の病気

 私たち人間は生きていくための「命の源」である食物と空気を口と鼻から取り入れます。しかし、その代償として体の入り口である口腔、鼻腔、咽頭は常に細菌、ウイルス、粉塵、異物などに曝されることになります。こうした危険から私たちの体を守るために、口腔、鼻腔、咽頭は食物や空気の単なる通り道というだけでなく、実に巧妙な免疫機能と神経機能を備えています。それゆえ、口腔、鼻腔、咽頭に慢性炎症が生じると、その局所では症状が乏しくとも同部位の免疫系や神経系を介して全身の免疫、神経機能に影響を及ぼし、結果的に口腔や咽頭とは一見、関係がなさそうな様々な体の不調や疾患を引き起こします。

 例えば歯周病があると、以下の疾患リスクが高まることが知られています。

  • 低体重児出生(胎児の発育不全)
  • 関節リュウマチ
  • 虚血性心疾患
  • 脳梗塞
  • 骨粗鬆症
  • 糖尿病の悪化
  • 高齢者の誤嚥性疾患

 こうした背景から1997年に米国歯周病学会は歯周病予防キャンペーンで“Floss or die”「デンタルフロスをしますか?それとも死にますか?」というセンセーショナルなスローガンを発表し、世界を驚かせました。

病巣疾患のルーツ「病巣疾患」という考え方

 今から遥か昔の紀元前、医学の父といわれるヒポクラテスの時代から「体のどこかに細菌が感染した病巣があって、それが原因で感染した場所とは違う、離れた場所に病気が起こる」という考え方がすでに存在していました。

 20世紀の初頭にこの考え方が「病巣感染」として脚光を浴び、中でも病巣感染の原因として扁桃炎とむし歯が着目され、盛んに扁桃摘出と抜歯が行われていた時代がありました。

 先ず、むし歯と全身病に関して、イギリスの医師が「病気に罹った歯はそこから排泄される細菌が血液にのって、遠く離れた部位に二次的に病変(病気)を生じさせる(口腔敗血症)」という概念を1911年に英国の権威ある医学誌に発表し、一方で「不潔な歯科治療が全身的な病気を作る」と警鐘を鳴らしました。因みに、むし歯や歯周病が原因で全身に疾患が生じることを「歯性病巣感染」と呼びます。

 更に詳しくお知りになられた

症状が無ければ問題はない?のでしょうか?

症状が無ければ問題はない?のでしょうか?

対処療法の繰り返しに

   終始していませんか?


・治療する必要がある場合、その原因は何?

・現状をよく理解していますか?

・説明された内容を理解できていますか?

・歯の治療を受けても、歯は元の状態には戻りません。歯の延命治療を行っているに過ぎないことも理解していますか?

症状が無ければ問題はない?のでしょうか?

不正咬合に至った原因を除去すると・・・

不正咬合に至った原因を除去すると・・・
主訴)前歯が開いてきたので嚙み合わせを治したい。(42歳女性)

所見)顎位が上顎に対して下顎が後退している状態。決して前歯が出ている出っ歯ではない。
この方の主訴は歯並びを治すことではなく、前歯が開いている“咬み合わせ”を改善させたいとのこと。

 治療方針としては、本来であればワイヤー矯正治療が望ましいケースではあるが、この方の下顎後退の根本原因は咀嚼筋を含めた筋肉の習癖にあるので、先ずは筋肉の動きを呼吸から改善させることにした。但し、骨格の成長は年齢的に望めないので、子供たちのような歯列も含めた改善は難しいという条件ではあるが、本人の意思を尊重して筋習癖の改善に取り組んだ。その結果、約3年は要したが、本人の努力によって満足のいく咬み合わせを構築することが出来た例である。
 治療とは、何事も後戻りできる処置であることが安全である。当症例では1~3ヶ月おきに患者さんにはお越しいただき、模型、画像診査、開口診査を継続しただけである。患者の病態、疾患へのしっかりした理解と治療内容の把握があれば、ドクターが過度に介入せずに改善するケースは他にもあることを疑わせる切っ掛けとなった例である。