院長ブログ

不正咬合の予防には「機能の早期介入」が不可欠

以下は、約7年前から小児の不正咬合を引き起こす根本原因を取り除く治療に時間を割く切っ掛けになった論文の要旨である。

  1. 口腔機能の問題(OMD=Orofacial myofunctional disorder)は不正咬合の主要要因である
  2. 授乳は顔面発育にとって最初の重要な要素である
  3. 気道閉塞は顔面成長の妨げとなる
  4. 舌・口唇・頬の軟組織制限(舌小帯など)も不正咬合に直接関与する
  5. 口呼吸は構造と機能の悪循環を生む
  6. 口唇閉鎖不全・低位舌などの安静位の問題
  7. 指しゃぶりなどの口腔習癖は代償反応であり原因ともなる
  8. 咀嚼の仕方・習癖は頭蓋顔面発育に直接影響する
  9. 口腔機能の問題(OMD=Orofacial myofunctional disorder)は時間とともに累積し、他の疾患を引き起こす
  10. 母体の睡眠呼吸障害は胎児の顔面発育にも影響する

これらの原因を放置したまま年齢を重ねると身体のあちこちに凝りや痛みの症状が出てくるのは体験者であればよく分かるはずである。

脊柱管狭窄症などはその最たる例ではなかろうかと当方は考えているが、論文ベースでEvidence(科学的根拠)があるわけではない。

              2025,12,26

コミュニケーションの大切さ

最近は宅配物の依頼はほぼ全てが自動音声の電話案内が流れていて、飲食店の注文ですらタブレットを介しての注文が多くなっている。以前であれば電話口で言葉を交わすだけで受け答えの感じが良いとそれだけで気分が晴れやかになったり、元気のいい店員さんがオーダーを取りに来てくれるだけ〝店の印象が最高!〟となったりしたものだった。人は言葉を介してコミュニケーションを取り、気付くとそのやり取りの中でお互いの相性や信頼感の距離を測っている。人の身体を預かる医療現場では、何よりもまず信頼関係を構築できなければ適切な医療を提供できる環境にはならず、当医院のミッションである『価値ある時間』は医療従事者による質の良い医療行為のことだけではありません。言葉を使わない非言語コミュニケーション、つまり態度、表情、仕草からも人は感じ取り、文字通り言葉を用いたコミュニケーションにおいても相手に合った言葉を使うことだけでも患者さんに安心を届けることが出来ると考え、スタッフ一同それらのことを意識しながら仕事に従事しております。今現在スタッフを募集中であり、ここに記した内容に共感できるような方は是非ご一報頂きたいと存じます。

              2025,12,25

診療報酬改定

日本の国家予算が約122兆円と2年連続で過去最大を更新し、歳出面では医療、年金、介護などをあわせた社会保障関係費が約39.1兆円程度になる。26年度の診療報酬改定は医療従事者の人件費などに回る本体部分の引き上げ率が3.09%と30年ぶりの水準となったが、これで医療現場の改革が進むとは思えない。医療現場で何が起きているのかをつぶさに調査しているのか、医療機関と言えども小規模から大規模病院までを一括りで何とかしようとすること自体に無理がある。〝国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何をなすことが出来るのかを問うてほしい(J.F.Kennedy)〟の格言を歯科医療の現場に当て嵌めるとしたら、“国が歯科医療のために何かをしてくれるのかを問うのではなく、歯科医療従事たちが理想とする歯科医療のために何をなすことができるのかを問わなくてはならない”と置き換えられるのではないでしょうか。提供されている歯科医療の質は医療機関によって様々であり、質の検証すらなされていない実態を野放して点数改定のみ繰り返しても、患者の求める歯科医療を構築できるのか疑問である。

              2025,12,24

古い常識やくびき

知人と古民家を利用した和食屋さんを訪問し、まるで昭和にタイムスリップをしたかのような店内で美味しいおでんとお酒を頂いた。お互いの近況と一年を振り返っての話になり、業種は違えど社会を構成しているのが人間である以上、AIの出現、進化を認め享受しながらも、私生活も仕事も人としての付き合い、コミュニケーションが欠かせないでしょうと意見が一致し、むかしは“10年先を読んで仕事をしろ”と言われていたようだが、今もそのような感覚で生きていたらガラパゴスになってしまうだろうと笑いあった。狭いカウンターということもあり、隣客の声も耳に入ってくるのだが、どうやらそれなりの企業の方たちのようで、どうやって古い慣習を変えていったらよいかと社内改革について語っていた。全く聞くつもりはなかったのだが、そこの会社の幹部層の経歴に多様性がなく、業界の常識やくびきから離れられないとのことだった。知人とともに妙にうなずきながらお酒を酌み交わしたが、日本社会全体に蔓延っている改善ポイントであろう。『業界の常識やくびき』を当方の仕事に当て嵌めるとまさに分かりやすい。変化を避ける文化、前例踏襲といった、組織を縛る見えないルールとでもいえばよいのだろうか。突拍子のないことをするのは問題だが、成果のある治療を認めない体質はいったいなぜなのだろうか。

              2025,12,23

いつまで対処療法を繰り返すのか

口腔内に装着されている修復物のやり替えを希望してお越しいただいたものの、ただ上物さえ取り換えればいいという考えでは口腔の健康は守れない。〝There is a reason for everything. 〟はブログにも再三載せているJohn Mew先生の格言ですが、先ずはその原因を突き止めなければ再発防止には繋がらない。国産ロケットの打ち上げ失敗が続くと報道されているが、原因究明がなされなければ次期の予定を立てられないのと何ら変わりない。歯科治療においては詰め物や被せ物の適合精度を患者本人が確認することはできず、担当ドクターを信じるしかないのが現実であり、口腔内カメラで見せられたとしても数ミクロンの誤差までは所詮分からなない。修復物や補綴物(被せ物)と削った歯面の間には、接着剤の入る数ミクロンの厚みは必ず必要なのだが、その厚みがあまりにもあり過ぎると維持力の低下の原因となり、場合によっては早期脱離の原因となる。しかしそれ以前にかみ合わせによる内在する問題が存在すれば、どんな治療レベルで処置を施しても予後が良くないのは想像に難くない。当医院の患者さんを長期に診ていると、かみ合わせの良くない方の口腔内の特徴は上下奥歯の治療痕が多く、しかも同じ歯を何度も治療を繰り返しているのである。そろそろ対処療法のオンパレードをやめ、根本原因を作らない真の予防歯科に舵をきれないものだろうか。

              2025,12,22

口蓋を拡げろ!

7歳の女の子に鼻閉があり、耳鼻科に3ヶ月通うも同じ点鼻薬を処方されるだけで何も改善がないとのことであったが、当医院で行っている不正咬合を有する子供達への治療の取り組みを説明し、頭蓋顔面発育障害の表れの一つが不正咬合であり、そして鼻閉であると説明をさせて頂いた。耳鼻咽喉科領域の診査診断は出来ないもののレントゲン撮影の結果ではアデノイド扁桃肥大を認め、それによる口呼吸が併発していることは容易にわかる状態であった。鼻上顎複合体を8歳前後までに前方側方に拡大することでアデノイド肥大が減少するとの論文報告もあり、それを根拠に約4ヶ月間口腔内に特殊な装置を装着して過ごして頂き、先日その治療を一旦終了した。その結果、鼻の詰まりが8割ほど改善(母親曰く)し、今までは食事の際に味も分からず食べていた節があったが、最近は「〇〇が美味しい!」と言ってくれるようになったと母親は驚いた表情で熱く語り始めた。口蓋は口腔内から見れば屋根であり、鼻腔からみると床に相当するので、鼻が通って舌が口蓋に張り付くような環境を維持できれば、解剖学的な問題の改善が進むにつれて生理学的な問題は改善する方向に向かうと考えるのが自然である。つまり、成長の適正化を一日でも早くすることが全身状態を健康にする第一歩であり、薬に頼り過ぎるには如何なものかと考える次第である。

              2025,12,21

舌小帯短縮症(Tongue-tied)

舌小帯短縮症に関する治療に対して世界的な風当たりが強くなっているとある歯科医療関係者が語っていたが、全くもって不思議でならない。不正咬合に至る根本原因は筋肉の使い方にあると約100年前に歯科矯正の大家が論文で発表しており、今ではその原因の一つに舌の可動域制限が関与していることが判明しているにも拘わらずである。歯列矯正治療では小臼歯抜歯の有無が現在においても議論の的になることがあり、当医院にお越しになられる患者さんの中にも、「他院では手前の歯を抜いて歯列矯正治療を勧められた」という方が少なくない。ブログで何度も頭蓋顔面発育障害の一つの表れに不正咬合があると述べさせて頂いておりますが、顎が本来の大きさに成長しない原因の主因は舌が口蓋に張り付いていないからであり、永久歯が生え揃うまで待ってから抜歯して空いたスペースに歯を並べるのでは、不正咬合を引き起こした原因は残されたままであり、歯列弓形態が狭くなれば舌房のスペースが狭くなることから気道狭窄を引き起こしやすくなり、そのような矯正治療後に猫背になっている方を当医院に来院される方の中に多く見られるのは、単なる偶然なのだろうか。もしも舌の可動域制限が不正咬合の主因であると世界の名だたる主要歯科協会が仮に認めたとしたら、舌に対するアプローチを何もせずに小臼歯抜歯を推し進めてきたことは世界から大変なバッシングを受けることになるのではないかという疑念が当方には湧いてきている。現にシンガポールでは舌に関する手術自体が国によって禁止される事態となっているから困ったものである。今年は母乳哺育が出来ずに思うように体重増加のない乳幼児5名が当医院にて舌小帯オペを行い、術直後から別人のように母乳を飲み始めた姿からは、何が正解なのかを赤ちゃんが身をもって示してくれたとしか言いようがない。来年はさらに多くの乳幼児、幼児、成人の方にも素晴らしい結果を届けられるよう精進に努めたい。

              2025,12,20

かかりつけ医の意義

8時過ぎの診療室に「歯が疼いて痛い」という初診患者さんからの電話が入った。アポイント帳を確認するまでもなく予約枠は埋まっており、もしもこの方を診察するとなれば予約患者さんを別日に移動するしかなく、当然そのようなことはできない。〝少しぐらい時間を取って診ることぐらいできるだろ〟と思われる方はいるかもしれないが、その〝少し〟はどのくらいを指しているのか。この手の応急処置で5分、10分で対応できることはなく、問診から含めればそれ相当に時間は掛かるのである。問い合わせをすべて受け入れていたらまさに野戦病院的な診療になることは目に見えており、開業当初はそれも医療人の務めと心して患者対応にあたっていたこともある。しかしそれでは結果的に患者と医療者側の満足のいく医療にはならず、来院される全ての方に信頼される医療を提供するには至らないのである。定期的にメンテナンスにお越し頂いている方であれば口腔内の状態を把握しているので電話口で対応を済ませることも可能で、必要であれば後日あるいは時間外での対応が可能であり、かかりつけ医である存在意義はそこにあるのではないでしょうか。症状が発現したときのみ治療を受ける対処療法の繰り返しは長期的には歯の寿命を短命にし、口腔内に潜む問題を増幅させているだけであり、いくら我々医科医療従事者が適切な医療を提供できたとしても、歯が元の状態に戻ることはないのである。

              2025,12,19

加齢による口腔機能の変化

 口腔筋機能の適正化の重要性を改めて認識させられた一日であった。というのは子供ではなく社会の第一線で働いておられるキャリアウーマンの方が、以前より首から肩にかけて凝りがあり、頻繁に鍼灸師に通って身体を解して頂いているというのだ。口腔内の状態は想像に難くなく、歯列弓形態は上下ともいびつであり、臼歯部および前歯部においても上下的に不自然に干渉(かみ合わせによる外傷)している歯は既に何らかの処置が施されており、数本に至っては神経まで抜く処置をされている。個々の歯の治療は済んでいても、歯が悪くなった根本原因は取り除かれておらず、原因を遡れば幼少期さらには乳幼児期の口腔機能にあります。そもそも機能は幼少期から継続的に獲得されており、口腔機能の発達が何らかの要因によって生理的に獲得されない場合、成人期では未成熟な機能であっても代償機能(歯を擦り減らす、歯にひびが入るなど)によって問題なく生活を営むことになります。しかし壮年期、老年期においてはその影響は大きく、正常な機能を獲得した場合と比して、よりシビアな状態になりリハビリテーションに多大な量力が必要となるのは容易に想像できます(左図参照)。ある程度の年齢を重ねた方は、将来的な誤嚥予防、すでに生じているかもしれない体幹の歪みなどを改善する際には、舌を含めた口腔周囲筋の正しい機能回復まで行うようにしてください。また、小さなお子様のいらっしゃるご家庭におかれましては、口呼吸(お口ぽかん)になっていないか常日頃から観察するようにして頂き、常に開いているようであれば早急にしかるべき歯科医院にて診査して頂くことを勧めます。

          2025,12,19  

理想的な歯科医療の現場とは

普段の臨床において患者さんと知識の共有が出来るかどうかはその後の治療、そして予後においても重要なポイントとなる。従って、主訴を抱えて来院された方の診査診断を行い、状況説明に時間を要するのは言うまでもない。チェアサイドにおける説明はあくまで大雑把な解説でしかなく、到底患者さんが理解し質問をする環境にはならない。ドクターの一方的な説明を受けて聞きたいことも言えずに治療に入ると碌なことはないのは言わずもがなである。さすがに今の時代にその様な診療をされている歯科医師はいないと思いたいが、そうでもないから恐ろしい。なぜ現状に至った原因説明を端折るのか。なぜ説明に納得がいかないまま治療を受けてしまうのか。保険診療にて医院経営を成り立たせようとすれば数を診るというより数を捌くことをしないと点数が上がらないというのが実情であり、結果的にその付けがどこに向かっているかと問われれば、患者さんの口腔内にあるといえるのではないか。歯科治療をあまりにも安易に捉えているとしか思えない患者さんの口腔内の治療痕を診るたび、医療制度が悪いのか、白衣を着た人間の心が悪なのか、心苦しくなる機会が一向に減らないことにストレスを感じる。

              2025,12,18

Tongue-tied

米国の小児科医Dr.Richard Baxterは舌小帯異常の認識と重要性を著書を通じて世界的な啓蒙活動を行っている医師であり、来月スイスで彼の講演が世界中の舌に関する研究をしている医師、歯科医師、言語聴覚士など多職種の人が集まる“舌サミット”で行われる。当方も診療室を休診にして参加するが、ここにきて舌小帯への関心が世界中で高まっている気運がある。彼の著書によると、約25%の乳児に舌の可動域制限があるが、小児科医、耳鼻科医、歯科医、言語聴覚士の多くはその影響について十分な教育を受けていないとあり、当方も学生時代を含めて記憶にある教育はない。ではなぜ今当医院にて舌のオペを行うようになったのか。それは筋肉が顎骨の成長をコントロールしているという極めて基本的な原理に立ち返り、不正咬合を引き起こす根本原因を正すには舌の正しい動きの獲得、間違った機能を改善する必要があることに今さらですが気付いたからに他ならない。その舌の可動域が出生直後に判明したならば、その時点で然るべき処置をすべきであり、単に母乳が飲めているから大丈夫なのではなく、舌の機能が正しく働く中で母乳を吸い出せていなければ栄養は摂れても顎を含めた顔面骨格が本来あるべき大きさに成長しないのである。多くの抵抗勢力を肌で感じながらも、目の前の赤ちゃんがオペによって瞬時に呼吸が変わり、身体の緊張が取れ、なによりもオペ直後に母乳や哺乳瓶を気持ちよさそうに飲む姿からは、正解がそこにあるとしか思えないのである。

              2025,12,17

夜と霧

数年前ではあるが、久しぶりに当医院を再初診でお越しになられた方がいて、左下奥歯が疼いて眠れないので治療をお願いしたいとの主訴であった。むし歯を放置したことで細菌感染が歯髄組織(歯の神経と血管組織)まで進行し、根管治療が必要となったケースである。数回の治療回数を要することから当時の予約状況と照らし合わせると、完治するまでは2か月ぐらいは掛かるとカウンセリングをさせて頂いた。「先生、2か月ですか・・・。私、あと2週間ぐらいしか生きられないのです。」と面と向かって言われた時の当方の心の動揺を察して頂きたい。顔色が良くないので全身症状を伺わなければと思っていた矢先に出てきた言葉に愕然とした。適切な例えではないかもしれないが、ナチスの強制収容所を生き延びた精神科医フランクルは、人間から最後まで奪えない自由があると語った。与えられた運命のもとで、どう向き合うかを選ぶ自由である。治せなくとも、意味と尊厳は守れる。その視点は、医療の原点を思い出させる。連日昼休みの時間を使い、通常通り細部まで極めて丁寧に治療を行い、歯科技工士の協力も得て5日間で最終補綴処置まで終わらせるに至った。会計を終え、自動ドアを背にして深々とこちらに向かって一礼をされてお帰りになられた姿を忘れることはない。約一年後、「姉は先生に最後、歯をきれいにして頂いたので安心して旅立つことが出来ますと言い残して逝きました。」と検診にお越しになられた妹さんから知らされ、スタッフ一同涙腺が崩壊した。

              2025,12,16

インプラントの在り方

「抜歯するのはいつでもできるから、駄目もとで保存できるかトライしてみませんか?」と患者さんと相談して治療に入ったのが約2年前。失活歯(過去に他院で神経を抜く治療を受けている歯)の再根管治療を行い、根尖部周囲の大きな膿疱を外科的に取り除き、数か月後のレントゲン写真では回復傾向を確認できなかった為に、再度外科的アプローチとエルビウムヤグレーザーによる患部への照射を行ったところ、約1年後のレントゲン診査では明らかな骨の回復を示す不透過像が認められた。症状も腫れもなく日常生活においても気になることはないとのことで、引き続き経過観察を続けることとなった。エビデンス的には抜歯相当の歯根状態ではあるが、最後の最後まで諦めない執念を患者と共に共有できたことがこのような結果になった要因である。抜歯してインプラントにする方程式のような治療の進め方には非常に抵抗があり、根本原因を取り除くという点においても如何なものかと考えさせられるのが昨今のインプラント治療の在り方である。以前、左下奥歯を抜歯せざるを得ない方がお越しになり、インプラント治療を希望されていたのでしかるべき専門医を紹介させていただいたが、抜歯に至る原因がかみ合わせにあるため、紹介先のインプラント専門医の診断は、〝抜歯後のインプラント補綴処置は勧めていません。義歯も装着できないほどクリアランスがない。〟と説明をされた。インプラントを埋入するのがインプラント専門医であると決めつけていた当方にとって、本物の専門医の姿を見せられた思いがした。


              2025,12,15

経験値の質

舌に関する勉強会が都内のある会議室で執り行われた。様々な学会から批判を受けながらも臨床現場で乳幼児をはじめとした患者さんと真摯に向き合っている医師、歯科医師、言語聴覚士、助産師、歯科衛生士など、多職種の方が密かに集まり、考え方の共通認識など情報交換の場となった。ディスカッションでは大学病院や地方の病院に所属しながら舌小帯短縮症オペを行っている先生方から、「なぜこのオペが世間から市民権を得られないのか?」「なぜ〇〇学会などは目の敵にするのか」といった質問があり、それについての歴史的背景なども含めて主催した小児科医から詳しい話を拝聴することが出来た。当方が普段の臨床や学会主催のセミナーなどで感じることは、一度確立された治療法はなかなか変えられないし、変えようとしない姿勢は改めるべきではないかと思うのである。ある勉強会での質疑応答では、「先程の先生が発言された内容はエビデンスがあるのでしょうか?」と質問を受け、逆に「先生の臨床は細かいことも含めて全てエビデンスのあることしか治療を提供されないのでしょうか?」と問い質した。エビデンスと臨床の間に存在するものが国家資格のある者の経験値であり、それを臨床の場で生かせるかどうかが各臨床医の力量なのではないでしょうか。同じ経験値であっても問われるのは〝経験の質〟であり、最終的には真摯に臨床に向き合う姿勢が問われているのである。

              2025,12,14

口呼吸はなぜよくないか?

口呼吸になるとなぜ顎顔面発育障害が進むと考えられるのか。当医院にてこの治療に取り組みを始めて約7年が経過しますが、医院にお越しになるお子様たちの抱えている問題として、約1~2割に舌小帯が短い、7~8割にアレルギー性鼻炎が認められます。鼻炎がひどい場合にはどのようなことが口腔領域には起きるでしょうか。鼻をつまんで暫くそのままにしていると、自然と口が開いてきますよね。口唇が開いた状態では自然と舌は口蓋から離れてしまいます。つまり、本来口蓋に触れているべき舌の低位舌が常態化してしまうと、舌の力によって口蓋が広がらないだけではなく、鼻気道を通じた呼吸ではない口腔気道による口呼吸となり、人間本来の口腔機能が働かなくなってしまうのです。従って、歯並びが悪くなる根本原因の主因がアレルギー性鼻炎にあるならば、先ずはアレルギーを改善、緩和させることが優先されるのです。同様に舌の可動域が狭い原因が舌小帯(場合によっては喉頭蓋後頭偏位症)にある場合には、適切な時期に舌小帯を含むFasciaをリリースすることで舌の機能を回復させる必要があります。口呼吸、舌小帯が短くてもそれなりに日常生活を送ることは出来ますが、身体は代償反応によって成長していきますので、始めは口腔領域だけの問題だったものが成長と共に姿勢(体幹)、睡眠障害、顎関節障害、発達障害などへと発展していき、老年期になる頃には多大な時間をリハビリに費やすことになることは、経験者なら分かることでしょう。従いまして、口呼吸のお子様はそのうちにではなく、早急にその原因を探り、鼻呼吸に治す必要があるのです。

              2025,12,13

改善

「またむし歯が出来たみたい!」と長年定期検診を欠かさずお越しになられる方の一言が、隣の診療室から漏れ聞こえてきた。う蝕(むし歯)のリスク検査も約20年前に行い、むし歯になるメカニズムを理解し、叢生など歯並びにも改善の余地があったために機能的歯列矯正治療まで行ったにも拘らず、「どうしても甘いものが好きで毎日食べちゃうんです。歯に良くないことは分かっているけどやめられない!!」とのこと。今更ですが、甘いものを食べるとむし歯になるのではなく、ショ糖を含んだ飲食物をダラダラと口に入れていると歯のエナメル質表面からミネラルイオンが抜け出す脱灰が進むので間食は勧められないのであり、必要量の甘いものであれば量的にも問題はない。そうはいっても家庭の食卓環境や職場環境によって常に手の届くところに口に運びたいものがあれば、甘い誘惑に負けてしまいがちなのが凡人である。歯科医師のなかには一切甘い菓子類は口にしないという人もいますが、何事もバランスが大事であり、偏り過ぎるのは食生活のみならず思考においても同様であり、ちょっと変わった人というのは言わば偏りのある人である。話を戻すと、むし歯になってもいいから甘いものを食べたいという方には、歯だけではなく普段の日常生活を見直す切っ掛けにして頂きたいというのが本音である。

              2025,12,12

基礎研究が日本を支える

「自分がいる場所はここだけではない」主人公はデリーからロンドンの郵便局までユーラシア大陸を乗り合いバスで横断する。スマホがない時代、頼りになるのは現地で買った地図と人から聞いた情報だけ。ゲストハウスに泊まり、バックパッカー同士の交流によって旅の高揚感と孤独が交錯する体験記。当方も学生時代はバイトで貯めたお金を全て注ぎ込みヨーロッパを約2ヵ月バックパッカーとして旅をした。旅行と旅の違いはいく先々での感動と不安であり、旅は常に五感が働いている、言ってみれば“生きている実感”が四六時中あるのである。見知らぬ土地の飲食店でメニューに書かれたものを分からぬまま適当に注文するドキドキ感は、翻訳機能が備わるスマホ時代には体験できない貴重なものだった。書棚にある沢木耕太郎さんの『深夜特急』に目が留まり、30数年前の記憶が蘇ってくる。知らない世界があることは、自分を成長させる可能性が潜在していることでもあり、常に関心、興味を持ち続ける人生を歩まれてきた日本人のお二人がノーベル賞を受賞されたことは大変喜ばしく、誇らしい限りである。人は不安を抱えた状態では気持ちも頭も活性化はされない。基礎研究をサポートしてきた国からの研究費が大幅に削減された異常事態を、見識の高い国会議員の先生たちになんとか予算を復活させて頂き、直ぐには成果が上がらないような研究であっても安心して研究できるような環境整備をして頂きたい。

              2025,12,11

世代を超えた共有を

 30数年前、歯科予防先進国であるフィンランドでは国を挙げてう蝕(むし歯)予防に取り組み、その成果は世界各国が見習うきっかけとなったが、世代が変わり、今ではその北欧諸国でもう蝕罹患率が増加傾向にあるというから分からないものである。またモンゴルでは、かつての草原を馬で駆け巡っていた遊牧民が、移動式テントであるゲルを離れ都会に出てアパートでの生活をするようになり、馬の代わりに車で移動するようになってきた。寒い地域では動物の脂身が最高の食事だったが、ウランバートルなどの都会での生活になってカロリーオーバーの食生活をされている人が増加中という。しかもスーパーに行けば甘いお菓子やジュースがところ狭しと並んでいて、甘いお菓子はむし歯だけでなく将来の肥満・糖尿病にもつながる。この度「糖尿病と社会病」というテーマで日本の医師と歯科医師がモンゴルの大学にて講演をされるという。一度の成功も世代を超えて受け継がれていかないと30~40年周期で同様のことが繰り返されるということか。まるで戦争を知らない世代が忘れたころに戦争に巻き込まれるかのようでもある。

              2025,12,10

情緒の欠落

 “最近感動した話ある?”とは、毎年年末に忘年会を兼ねて年に数回交友を深める会を実施している6人での会食の際に出たある人の言葉。当方にとっては10月末の横浜マラソンを4年連続で完走を達成し、昨年よりも30分近くタイムが早くゴール出来た瞬間と述べたが、他の参加者は腕を組んで“感動・・・?無いかな?”と言った具合である。皆さん日々の仕事に追われて小さな感動に気付く余裕すら失われているのではないでしょうか。部屋を整理した時に出てきた懐かしい写真、偶然外で聞いた曲、全くの他人なのに母親に手を引かれて楽しそうに話をしながら歩いている幼稚園児の姿など、その気になれば人の心を揺さぶるものは実に様々存在します。「効率」や「成果」という言葉に縛られ、心が疲弊していく日々の中で私たちが見失いつつあるもの、それは「情緒」という、人間らしさの源泉なのかもしれません。情緒不安定とは言いますが、情緒について普段から意識している人は先ずいないと思います。我々は頭で考えてはいるものの、最終的な決断をするときには頭ではなく心で判断していると思いますし、少なくとも私はそうです。「お受験」という言葉に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。外遊びもすることなく小さな頃から毎日のように習い事、塾通いをする子供達を診ていると、こちらが息苦しくなるほど診ていて可哀そうになり、もっと伸び伸びと天真爛漫に自由に一日を過ごせないものかと危惧してしまいます。「人より抜きんでて」「人よりも早く」などという環境下で育ち、テストの点数や偏差値、年収や肩書など、数値化される部分を過度に評価する社会の在り方は、現代社会から、思いやりや創造性、道徳心と言った人間性を形成する基となる繊細な「情緒」を失わせているように思えてなりません。

              2025,12,9

根本原因を取り除け

 当医院に通院中の方のご紹介でお子様の咬み合わせを診て頂きたいという親御さんがお越しになりましたが、口腔内診査を終え状況説明を進めると、我が子の抱えている問題の深刻さに見る見るうちに顔が強張り始め、仕舞いには「今まで小児歯科に掛かっていたのですけど、今先生に言われたようなことは全く指摘されたことはありませんでした」とのことである。歯医者は歯のことに関して問題がなければそれでよしということで何ら問題はないのかも知れませんが、“歯を診る”のと“全身発達のなかの口腔内を診る”という視点の違いで診断結果は全く異なるのです。子供達の咬み合わせをワイヤーやマウスピースでメカニカル的に治療をすれば歯並びを揃えることは可能ですが、不正咬合を引き起こした根本原因は取り除かれていません。当医院の小児矯正治療への取り組みはただ歯並びを治すのではなく、歯並び・咬み合わせが悪くなった根本原因が引き起こす全身への影響を取り除くことにあり、頭蓋顔面発育障害を早期に治療し、子供達の成長を適正化することにあります。従って、口呼吸の原因がアレルギー性鼻炎によるものであれば耳鼻咽喉科との連携は避けられませんし、舌の可動域が極めて狭い場合にはその原因である舌小帯のリリースも必要になる場合があります。治療のゴール設定をどこにフォーカスするかによって子供達へのアプローチの仕方が異なります。何れにしても不正咬合について親御様の確かな理解が欠かせません。

               2025,12,8

Evidenceとの向き合い方

 当方が大学を卒業した約30年前は、Evidence(科学的根拠)、EBM(Evidence Based Medicine)という活字が世間に知られ始めたころであり、それまでは経験値から教わる部分が多かったと記憶している。どちらも臨床には欠かせないが、Evidenceに縛られると新たな視点や発見を見逃す要因にもなるのではないかと、ある勉強会に参加させてもらった際にドクターのプレゼンを拝聴していて心に思ったことがある。主訴を抱えた患者さんの患部に決まりきった治療法を施した症例が一向に改善しないので、その原因を知りたいという趣旨で発表をされていたのだが、知識は詰め込まれていても想像力が乏しい、発想力がないとでもいうのだろうか、考え方の引き出しがあまりにもなさすぎるのである。誰も手を挙げないので見兼ねて発言をすると、「先生の仰ったことは、エビデンスがあるのでしょうか?」と逆に聞かれ、「先生はエビデンスのあることしか臨床では行っていないのですか?」と質問を続けた過去がある。休憩時間にはその先生からさらに質問を受けたので、「エビデンスのあることしか臨床では行えないとしたら、患者の不定愁訴を含めた原因不明の症状には何も対応できないですよ!」と語気を強くして話をした記憶が蘇ってきた。勿論、適当な処置をすればそれは問題である。例えて言うなら、小説の世界でエビデンスとは何かと考えると、それまでその人が何を読み、それによってどんな感動を得てきたか、という経験の蓄積であり、それがあるから新たな小説を読むと自分の物語の世界でもそれが実践できるということ。医師も、真摯に患者さんに向き合って経験を積んできているならば、それが経験値として役立ち、そこにEvidenceが存在すれば、より説得力を持つということなのではないでしょうか。

               2025,12,7

代償反応

 子供の口腔内環境、歯並び、顔面骨格の望ましい成長のために毎月お金を払ってお子様をトレーニングに連れてきても、当の本人がやる気を出さなければそれこそお金の無駄である。数回お越し頂く中で、全くと言っていいほど変化のない状態を親御さんと本人にお見せするのだが、小学4年生ともなれば自我も出てくるので、こちらの指示通りに毎月の課題を消化しないお子様も時にはいる。その場合は甘やかすことなく、「これ以上の成果は望めないので残念ですがトレーニングおよび一連の治療を終わりにしましょう。」と声掛けをすることがある。決して脅かしているのではなく、本気を出して取り組めば年齢的には十分改善するにも拘わらず、その惜しい時間を逃していることに気付いて頂きたい一心である。親御さんも、何れやる気になってくれるだろうと頭のどこかで願っているのである。このトレーニングの内容自体は決して難しいものではないが、子供達の心の様相をしっかりと把握し、飽きが来ていないかも読み取る目を養う必要がある。また、トレーニングを出来たつもりでいても、診療室でビデオ撮影した動画で口唇の動きなどを診ていると、水飲みやお菓子を咀嚼する時など全く上唇が動いていない子供がいる。立派な口腔周囲筋の習癖であり、上唇を使わない代わりに他の口腔周囲筋を使って咀嚼・嚥下をする代償反応が確立されるのである。顎骨は筋肉によって大きくなり、筋肉の働きかけによって歯並びが出来上がることを理解して頂けると、子供達の不正咬合を引き起こしている根本原因を取り除くための大きな要因が筋肉の習癖にあることが分かる。

               2025,12,6

医科歯科連携

 耳鼻咽喉科医ではないのでアデノイド肥大、扁桃肥大の最終診断はくだせないものの、セファロレントゲンで読像出来る範囲では、咽頭気道が狭くなっているお子様が増えている傾向にある。当医院に咬み合わせ相談でお越しになられるお子様は不正咬合を有しているので、多くは口呼吸、猫背、おとなしく椅子に座っていられないなど共通の所見が診られ、精密検査において扁桃肥大が確認されると耳鼻咽喉科への紹介となるのだが、当方の知り得る知識において明らかに扁桃摘出対象となるケースでも、保存治療で様子を診る耳鼻咽喉科医が多いようである。ステロイド噴霧にて肥大の縮小が認められればもちろん構わないのだが、若干の変化が認められないにもかかわらず数カ月も経過を追うのは如何なものかと考えさせられてしまう。なぜなら子供たちの身体は日々成長しているのであり、一日でも早く成長の適正化をする必要があるのである。かかりつけの耳鼻咽喉科では効果が見込めないと思われた親御さんから耳鼻科の紹介を依頼されたため、不正咬合にも理解のある耳鼻咽喉科医を紹介したところ、早速に扁桃摘出を行い、口呼吸だけではなく朝もスッキリと目覚めるようになったと親御さんから報告を受けた。小児の不正咬合を引き起こす根本原因を改善するには医科歯科連携が欠かせない時代であり、全身との関りから口腔の異常を診ていかなければならない。

               2025,12,5

身体の疲労?

 帰りの電車で座れることはほぼないのだが、昨日は隣駅で目前の座席の方が降車したことで座る機会を得たものの、ここ数日の寒さで皆さん着込んでおり、座り心地は幾分狭く窮屈感を覚えた。カバンから取り出した読みかけの村上春樹の本に、“本当に若い時期を別にすれば、人生にはどうしても優先順位というものが必要になってくる。時間とエネルギーをどのようにふりわけていくかという順番作りだ。ある年齢までに、そのようなシステムを自分の中にきっちりこしらえておかないと、人生は焦点を欠いた、めりはりのないものになってしまう。”という件があった。続けて活字を目で追ってはいるが、どうも頭に入ってこない。さすが小説家であり、その文章力、文才には肖りたいものだが、ふと目を閉じて“時間とエネルギーを‥‥”を反芻して思いに耽っていたらすっかり深い眠りに付いてしまい、降車駅を通り過ぎてしまったのである。アルコールが入っているわけでもないのにまさかの失態に情けなく、停車駅では反対側に入線してきた電車に何もなかったかのように乗り換えをした。体力の衰えを特別感じてはいないが、こんなところで若い頃とは違うと自覚せざるを得ないのかも知れない。

               2025,12,4

 帰りの電車で座れることはほぼないのだが、昨日は隣駅で目前の座席の方が降車したことで座る機会を得たものの、ここ数日の寒さで皆さん着込んでおり、座り心地は幾分狭く窮屈感を覚えた。カバンから取り出した読みかけの村上春樹の本に、“本当に若い時期を別にすれば、人生にはどうしても優先順位というものが必要になってくる。時間とエネルギーをどのようにふりわけていくかという順番作りだ。ある年齢までに、そのようなシステムを自分の中にきっちりこしらえておかないと、人生は焦点を欠いた、めりはりのないものになってしまう。”という件があった。続けて活字を目で追ってはいるが、どうも頭に入ってこない。さすが小説家であり、その文章力、文才には肖りたいものだが、ふと目を閉じて“時間とエネルギーを‥‥”を反芻して思いに耽っていたらすっかり深い眠りに付いてしまい、降車駅を通り過ぎてしまったのである。アルコールが入っているわけでもないのにまさかの失態に情けなく、停車駅では反対側に入線してきた電車に何もなかったかのように乗り換えをした。体力の衰えを特別感じてはいないが、こんなところで若い頃とは違うと自覚せざるを得ないのかも知れない。

               2025,12,4

その一言で

 下顎の奥歯の被せ物が取れたので長く掛かっている歯科医院で再装着をお願いしようと伺ったら、「〇〇さん、もうこの歯は抜いてインプラントにしましょう」と何の躊躇いもなく言われ、今まで歯を抜かないように、インプラントだけはしたくない、という思いで通い続けていたのに、何だか心が折れてしまいました、という方がお越しになられた。ちょっとした一言、ドクターのさりげない所作を人は敏感に感じるものです。たとえ歯科医師からすれば明らかに“抜歯”という臨床診断だとしても、目の前の患者さんの心情を汲み取って対応することは人としてのマナーであり、そこに人柄、人間性が表れるものである。学生時代にお世話になった専門書、文献、各種臨床セミナーなどからは専門知識、技術の習得は可能でも、人間力を磨くのは本人次第であり、臨床は日常を通じてその人が大切にしていることそのものが反映される場面である。歯医者は歯の状態のことだけを的確に伝え、さっさと処置をすればよいとうのであれば、スマホで撮影した画像を生成AIにでも読み込ませ、指示通りに動くロボットにでも処置を依頼すればよい。但しそこには人間特有の機微に触れるといった世界観は存在せず、殺風景な空気が漂っているだけの診療室であろう。“Face to Face”のコミュニケーションを必要としない効率優先社会になったとしても、惻隠の情は失わないでいたいものです。

               2025,12,3

“木を見て森を見ず”で良いのでしょうか?

 以前30代の女性が他院で治療中であるにもかかわらず診て頂きたいと問い合わせがあった。理由は、「左上の奥歯が次から次とむし歯になったので治療を受けたが、数か月後には同じところが再び痛くなり、今度は歯の神経を抜く治療を受けざるを得なくなり、今後の不安から一度診察を受けたい」との趣旨である。電話口では、「治療をして下さっている先生に、なぜこんな短期間にむし歯になってしまうのですか?」と質問はしたものの「分からない」と言われたことが、医院を変えようと思った切っ掛けとのことである。臨床は“なぜ?”の疑問を常に投げかけていなければ診断する臨床レベルの向上はないと確信している。教わったこと、文献で知り得たことで臨床のすべての問題を解決できるなんてことはない。28本の歯のうち左上3本は過去に根管治療を受けており、他25本はすべて健康な歯ではあるが咬耗が局所的に進んでいたり、上下的な不正咬合が存在し、更には舌小帯短縮症もあることから舌を含めた筋機能の習癖によって顎骨の成長が抑制されたことで歯列不正が生じ、上下的に不自然な歯の干渉が生じたことが、この方の左上奥歯だけを治療を繰り返している根本原因である。主訴の痛みを取り除くだけでは予後の問題解決をしたことにはならないことは容易に理解できよう。“There is a reason for everything.”患者の気付いていない口腔内のリスクを時間を掛けてでも説明し、理解してもらわねばならない。

               2025,12,2

ネット情報?

 日々の臨床において、治療することで患者さんの主訴が改善することは非常に喜ばしいことであり、歯科医師としては当然のこととして知識、技術ともにアップデートに努めてはいるが、年々高まる臨床へのエネルギー源となっているはやはり新たな発見である。診断の目を違う視点から観察することで見えない物ことが診えてくる瞬間というのは今までの臨床経験の積み重ねの賜物ともいえるのではないだろうか。経験値だけでは勘に頼ることにだけになるので、経験値のなかにフィードバックされたものが生かされなければ階段をあがることにはならない。一度確立された治療法をただ当て嵌めるだけの治療であってはならず、固定観念に縛られると診えるものが見えなくなることも時にあるのではないだろうか。ネットを通じて簡単に情報を入手できるものの、正しい情報を取捨選択する難しさは存在し、例え有名大学のHPに掲載されているからといってそれが必ずしも正しいとは限らないことが現にある。最近の患者さんはネットで得た情報満載でお越しになられる方もおり、パッチワーク的な情報知識を先ずは削除する手間がいることもある。当方の診断よりもネット情報を信じるのであれば、何も受診されなければ良いのにと思わされた方が数年前に一人いたことをふと思い出した次第である。

               2025,12,1

気分障害と舌機能

 今朝の日経新聞に、心の不調による経済損失が進んでいると掲載されている。うつ病などのこころの病は気分障害と呼ばれ、厚生労働省によると、気分障害の外来患者数は2023年に156万6000人(推計)と約20年前に比べ2倍に増えたとある。診断されていなくてもこころの不調を訴える人は多いだろう。気分障害を抱えた患者さんは当医院でも診察をする機会はあり、全ての方ではないものの必要があってCT撮影を行うと、共通して舌は口蓋から離れており、口腔内診査時の舌の可動域を計測しても可動制限のある割合が非常に高い。常に低位舌の方は睡眠時は舌が咽頭壁に近づくことで咽頭気道が狭くなり仰向けでは寝にくいために横向きかうつぶせの状態で気道を確保することとなる。つまり低位舌は呼吸障害から睡眠障害を引き起こすことになり、日々の睡眠の質の悪さが精神疾患を引き起こしている可能性があると仮定するならば、川の下流である症状や状態だけにフォーカスを当てて治療するのではなく、上流に相当する舌の可動域の正常化を含めた口腔機能の適正化によって、不定愁訴の最たる気分障害を改善できる可能性があるのではないかという思いが、勿論うつ病などは専門領域ではないが、当方の中では年々高まってきている。

               2025,11,30

最後まで諦めずに!

 根管治療専門医にて診査診断を受け、その後治療を試みたものの排膿が止まらず抜歯を提案され、どうしても諦められない方が当医院にお越しになられたことがある。問診時に詳しく状況を伺うと、専門医ではCT撮影も行われ、3次元的な解析からも抜歯してインプラント埋入を検討された方が賢明ではないかとのことだったが、頭では理解できても歯を抜くことに抵抗があり、藁にもすがる気持ちで歯医者探しをされていたのである。当医院にはなぜかこのようなケースでお越しになられる方が後を絶たないのだが、当方は特別な資格を持った専門医ではない。専門医ではないが、勤務医そして開業してからというもの、目の前の難題を乗り越える為に自分のペースで研鑽を積んできたつもりではあり、さらには歯を抜くのが歯医者の務めではなく、なんとか歯の延命に努めることが歯科医師の使命であると肝に銘じて30数年診療に身を投じてきた。その結果、他院では抜歯相当と診断された歯であっても保存させ、数年及び10年以上も問題なく機能している歯は何本もある。決してこれは自慢でもなんでもなく、患者さんの何とか残したいという思いと、治療する側の「ダメかもしれないが可能性がある限り最後の最後までトライしてみるという姿勢」がエビデンスを超えた結果として残っているのではないかと自己分析をしている。因みに最初に述べた患者さんは数回の根管治療後に排膿は止まり、症状も消失したことで最終補綴(被せること)処置まで完了し、約10年が経過し良好である。諦めずに愚直なまでにトライすることは、職業に拘わらずどんな時代になっても失ってはいけない姿勢ではないでしょうか。

               2025,11,29

諸問題をどうされていますか?

 「相続の問題が出てきていろいろと大変なんですよ~」「父親がパーキンソンを発症して私が精神的にしんどくて・・・」「両親の介護があってなかなか治療にも来れなくて歯がボロボロです。」など、長いこと当医院に掛かっている方々も年齢を重ねるに従い、それなりに対処しなければならない課題が増えてきている。若い時には考えたこともない、また考えろと言われても、来世のことを考えろと言われるようなもので自分事としては捉えることはなかった事案である。何れの話題も明るい建設的な内容ではないが、そんな時こそどのような心持で前に進んでいくのかを試されているようでもある。人は頭で考え判断する動物ですが、その働きを左右するのがメンタルであり、どちらが優先されるかと問われれば言わずもがなである。目の前の諸問題をまさかAIに尋ねて答えを引き出す、そんな時代になってきているのか。AIに人の心情、内面を推し量る能力はあるのだろうか。頭の良し悪しよりも心に熱いものが宿っているかどうかが人間的な魅力となるのは古今東西変わらない。親から受け継いだDNAにプラスアルファ加えて進化していかねばと思う今日この頃である。

               2025,11,28

Floss or Die

 「なんでもっと早く、もっと若い時から歯を大事にしなかったのかな~。歯医者に行くのが本当に嫌だったしなぁ~。40~50年前だったら先生だって歯医者にはなっていなかっただろうから、今みたいに丁寧に診てくれる先生に会えたかどうかも分からないですよね!」と、多くの歯を失い、今は義歯で生活されている方の嘆きである。昭和の頃と現代の歯科事情を考慮すれば、国民の口腔に関する知識(デンタルIQ)の違いもあることから致し方ない部分もあるが、口腔セルフケアの部分では歴然とした違いがある。約20年前に、口腔内に存在する歯周病に関与する細菌が全身の疾患(心臓病、早産ほか)を引き起こすことが論文で掲載され、当時の著名なハリウッド俳優が、「生まれ変わったら毎日デンタルフロスを使うだろう」とインタビューに答えていたのは印象的であった。口腔内細菌をゼロにする必要はないが(善玉菌もなくす必要はない)、食後のブラッシングにて一時的に口腔内の細菌を減らし、細菌の活動性を弱めることが歯を磨く重要な役割であることは、今も昔も変わらない。ブログでも再三述べていますが、口腔ケアには気を付けていても奥歯のむし歯を繰り返し作ってしまう方の多くは不正咬合を有しており、上下奥歯の不自然な干渉によってエナメル質にクラックが入り、そこから細菌感染が進行するとむし歯も進行すると1984年にアメリカで論文は発表されています。とにかく1990年以降、不正咬合を有している方が多いですから、かみ合わせの重要性を理解して頂きたいものです。

               2025,11,27

舌小帯短縮症(Tongue-tied)とリハビリ

 成人における舌小帯短縮症(Tongue-tied)の治療について論じた論文は1つしか検索されず、それは数年前に亡くなった日本の耳鼻咽喉科医が書かれたものです。その論文(Congenital ankyloglossia with deviation of the epiglottis and larynx)では,舌小帯短縮症を有する患者の多くは不正咬合が存在し高口蓋も認められたとあり、当医院でもデータを積み重ねているが、ほぼ同様のことが言える。また患者の症状には共通項があり、片頭痛、首肩の凝り、女性であれば手足の冷え、嚥下時の詰まり感、睡眠の質の悪さ、疲労感、イライラ感、神経質などを訴えることが多く、論文内ではこれらの症状は術後に改善したとある。一方で、術後も構音の誤りは改善していないとあり、これは、長年にわたって制限された筋肉活動と習慣が続いたことで、術後のトレーニングの必要性が重要であることを示しているともいえる。当医院においても成人の舌小帯リリースを行っており、術後のトレーニングは最低でも3ヵ月はこちらの求めるリハビリをして頂いておりますが、更に大事なことは術前3ヵ月前から舌の可動域が拡がるようにトレーニングを毎日欠かさず行うことです。術前トレーニングを出来ない方が術後に出来るわけがなく、オペ云々の賛否の前にトレーニング、リハビリの重要性に目を向ける必要があります。

               2025,11,26

異常サインを見逃すな!

 「4歳になる子供が未だに指しゃぶりをしているので診察して頂きたい」という主訴で以前お越しになられた方がいる。指しゃぶりをどう考えるか?1歳ぐらいまでは吸啜反射による自然な反応であり、2歳頃までは不安なや眠くなるとする傾向にあるので無理にやめさせる必要はないと考えています。4歳を過ぎての指しゃぶりは根本原因が改善されないことによる代償性の反応として捉える必要があるのではないでしょうか。つまり、指を口腔内に留めておくことで気道は拡がり、呼吸がしやすくなります。また通常であれば舌が口蓋に張り付くことで、脳からエンドルフィンが放出されているかも知れないと仮定すると、舌が口蓋に付かない幼児の場合は指で口蓋を押すことによってその代わりの役目を負っているのかも知れません。また、鼻上顎複合体の前方への成長拡大を促すために、親指で口蓋、切歯乳頭領域を前下方に押し広拡げようという極めて自然な行動の一つかもしれません。小児の歯並び、顎顔面骨格の成長の適正化を図るためにバイオブロック装置を使用することがありますが、その原理はまさに親指を口蓋に押し当てることと同じであり、小学2年生ぐらいまでに永久前歯が生え揃うスペースがない場合には早急に検討すべきです。指しゃぶり、口呼吸他、子供達の出している異常サインを見逃してはいけません。


               2025,11,25

なぜ咀嚼する必要があるのか?

 私の幼少期の頃にテレビCMに流れていたリンゴを丸かじりするシーンは、現代の日常生活ではほとんどないのではないでしょうか。確か歯周病予防のために歯磨き粉を宣伝する内容だったと記憶していますが、歯肉の炎症があると出血してしまい、口腔ケアが出来ていないことを認識させるものでした。今は国民のデンタルIQの向上もあり、むし歯、歯周病の罹患率は減少しましたが、口腔機能の低下という問題がクローズアップされています。顎には咀嚼筋があり、咀嚼することが求められていますが、現代のライフスタイルは高度に加工・精製された食品を中心とした食事へと移行しており、咀嚼の必要性が低下しています。精製されていない自然のままの食品は、十分に咀嚼して飲み込むためにより多くの筋肉活動を必要とし、子供たちの最適な成長と発達を促進させます。天然の鮎と養殖の鮎とでは口先の形が異なるように、我々人間においても僅か数百年前の祖先と比べて現代人の顎が小さくなり、その結果として気道が狭くなっていると指摘する人類学者もいます。これはまさに、現代の柔らかい食事とライフスタイルが後天的な影響を及ぼしていることを裏付けていると思います。

               2025,11,24

鼻閉による成長の妨げ

 8歳の女の子のかみ合わせが気なるという親御さんがお子様と一緒のお越しになられた。問診時の様子では口唇が乾いており、口も開いていることから鼻閉による口呼吸が常態化していることが見て取れた。当医院および子供たちの不正咬合の改善に努めている協力関係にある歯科医院のデータでは、口呼吸の約70~80%はアレルギー性鼻炎、約10~20%は舌小帯短縮症による舌の可動域の制限が原因である。正しい鼻呼吸が出来るためには舌が口蓋に密着していることが不可欠であり、正しい飲み込み(嚥下)が出来るためには奥舌が軟口蓋にしっかりと持ち上がって密着出来なければならない。この密着が出来てさえいれば多少の鼻づまりがあったとしても鼻呼吸は可能である。アレルギー検査で花粉やハウスダストに反応が認められれば抗アレルギー薬の処方も必要ですが、程度によっては鼻閉を減じるトレーニングを行うことで鼻粘膜の細胞が活性化し、鼻繊毛働き、副鼻腔から一酸化窒素も供給されることで血流もよくなり、鼻閉症状の改善がみられることは子供たちのトレーニングを通じて見られる現象である。鼻上顎複合体の前方への成長のピークは7~8歳の頃であることから、低学年時の鼻閉を改善させることは急務である。

               2025,11,23

何を考えている?

 先日の『横浜マラソン2025』完走は、過去3回よりも結構早くゴールしたことで、来年以降の目標タイムアップとモチベーションの向上に繋がっている。当医院にお越しになられている方からは、「先生は普段のランニングやマラソンの最中は何を考えて走っているのですか?」と聞かれたことがある。特別考えていることはないのだが、突然アイデアが浮かんでは消えることがあり、まるでいろんな形の、いろんな大きさの雲のようでもある。マラソンともなれば競技でもあるので順位を競うことにはなるのだが、若い頃とは違って順位を争うことには関心がなくなっている自分がいたことにハッと気付かされたのである。約3万人のランナーが参加し、最高齢は83歳で6時間を切るという信じ難い記録を出された方もいらっしゃいました。世の中いろんな人がいて成り立っており、いろんな価値観が存在しているという極めて当たり前のことを、なぜか今回のマラソン中に頭に浮かんだのでした。なんだか不思議ですよね!

               2025,11,22

忘年会

 20~30年前であれば、師走が近づいてくると忘年会という名目でお酒を口にする機会が増えたものだが、コロナ禍による開催自粛を契機に参加ニーズの低下とプライベート優先思考によって大勢で飲み交わすことは激減している。昭和の時代は親睦を深めるという名目もあったが、今は仕事の延長として敬遠する傾向が強いようで、当医院にお越し頂いている企業経営者の中には、職場で食事や飲み会へ誘うことは一切ないと断言されていた。ハラスメントへの配慮や上下関係、人間関係への疲労から、敢えて面倒なことになる可能性があることには消極的であるほうが良いのかも知れない。しかし、考えてみると、普段からコミュニケーションを職場でとれてさえいれば、あえて場を設けて時間を割く必要もないともいえる。気の合う仲間と飲みに行く忘年会は健在であり、自然発生的に縦関係の繋がりのある人とその様な場が設けられる職場は、きっと風通しの良い環境なのだろう。因みに当医院で予定していた今年の忘年会の日はすでに店が予約で埋まっていて、スタッフからは「今年は無しですかね~!」とそんなに残念そうではなかったのは、当方の考えすぎだろうか(笑)(´;ω;`)

               2025,11,21

毎月クリーニングの意味はあるのか?

 「奥歯にむし歯が出来るのでかかりつけ医に毎月クリーニングに通っています。なぜ奥歯だけむし歯になるのか先生に聞いても分からないというので、月一でケアしてもらっています。」という方が以前お越しになられたことがある。原因が分からないのでクリーニング・・・?患者さんの仰ることが間違っていないとするならば、聞いていて違和感のある会話のやり取りであった。〝There is a reason for everything. 〟とはJohn Mew先生からよく聞かされた言葉であるが、どこまで患者さんの口腔内を疑問をもって観察、診査できているかによって診えてくる景色は変わるのである。通り一遍の保険診療で決められた基本検査だけで問題を解決できるのであれば訳ない話だが、そうではなく口腔内で起きている問題、事象の原因を探り出そうと心掛けてさえいれば、仮に保険請求できなくてもやるべきことはするというのが患者を診察するものの務めではないのか。特別な機器を使う必要はなく、今まで培ってきた知識と経験値から診えてくるものは多々あるもので、それらが論文化されていないからと言って否定されるものではないというのが当方の考えであり、目の前の問題に対してそこに至ったストーリーが説明できれば、患者さんは納得するのであり、その先の治療をそこで受けるかどうかは次のステージの考えることであり、先ずは原因を知りたいのである。因みにこの方の奥歯のむし歯の原因は4本の親知らずによってかみ合わせ(顎位)が偏位し、前歯の本来の機能が消失して上下奥歯の不自然な力の干渉が原因で歯にクラックが入り、そこからの細菌感染が原因でした。最終的には智歯抜歯後に機能的歯列矯正治療が必要ですが、過去に当医院で治療した似たようなかみ合わせの矯正治療をしたケースを提示して、治療のイメージを持って頂きました。毎月のクリーニングでむし歯にならないのであれば誰もが毎月通うことでしょう。

               2025,11,20

歯科医療の在り方

 身体のある部位あるいは全身に問題が生じたとき医療従事者が介入して健康を取り戻すことが医療である一方で、未然に将来的なトラブルが起こらないように指導、啓蒙することも医療(特に歯科医療)の大事な役割です。医科は何か問題が生じて(疾病状態)からでないと医師は治療に入れませんが、歯科は予防介入することが可能であり、それを人生のどこの段階で始めるかによって予後は大きく左右されるものとなります。そもそも口腔機能はある日突然獲得されるものではなく、胎生期、乳幼児、幼少期から除去に獲得されていきます。そのため、口腔機能の発達が何らかの要因によって生理的に獲得されない場合、成人期では未成熟な機能であっても代償機能によって身体は適応し問題なく生活を営むことになりますが、その代償による結果は老年期に影響をきたし、正常な機能を獲得した場合と比してよりシビアな状態になり、口腔領域では被せ物の脱離や歯の破折、口腔機能リテラシーの低下による誤嚥、気道狭窄による睡眠障害、全身的には身体の各所のリハビリテーションに多大な量力が必要となっているのが現状ではないでしょうか。このようなことを踏まえ、小児と向き合う臨床に身を置いているものとして、幼少期に口腔機能を正常な状態まで発達させることがいかに大事であるかと痛感しています。

               2025,11,19

最後の最後で・・・

 被せ物(クラウン)を装着して治療が一段落するはずだったが、接着後に「先生、ちょっと高い感じがしますけどなれる範囲ですかね~?」と声を掛けられた。瞬間的に頭を過ったのは、「まさか!」である。試適時には高さ、隣接する歯との間隔にも問題はなく、無調整で装着できる状態であったので、それが接着によって合わなくなることはなく、考えられることはただ一つ、接着時の咬み合わせのズレである。マイクロスコープにて倍率を上げて接着ラインを確認すると接着材の厚みが見て取れ、被せ物の浮き上がりを確認するに至った。患者さんには状況を説明させて頂き、お詫びをしたうえで後日再処置をすることになった。細心の注意を払って歯を削合して精密に型どりを行い、技工士さんもこれ以上ない適合具合に仕上げてくださった被せものを一瞬のズレで台無しにしてしまったことで、要した時間、患者さんの貴重な時間を無駄にしてしまったことに申し訳ない気持ちでいっぱいである。被せ物の高さ調整を行い、日常生活には問題を来さない状態で次回まで過ごして頂くことにはなるのでが、精密な適合を生命線の仕事をしている者として、尾を引きそうな精神的ダメージである。

               2025,11,18

不燃性ではなく自燃性の人を求む

 先日行われた講演会後の懇親会では、プレゼン内容の質問からご自身の勤める職場の相談など歯科臨床に携っている人ならではの悩みを伺う機会となった。勤務医、歯科衛生士、歯科助手など歯科医療関係者は、所属する院長先生の指示のもと日々の患者と向き合い、主訴の改善及び口腔管理に務めることになるのだが、その仕事に対する内面的な姿勢が極めて重要である旨を話をしたところ、皆さんが頷いておられたことが印象的であった。あの稲森和夫さんの言葉に、「人間には、自分で燃える自燃性、周りから焚きつけられて燃える可燃性、周りが燃えても燃えない不燃性の3タイプがある」というものがあり、大所帯であればあるほどタイプの異なる人間がいて、不燃性ばかりの職場では雰囲気に活気もなく、提供される医療技術もそこそこ止まりになることは容易に想像できる。もとはと言えば、その様な人を採用した責任者(多くは院長)に問題はあると思われるが、不燃性のスタッフを可燃性へ、さらに自燃性へと変えていく意識の共有が求められている。そのトップに立つのは職場の長である人間になるが、不燃性の人のなかには、火を近づけても、エネルギーを与えても燃えないもの、多少能力はあってもニヒルで感動することが出来ない人は、共に働くことはできないと思っています。当医院では来年4月から経験豊富な歯科衛生士が一人加わる予定ですが、それ以前にもう一人考え方を共有できる方を急募しています。

               2025,11,17

銀杏並木

 秋を通り越して冬到来か?四季が無くなり二季性に日本はなっていくと指摘する学者もいるぐらいですが、晩秋を迎えたこの時期の黄金色に染まり始めた銀杏並木は、全国各地で秋の風物詩として親しまれている。明治神宮外苑の銀杏並木は大正時代に景観美を重要視して植樹され、今では外国人観光客で賑わっており、インスタ映えの写真を撮るには早朝の散策でないと無理らしい。並木の木から落ちる実は“ぎんなん”として子供の頃は拾って家に持ち帰り、フライパンで温めるか封筒に入れて電子レンジでチンをして食したものだ。大人になってからは茶碗蒸しの底に沈む銀杏探しや、串に5個ぐらい刺して焼き銀杏として食べたりと、秋の味覚を楽しんでいる。以前民放のニュースで愛知県祖父江の銀杏祭りが紹介されているのを見たことがあるが、街全体が銀杏に覆われているかのようなドローンで映し出された映像は素晴らしいの一言であった。機会があれば足を運んでみたいが、あの独特の匂いも負けず劣らず凄いのだろうか。祖父江の方がこのブログを見ていたら教えてください。

               2025,11,16

スマホと迷惑行為

 人はなぜスマホに釘づけになるのだろうか。ホームに電車が入線してきたら一旦スマホを閉じて乗車すればいいだけなのに、スマホを見ながら乗車する人がなんと多いことか。車内においても後乗りしてきた人が奥まで通れるように少し移動すればいいものを、画面から目を離さず周囲にはお構いなしの輩も少なくない。周りの人に迷惑を掛けないように生活をすることが人間社会における暗黙の了解、マナーのはずだが、昨今はそんな決まりはない、法律には違反していない、などと言って我が物顔で迷惑行為をする人間が増殖している。“自分だけは大丈夫!”という過信にも似た自惚れが取り返しのつかないことを引き起こす。高速道路を走行中に渋滞の列に突っ込み、2人を死亡させる事故が昨日あったが、運転手は、事故の前「オーディオを操作していた」という趣旨の話をしているとのこと。優先席を若者が占拠している光景も珍しくない。いつの頃から恥じることや迷惑を掛けることを何とも思わない人種になってしまったのか、日本人として嘆かわしいばかりである。

               2025,11,15

データの積み上げ

 約20年近く当医院に定期的にお越しになられている方が数名いらっしゃいますが、その方々の初診時には口腔機能、特に舌の可動域には診査の目が向いておりませんでしたので不正咬合との関係は見逃しておりましたが、現在の当医院の口腔内診査では真っ先に舌小帯の診査を行いますので、改めて検診時に診査をいたしますと〝舌小帯の可動域の狭さ=不正咬合〟の的中率は100%です。全患者さんの口腔内写真が保存されていますので、写真上の舌小帯短縮症と不正咬合の割合を調べたとしたら、同じようにかなりの高確率が示されることでしょう。時間は掛かりますが、来年には当医院のデータとしてホームページに載せたいと考えています。舌小帯短縮症、不正咬合の種類、全身の不定愁訴との関連性も非常に深く関わっていると思われますが、それらは現在そして今後お越し頂く方々からの細かな問診データも含めて統計をお示しできればと思います。先日の舌癒着症学会では術前後の舌骨の偏位をデータとして積み上げていくことでエビデンスベースにもっていきたいとの話があり、やはり今の世の中小さな医院であってもデータベース化は必要であり、そこから得られるものが確かなものであることは間違いないと思われます。

               2025,11,14

歯科口腔機能人間ドック

 言語聴覚士Linda D`Onofrioの「Oral dysfunction as a cause of malocclusion」は、口腔機能障害の症状とその長期的影響を整理した優れた論文です。不正咬合は単なる歯列の問題ではなく、慢性的な口腔機能障害が基盤にあり、頭蓋顔面発育障害は幼少期から始まり、歯列矯正治療後も機能が安定しなければ再発すると述べています。影響する10の口腔機能領域として、母乳哺育の質、鼻閉やアデノイド肥大による気道閉塞、舌小帯などの軟組織の制限、口呼吸、安静時における舌・口唇の姿勢、指しゃぶりや舌突出癖などの口腔習癖、嚥下機能、咀嚼機能、更には口腔顔面筋機能障害の経年的影響まで2019年に発表されています。当医院で行う小児の口腔機能診査は上記の内容を基にしており、今では更に項目を増やして記録を保存しています。但しこれらの項目はなにも子供だけではなく成人においても現状の機能リテラシーを調べるうえでは有効であり、希望される方には実施する方向で考えています。〝歯科口腔機能人間ドック〟と言っても良いかもしれません。

               2025,11,13

健康管理の在り方

 「低学年の兄弟の歯並びが悪く、そろそろ歯列矯正治療を考えたほうが良いですよ!」とかかりつけの歯医者さんに言われたという親御さんが以前相談でお越しになられた。口腔内診査、写真撮影、動画撮影など一連の初診資料を揃え、現状をお伝えしつつ問診票を確認すると、二人とも赤ちゃんの時には10ヶ月ぐらいまでは母乳育児をされていたとのことであったが、当時はともに叢生、歯列弓形態不良、中顔面の前方劣成長を認めた。小児の不正咬合の原因を探っていくと、母乳育児と哺乳瓶による哺乳育児はどちらが乳幼児にとって良いのかという話に必ずなり、栄養学的には体重が増加しているのであればどちらでも構わないのだが、その場合、もしも母乳の出が良すぎると乳幼児は舌の機能が正しく機能していなくても母乳が飲めてしまうことがある。人はあるとき突然口腔機能が出来上がるのではなく、出生後継続的に機能を獲得していくのであり、その初期段階で舌が上手く機能していなかったとしたら、その子の口腔機能の発育は正しく成長するのでしょうか?答えはNoです。正しく顎顔面骨格は成長しないものの身体の成長は続き、未成熟な口腔機能であっても成人期には身体の代償機能によって生活を営むことは出来るのです。しかし成人期以降から老年期にかけては回復困難な口腔および全身症状に悩まされ、多くの時間をリハビリに費やすか諦めてしまうことになっているのが、国内の各医療機関で診られる光景ではないでしょうか。機能の最適化をどの時点で取り組み始めるかが、将来的な健康管理の在り方に繋がるのは言うまでもありません。

               2025,11,12

エチケットマナー

 新型コロナウイルス感染が急速拡大したことを思い起こさせるぐらい、インフルエンザウイルスが猛威を振るっている。学級閉鎖、学年閉鎖なども報道されており、当医院の当日キャンセルも増えてきている。感染は本当に恐ろしいにも拘らず、慣れというのは困ったもので、まめな手洗い、アルコール消毒を済ませる人は極めて少なくなったように見受けられ、電車内におけるマスクの装着率はここ数日で増えてきた感はあるものの、コロナ禍とは比にならない。今朝の通勤電車内では、マスク未装着で咳の止まらない乗客に対して、スマホから視線をそらしてチラ見する周囲の人たちの一瞬の冷ややかな動きが見て取れ、当方も心の中では「マスクをするなり、ハンカチで口元ぐらい塞いでくださいよ!」と叫んでおりました。まあ、予防をしたところで感染するときは感染してしまいますからお互いさまではありますが、世の中エチケット、最低限のマナーを身に着けることで、不要な思いやトラブルを避けることはできます。周囲に何かを求めたりする前に、先ずは自分の身なりや行動を慎み、気持ちよく一日を過ごしたいものですね。

               2025,11,11

睡眠障害、いびき、歯軋り

 歯科治療を受ける姿勢は診療台が横になっているのでまさに“寝る”にはちゅうどいいのかも知れないが、さすがに歯を削っている最中に寝る方は誰一人としていない。ところが根管治療ともなると、治療する歯に防湿、感染防止の為のラバーダムシートを掛けたまま口を開けた状態が続くので、多くの方は眠りに、それも人によっては深い眠りに付く方もいらっしゃる。日頃の疲れも溜まっていることでしょうからお休み頂くことは全く問題はなく、その間に治療は進むわけですから考え方によっては睡眠治療である。但し中にはいびきをかいたり、途中で呼吸が止まりかけたりする睡眠時無呼吸を疑わせる方もおり、笑ってもいられないのである。矯正治療中の20代の女性はワイヤー調整中に直ぐに眠ってしまうので話を伺うと、自転車に乗っていても眠くなったり、友達と食事をしていても記憶が飛んでいることが少なくないとのこと。歯科で行えるスクリーニングテストでは閉塞性睡眠時無呼吸の疑いが強くあり、最終的には専門機関でPSG検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)を勧めるに至った。夜中の歯軋りはなぜするのか?これについては様々な理由が言われていますが、睡眠中に身体の筋肉が弛緩すると、舌が後方に落ち込んで気道閉塞もしくは気道狭窄を引き起こし、呼吸を妨げることに繋がります。すると脳は気道を確保させるために歯軋りを引き起こすことで浅い睡眠状態に覚醒させ、同時に下顎を前方に突き出すことで気道を開き、呼吸をしやすくするのではないかと推測されています。当方の臨床経験に当てはめてみると、この考え方を支持しない理由はないようです。鼾(いびき)、歯軋りは身体に負担を来しているサインなのです。

               2025,11,10

むし歯の減少と不正咬合の増加

 全国の小中高の不登校生徒が過去最多との新聞記事に目が留まった。原因は様々あろうが、当医院にお越し頂いている公立小学校の教員から伺う話では、授業中の私語はほとんど当たり前で、なかには断りもなく教室内をウロウロし始める子供もいるとのことである。それと不登校とどう関係があるかと問われれば明解な答えがあるわけではありませんが、アレルギー性鼻炎による鼻詰まりからくる口呼吸、Tongue-tiedによる口腔機能の発達不全からくる生理機能の未成熟の影響により、落ち着きのない子供が増加していることは間違いないところではあります。要は日常生活を送るうえでそのような子供達は常にストレスを抱えており、周囲がその状態を理解できていないことが子供達を望まない方向へを向かわせている可能性は否定できないと考えています。不正咬合の増加、発達障害及び発達障害のような症状を持つ子供、不登校生徒の増加は一見すると全く関係が無いようにも見えますが、それは今までの常識で考えるからであり、新たな視点で関連性を疑うべきではないでしょうか。

               2025,11,9

いい歯の日

 11月8日は「いい歯の日」です。歯にまつわる日では、6月4日の「むし歯予防デー」もあります。当方が歯科医院を開業した約23年前は、複数のむし歯を放置した状態で来院される方も多かったと記憶していますが、現在は新たなむし歯というよりは、過去に処置をされた歯の再治療(詰め物が脱離したなど)でお越し頂くケースが傾向としては少なくないようです。本来であれば再治療など必要ないことが理想ではありますが、人工物を装着している以上接着力の限界、寿命があるのは致し方がないところでもあります。但し、頻繁に同じ歯の処置を繰り返している場合には、不正咬合による個々の歯に掛る力の問題が存在し、力のコントロールをしなければ歯の硬組織(エナメル質や象牙質)の結晶構造が破壊され、そこからう蝕(むし歯)が進行することになります。この30年ぐらい、むし歯を有する子供の割合が減り続けているのは喜ばしいのですが、不正咬合(歯並びが悪いこと)の割合が増加しています。不正咬合は歯列矯正にて形は整いますが、それだけでは不正咬合に至った原因は除去されておらず、その原因は歯並びだけではなく、頭蓋顔面発育障害をも引き起こし、更には生理学的な問題をも引き起こすことが分かってきています。歯並びを改善することと同時に、歯並びを悪くしてきた根本原因に潜む全身へのリスクをしっかり理解して頂くことが何よりも大切です。

               2025,11,8

ORT矯正

 夏休みに舌小帯短縮症のオペを行い、その後の舌トレーニングをきちんと実施してきた6歳の男の子のORT矯正治療が始まった。舌を挙上する力は簡易計測器ではオペ前の6倍となり、3分間の口蓋への貼り付けも難なく出来るようになっている。ORT矯正とは、不正咬合を引き起こす口腔内の根本原因を取り除くというOral Root Therapyを意味し、この子の場合には舌の可動域を制限している紐のような組織であるファシアを取り除いているので、トレーニングにも入りやすい環境が整っている。お姉ちゃんも約1年前から同様の治療を始めており、口唇閉鎖、舌の挙上、鼻呼吸が身に付いてきている。もしこの子たちが何もしないまま成長を続けたらどうなるのか。身体に起きる適応反応は言い換えると代償反応であり、代償ということは本来は必要のない機能が使われることを意味している。代償には必ず原因があり、その原因をできるだけ上流で解決することが必要です。3歳前後の乳歯列完成期の段階で空隙が診られない歯列となっている場合、それはすでに不正咬合を予防できていないことをになります。歯並びが揃っている=良い成長、ではないのです!

               2025,11,7

慢性中耳炎と嚥下の関係

 低学年になるお子様が度々耳鼻科のお世話になっているという話を、治療を終えたご婦人が受付で話されていた。途中から話に加わり内容を聞くと、二年生の男の子が原因不明の慢性中耳炎でそのうち手術をした方が良いと医師から言われているとのこと。気になるのはが原因が分からないのに手術をするという点である。勿論当方とは専門領域が違うので耳鼻咽喉科医の指示に従うかどうかはその方次第ですが、嚥下が正しく行われず舌の挙上が制限されていると、耳管が正常に開いて中耳の圧力を調整することが不可能になります。耳管を開く主要な筋肉である口蓋帆張筋は、嚥下に異常があるとその機能を十分に果たせなくなります。気圧の変化で耳が詰まった感じになると、唾を飲み込んで耳の通りが良くなった経験があると思いますが、舌の可動域が狭いとこれが上手くできず、慢性的な反復性中耳炎を起こしやすくなると考えられます(当方は歯科医なのでこのような表現にさせて頂きます)。中耳炎を繰り返すたびに抗生剤を服用している方は、一度正しい嚥下が出来ているかどうかを調べられることをお勧めします。

               2025,11,6

根管治療歯の予後

 「数年前から奥歯に違和感を覚え、数ヵ月前から時々その歯の歯肉が腫れたりすることがあった。かみ合わせも良くないと分かっているので、また抜かれてインプラントになるのかな?と思って以前治療を受けた歯医者にも行けずにいました。娘がこちらでお世話になっていて、一度診てもらったら?と強く勧められたので、ご連絡をさせて頂きました。」と、以前悲壮感を漂わせて来院された方がいる。レントゲン像では歯根破折もしくは根管壁の穿孔などが疑われたので、冠除去後にマイクロスコープ下にて歯根内の異物除去に続き根管治療を開始した。根管内からは腐敗臭も漂い根管歯質の感染も相当進んでおり、歯根の保存が危ぶまれる状況にあったが、次回来院時には歯肉の腫脹および違和感も消失していたことから根管治療を継続すると、腐敗歯質の中心部に穿孔部を発見。幸いにも歯根破折には至っておらず、歯根の保存、延命処置は可能であることを確認し、治療終了後に根管内の様子を撮影保存した動画で状況を詳しく説明をさせて頂いた。根管内の様子は肉眼では到底確認することは不可能であり、もしも手探りで根管内を治療するとなると新たな穿孔個所を人為的に作り出す可能性すらある。複雑な根管内の感染物質を器具にて全てを除去することは文献的にも無理ではあるが、手の届かないところを薬液洗浄、超音波器具を使って除去し、さらに当医院ではエルビウムヤグレーザーを用いて根管消毒を行うことで、考えられるベストの治療を提供させて頂いている。但し歯の予後は、根管治療後の補綴処置(被せる処置)、その方の咬み合わせなどすべての要素が関係した中で左右される問題ですので、根管治療が終了したからと言って安心はできないのである。

               2025,11,5

舌癒着症学会

 舌の働きに目が向かい始めて臨床に向かうこと約8年。歯科医師の仕事は歯の修復、補綴、歯周治療、歯列矯正治療と多岐にわたるが、日々の臨床現場で目にするものは不適合物の再治療、高い費用を掛けて被せたセラミックの再治療の繰り返し。治療履歴を遡ると同じ歯を何度も治療を繰り返し、挙句の果てには根管治療の数年後に歯根破折を起こして抜歯に至るケースは少なくない。なぜ被せ物が欠けるのか?なぜ歯根が破折するのか?治療のやり替えや、抜歯してインプラント補綴処置をすることが歯科医師の本来の役目でしょうか?理想的な咬合状態であれば個々の歯の治療介入は避けられるのではないか?ヘッドフォワードポスチャーの方で咬合の良い方はまずいない。究極の歯医者の仕事は世の中から歯科医師が存在しなくても誰も困らない社会であるはず。不正咬合が歯科治療のいずれにも深く関与しているにもかかわらず、その根本原因をなくそうと努めないのはなぜか。口腔機能の重要性にフォーカスが当たり始めた今、不正咬合を引き起こす根本原因が身体に様々な疾患を引き起こす要因になる関連性と、舌がどのように関わるかを今週末の舌癒着症学会でお話をさせて頂く。

               2025,11,4

歯ぎしり・睡眠障害と舌の関与

 歯ぎしりや食いしばりはこれまで、子供や親の生活におけるストレスに関連していると考えられており、ストレスが多いほど歯ぎしりも増加するとされていました。確かにこれは一部事実であり、日中働いている大脳新皮質のストレスの解放の場として就寝中の歯ぎしりや食いしばりが生じているという動物実験の研究論文を当方も参考にし臨床に取り入れてきた経緯があります。但し最近では、これらは睡眠呼吸障害の兆候であるという考え方が徐々に一般的になってきており、舌小帯短縮症(舌癒着症)は舌根を下方に引っ張り、正常な安静である口蓋への貼り付けを妨げるため、夜間の歯ぎしりは舌の可動域が狭いことに関連している可能性があります。睡眠中に身体の筋肉が弛緩すると、舌が後方に落ち込んで咽頭気道を閉塞し、呼吸を妨げることになります。すると脳は歯ぎしりを引き起こすことで、より浅い睡眠状態に覚醒させ、同時に下顎を前方に突き出すことで気道を開き、呼吸をしやすくする役割を果たしていると推測されています。当医院の患者様の舌の可動域の記録とかみ合わせの状態、歯の咬耗状態、そしていびきの有無、睡眠時間、睡眠の質について問診から診えてくるものは、舌の関与が歯ぎしりと睡眠に間違いなく関わっていることである。

               2025,11,3

口腔機能の健全化へ

 子供の食事にかかる時間が長い、ある食べ物を拒否する、それでも子供はそういうものだと思い込んでいる親御さんがいらしたら、それは子供がもつ本来の可能性を発揮することを妨げている根本的な問題が存在しているのではないかと疑って頂きたい。リスが頬をいっぱいに膨らませて食事をしている姿は愛くるしいですが、人が同じように頬を膨らませて食べ物を溜め込む行為をしているとしたら、舌運動および頬筋を含めた口腔周囲筋が上手く協調して機能していないサインです。親子間ではいつもの光景かもしれませんが、些細に思えるような二次的な問題が実際には人生に大きな影響を与えることがあります。子供たちが抱えている症状のほうが見た目(外観)よりも重要であり、見た目は症状に次ぐ要素と考えるべきです。舌の可動域が狭い方、舌を前方に出して左右に動かす際に顎も一緒に動いてしまう方、舌全体を口蓋に張り付け(持ち上げた状態)て3分間キープできない方、更に就寝中にいびきをされる方などは、口腔機能の健全化のために一度診査を受けられることをお勧めいたします。

               2025,11,2

元気な赤ちゃん

 先日舌小帯短縮症の手術を受けた6ヶ月の赤ちゃんが術後の経過観察とオペ後のトレーニングの確認で母親に抱かれて来院した。初診時の泣き声は消え入るような弱々しいものだったが、今日は院内全体に響き渡るような煩いぐらいの力強い声に変わっていた。なぜそうなるのでしょうか?舌の可動域が広がったことで喉頭蓋の前方への偏位が改善され気道が拡がり呼吸がし易くなり、本来の呼吸が出来るようになったということなのです。この赤ちゃんは上唇の裏側にある筋(上唇小帯)も短かったため母乳および哺乳瓶の哺育も上手くいかず、体重も思うようには増えていませんでしたが、オペ後は哺乳瓶を上唇と下唇でしっかりとアヒル口のように吸い付くことが出来るようになり、母親からは「こんなにゴクゴク飲むことなんて以前はありませんでした。手術をして頂いて良かったです!」とのお言葉を頂いた。世の中に存在する多くの手術において、術直後から呼吸が変わり母乳もしっかりと飲めるようになる手術がなぜ世間では否定されたり批判を受けることが多いのでしょうか。現場で起きていることを先ずはしっかりと診るべきではないでしょうか。舌小帯短縮症(舌癒着症)は乳幼児だけではなく幼児から成人においても存在し、舌の可動域が狭いということは例えて言うと常に鎖を足首に巻いて生活しているような状態なのです。そのような状態が幼少期から成人以降も続いていたとしたら、全身はどのようになっていくか想像できますか?適応と代償という関係の中でそれなりに生活を営むことはできますが、加齢とともに代償反応は顕在化し、病院の検査では異常は見つからないにも拘わらず周囲の人には理解してもらえない不定愁訴に悩まされることとなるのです。皆さんは行き先を間違えた電車に乗ったら次の駅で電車を降りて乗り換えますよね?身体も同じです。異常のサインを見て見ぬふりをしていては、健康から遠ざかるのを待っているようなものだと思いませんか。

               2025,11,1

問診表には正直にご記入ください!

 歯科における抜歯を深刻に考えようとしない患者さんには困ったものである。初診時の問診表には全身疾患の有無を含め体調に関する事柄を記入して頂き問診をするのだが、自己申告をされない方がいる。基本診査を進めていく中で歯肉や唾液の状態からどうも何かありそうだと疑わしくなり改めて問いただすと、「あっ、HbA1cは8,6あります!」などと平然とした顔で言ってくる有様である。抜歯は言うまでもなく観血的処置になるので血液を通して体内は感染するのであり、免疫力がなければそれだけで重篤な症状に陥ることさえあるのであり、抗生剤を処方するにはそれなりの理由が存在するわけである。相手の医学的知識は欠落しているとの前提でこちらとしては接するべきではあるが、なかには「歯を一本抜くぐらいは先生大丈夫だから抜いちゃって。」と言ってくる方もいる。信頼関係が構築されない時点での歯科処置は当然行わないが、歯科治療そのものを軽くみている方ほど口腔内の状態は良くはなく、いつまで経っても治療を繰り返していることは想像に難くない。

               2025,10,31

予想された歯根破折

 「治療履歴からすると、同じ歯を何度も治療を繰り返していることが分かるので、その歯が最初に治療が必要になった原因は何だったのかを理解してください。原因を理解してくださらないと、仮に費用をかけて精密治療を望まれても長期予後は良くないですよ。」という説明を多くの患者さんに繰り返し行ってきた。幸いにして治療後10数年経過しても問題なく機能されている方がほとんどではあるが、中には治療の甲斐なく歯根破折や被せ物をやり替える方もいらっしゃる。口腔内のトラブルの主因は歯並び、骨格的な咬み合わせの偏位、夜間無意識時に行われている歯軋り食いしばりによる上下の奥歯の咬合干渉(歯の不自然な接触の仕方)にあるという視点で診査診断を行ってきたが、悪い予想が的中したうえでの抜歯になるケースは悔やまれる以外の言葉が見つからない。機能的歯列矯正治療を行っていれば歯が割れて抜歯することにならないわけではなく、歯および骨格的な咬み合わせを改善させたうえで筋機能の習癖を取り除くトレーニングを積むことで個々の歯に掛る不正な力を軽減させることが可能であるというのが約30年の臨床経験から言えることである。身体の適応と代償の関係の中で、代償的原因を放置したことで最悪の結果に繋がるのである。そうはいっても症状が無いうちから絶対の保証もない機能的矯正治療に積極的に取り組む人は多くはなく、こちらの説明に理解はしつつも心の中では「歯列矯正まではしなくても何とかなるでしょ!」と思うのが人である。AIにでも問いかけたら未来の答えは出てくるのだろうか?

               2025,10,30

乳幼児の小帯リリース

 我が子の体重が増えないのは自分の母乳の出が悪いからだと決めつけていた母親が、数か月前に相談でお越しになられた。助産師立会いのもと授乳中の様子を診ていると、口唇の乳房の咥え方が明らかに不十分であり、長くは哺育が続かないのである。舌の状態を確認すると、舌背に白苔が診られることから舌の正しい上下運動が行われておらず、舌が口蓋部に張り付くことがないために舌が下方に上がった時のミルクの吸出しが出来ていないのである。なぜそのようになるのか?上唇の裏側にある上唇小帯と言われる紐状の組織が極めて短いと上唇の動きが制限され、同様に舌の裏側にある舌小帯の紐が短ければ舌そのものの可動域が狭くなり、本来の吸啜運動が出来ないのである。ならば粉ミルクでも栄養は摂れるから構わないとお考えの方もいらっしゃるかもしれないが、そのままでは栄養は摂れても本来の十分な口腔機能獲得とはならないのである。こういうケースでは、小帯リリースすることで機能回復の第一歩を踏み出すことが出来ると当方は考えているのだが、世間では不必要な手術だと言われる声があるのも事実である。本当に不必要な手術だと考えるならば、この子の人生における身体の最適化はいつから始めろと言うのだろうか。小帯リリース後の母親の感想である「今までとは全く吸い方が違います!」がすべてを物語っているのではないでしょうか。

               2025,10,29

高みを目指して

 私たちは人生の中で、仕事でも私生活でも、様々な予期せぬ問題や悩みにぶつかります。そして、そのような困難な状況に直面した時に、普段から自分の中で大事にしていること、心掛けている姿勢が表れてくるのではないでしょうか。問題を解決するためには、問題の本質が何かを見出す力が求められます。「その現象が起こる原因は何なのか」「その現象はどのようにして起こるのか」「それにはどのような意味があるのか」などを探求することで、物事の本質を見極める力を身に付けることが出来るのであり、直ぐに生成AIに問い掛けたりするようでは、人間は進歩しないばかりではなく、自分でも気付いていない己の潜在能力を伸ばすことすら放棄することになってしまうのではないでしょうか。子供達、若い人たちは勿論ですが、中高年であっても考え方は同じであり、困難な道に直面しても経験値だけで対処するのではなく、自分の力で本質を見出し、乗り越えていくことが求められていると思います。高市新総理の言うように、常に“高い位置”を求め続けようではありませんか。

               2025,10,28

どうするんだ!

 以前は医療機関において抗生剤が購入できなくなり対応に苦慮した時期がございましたが、今度は歯科用麻酔薬が手に入らない事態となっています。“おいおい、歯科治療で麻酔がなかったらどうするんだよ?”と医療現場の声が聞こえてきそうなぐらい危機的な状態なのに、なぜかニュースにはなっていないから不思議である。当医院は在庫が十分あるので当分は診療に差し支えないが、制限がある中での診療というのは何か落ち着かないものである。聞くところによると、取り扱っているメーカー側でシステム変更を行った際にトラブルが生じて、一切の受注、発注ができないとのことである。世の中効率を上げるためにデジタル化にしたものの、企業のランサムウェアによる被害の長期化などをみると、社会システムの在り方を考えなければならない時期に来ていると捉える必要があるのか。だからと言って今から手書きの発注書に戻れというわけにもいかないでしょうし、妙案を出さないといけない。スマホを手に取れば怪しい電話の着信歴や訳の分からんメールが送信されてきたりと、何かどこかで監視されているかのような嫌な社会になったものだ。無駄なところに脳を働かせることなくストレスフリーな毎日を過ごしたいものです。

               2025,10,27

高みを目指して!

 前日まで荒天の天気予報でしたが、雨交じりの天候ではあったものの予定通り横浜マラソンは開催され、4年連続の出場となった当方は過去3回の記録を30分近く上回る記録で無事完走に至りました。もとより完走が最終目標ですので、Sub4,5出来るかどうかのレベルですのでお恥ずかしい話でもあります。日頃の臨床において、小児の気道にフォーカスを当てて分析治療をしているなかで、成人も含めて正常な気道確保が2足歩行の人間には当たり前ですが重要であると認識のもと、姿勢への関心も強くなってきています。昨年のマラソン時もそうでしたが、走行時の視線を上向きにした状態は上体が起き、横隔膜を使った呼吸もしやすくなり、何よりも気道が拡がりますので呼吸がしやすくなります。5km、10kmと走行キロ数が増えてくると普段であれば乱れてくる呼吸が、気道確保を意識して走り続けたところ、20km地点では昨年よりも約30~40分もタイムが早くなっていたのです。途中で応援に駆けつけてくれた同僚の歯科衛生士は、予想よりも早く通り過ぎたためお会いすることが出来なかったぐらいです。横浜マラソンは23kmから高速道路を走りますので、体力が続けばそこからタイムが伸びるのでしょうが、当方は日頃の走り込みが足りずキロタイムがみるみるうちに下がり、最終的には目標達成は来年以降に持ち越されることになりましたが、30分近くタイムを縮めることが出来たことは励みにもなりますし、気道を診て診療する重要性を再認識させられた思いです。常に新しい視点で臨床に、仕事に、そして日常に向き合うことは人を更なる高みに導くものと信じて止みません。

               2025,10,26

その歯、本当に抜歯しますか?

 知人の歯科衛生士から同僚の歯科治療の相談連絡を受けた。職場の先生方に根管治療をお願いしているものの良くならず、最終的には保存不可能と言われ途方に暮れているとのことである。かみ合わせには難があり、このままでは他の歯も同様の経緯をたどる可能性があるのではないかと心配になり、以前当方のプレゼンを見た知人の歯科衛生士から、先ずは診査診断を受けてみたらどうかと勧めたとのこと。こちらのブログでも度々かみ合わせの重要性を述べさせて頂いておりますが、個々の歯が悪くなった原因を放置したまま表面的な処置に終始した治療を行っているのでは、同じ歯を数年おきに何度も治療を繰り返すことは想像に難くないと思いませんか。具体的には見た目の歯並びの良さではなく、機能的な歯列弓形態および顎を前後左右に動かしたときに生じる歯の干渉状態が歯の予後を左右するのであり、必要ならば機能的歯列矯正治療を行わなければ原因は解決されないのです。勿論かみ合わせが理想的ではなくても日常生活に困らず過ごされている方はいらっしゃいます。しかしそのような方であっても問診をすると、口腔内の諸症状はなくても頸椎周りの凝りや頚腕症候群、60歳過ぎであれば脊柱管狭窄症を併発されている方を見かけます。全身のバランス、体幹が悪くなれば身体はどうなるかを想像してみてください。乳幼児から始まる身体(実際には母体にいる時から)の成長のステージにおいて、乱れを生じてきたときにその成長の適正化を幼少期のうちにすることは、成人になってから健康で過ごせる環境作りに繋がります。しかし、多くの方はこの歯科衛生士のように状態が悪くなってから出ないと問題を認識できない、認識しようとしないのです。医科は悪くなってから治療をしますが、歯科は悪くなる前に予防処置を行える医療でもあります。歯を失ってからインプラント治療をうけることが正しい歯科への掛かり方とは思えません。

               2025,10,25

学会とプレゼン能力

 ある学会からのプレゼン依頼があったものの、発表時間のあまりの短さに辞退を申し出た。学会と言っても会員数も決して多くはなく、数年前までは研究会として活動していた団体である。勿論学会の報告ともなれば演題にもよりますが時間制限があることは承知はしているものの、研究、および症例報告であっても演題の真意が伝わらなければ発表のための発表にしかならず、まったくの時間の無駄である。学会という崇高な場での発表であるならば、それなりの内容が伴うものでなければならないと当方は考えるが、以前海外の学会に参加した際には、地元の大学関係者の形式も何も守らない内容発表に唖然としたことがある。お国柄・・・ということではないのだろうが、それ以来当方が同様の場で話をする際には内容もさることながら国際基準を守った内容でプレゼンをするよう心掛けている。そういった意味では10分という短時間での症例報告では不完全であり、真意を伝えられないので断らざるを得なかった。普段の臨床で患者さんへの説明、お子様の現状に至った根本原因からの説明を親御さんにするだけでも10分という時間は短いぐらいであり、内容をコンパクトに伝えるプレゼン能力も必要ではあるが、大事なことは相手に伝わるかどうかである。

               2025,10,24

卒業旅行

 大学の卒業旅行と称して男子学生4人が韓国旅行に出掛けるという話を通院中のご婦人から伺った。その中には息子さんも含まれており、旅行に備えてバイト代を貯蓄されていたという。学費は親に払ってもらっているので、その他掛かる費用は全て自分で賄うと入学してから親に伝えてきたというから何とも頼もしい。溯ること30数年前、当方も学生時代は家庭教師などで地道にお金を貯め、当時は円高でもあり欧米への往復航空券も10万円未満で購入することができたので、バックパックを背負いながらヨーロッパを一人で旅したものである。旅行と旅の違いは何かと問われれば、旅行は楽しむことがメインであり、旅は一人旅を想像してもらえば分かりやすいが常に〝感じる〟〝考える〟ということが自分の行動についてくる。だとすれば、記憶に深く残る体験はどちらが多いかと聞かれれば旅である。地図を片手に路地を曲がりながら辿り着いた店などは、未だにその経路を思い出すことすら難しくない。卒業・・・は昔ほどノスタルジックな行事ではないようにも見受けられるところもありますが、大事な人生の節目でもある。社会人ともなれば答えのない世界で彷徨うこともあるかも知れないが、人生経験を重ねてきた人間からすると人にとって無駄な時間などはないのであり、躓いたと思うことでも自分を成長させる糧だと受け止め、自分の信じる生き方をしてほしいと願うばかりである。

               2025,10,23

20~30年後

 当医院を開業して23年目に入りましたが、主訴を抱えて受診される方の治療だけを考え日々の診療をしていたとしたら、現状のように乳幼児を診る診療体制にはなっていなかったでしょう。なぜ歯の治療をこれほどまでに繰り返しているのだろうか。歯科医師が10万人以上いるにも拘らず国民の口腔健康状態は30~40年前に比べたら多少は良くはなっているものの、未だに多くの問題を抱えてお越しになられる方が後を絶たない。口腔内が悪くなる原因を探っていくと、骨格、筋肉、習癖など様々な角度から俯瞰することで、全体像が診えてくる。そして辿り着いたのが〝舌〟であり、乳幼児の哺育の在り方が、その後の口腔の予後を左右するものと考えるに至った。勿論臨床家としては発展途上であり、さらなる研究、研鑽は欠かせない立場ではありますが、乳幼児からの正しい口腔育成を達成できる環境を整えることに歯科医療関係者、および国が思い切って舵をきることをすれば、20~30年後には人々の口腔内からは人工物も減り、医科的な疾患、不定愁訴を抱えた方も減るものと確信しております。せめて当医院を受診された方にはそのような環境を提供できたらとスタッフ一同考え、診療に臨んでおります。

               2025,10,22

乳幼児検診

 乳幼児の母親からの問い合わせが増えてきていることから、来年1月からは毎月第一火曜日の午前中を、乳幼児専用の予約枠として設けることに致しました。問い合わせの多い内容としては、1)ミルクが上手く飲めていないようだ、2)母乳は飲んでくれるけれどもすぐに寝てしまう、3)乳腺炎になるのは吸い方の問題ですか?、4)体重が増えない、などであり、当医院で診査治療をさせて頂いた乳幼児に関しては全て舌小帯短縮症であり、上唇小帯の付着異常も半数近くで認められた。小帯の問題は当医院で扱うレーザーであれば生後12ヶ月以内は無麻酔で処置を行うことが可能であり、授乳のことでお悩みが改善されていない方は、一度母乳もしくは哺乳瓶での哺育の状態を確認させて頂くことで、具体的な状況説明および適切な処置の内容をお伝えすることが可能である。子供、特に乳幼児の1日は我々大人の一日24時間とは異なり成長しています。全身疾患を認めないにもかかわらず我が子の成長発育が思うように進んでいないと感じているようでしたら、先ずは一歩を踏み出してみたら如何でしょうか。2026年、1/6(火)、2/3(火)、3/3(火)の午前中の受付を開始します。

               2025,10,21

歯科治療の在り方

 歯科治療の考え方、診査診断の仕方を根本的に見直すことは果たして無謀なことなのか?そんなことを真剣に考えさせられる患者さんの来院が続いている。何れの方も他院にて時間と費用をかけて治療を受けていたにも拘らず、満足のいくような結果に至っていない。偶然ではあるが二人の患者さんに至っては、それぞれ奥歯を失ったところにインプラント治療が施されており、口腔内全体を見渡しても上下奥歯の治療痕が複数あり、前歯は咬耗はしているものの処置を受けた形跡はない。更には舌の可動域が極めて狭く、一人の方は10代の頃から何となく滑舌が良くないとも感じていたものの、医者歯医者には何も指摘を受けなかったそうである。“木を見て森をみず”、“群盲像を評す”とはこのような治療結果に至った理由を表す極めて適切な表現と言わせて頂く。食生活習慣に問題がある、あるいは口腔ケアがきちんと出来ていないことが理由で歯の治療を繰り返してきたのであれば、なぜ唾液の巡りの悪い前歯にむし歯を作らなかったのか疑問が残ります。当医院の患者さんの統計では、多数の処置歯を抱えている方の共通項は不正咬合であり、その方々の舌の可動域は狭く、舌が完全に口蓋に張り付けることが出来ない方の不正咬合の程度は極めて深刻です。29歳という若さで4本も神経を抜く処置まで受け、上下奥歯のクリアランスがないから被せ物を装着できないと言われた方までいらっしゃるぐらいです。むし歯?(痛みの症状は必ずしもむし歯とは限りませんが)⇒歯を削る⇒詰める、被せる⇒数年後にやり替え⇒さらに数年後に歯根破折・抜歯⇒欠損部に義歯もしくはインプラント治療を提案される、これが現状の歯医者の仕事ですが、いつの時代までこのようなことを繰り返すつもりなのでしょうか。

               2025,10,20

乳幼児の舌小帯短縮症への適切なアプローチ

 「6ヵ月の乳幼児の体重が思うように増えないのと、ミルクを飲むのに物凄く時間が掛かっているのは舌の問題なのでしょうか?」という母親の悩みは深刻であった。なぜなら小児科では全く問題ないと言われているのに、母親としての感覚では“これは何かが違うのでは?”との思いが抜けきらなかったのである。ネット検索をする中で当医院のブログに目が留まり、我が子の舌小帯の可動域に問題があるのだと確信に至ったそうだ。その後当医院を受診され、舌小帯がどう動いているのか、舌小帯短縮症の場合はなぜ母乳や哺乳瓶までも上手く飲むことが出来ないのかを理解されたことで、舌小帯リリースを受ける決断には迷いがなかったそうである。オペは無事に終わり、術直後から泣き声も大きくなり、哺乳瓶の吸い方も上下口唇でアヒル口のようにしっかりと咥えることが出来るようになり、更にはFasciaをリリースしたことで全身の緊張も取れたことで股関節の開きまでもが劇的に変わったことにご両親はただただ驚くばかりであった。その子も術後3ヵ月を経過し約9ヵ月を迎えたところで体重も8キロ越えとなり、現時点における成長の適正化を達成できたものと考えている。世間には舌小帯短縮症へのアプローチとして様々な意見が飛び交っていますが、人は一人ひとり異なるのであり、ドクターの的確な診断のもと現状のままでは成長発育に明らかに影響を及ぼすと判断したならば、適切な手法による舌小帯短縮症リリースを躊躇うべきではないと考える。このオペに否定的な意見を持つ医療関係者には、オペをしなければ何をどうするのか、何もしなければこのような乳幼児はどのように成長発育するのかを見届けたことはあるのかと聞いてみたいものである。

               2025,10,19

小児患者の意思は?

 小児の治療に携わるものとして心得ていなければならないことは、“子供は小さな大人ではない”というあまりにも有名な文言である。先日の睡眠歯科学会において、「小児患者の日常臨床における倫理再考」という演題を拝聴した。普段の臨床では「倫理」をあえて意識しながら診療に向き合っているとは言い難いがゆえに、子供の権利が毎日の診療とどう関わっているかを考えさせられる内容であった。当医院にお越しになる親子の会話を聞いていると、本人はやりたくないのに親が強制的にトレーニングをやらせようとする場面が少なくなく、「保護者が納得している治療であっても、成長したお子さん本人は本当に理解しているのだろうか?」という問いである。当医院の患者さんの中には、「子供の時に親に矯正治療を受けなさいと言われて歯を抜歯して矯正をしたことは一生の後悔です。でも子供だったので親の言うことを聞くしかなかったので‥‥。」という方がいる。これはまさに子供が治療を受けるその時、子供自身が自分の意見を言えていたのか、意思決定に関われていたのか、ということである。治療のみならず、親の考えが必ずしも子供にとって最善ではないこともあります。だからこそこれからの時代は特に親、子供、医療従事者が一緒に話し合う過程を大切にする必要があると思います。

               2025,10,18

歯科医療従事者の務め

 「10日ぐらい前に右下の奥歯がすごく痛くなり、その後は痛みはそれほどではないのですが違和感がありまして・・・」と、半年検診で定期的にお越し頂いている方の開口一番の言葉である。5年前の初診時の口腔内写真と比較すると明らかに歯の咬耗が進んでおり、マイクロスコープで咬む面を覗くとマイクロクラックを確認でき、ほぼ間違いなく咬み合わせと無意識時の強い食いしばり、歯軋りが原因の外傷による痛みである。この方は反対側の左側奥歯を以前他院にて神経を抜く処置(根管治療)を受けており、更には上下で大臼歯の処置痕がある。典型的な治療の繰り返しの症例である。なぜそこまで奥歯の治療を繰り返してきたのか?歯医者で治療を受けたにも拘わらず、なぜ同じ歯が再び悪くなるのかを患者さんには考えて頂かなくてはならない。決して「歯の治療=元の健康な歯の状態に戻る」訳ではない。また、5年前の記録写真があるから患者さんも画像を見て歯に生じるトラブルの変化を確認できるのであり、定期的にかかりつけの歯科医院に足を運び記録を撮り続ける意味はここにある。現状をドクターだけが把握するのではなく、患者本人が目で見て共有し、納得することでその後の予防へと繋がるのである。痛くなった原因を“知る”ことが患者利益となり、それを分かるように説明することが我々歯科医療従事者の務めである。

               2025,10,17

信頼関係の構築

 世の中には歯のことで苦労したこともない方もいれば、子供の頃から歯医者通いが途切れない方もおり、歯科医療と無縁な方は当方のブログを読まれてもこちらの意図することが伝わらないかもしれません。歯医者の仕事はいつの間にか歯がないところに義歯を装着したりインプラント治療を勧めることになってきていますが、それは本来の歯科医師の姿ではないと思います。生涯にわたって歯を失わないように指導し環境を整えることが歯科医療従事者の務めであり、それは乳幼児から始まっているのです。例えば妊娠後期の8ヵ月ぐらいから胎児は下顎も動かしながら嚥下訓練を始めますが、満期出産でない場合にはその機能が十分に備わらない状態で生まれてくることになり、出生後早い段階から口腔筋機能トレーニングを始めることが口腔筋機能、更には顎顔面骨格の正しい成長を獲得することに繋がります。このような大事なことを伝えるには本人の治療とは別に時間が必要であり、チェアサイドの簡単な説明という訳にはいかないのです。臨床の現場ではそのようなことが多々存在し、患者の疑問に対し適切にお答えすることが治療に先んじて重要なことなのですが、保険点数獲得を至上命題として仕事をしていたならば、点数の算定が出来ないカウンセリングに時間を割いていたらどうなるでしょうか。当医院の一日のドクター及び歯科衛生士枠の予約はそれぞれ6~7人と制限させて頂いているのには理由があります。勿論考え方の合わない、共有できない方はご自身の価値観の合う医院にて治療を検討して頂くことにはありますが、診療行為以前に人的信頼関係の構築が優先されるのは言うまでもありません。

               2025,10,16

歯科治療は自費が良い??

 「歯の治療は多少費用が掛かっても自費治療が良いと思っていましたけど、そうなんですか?」とはある患者さんからの質問です。私の答えは「自費だからその方にとって良い治療だとは限りませんよ!自費治療の内容レベルも医院によって違いますからね~。自費治療、保険治療の考え方を先生方がどのように捉えているかによって説明、治療、その後の予後は異なると思います。」と説明をさせて頂き、更に当方の歯科診療への考え方も述べるに至った。保険診療で医院経営を成り立たせようとすれば、多くの患者さんを診て治療をしなければ請求できる点数は上がらない。例えば1時間に1人診察治療するのと5人診るのとではどちらが医院にとって収益が上がるかば言わずもがなである。では治療の内容及び説明という点ではどちらのケースが患者にとっては真の利益になるか。当然1時間の時間を使って丁寧な説明、これ以上ない精度の高い治療を受けることである。しかしそれでは医院として時間と治療内容に見合う点数を請求できるものがないために、時間単価としては間違いなく赤字になり、選挙の1票の格差と同様に開業場所の土地単価の違いは保険点数には反映されていないので、正直者は馬鹿をみることになるのである。高い志を持って歯科大学を卒業し国家試験をパスした新人ドクターが最初にぶち当たる壁は正にここにある。このつづきは明日のブログに繋げることにする。

               2025,10,15

口コミ評価?=正当な評価?

 「5年間通い続けている歯科医院があるのですが、最近治療結果に満足できなくて悩んでいました。〇〇さんにご紹介頂いたので伺わせて頂きました。面倒な患者ですがどうぞよろしくお願い致します」とは以前初診でお越し頂いた方の問診時のお言葉である。世の患者さんはこのようにドクターショッピングをして納得のいくマイドクターを探し求めているのだろう。今はネットの口コミで医院探しをすることが定番になっているようだが、最も信頼できる情報源はなんといっても生の声である。「ドクターの腕は良いかもしれないが目を見て話をしてくれない」「治療に関する説明は丁寧だが、私は今まで歯医者には子供の頃から掛かっていたのに全く歯が良くないのはどうしてなんですか?」「世間にはコンビニより歯科医院があるのに、先生によって言うことが全く違う」など、問診時にこのように語る方は歯医者不信が相当募っていると判断すべきであり、先ずは歯科医師の前に人としての信頼を置ける人間なのかどうかを吟味しているのである。そもそも会話、コミュニケーションがなければ信頼の構築は築けませんし、人としての温もりも感じることはないでしょう。皆さんはそのような白衣を着た人間に診察、治療を受けたいと思いますか?私ならば「No!」である。

               2025,10,14

睡眠歯科学会

 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)でマウスピースもしくはCPAP療法を勧められているものの、どちらも装着して使うことが出来ない方には朗報である。「植込み型舌下神経電気刺激療法(HNS)」なる治療が、一部の大学病院などで行われている。発表された演者によると、手術自体は2時間弱で出来るようになってきたそうで、今までの解剖学的に上気道の形態を拡げるアプローチとは違い、睡眠中の呼吸相と同期して、オトガイ舌筋を中心とする上気道開大筋群に電気刺激を送り、咽頭を拡げることで効果を発揮する治療法である。植込みに使われる電池は10年交換不要とのことであり、OSAで悩んでいる方にとっては治療の選択肢が増えたといえよう。また、本邦における国民の睡眠障害への関心は未だに低く、大学病院ですら睡眠外来が存在しないところは多く、〝Sleep Medicine〟としての概念周知を急ぐべきである。

               2025,10,13

スポーツにおける睡眠

 アスリートにとって睡眠はリカバリーのために重要だと考えられていたが、今はパフォーマンスの向上とリカバリーに必要不可欠との考えが主流となってきている。本日参加している睡眠歯科学会において、「スポーツにおける睡眠ーアスリートの睡眠を知る」というテーマで専門家によるデータに基づく貴重な話を拝聴した。睡眠不足と怪我の発生リスクでは、睡眠時間が平均8時間以上のアスリートと比較して、睡眠時間が8時間未満だったアスリートは怪我のリスクが1,7倍向上したとの報告である。また睡眠不足は認知機能の低下を引き起こすことは周知の事実であるが、高強度の身体活動を行いながらも素早い意思決定や思考が求められるアスリートにとって、認知機能の低下は非常に大きい弊害と言えるのではないか。MLBの大谷翔平選手が睡眠を重視しているのは世間でも知られているように、必要な睡眠時間、睡眠の質の向上についての理解と共に、睡眠障害が及ぼすアスリートへの影響などもこの二日間の学びで得られることを期待する。

               2025,10,12

舌に関心をもって!

 先日も当医院にお越しになられた方から「最近咽ることが多くなって気がするの。でも最近そう感じただけで、若い時もあった気がするのよ、先生。咽ることは舌と関係があるのかしら?」と質問を受け、「ハイ、大いに関係ありです!そこは非常に大事なところですから後ほど説明しますね。」ということで、治療後にプレゼン用のスライドを使って嚥下と舌および口腔周囲筋の関係を話すことになった。当医院ではこのように、治療の合間の患者さんとの会話で受けた質問についてはチェアサイドで簡単に話すのではなく、必ずカウンセリングルームに移動をして、その時間内に患者さんの疑問を解決するようにしている。なぜならその方が?と思ったときが問題点を理解し記憶に留めるベストのタイミングであるからである。ひとり一人の診療枠を長く時間を割ているのは理由があるからであり、治療そのものに時間を要する場合もあれば、話だけでその時間を使ってしまう場合もあるのである。なぜなら当医院のミッションである「価値ある時間を提供する」を実践するためである。舌ほど多くの筋肉組織を持つ臓器は他にはなく、舌がいかに複雑な機能を持っているかを先ずは知っていただきます。そのうえで、舌を含めた筋肉は、一般的に老化に伴い筋力の低下、運動機能の低下をもたらすことも理解して頂き、いわゆるオーラルフレイルによって筋肉の代償性変化が起き、局所的には誤嚥、全身的には睡眠時無呼吸(OSA)などの問題を抱えることになります。

               2025,10,11

舌機能のプレゼン

 耳鼻咽喉科の勉強会(研究会)から舌と咬み合わせの関係についてのプレゼン依頼を受け、簡単な紹介文を下記のように記載させて頂いた。

 小児の5人に4人の咬み合わせが良くない時代です。従来、そして今も歯科矯正の治療において上下小臼歯抜歯による歯列矯正治療が行われています。治療法に関しては様々な考え方、議論が存在しますが、そもそもなぜ不正咬合になるのか、不正咬合になる原因をなくすことを考えなければいけません。抜歯矯正治療を行っても不正咬合に至った原因が取り除かれたことにはなりません。当方の考える、そして日本小児口腔発達学会(NPD)の考える根本概念は、不正咬合は頭蓋顔面骨格発育障害の一つであり、すべきことは子供たちの『成長の適正化』にあります。では舌と口腔顔面骨格との関係はどうあるかと言えば、舌が口蓋に適度な力で常に貼り付いているTongue toneが確保されることで口蓋骨が広がり、鼻上顎複合体の前方への最大成長期の7~8歳までに舌を含めた口腔周囲筋の習癖が改善されれば中顔面は前下方に成長し、それに沿うように下顎も上顎咬合平面に適応してきます。(中略)従って、舌の可動域に制限がある場合には舌小帯およびその下に隠れている組織(頤舌筋を含む)をリリースすることで、舌についている鎖を取り除く必要があるのです。但し、舌のリリースをしただけでは機能回復はしないので、舌が正しく機能するために口唇を閉じる、舌を口蓋に張り付ける、鼻呼吸をする、そして正しい嚥下をできるようにするというトレーニングを行い、無意識下でもそれらが身に付くようにすることを親子の目標として頂く取り組みをするのです

               2025,10,10

歯科医師の役目とは

 「インプラントと義歯はどちらが良いのでしょうか?」と質問を受けることが少なくない。患者さんの言う“良い”という意味は単に物が咬めることを意図しているのか、違和感がないという意味を含んでいるのか、長期的に口腔内にとって良いという意味なのか、など確認が必要である。歯の喪失したところをどうにかしたいと思うのは当たり前ですが、なぜ歯を抜くような状況になったのかを先ずはしっかりと考えなければいけない。まさに「原因があるから結果がある」のであり、直近の問題ではなく過去を遡った根本原因を突き止めなければならない。ご自身の歯に勝る人工物などこの世には存在せず、原因が取り除かれないまま義歯やインプラント補綴を行ったところで、果たしてどこまで本人の満足のいく結果が得られているのか疑問である。健康を害して初めて健康の有難さに気付くものだが、歯を失ってからでは遅いのである。ご自身の口腔内の状態を把握し、将来起こりうる口腔内および口腔を起因とする全身まで波及するトラブルのリスクを極力少なくするために、今から何ができるのかを理解することが本当の予防へと繋がるのである。症状がないから問題ない、大丈夫だという認識では、30年前の歯科への受診の仕方と何ら変わらない。義歯、インプラント治療の件数が減っているのなら、歯科医療も評価されるべきだが、益々インプラント市場が賑わっているようでは、歯医者の存在意義はあるのか疑問である。

               2025,10,9

誤嚥防止のトレーニングにむけて

 「振り返ってみると、食事の時によく咽るんですよね~。子供にも大丈夫?なんて言われたりもします。良くないですよね?」と問診時に患者さんから出た言葉である。問診中に下唇を巻き込む癖が診られ、唾を飲む様子を観察すると口輪筋、オトガイ筋がフルに動いて(緊張して)いることから少なくとも下顎前歯部の叢生(歯の重なり)が推察された。この方が当医院を受診された切っ掛けは、当医院のHP上のブログの内容を熟読するなかで、30数年来の身体の不定愁訴が咬み合わせとそこに至った原因にあるのではないかと思い立ったからだと聞き、敢えて長々と文章で綴ってきた甲斐があったと思った次第である。常に医学情報は更新しているが、それは自分の臨床経験に照らし合わせたうえでのバージョンアップであり、例え高名な先生が学会などで発表された内容であったとしても、参考にはなるかも知れないが真実は自分の臨床にあるとの思いは変わらない。嚥下が上手くいかない、咽る、よく咳き込む、などは口腔筋機能が本来の動きをしていないことから生じることが多く、理想とされる嚥下の仕方がどのようなものかを先ずは理解されることを勧めたい。因みにこの方は今後、機能的歯列矯正治療を前提とした口腔診査を行い、結果次第ではあるが歯列矯正と口腔顔面筋機能療法を平行して行い、将来的な誤嚥のリスクを避けられるようなプログラムを組む予定である。

               2025,10,8

ノーベル賞

 外からの雑音に左右されることなく信じた道を進んでいく勇気、気概というものが、あのような人物を創り上げるのだろう。ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大学の坂口志文さんは、ながらく研究が評価されずに苦労したとのこと。それでも坂口さんを慕う後輩の方からは「圧倒的な信念、自分がやっていることは正しいと確信を持っていた。表面上は穏やかでも心はめらめらと燃えている感じがし、そういうところが尊敬できる。」と語っている。当方にとってどちらかというと苦手な基礎医学の分野だけに、研究の道を進む姿だけでも尊敬させられるが、先生の研究成果である免疫の過剰な働きの抑制に関わる「制御性T細胞」を発見されたことは、病気の仕組みが分かったことで自己免疫疾患やアレルギーの治療法が進むことに繋がる。山中伸弥先生、本庶佑先生、大村智先生他多くの研究者がこれまでのノーベル賞を受賞されており、日本人として誇りに思う出来事である。どんな分野であれ、自分の信じた道を歩み続けられる人間は幸せであり、我々が学ぶべきはその生き方であろう。

               2025,10,7

不正咬合を引き起こす隠れた悪化因子

 成人矯正治療と小児矯正治療の違いは何かと問われれば、成人はワイヤーなどメカニカルによって出来上がった形態を整えることであり、小児は成長途上にあるので不正咬合を引き起こしている原因を取り除き、成長発育の適正化を図ることにある。但し成人の場合も現状に至った悪化因子を取り除く、要は問題の上流にあるものを解決するという意味では、物理的に歯を動かした後で筋機能療法を行う必要があるのです。今現在、歯並びが悪くて歯列矯正治療を考えている方には是非とも次のことをしっかりと考えて頂きたい。現在の不正咬合という状態は代償であり、その代償は何らかの原因(悪化因子)と表裏一体であるということ。この悪化因子を解決しない限り本当の意味での改善には至らないということなのです。目指すべき治療のゴールは標準値の範囲内に収めることではなく、治療した結果が生涯保たれることにあると考えます。筋機能の改善がなければ、今現在及び将来にわたって嚥下障害をも引き起こす可能性は高まりますし、舌が後方に下がっていれば構造的に咽頭気道も狭くなることで呼吸障害、更には睡眠障害へと負の連鎖を断ち切れません。不正咬合は見た目の問題ではなく、隠れた恐ろしい原因が潜んでいると認識すべきです。

               2025,10,6

日本人としての誇り

 夜空に見える綺麗な月を、戦禍のウクライナやガザ地区の人々にも目にしているのだろうか。久々の夜ランをしていると、ふとそんな感傷に浸りながらペースを上げて走っていた。大国の論理とでもいうのでしょうか、自国の行いを正当化するようなプロパガンダを流し、武力だけに頼る時代は終わり、歴史認識を変えて優位を狙う歴史戦が地球上で行われている。過去の世界大戦の悲劇を敗戦国は忘れはしないが、戦勝国はいつまでも周辺国に緊張を強いる存在でしかない。戦争で人間の心が癒されることは両者にとっても決してない。どうやら初の女性日本国総理大臣の誕生となる可能性が高くなりましたが、外交手腕は未知数である。「自国の歴史を忘れ、誇りを失った民族は滅ぶ。」とアサヒビール元社長の中條高徳さんが生前語られていた。大和の国出身の総理大臣ともなけば、日本人としての誇りを前面に出して、世界と堂々と渡り合って頂きたいものである。

               2025,10,5

乳幼児の順調な成長発育へ

 以前、乳幼児の体重増加が成長曲線の下限ギリギリのまま過ごされていた方が、小児科では問題ないと言われたものの何かこのままでは良くないのではないかと疑問が募り、医師の勧めもあり脳外科も受診されたことがあった。結果的に脳に問題はなく、その後当医院で舌小帯短縮症のリリースを行い母乳哺育も問題なくできるようになり、身体の強張りからも解放され、術後1ヶ月でみるみる体重も増え、母親からは「もっと早くこちらでの手術を決断すればよかった!」とのお言葉を頂いた。ネット検索による情報過多によって最終的に自分ではどうしたらよいか分からなくなり、夫婦喧嘩にも発展したそうである。それも無理もない。論文においても舌小帯切除と母乳哺育の関係性を否定するものは少なくなく、某国立大学のHPにも5歳までは舌小帯のリリースを行わないようにと載っている。親御さんに伝えたいことは、最終的な判断は当たり前ですが担当される医師、歯科医師と直に会い、詳しく説明を聞き納得できる内容なのかどうかをご自身で判断されるしかないのです。当方は歯科医師であり、不正咬合の原因を探っていくと乳幼児の筋機能の発育からかかわる必要性に辿りつき、舌を含めた口腔周囲筋の正しい機能が頭蓋顔面骨格の発育に大きく関与しており、その中で舌の可動域が狭い=舌が持ち上がらないため、舌圧によって口蓋および鼻上顎複合体が理想的に成長しないことが分かってきたので、成長の適正化をするために必要なお子様には舌小帯リリースとリハビリトレーニングを提案させて頂いており、その延長上で乳幼児まで行うようになってきたのである。受付スタッフ一覧に助産師の名前が追加されたことで、先日は「こちらでお産も始められたのですか?」と冗談交じりの質問まで頂くことに。

               2025,10,4

社会の変化

 コンビニの支払い待ちで並んでいると、まるで商品がこちらに呼びかけてくるように陳列されている。やはりこれもマーケティング戦略なのだろう。大人と子供の目線の違いによって並べられている商品は異なり、子供が手を伸ばして「ママこれ買って~?」なんて光景は皆さんも目にしたことがあるのではないでしょうか。消費者心理や購買行動を分析したうえで、売上を最大限延ばすための工夫、企業努力と言えばそれまでだが、全てが管理され人間の弱点を突かれているようでもあり、昔の駄菓子屋の情緒ある店のおばちゃんとの会話を楽しむような時間は存在せず、無機質な金額の会話だけが行われ、金銭のやり取りも現物ではなく“ピー!”で終わってしまう。便利な社会と引き換えに人間本来の感性は鈍化し、デジタル、AIへの感性だけは研ぎ澄まされていく世の中に不安がないと言ったらウソになる。子供の頃からごく普通にご近所さんとも関わって育っていれば、挨拶はもちろん相手の目を見て話しをすることぐらい自然と身に付くはずである。何か世の中がギクシャクしている背景には、人が人間らしく生きていけない形にはない障壁があるのではないでしょうか。

               2025,10,3

挑戦と気概

 この約一年の間に、短期留学、ゼミ合宿、そして個人旅行などで韓国、ベトナム、台湾、アメリカ、タイ、そしてフランスを訪れた学生がお越しになられた。若い時の目に映る日本との文化、習慣の違い、そして五感で感じる様々な体験はこれからの人生において、日本基準だけではなく比較対象しながら世界を見る良い切っ掛けとなったことだろう。人生経験の浅い若者にとって挑戦してみたいことがあれば果敢にチャレンジすればよい。日本社会の大きな欠点は、文化的に前例を重視する傾向が強いことであり、たとえ先のことが分からなくても思い切って挑戦するという気概と冒険心がなければ、よりよい人生も実現できないでしょうし、何よりもワクワク感が芽生えてこないのである。日本の再興に必要なのは政治改革ではなく、国民一人ひとりの意識改革であり、メジャーリーガー“Shohei Otani”のような躍動感あふれる行動である。政治が変われば少しは社会が、生活が、そして世の中が良くなると思っているような他力本願では駄目なのであり、自助努力そして勤勉の習慣をどの世代の人も身に付けるべきであり、常に成長し続けなければ人は後退あるのみである。


               2025,10,2

生成AIの活用

 今さらかも知れませんが“生成AI”を使い始めてみると、なんと時間の効率が良いことかと感心しきりである。当方にとっては文献検索に時間を割かれていただけに、なぜ今まで利用しなかったのかと若干の後悔と今後に期待するツールである。2年ぐらい前の知人との会食の際に「ChatGPTを使っている?あれは使い慣れると本当に無駄な作業が無いよ、早く使いこなした方が良いよ!」と言われたことが気にはなっていたが、内輪の勉強会で使うプレゼンの資料作成ぐらいでは別段困ることもなかったので手付かずのまま過ごしてきた。そんな私がなぜ急に使うようになったのか。薬の処方に関しては基本的な知識は修得しているものの、普段臨床で使わない専門外で使われている全身疾患を有した患者の服用されている投薬内容に関しては、組み合わせの可否が直ぐには分からないのである。今までは薬剤師に問い合わせをすることで確認を取っていたが、生成AIであればその場で瞬時に回答が得られるではありませんか。ビジネス界において生成AIの活用は当たり前になってきているものの、世界の中では日本におけるAIの活用普及率はまだ約5%にとどまっているという。SNSにおいても生成AIの活用セミナーなる広告も多く目にするようになっており、当医院においてもこれ以上時代に乗り遅れないよう取り組んで参ります!

               2025,10,1

抜歯?保存可能か?

 “あれほどずっと言い続けてきたのに・・・”と言いたくなるのを流石に言葉にはしませんでしたが、10数年口腔のメンテナンスでお越しになられている方が、上の奥歯が痛くて嚙めないと連絡を頂いた。頭を過ったのは“まさか、歯が割れた?”である。舌の挙上がままならず、代償的に下顎が後退している不正咬合のため、夜間に無意識時に行う歯軋りによって上下奥歯が不自然に強く干渉してしまい、外傷性の歯のトラブルが生じていたのである。見た目の問題ではなく機能的に改善の余地があるので初診時から機能的歯列矯正治療を勧めていたが、日常生活に支障をきたしていることはないとのことで、理解はしているものの歯列矯正は・・・?と先を見越した予防的な治療には一歩を踏み出せないでいた。痛みの原因は咬合性外傷による歯根破折の疑いであり、根管内をマイクロスコープにて確認すると細かな亀裂線を認め、根尖部付近からは排膿も確認できた。悪い意味での予想が的中してしまったケースである。今後は感染根管治療を進めることになるが、その後の補綴処置(被せる処置)に移行する前に、今の咬み合わせのまま再度被せ物をするのか、これ以上歯を失わないようにリスクを軽減させる歯の動的な治療を行うのか、患者さんは大きな決断をしなければならない。

               2025,9,30

助産師の参画

 「娘とこちらのホームページ見ていたら、スタッフの欄に助産師さんが紹介されていたので、遂にかなざわ歯科医院ではお産を始めたのか?と笑っていましたよ・・。なんで助産師さんが歯科にいるんですか?」と、長いこと当医院にお越し頂いている方から質問を受けた。話をすると相当長くなるので掻い摘んでお伝えしたが、その方自身かみ合わせが悪く、散々歯医者通いをしたにも拘らず歯を失い続けた経緯があるだけに、「赤ちゃんの時から歯の問題はすでに始まっているんですね。これからのお子さんたちは羨ましいですわ!」と感想を述べられていた。当医院で舌小帯の問題により組み始めたのは約5年ほど前からになりますが、実際に舌小帯短縮症および上唇小帯のリリースまで行い、術前術後のトレーニングを継続されることで筋肉の習癖が改善し、成人であれば滑舌が良くなるのは当然としても寝つきが良くなった、整体に通っていたけれども通う回数が減ったというケースが多い。乳幼児であれば正しい哺育が出来るようになり、それ自体がトレーニングになり、本来の筋肉の動きを獲得することで頭蓋顔面骨格の成長発育が適正化されるのである。助産師さんの活躍の場はここにあり、当方の専門外は他業種の助けが必要なのである。今後は体幹の効果的なトレーニングに関しては理学療法士や作業療法士、構音障害の改善には言語聴覚士、栄養面に関しては管理栄養士との連携が欠かせないこととなるのは時間の問題である。

               2025,9,29

旧態依然から…

 旧態依然の指導法で高校野球部を指導している監督の話を治療でお越し頂いている方から伺った。今の時代にうさぎ跳びを当たり前のように行い、部員全員に同じメニューを何百回とさせているというから驚きである。間接的に聞く話なので事の正確さは分かりませんが、生徒一人ひとりの体力、力量、技術力は違いますから、それぞれの子供がいま到達できるレベルの目標を設定してあげれば、日々の練習に取り組む姿勢も変わってくると思いますし、何よりも楽しく努力、上達していけると思うのです。全体を指導はするのではなく個々の生徒に問いかけ、一日一日の変化を把握して、その日にあったプランを考えるぐらいのきめ細かい指導が今の時代は必要ですし、それを可能にしようと指導者がマインドセットさえすれば出来るのではないでしょうか。当方が高校生の頃は、データ管理や数値化という概念が存在しませんでしたから、練習の質とともに量でカバーする、いわば根性論が全盛期の時代でしたから、スキルは思うように上達しなくてもメンタルは鍛えられたというあまり褒められた話ではないことが当たり前でもありました。時代は変化し、横並びの指導法では指導者が置いてけぼりになるのです。何でも新しいものが最良であるわけではなく、改善すべきところは柔軟に対応し改革をしていく気構えが上に立つ者には求められているのです。業種は違えど適応できるものだけが生き残るのは、時代を超えて共通した概念であり、“唯一生き残ることができるのは、変化できるものである”と言ったとされるダーウィンの言葉は、ある政党の党首選にも当て嵌まるようである。

               2025,9,28

智のないものは・・・

 人の上に立つ肩書を持ちながら、首長のやっていることと言ったら・・・。そんな声が良識ある国民から聞こえてるようで、あまりにも次元の低い報道の内容に辟易しているのは私だけではないでしょう。「人は学ばなければ、智はない。智のないものは愚かな人である。」と『実語教』に書かれている。つまり、賢い人と愚かな人との違いは、学ぶか学ばないかによってできるものなのだと言っている。選挙民から沢山の票を集めて当選したお騒がせ首長たちは、大学まで通っていったい何を学んできたのだろうか。戦後教育から道徳、修養を軽んじる風潮が今日のような社会秩序の乱れ、恥じることを知らない人間を作り出した典型例ではないでしょうか。福沢諭吉の〝学問のすすめ〟には次のような文章があります。「自由と我儘の境目というのは、他人の害となることをするかしないかにある。たとえば、自分のお金を使ってすることなら、酒や女遊びにおぼれてやりたい放題やっても、自由であるから構わない、というように思えるかもしれないけれど、決してそうではない。ある人がやりたい放題やるのは、他の人の悪い手本になって、やがては世の中の空気を乱してしまう。人の教育にも害になるものであるから・・・その罪は許されないのである。」時にはスマホを置いて、人間を学ぶ、修養する時間を確保しなければ、人は単なる動物でしかなくなってしまうかも知れませんし、すでに人の顔をした動物が記者会見をしています。

               2025,9,27

考え方

 当方が医院を開業した約23年前、京都駅構内の書店に立ち寄ると京セラの創業者である稲盛和夫さんの本のコーナーがあり、数冊買って新幹線に乗り込んだ。業種は違えど経営者としての心構えなるものを知りたく、新横浜駅に到着するまでの2時間はその後の医院経営に多大な影響を及ぼすこととなった。「自分の人生も、京セラという会社の未来も、自分が心に抱く考え方、人生観、あるいは哲学といったもので決まるのではないか、と思った。」という文言は、それ以後私の心を離れないでいる。人生経験が少ない時期には自信の無さから一歩をなかなか踏み出せないものであり、後に後悔することがあるとすればそのような時に行動に移すことが出来なかったことになる。なぜ勤務医のままではなく敢えて開業の道を選んだのか。それは日本の歯科医療の現状を憂いていたからであり、数を捌かなければ保険点数を稼げないというシステムでは、しっかりと患者と向き合い信頼関係を構築したうえでの理想の歯科医療は提供できないと考えていたからであり、当方の歯科医療に対する考え方に共感共鳴してくださる方だけでも当医院のミッションである『価値ある時間を提供する』を実践したかったのである。しかし世の中はそう上手くいくものではなく、開業3ヶ月にしてすべての資金は底をつき、親族に借金をしなければ継続できない状況に追い込まれる事態に。そんな時、心の支え、背中を押してくれたのが稲盛さんの「〝考え方〟こそが人生を大きく左右する」という言葉であり、その一貫した考え方を守り続け進化させてきたからこそ、何とか今も存続できているのだと自負している。口腔機能障害を有していても身体が適応している間はそれなりに生活はできるものだが、適応できない年齢になった時にはリハビリに努めたところで回復の幅は狭いのが現実である。その現実から我々歯科医療従事者が学ぶべきことは、口腔機能の適正化をできるだけ早い段階で行うことであり、患者サイドの理解を深めるための時間を設けることである。

               2025,9,26

子供の扁桃肥大が放置される現状

 咬み合わせが悪く、常に口が開いているのが気になるとのことで数か月前に当医院にお越しになられた小学生がいる。親が言うには、食事中も勉強机に向かっているときも極端な猫背であり、何が原因で姿勢が悪いのかもわからず心配はするもののどうしたらよいか分からず今日に至ったという。口腔内診査をするまでもなく、中顔面の発育不良と上唇の捲れ上がりから口呼吸を伴う頭蓋顔面発育不良が疑われ、下顎を前上方に向けながら呼吸をしていることから気道狭窄も疑われた。となれば口腔内の状態、歯列弓形態はおおよそ予想がつき、診査では中顔面の発育不良がどの程度なのかが問題となってくる。また気道狭窄は開口時に認められた極端に大きな扁桃、およびレントゲン画像からも両側扁桃肥大が確認でき、耳鼻咽喉科との連携が必要にはなるが、歯科的には口蓋扁桃の摘出が望ましいと思われた。ドクターの診断はガイドラインに沿ったものであれば医療者側に問題が生じることはなく、いわば治療に伴う医療者側のリスクを避けることが目的の一つとしてあるならば、ガイドラインそのものを再考すべき時もあるのではないかと臨床の現場に身を置くものとして言いたくなる場面に多々遭遇する。また一度確立された治療法を改めるには多大なエネルギーを要するものであり慎重であるべきではあるが、子供たちの成長は日々進んでいるのであり、待ったなしの治療が必要な時はドクターの英断が必要である。

               2025,9,25

軸があるのか

 イスラエルとパレスチナが独立した主権国家として共存する「2国家解決」を後押しする首脳会議が国連本部で開かれましたが、フランス、ベルギーなどがパレスチナ国家の正式な承認を発表したのに対し、我が国の外務大臣は「我が国にとってパレスチナ国家承認は、するか否かではなく、いつするかという問題だ」という相変わらず責任回避ともとれる情けない発言に終始していた。誰が聞いても後ろ盾となる国の都合に合わせた発言であることは明白であり、あの「Noと言えない日本!」の著者が聞いたら草葉の陰で嘆いていることだろう。なぜ一国家としての覚悟を持った姿勢を示すことが出来ないのか。戦後80年経った今、骨太の芯のある哲学を持った政治家が果たしているのかと嘆きたくなるのは私だけではあるまい。国民からの票取りに目を奪われ目先の結果を急ぐばかりで、政治家というよりは政治屋に成り下がっている。あの「政界の風見鶏」とやゆされた中曾根康弘元総理は、若いころに交流のあった言論人、徳富蘇峰の「大局さえ見失わなければ大いに妥協してよい」をモットーにしていたという。“軸がないとぶれる、軸があるから方向を変えてもぶれない。”その哲学を今の国会議員にも引き継いでいただきたい。

               2025,9,24

哺乳瓶を改良すれば問題は解決しますか?

 哺乳瓶と一口に言っても種類はあるようで、上手くミルクが飲めない乳幼児でも飲めるように形態が改善されたものが市場では売られていると聞いた。母親にとっても赤ちゃんにとっても喜ばしいように聞こえるのだが、忘れてはいけないのはなぜそこまでしないと赤ちゃんは哺乳瓶すらうまく吸えないのかということである。改善すべきは哺乳瓶ではなく乳幼児の本来あるべき舌、口唇を含めた口腔機能であり、それを抜きにして話を進めるべきではないと考える。実際に母乳の出が良くないので哺乳瓶に切り替えたものの、思うようにミルクを飲んでくれなかったという母親に、哺乳瓶を与えているところを見させていただくと、上唇がアヒル口の様には咥えられていない。その原因がどこにあるかと診査すると上唇小帯の付着位置に問題があり、それをリリースしなければ上唇が上手く機能しないのである。母乳哺育および哺乳瓶での哺育も上手く出来ていない母親は相当数存在すると想定され、栄養面だけのことであれば母乳の出が良ければ口唇や舌が機能しなくても飲めてしまいますし、何とか飲める哺乳瓶であればそれでも栄養は摂ることが可能です。但し、正しい哺育は口腔機能の獲得のために必要なのであり、顎顔面骨格の成長に直接かかわる問題なのです。世の中の不正咬合を抱えた人口はいったいどれぐらいになるのか、不正咬合を抱えた方の健康状態は果たして良好なのか。全国民を対象とした調査ができるのであれば、そこから咬み合わせの重要性が見えてくるはずである。

               2025,9,23

学ぶ意欲は衰え知らず

 全く分野の異なる文献や本に目を通すと、先ず専門用語でつまずき、頭の中でイメージが出来なくなることから後回しにしたくなる。それでも気になるので日を改めてトライすると、使っていなかったシナプスが繋がるように頭に入ってくることがある。あの感覚は不思議なもので、一度スイッチが入ると時間が経つのも忘れて没頭できるものである。若い頃は今ほど文献に手を伸ばすことがほとんどなく、高校までは横文字を読むことにも抵抗はなかったにも拘らず、臨床に出てからというものスタディーグループの教えを乞うことはあってもそこから文献検索をして極めるところまで学びを深めることはしていなかった。なぜならそれでも臨床の現場で困ることはなく、それなりの結果を残せていたからなのかも知れない。しかし臨床も30年に及んでくると、脳裏に残っている多くの患者さんに共通して診られる問題の特徴があり、その解を求めたく臨床医外に時間を割くことが多くなってきた。幸いなことに今では文献検索もネットで手に入れることも簡単であり、文献の執筆者に連絡を取ろうと思えばメール連絡でコンタクトも可能な時代である。あえて問題があるとすれば当方の語学力かも知れないが、あの湯川秀樹博士は「人間は頭を使っている人でも脳細胞の3%しか使っていない。」と言われていたように、眠ったままの脳細胞を今からでも働かせることは可能であり、新しい領域に入る度に自分の無知さ加減を思い知らされることで、学びに対する意欲が湧いてくるから人生は楽しい。人は成長を求め続ける限り、無限に道は開けていると確信しています。

               2025,9,22

不正利用の疑い

 「決済エラーのお知らせ」という見慣れない件名のメールが届き、迷惑メール扱いの処理を行ったのだが、日を改めて再び同様のメールが届くではありませんか。これはカード会社からのメールであることに間違いないとの確信からメールを開いてみると、カード利用もしていない日時の決済が不成立との連絡であった。当方の記憶違いとも限らないので念のため通知のあった日の行動を振り返ってみたが、やはりカードを利用することなどしていないのである。ネット社会の恐ろしい現実を目の当たりにしたことで、カード会社の2段階セキュリティ対策は利用する側としては面倒な部分もあるが、致し方ないと受け入れるしかない。昭和から平成、そして令和となり、アナログ時代からデジタル時代へと効率の面では飛躍的な進化を社会は遂げているが、プライバシー保護やセキュリティの脆さを隠し通すことはもはやできない。かと言って時計の時間を巻き戻すわけにもいかず、自己の領域を土足のまま踏み込んでくる闇の連中には全くもって迷惑千万である。当方のカードは即時利用停止の処置がとられ、カードが再発行されて手元に届くとのことである。皆様も十分お気を付けください!

               2025,9,21

ポテンシャルの高さ

 「〇〇君は将来就いてみたい、関心のある仕事はあるのかな?」と何気なく尋ねてみると、「いえ、特に考えて無いっス!」との返事。「医者でも目指してみたらどうなの?」と続けて聞くと、「俺の頭なんかでは無理っすよ(笑)!」と爽やかな笑顔で返してくる。母親が子供の姿勢が悪いのは咬み合わせが良くないからではないかと疑問に思って受診されたのが当医院に通われている切っ掛けだが、親子共々清々しく、いつも話が盛り上がるのである。まず何よりも好青年だと思わせたのが挨拶の仕方である。目を見て元気よく「おはようございます。宜しくお願い致します!」。治療が済むと「ありがとうございました!」と極めて当たり前のことかもしれないが、何よりも接していて気持ちがいいのである。親の育て方ひとつで子供は変わると言われるが、出来れば人と話をするのは避けたい、コミュニケーションをとるのが苦手である、といった人間が増えている中で、挨拶の在り方が人を知る上では履歴書よりも確実である。当医院開業の際には歯科衛生士の資格のある人間よりも、素人でありながら人としての魅力を感じた方を採用したことが、それまでに身に付けた知識、経験を重視するよりも、その人間がどれ程のポテンシャルを有しているかをいつも見るようにしていたことが、いい結果を生むことになったと考えている。“企業は人なり”とは上手く言ったものである。

               2025,9,20

思考停止

 「思考がもたらすものは、善悪を区別する能力であり、美醜を見分ける力です。私が望むのは、考えることで人間が強くなることです」とは、ドイツの哲学者アンナ・アーレント氏の言葉である。今現在、世の中にネットが張り巡らされ、家から一歩出れば道行く人の大半は〝スマホ歩き〟であり、駅のホームで聞かれるアナウンスにも耳を傾けることもなくスマホ脳になっている。ネットサーフィンという言葉があるぐらい、次から次へと画面に誘導されながら目を離せないでいる様々な世代の人たちの脳は、実際のところは「思考停止」「思考欠如」に陥っており、前述の〝考えることで人間が強くなる〟とは逆行しているようである。AIは好奇心を持つことが出来ないが、人はいろいろな事柄に対しそれをもって見たい、知りたいと思うことで思考停止を避けることが出来る動物である。多様かつ広範な見方、考え方が存在するこの世の中で、常に好奇心をもって動いていかねば思考停止というリスクから抜け出すことは難しいのかも知れない。

               2025,9,19

乳幼児の成長発育

 歯科医院で乳幼児の診療外来日を設けるべきかどうかを考えさせられるほど、母乳が上手く飲めていない、体重が思うように増えないのは舌に何か問題があるからなのでしょうか?といった類の相談件数がこの半年ぐらいで増えてきている。小児科では、「成長曲線の下限からは出ていないので問題はない」と言われたものの、母親としては説明に納得できてないのだろう。先日お越しになられた乳幼児の母親は、「赤ちゃんの身体はもっと柔らかいものだと思っていました。常に力が入っているような・・・」と、問診時に滔々と語り始めた。舌小帯短縮症の診査診断、そしてTongue-tiedのリリースは決して簡単なものではなく、全身的な症状も伺ったうえでの対応が求められる。Tongue-tiedも前方だけではなく後方部のテンションまでリリースをしなければ完全なリリースを達成出来たことにはならないことがある。Fasciaをリリースすることでつま先までつながっている緊張が解除され、オペ直後に乳幼児の身体が柔らかくなったと母乳を与えながら驚く母親は多い。あくまで参考意見ではあるが、小児科的な問題は指摘されないものの親として何か違和感や気がかりなことがある場合には、上唇小帯および舌小帯異常を疑ってみる必要はあるのかも知れません。

               2025,9,18

気持ちを理解する診療とは

 医師、歯科医師をはじめとした医療従事者がどんなに優れた医療技術を習得し実践提供できる環境であったとしても、患者がその人に治療を託したいと思わない限りは宝の持ち腐れとなる。基本的な問いのように思えるかもしれませんが、医療提供者が思いやりをもって患者を治療するとはどういうことか、一度立ち止まって考えることが重要なのではないでしょうか。全国の医療機関の約4割が経営は赤字になっているという報道があったがなぜなのか。臨床の現場に身を置くものとして日々感じ続けていることは、保険診療は処置に対する点数は2年に一回点数改正があるものの、同じ処置にどれだけ時間が掛かろうとも請求できる点数は同じであり、術前術後の説明を幾度となく時間を割いて繰り返し行ったとしても請求できるものは何もない。医者が身に付けるべきもっとも重要なスキルの一つは、患者の気持ちを理解するという意図を持ち、積極的に患者の話に耳を傾けることではないでしょうか。しかし、その様な診療姿勢を貫けば貫くほど経営は傾くのであり、赤ひげ医療機関は窮地に追い込まれているのが現状です。時には、患者がただ話を聞いてもらい、自分の話を語るということ自体が治療的な意味を持つことがあるのを歯科医療現場でさえ感じています。それにより、患者の医療機関での診察、治療に伴う基本的なストレスの一部が軽減されることもあるのです。当医院の昼休み時間はカウンセリングで埋まることは常態化しており、小さなクリニックとしての限界がすぐそこまで来ているのかもしれません。

               2025,9,17

根本原因を取り除け

 う蝕(むし歯)が進行した歯の治療を保険診療内もしくは自由診療で行った場合、両者の違いはどこにあるのか。一番の違いはドクターの治療技術であり、診査診断力であり、保険診療でもそれなりの治療をきちんとすることは可能だが、より精密に治療を勧めるのであればひとつ一つの処置に時間が掛かり、術前術後の説明にも時間を割くことから、トータルでは保険診療内ですべての方に満足のいくベストと思われる治療を提供するのは難しいのではなく無理である。では自由診療で治療をすれば歯の予後は良くなるのかという疑問が一般の方には頭を過ると思われるが、どんなにあらゆる技術を結集した治療を施したとしても、半永久的に治療を受けた時の状態が維持されることはない。つまり生体は常に変化しており、それに適応しながらどこまで機能していけるかという時間軸での評価が必要となる。そもそも考えて頂きたいのは、ご自身の天然の歯にまさるものは世の中には存在しないのであり、治療が必要になった根本原因を取り除かなければ、何れ人工物は脱離したり隙間が生じて再治療が必要になるのである。仮に詰め物や被せ物が何十年も取れずに機能しているからといって、それらの歯との接着面に問題がないわけではなく、二次的に歯質の感染が進行していることは臨床現場では多々目にすることである。約30年の臨床経験から診えてきたことは、歯のトラブルを引き起こす主たる原因は不正咬合(乱れた歯並び、上下咬み合わせの乱れ)であり、今の乳幼児、子供たちには同じ轍を踏ませてはいけない。そのために顎顔面成長発育障害を有している10歳未満の子供たちの早期の成長発育の適正化が必要であり、当医院にはそのようなお子様たちが増え続けている。

               2025,9,16

忘れ物

 乗車した新幹線か駅のホームベンチに競技のアップ用シューズを忘れたと子供から連絡が入った。先日購入したばかりの言ってみれば商売道具のように大事なものをなぜ忘れるのかと呆れたものだが、起きたことは仕方がない。親としては以後気を付けるよう猛省を促すしかあるまい。乗車ホームおよび駅の忘れ物を預かるところにはそれに相当するようなものは届いていないことから、一応新幹線の忘れ物問い合わせ先に連絡をして後日報告を待つことに。以前、最寄り駅の踏切に財布が落ちていた際には近くの交番に届け、その後持ち主が取りに来られて感謝されていますと警察から連絡を頂いたことはあるが、さすがに新幹線に忘れたとなると遠方まで運ばれることにもなり、その間複数の人が目にすることにもなることから、手元に戻ることはほぼないと期待をせずに待つことにした。すると翌日、携帯電話がなるではありませんか。最近は非通知電話も多くあることから直ぐにはスマホを手にしないのだが、画面に表示された電話番号は乗車した新幹線の終着駅の県外番号からであり、日本はまだまだ捨てたものではない、素晴らしい国だと再認識したと同時に、どこかであきらめていた私自身が情けない心持になった。一日に何件の忘れ物の問い合わせがあるかは想像つきませんが、いくらAIが導入されたとはいえ電話をくださったのは人でしたので、地道なお仕事だと感心させられます。

               2025,9,15

世界陸上2025

 一流のアスリートが集う世界陸上がTOKYOで開催されており、この高温多湿の中で観客や視聴者を釘付けにしている。初日の競歩で日本人選手が銅メダルを獲得する一方で、水分補給が上手くできなかったのか身体がつってペースアップが出来ない選手も見られた。日頃の過酷なトレーニングかつ繊細な体調管理を維持し続けたにもかかわらずベストパフォーマンスを発揮できなかった選手にとっては、なんとも報われない結果で悔しい思いだろうと察するのだが、選手たちの競技後のインタビューを見ていると一昔前のような悲壮感はなく、自分が期待した結果ではなくても次に繋がるパフォーマンスに納得していたり、取り組んできたことは間違いではなかったというような前向きな発言を耳にする機会が増えたように思われる。それはどこかで勝負には負けたけれども全く歯が立たないわけではないという、言葉にはしないまでも自信のような確信めいたものを感じ取れているからではないだろうか。体格の違いはどうすることもできないが、自分にできるあらゆる可能性を探り前進する姿勢はスポーツだけではなくすべての人に求められていることであり、思い立ったらすぐに行動に移しそれを継続できるかどうかが言い訳をしない人生になるかどうかの分岐点でもあろう。アスリートの結果だけではなく競技後の晴れやかな表情は、観る人たち心の様相を変える力を持っている。

               2025,9,14

舌小帯短縮症?舌癒着症?

 「舌小帯短縮症、舌癒着症と呼び名が違うけれども何がどう違うのでしょうか?」と、お子様の構音障害でお悩みの親御さんからの問い合わせである。今はネット検索もしくはAIにて疑問を解くことが出来るかもしれないが、それで全ての疑問が解消されるものではない。舌癒着症という呼び名を当方が知ったきっかけは数年前にお亡くなりになられた耳鼻咽喉科医との出会いに遡る。その先生が仰ったことは、「舌は呼吸器官であり、喉頭蓋の偏位を正すことで呼吸が改善するんだ。」とのことであり、鼻からファイバースコープを通して喉頭蓋の状態を確認して診断をされていた。そしてその喉頭蓋の偏位がある場合に〝舌癒着症(ADEL:Ankyloglossia with Deviation of the Epiglottis and Larynx)〟と診断が下される。実際に先生が行う乳幼児のオペによって赤ちゃんの泣き声が術中に変わると同時に、術前には上手く母乳哺育が出来なかったその子が嘘のように母乳を飲めるようになった姿には感動すら覚えたものである。「世の臨床医は、この現実をしっかりと診るべきである。」との先生の言葉が忘れられない。当方が舌小帯短縮症の手術を行うようになった経緯はその先生とは異なり、不正咬合の原因を追究していくと、舌を含めた口腔周囲筋の習癖が顎顔面骨格の成長発育に大きく影響していることに繋がり、舌の可動域を狭くしている原因に舌小帯およびFasciaが関与していることが分かってきたからであり、耳鼻咽喉科医ではないので鼻腔からファイバースコープを通しての診断は行っていないので喉頭蓋の偏位までは診査できないので〝舌小帯短縮症〟と言わせていただいている。当医院で行っている乳幼児のオペ中に急に泣き声が大きくなることは、すなわち呼吸が改善している証であり舌の可動域が広がったことを意味するものである。成人においても同様にオペは行っており、理想的には歯列弓が狭い場合は機能的歯列矯正を行ったのち舌の可動域を拡げるオペを行うことが望ましく、合わせて術前術後の筋機能トレーニングが機能改善の大きなカギを握っていることを付け加えておく。

               2025,9,13

診査診断の重要性

 小学生低学年のお子様が父親に連れられて来院された。主訴は、掛かっている歯科医院でむし歯がたくさんあると指摘を受け、上の歯を複数削って治療を受けたが、日を改めて下の歯も削って治療が必要と言われて疑問に思い、セカンドオピニオンを求めてお越しになられた。診査診断するドクターによって所見が異なるのも如何なものかとは思うが、下の歯のどこにむし歯があるのか全くもって不思議であった。当医院では初診の方の口腔内写真は勿論、治療前、治療後の写真を撮影保存してあり、説明時に使用している。なぜならそこには嘘が存在しないからである。また、このお子様の場合はむし歯云々よりも大きな問題が潜んであり、問診中も口唇は常に開いており、見るからに上顎の前方成長が弱いのである。上下歯列弓形態も正常からは逸脱しており、なぜそのような状態になったのかをドクターは説明を行い、親御さんに理解して頂かなければならない。不正咬合?頭蓋顔面発育障害?睡眠障害?などと捲し立てたところで素人は何一つ理解は出来ない。先ずは、子供の成長発育の適正化をする必要があることに気付いて頂かなければならない。説明に時間が掛かる所以がここにある。

               2025,9,12

成長の適正化

 知人の歯科衛生士から、「叢生(歯の重なり)があって口呼吸、鼻詰まりの中学生が来院されたのですが、一応経過観察となりました。」とLINE連絡があった。成長途中にある子供の診査診断においてしてはいけないことは〝様子を診る〟であり、叢生という不正咬合がなぜ生じたのかを歯科医療従事者は真剣に掘り下げて考えなければいけない。透明なマウスピース矯正治療、ワイヤー歯列矯正治療を行ったとしても、歯列は整うかもしれませんが、不正咬合に至った根本原因は取り除かれません。その原因がある限り、子供たちは将来にわたって睡眠障害、睡眠障害から生じる発達障害、発音障害、摂食障害、顎関節症の大きなリスクを抱えながら生きていくことになるのです。人の身体は適応能力がありますので、不正咬合由来の体幹の歪みが生じたとしてもそれなりに適応して生活をしていくことになりますが、加齢とともにそのしわ寄せは必ず起き、何もしていないのに腕がしびれてきたり、首肩の凝り、片頭痛、顎がガクガクしてきたりと、様々な形で原因不明の不定愁訴に見舞われるようになるのです。乳幼児から始まる成長発育障害の芽を摘むことに歯科医師は目を向け、できるだけ早い年齢のうちに成長の適正化に取り組むべきです。

               2025,9,11

生きていけるのか?

 長きにわたりお世話になっている方との会食に出掛けるため最寄りの駅で降車した際、前方を歩く女性がふらついているのが目に入り、とっさに駆け寄り声をかけると顔面蒼白である。瞬間的に極度の貧血状態と分かり、抱きかかえて駅員室まで行くことに。夕方にも拘らず気温は下がらず異常なほど蒸している気候では、健康な人でも体調を崩さないとも限らない。来院される方との会話でよく聞かれるのが、「寒い分には着込めば何とかなりますけど、この体温を超えるような暑さと湿度はどんな格好をしてもどうにもなりませんね!」であり、冷房がなければ少なくともアスファルトの路面やコンクリートに囲まれた首都圏では生きていくことが出来なくなっていると言っても過言ではない。先日ベトナムへの出張から帰国された方の話では、「この時期のハノイは日本よりも高温多湿で過ごし難いと思っていましたけど、東京のほうが比較にならないぐらい息苦しいですね」とのことである。当方が子供の頃に学んだ気候図は全く当てにならない時代であり、日本国内でも沖縄より北海道のほうが暑い日を記録したぐらいである。3.11の時のような大規模停電が今起きたら、我々はこの暑さからどうやって身を守ればいいのでしょうか。

               2025,9,10

総裁選

 政治ネタをブログにはすべきでないと自分に言い聞かせてきたが、自分たちの置かれた状況を直視しようとしない他人ごとのように捉えている政治家集団には、これからの日本を託すわけにはいかないとお考えの方も多いのではないでしょうか。政治に限らず日本が直面している問題の根底には、二十世紀後半の高度経済成長期に確立された制度や社会規範の多くがニーズに適合しなくなったという事情がある。「普通」の家族、「普通」の働き方、「普通」の男女の役割とはどのようなものかという点に関して、既存のモデルに従うことが出来ない、もしく従いたくない人たちは、日々の生活で様々な苦労を強いられている。そのような人が増えているのに、そうした人たちのニーズが満たされていないことを、賞味期限切れした政治家たちは分かっていない、要は選挙で負けた本質を理解していないのである。にもかかわらず、「俺が総裁になって、そして総理になって日本を引っ張て行く!」と内輪で争っているわけだから、国民からも諸外国からも相手にされなくなってしまうのである。国民には分かりにくい、ご自身の政治家として果たしてきた実績と、これからの展望も語って頂こうではありませんか!

               2025,9,9

知能=予知能力

 「10年ぐらい前に先生から『腰に症状が出なければいいですけどね~、一番心配なのは脊柱管狭窄症まで悪化してしまうことですよ!』って言われたのですが、先生は覚えていらっしゃいますか?」と定期検診にお越しになられた方から声を掛けられた。不正咬合の方が脊柱管狭窄症になるということではなく、人によって体幹の歪みが頭蓋顔面発育障害による不正咬合に起因すると考えられる場合、50~60歳ぐらいの年齢になると身体の柔軟性の低下と適応力の限界から身体の各所に症状が出てくることが多い。残念なことに足腰が痺れてきて整形外科にてMRI診査を受けたところ、脊柱管狭窄症の診断を受けたとのことである。似たような内容のコメントを以前こちらのブログにも載せたことはあるが、人は症状がなければ頭で理解は出来たとしても積極的に治療までは考えないものであり、今回のようなケースはどのようにしたら防ぐことが出来るのか、理学療法士など多職種の方と考えを共有して進めていきたい。また知能=予知能力であるとするならばAIの得意なところでもあるだろうから、今後はAIの活用も視野に入れるべきかも知れませんね。

               2025,9,8

乳幼児の体重増加不良と舌小帯短縮症

 助産師からの紹介で乳幼児が紹介されてきた。主訴は出産後の体重が思うように増加しないとのことで、母乳も上手く飲めていないとのことである。早速口腔内を診査すると明らかに舌の動きが制限されており、舌を持ち上げるまでもなく舌小帯短縮症であることが判明した。舌の裏にある紐状の組織が問題の場合もあるが、紐状粘膜下のテンションが強いことが問題である。我々の身体の発達過程において舌の裏側の組織がアポトーシス(プログラム細胞死)としてのプロセスが正常に行われないことが原因で生じると考えられています。舌小帯短縮症である場合、乳幼児に見られる症状としては、乳房や哺乳瓶に対する吸啜不良、授乳中に眠り込む、頻繁に吐き戻す、空気をげっぷしたりおならが出る、他があり、母親側の症状としては、授乳時の痛み、吸啜不良、乳汁分泌不全、他があります。もしも舌小帯短縮症であることが見逃され、体重増加に問題を抱える乳幼児が粉ミルクを追加するように指示されたり、哺乳瓶での授乳に切り替えるよう勧められた場合、果たして問題の解決につながるのでしょうか。舌小帯短縮症の診断には、母親および乳幼児の症状の詳細な聞き取りが重要であり、仮に舌小帯短縮症であるように見えても、症状や機能的な問題がなければ、当たり前ですが治療をする必要はないのです。

               2025,9,7

考える習慣

 昨今の高級飲食店というのは支払額で幾ら以上のことを言うのだろうか。食べ歩きの好きな知人はSNSによくコメントを寄せており、紹介されている店のHPも見てしまうのだが、目玉が飛び出すほどの料金には度々驚かされてしまう。予約したにも拘らず突然のキャンセルは店側にとっても損失となるので最近ではキャンセル料の請求もあると聞くが、常識そして良識が双方にあれば問題になることもなかろうと当方は考える。高級=手に入らない食材、シェフの腕前の良さ、は想像に難くないが、いい店というのは何も高級店ではなくても世間には沢山ある。繁盛する店と繁盛しない店には決定的な違いがあり、それは「気」です。店に入った瞬間、客を向かい入れる心のこもった〝いらっしゃいませ!〟を言えるスタッフは自信に満ち溢れており、そういう店は隅々まで掃除されており、提供される料理も接遇も間違いない。これは飲食店に限らず人を相手とする職業であればすべての業種に共通することであり、気のこもった雰囲気がない商売は決して成功しない。医療においても然りであり、医師が問診の際にボソボソと喋るようでは具合もさらに悪くなるというものだ。そんな医療機関にはたとえネットでの評価が高かったとしても二度と行かなくなるだろう。最終的には料理や医療技術ではなくそこに介在する人が評価されているのであり、いつの時代であっても人間性を高める必要がある所以である。その第一歩は、今の時代であれば、何でも自分で考える習慣をつけることになるのかもしれませんね。

               2025,9,6

舌から始まる全身の健康

 長年にわたって治療と定期メンテナンスで通われている方の歯にトラブルが生じた。約20年前の初診時には既に義歯が装着されており、残存歯も再治療が必要な状態であり、時間と費用も掛けて総合治療を行った経緯がある。人工物である以上、永久的に使い続けることは難しいものの、可能な限り長く機能することを目的として治療はさせて頂いた。結果的には歯根破折という状況に至り、抜歯後に義歯の再製が必要となるのだが、改めて口腔内を診査すると、初診時には問題視していなかった舌小帯の可動域が極めて狭いことに気付かされた。残存歯の並びは決して良くはなく、奥歯の欠損状態から推測すると、舌の挙上が習慣化されないまま嚥下機能が働き、口蓋骨、上顎骨が舌によって成長が促されなかったために奥歯を含めた歯列の並びが悪くなり、夜中の無意識時における歯ぎしりによって奥歯に咬合性外傷が継続して生じ、個々の歯にクラックが入って治療を繰り返し、挙句に果てには歯根にひびが入って抜歯に至ったというストーリーが出来上がる。現在購読中の舌に関する本には、〝Your eyes don't see what your mind does not know(知らないものは見えない)〟とあり、まさに20年前の自分を指摘された思いである。患者さんとしては失われた歯を取り戻すことはできませんので、義歯などを用いて機能回復に努めるほかありませんが、我々医療関係者はいつまでも同じことをしているようでは世の中に貢献しているとは言えません。〝舌から始まる全身の健康〟を我々歯科医療従事者がもっと認識する必要がある時代が来ています。

               2025,9,5

成長と進化

 歯科医師になりたての頃、恩師の診療アシスタントに付くこと約半年間、一切の治療行為はさせてもらえずひたすら問診の聞き取り、院長先生の治療内容の確認に専念する時を過ごした。症状のある患者さんの治療をするのがドクターの役目であることに疑いはないが、むし歯一つ取ってもなぜむし歯になるのかを疑問に思わなければ予防という発想にはならない。〝Health care=0〟医者の介入が必要のない社会を実現するために歯医者が出来ることは何かを突き詰めてきたら、乳幼児の母乳哺育に携るところまで診療内容が変わってきた。約30年の臨床を経て、本丸に近づいてきたのかまだトンネルの中にいるのか。従来の治療精度を上げ、予後を安定させることが成長と言えるのであれば、常識の枠を破って挑戦することが進化と呼ぶことになるのか。〝夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし〟座右の銘の一つでもある吉田松陰の言葉通り、夢を抱いていれば困難があっても突き進むことが出来る。それは多くの先人たちが証明されている。

               2025,9,4

AIに訳させると

 不正咬合の原因としての口腔機能障害についての論文を、子供たちが読んでも分かるように翻訳してくださいとAIに作業させてみた。以下はその結果である。


「口の働きの問題」が歯並びを悪くするってどういうこと?

歯並びが悪くなる原因は、むし歯や遺伝だけじゃないんだよ。実は、口の使い方やクセが大きく関係しているんだ。

たとえばこんなことがあるよ:

• 👃口で息をする:いつも口を開けていると、あごの形が変わって歯がガタガタになりやすい。

• 👅舌の動かし方がおかしい:飲みこむときに舌を前に押し出すクセがあると、前歯が出てきちゃうことがある。

• 👶指しゃぶりや唇をかむクセ:長く続けると、歯が変な方向に動いてしまう。

• 😴舌がいつも下にある:舌が上あごを押してくれないと、あごがせまくなって歯が並びきらなくなる。

🧠どうして大事なの?

口の使い方が正しくないと、あごの成長や顔の形にも影響が出るんだ。だから、歯並びをよくするには、口のクセや使い方もなおすことが大切なんだよ。


 今までAIを活用したことはなく知人の勧めで試しに使ってみたが、上記を見る限り表現の仕方はさすがに上手い。但し自分の脳内活性には繋がらないと感じたことが正直な感想である。なぜなら掘り下げて考えなくても目の前に回答が出てくるようなもので、人間にしかない創造性豊かな頭脳とは言えないのではないか。時代の変化に合わせ、人間も適応していく必要性は否定しないが、使い方とこれに触れる年齢は社会全体で考えるべき課題となるだろう。

               2025,9,3

多職種連携

 最近では、かみ合わせが全身の姿勢と関係があると歯科からの発信も多くあることから世間でも認知されつつあるようである。歯科医院のなかには理学療法士(Physical Therapist)さん在院しているところもあり、子供たちの姿勢改善に取り組んでいる。当医院では鍼灸師・スポーツトレーナーである先生と連携を数年前からとっており、子供から大人まで老若男女問わず協力を頂いている。以前不正咬合の治療でお越しになられた女の子には左右の視力に結構な差があり、かみ合わせの問題も無関係ではないもの、体幹の歪みもあることからそちらの先生に見て頂いたところ、リビングに設置してあるテレビ画面を見る姿勢にも体幹が歪む原因となる姿勢の習癖があることが分かった例がある。問診にて聞き取りは欠かせないのだが、この子の治療を通じて多職種連携の必要性を強く意識する切っ掛けにもなったのである。顎関節治療に精通しているある理学療法士によると、姿勢不良患者さんの場合は、主に2つの要因があると指摘されている。一つは顎口腔の機能が低下して症例(かみ合わせ、顎関節、舌の機能低下など)、もう一つは顎口腔機能以外の機能低下が起因している症例(呼吸、筋力、悪習慣など)です。これらは相互に影響するため、やはり「多職種連携」は必須であろうと思われます。

               2025,9,2

心理的なことではなく生理的な問題

 勤務医の頃、診療室に入室するなり「院長先生、のどが苦しいんです。」と言って床に寝転がったご婦人がいた。卒後1年目の当方にとっては何が起きているのかさっぱり状況が呑み込めず、〝歯科〟と〝のどが苦しい〟の間の接点を見出せなかった。最初に勤務した医院には不正咬合から体調を悪くされた方や顎関節症の方が全国から待合室に入りきれないほど来院されており、当時の歯科医院としては珍しい存在であった。新人歯科医師のメインの仕事はもっぱら新規患者さんの問診であり、カルテ用紙2~3ページにわたって患者さんの言葉を省略することなくそのまま書き取ることだった。「とにかく夜中の歯ぎしりが酷く、歯も欠けるし目が覚めることもある」「なぜかいつも横を向いて寝ているんです。どうしてなんでしょうか?」「仕事は忙しいことは忙しいのですが、睡眠が浅いのかいくら寝ても頭がすっきりしないんです!」など、印象深く記憶に残っている数名の患者さんは未だに顔貌と口腔内の状態、そして主訴に関しては忘れることがない。それが今、乳幼児、幼児から不正咬合を予防するための取り組みを進めていく中で、上記の症状を呈するようになる根本原因にこそ原因があることが分かってきた。例えば、歯ぎしりは心理的なものだと思っていましたが、実際は生理的なものです。呼吸をしようとして十分な酸素が得られない場合、脳は顎を前方に出して気道を拡げようとし、より多くの空気を得るためのにより良い姿勢を取ろうと寝返りを打つことがあるのですそのため人は夜に蹴ったり動き回ったりします。

               2025,9,1

エアコンがなかったら・・・

 「もうこの暑さ、猛暑から身体を守るにはどうしたら良いのでしょうか?」と医院にお越しになられる患者さんからは同じようなことを聞かれる。今年の暑さは本当に異常であり、当診療室はテナント開業のため外壁を含めて勝手に暑さ対策を講じることが出来ない。午前中に陽が入り込む部屋の温度は冷房を19度設定に下げても空気が冷えてこず、サーキュレーターを回しながらの診療となる。40度近い外気に比べればましかもしれないが、これだけ猛暑日が連続すると鉄筋コンクリート自体が冷めることなく放熱し続けている状態で、エアコンも中東諸国と同様の使用にする必要があるのではないだろうか。地球温暖化防止への世界各国の取り組みは結果的には掛け声だけであり、相変わらず経済優先を唱える国々が自国ファーストで国際会議を繰り返すだけでは何の意味もなしていない。ここ数年の異常気象の変化の度合いからすると、温暖化パンデミックで世界人口が激減する可能性も否定できないのではないでしょうか。そもそもエアコンがなければ生活が成り立たないこと自体が人間が生きていけないことを証明していると思いませんか。

               2025,8,31

直に確認

 日々の臨床で、患者さんの口腔内の予後を予測することは可能か?と問われれば、現状に至った経緯を類推できれば可能であると言いたい。開業してから約23年が経過し、当医院の患者データから読み取れることは、個々人の口腔ケアのレベルが安定していると仮定した場合、歯の寿命を左右する主因はかみ合わせであり、不正咬合がある場合にはそこに至った根本原因そのものが問題である。しかし原因が分かったところで、幼少期から無意識に身に付いた習癖を改善させることは容易なことではなく、理解は出来たものの治療に取り組むモチベーションを維持する難しさが付きまとい、数ヶ月から年単位の治療となると一歩を踏む出すには時間と覚悟が伴うことになる。一般的なむし歯の治療一つを取ってみても、その治療によって放置する(経過観察する)よりは予後が安定するのであれば積極的に治療を勧めることにはなるが、そうではない初期むし歯であれば、むし歯に至った原因を取り除くことだけに専念するほうが歯の延命に繋がっているのが当医院の実績ではある。定期メンテナンスでお越しになられている方のエナメル質にクラック線を約6年前から認めているが、歯の濁り、レントゲン診査による変化においても感染の拡大は認められず、本人の理解もあって引き続き経過を診ることにことになった。マイクロスコープによる動画撮影によって患者本人が直に状態を確認できることは、確実な予防に繋がっている。

               2025,8,30

舌小帯リリースの可否

 乳幼児の上唇小帯異常、舌小帯短縮症についての問い合わせが後を絶たないが、某国立大学歯学部のHPには「舌小帯短縮症が哺乳障害の主たる原因になるとは考えられていない。したがって、この時期に遭遇する舌小帯短縮症は哺乳障害とは関係がなく、手術を行う必要はない。」と記載されている。一方で米国の小児科学教科書には、「舌小帯が短いと、舌の突出と挙上が妨げられることがあり、新生児の哺乳障害、言語障害、歯科疾患を引き起こす可能性がある。乳児が授乳に困難を抱えている場合、特に母乳の分泌が不十分な場合や母親が持続的な痛みを感じている場合には、新生児期に舌小帯切除術を行うべきである。」とある。これでは母乳哺育に悩まれている方や舌小帯の可動域に不安、疑問を抱えている患者さんなどはどうしたら良いか分からないことと推察する。実際はどうなのかと言われれば、当医院の臨床では、オペ後直ぐに授乳は出来るようになっているのと、術後のマッサージまでをしっかりと行うことで、予後は良好であると言える。ここで強調したいことは、舌小帯をリリースしただけでは不十分で、術後のマッサージを親御さんがこちらの指導通り行うことが絶対条件であることである。すべてをネット上の情報を鵜呑みにして決断するほど愚かなことはなく、先ずは信頼のできるドクターに相談することを勧めたい。

               2025,8,29

目的の共有と価値観への共感

 「最も成功する企業は、最も頭脳明晰な企業ではなく、最も多くの頭脳が一体となって行動する企業だ」これはピーター・ドラッカーの言葉ですが、歯科医院向けに言い換えると「最も成功する歯科医院は、最も頭脳明晰な院長がリードする歯科医院ではなく、スタッフを含めた最も多くの頭脳が一体となって行動する歯科医院だ」ということになる。大企業であれ小さな組織であれ、人が財産と言える所以はここにある。思い起こせば約23年前、当医院開業にあたりスタッフを募集したところ47名の方がお越し頂いた。うち7名が国家資格を有する歯科衛生士だったが、履歴書及び面談において、失礼な物言いにはなるが人間的に魅力のある方はおらず、歯科衛生士という資格がなければ他の応募された方々に魅力ある意欲的な人材は多くあり、結局は歯科業界素人の二人を採用して開院した。組織のトップとスタッフの目指す方向が一致しており、職場における人間関係が信頼によって結ばれていることが仕事をする上では大前提である。以前勉強会の集まりで「猫の手も借りたいほど忙しくなってスタッフを採用したのだが、猫のほうがマシだった」と面白可笑しく表現された先生がおられたが、何事にも気持ちの余裕は必要である。当医院では明日からベテラン看護士が加わり、新たなステージに向けて再起動である。

               2025,8,28

デジタルドラッグ

 「朝一番にLINEやSNSをチェックする」「寝るときに寝室やベッドにスマホを持ち込む」「動画を倍速で視聴する」などを日常的にされている方は〝スマホ依存症〟になっている可能性が高いと、東北大学の川島隆太先生が著書『スマホ依存が脳を傷つけるデジタルドラッグの罠』で述べられている。心当たりのある方は是非とも書籍を手に取ってお読みいただきたいが、ADHDとの関係性も述べられていることは、低酸素状態が引き起こす脳への影響との関係性からみても非常に興味深い内容である。川島先生たちのグループが10年間にわたって行った子供たちの生活習慣と脳の発達を調べた結果では、スマホやタブレットをたくさん使う子供たちの学力が妙に低く、また脳の発達に遅れが出ていることが分かったとも述べられている。知らず知らずのうちに薬物依存やアルコール依存症のようにデジタルドラッグになってしまうと、そこから抜けだすことは容易ではないでしょう。大人ならまだしも脳や身体の成長過程にある子供たちへのスマホの提供、使い方については、国を挙げて真剣に検討すべき段階にあるのではないでしょうか。教育現場で子供一人にタブレットを無償提供するというのは、子供達の心身の健全な発達には逆行しているように思えるのですが、皆さんはどう思われますか?

               2025,8,27

舌小帯の可動域制限に関心をもって!

 3人のお子様の舌の動きが気になるので診て頂きたいという問い合わせを頂いた。舌小帯短縮症による舌の可動域制限が頭蓋顔面骨格の発育障害を引き起こしていることは、こちらのブログでも再三述べさせて頂いているが、産科、小児科において問題として捉えていないことが不思議でならない。子供は落ち着きのないのが普通ではなく、また性格的なものでもなく、脳への酸素供給が少ないことによる低酸素症が原因であるならば、なぜ酸素を適量身体に取り込むことができていないのかを考えなければならない。これは決して病気ではなく、本来あるべき機能的な動きが獲得されていないがために生理機能が働かない、もしくは働き難い状態に身体がなっているからであり、早い時期に身体の機能を適正化させる必要がある。そのメカニズムを理解しなければ、闇雲に身体のトレーニングを行っても効果は形になって表れない。ではそれをなぜ歯科医院が行うのかと言われれば、口腔機能の適正化を乳幼児から診ることが出来るからであり、医科と違って歯科では悪くなる前から予防というアプローチで口腔機能の適正化が出来るのである。病気、疾患、不定愁訴を抱えてから掛かるのが医科であるならば、そうならないように機能の適正化を可能にするのが歯科である。当医院では乳幼児の母乳哺育が上手くできていない親御さんからの問い合わせが続いており、人生のスタートラインでの躓きを一日でも早く改善、適正化させるよう努めている。

               2025,8,26

何が必要で正しいのか

 小学生の兄弟が母親に連れられて咬み合わせのトレーニングにお越しになられた。順番で診ることになるので待合室で待つことになるのだが、この兄弟はスマホなど携帯することもなく、本を一心不乱に読み耽っている姿は今では珍しい光景でもある。普段から読書をする習慣がご家庭に根付いているのでしょう。勿論母親も本を手に取り真剣な眼差しでこちらの視線など気付かない様子で熟読されている。待合室だけではなく、電車待ちのホームなどでも9割方の人がスマホと睨めっこをしている昨今、紙媒体の本を読んでいる姿に安堵感を覚えてしまうはなぜだろう。以前電子書籍をダウンロードして読んでみたことはあるが、いつでもどこでも読める便利さはあるものの、なぜか読んだ内容がしっかりと脳内に定着していない感覚が残ったのである。同じ内容でもあるにもかかわらず、行間が読めないわけではないが、深く入り込んで読めないのである。あくまで私だけの感想なのかもしれないが、読書は紙媒体に限ると言わせて頂きたい。また世間もそのように捉える傾向が出てきたのか、ここにきて電子書籍のダウンロードが減ってきているとのことである。目新しい、何か革新的なものに人は惹かれるものだが、真贋で物事を見ていると、何が必要で正しいのかを、時間や経験と共に明らかになってくるようだ。

               2025,8,25

武士道精神の国

 ある大国の大統領の言動、行動、交渉事をみていると、あらゆることをビジネスに結び付けてことを進める金融至上主義の権化のように見えてくる。一言で表現するならば“品がない”と、日本人であると言いたくなる。日本経済が下降線をたどり始めた約30年ぐらい前からよく耳にするようになった“グローバリズム”だが、世界はどうなったかと言えば、国ごとの経済格差は広がり、各国の国内における分断が起き、利益を求めることが何よりも優先される風潮がどの業界を見渡しても大勢を占めるようになったのではないか。人は物事の決断をするときに、損得勘定や好き嫌いで判断しがちだが、最終決断に至ったその理由を“美しいか美しくないか”という切り口でもう一度考え直してみると、少なくとも当方に限っては今まで間違いがない。世界中で社会が穏やかさを失い、人の心が荒んできているのは共通項であろう。スポーツの商業化も年俸競争を引き起こし、子供たちの夢すらお金が付きまとう。金銭を下に見る日本の武士道精神とか、ヨーロッパの騎士道精神といった伝統が、某超大国の人々及びリーダーには希薄なのだろう。建国250年足らずの国に、なぜ世界が翻弄し続けなければならないのか、まったくもって理不尽である。

               2025,8,24

納得されていますか?その説明に!

 幼少期から定期的に歯科医院に通われ、むし歯予防に専念してきたという30代の女性が歯が痛いというのでお越しになられた。口腔内診査において奥歯のう蝕(むし歯)を確認したが、完璧と言えるほどのブラッシング技術によって歯面へのプラーク付着は全く認められない。なぜむし歯になってしまったのか、本人は思いのほかショックを受けており、こちらの説明が耳に届いていないようでもある。この方のように口腔ケアには気を付けていたにも拘らず、ある時むし歯を指摘されて愕然とされた方がセカンドオピニオンを求めてお越しになることがある。こちらのブログでも不正咬合による問題を挙げていますが、機能的な歯並びの問題がある場合には、エナメル質のような硬組織であったとしても、上下の不自然な干渉によってエナメル質から象牙質へと亀裂が入り、その亀裂痕から口腔内のバクテリアが感染するとむし歯が進行します。今はこの状況をマイクロスコープ(実体顕微鏡)を使って録画することで患者さんが確認できるので、説明内容と合わせて本人が理解しやすい診療を提供できます。いくらドクターから詳しい説明を受けても素人には分かり難いでしょうから、その点では医療提供者側の診療姿勢次第で患者さんの理解度は深まると思われます。状況を理解したうえで、長期予後を見据えてどのような治療をすべきかを次のステップで考えることになります。

               2025,8,23

乳幼児の口腔機能発達支援の一環として

 育児で悩んでいる方、一度お越しになられては如何でしょうか?当医院では口腔機能発達支援の一環として、歯科衛生士による乳幼児の口腔内マッサージなどを行い、舌の可動域を診ております。不正咬合の原因を探っていくと、辿り着くところは乳幼児であり、哺乳の仕方がきちんとできていないと機能としての顎顔面骨格に適正な力が加わらず、本来のあるべき成長路線に乗らないまま顔面骨格が成長してしまいます。それでも身体は適応しますが、必ず代償反応が身体のどこかに現れ、時が経つにつれて修復(改善)困難な状況へとなっていきます。栄養学的には母乳もしくは人工乳を飲むことで成長発育はしていきますが、正しい機能が獲得されているかどうかは別問題です。例えば乳幼児の上下口唇が母親の乳首をしっかりと咥えることが出来ない状態でも、母乳の出が良すぎると赤ちゃんは栄養を補給できます。この場合、なぜ上下口唇で咥えることが出来ていないのかを考えて頂きたいのです。またその原因を突き止める、診査するのが小児科医であり歯科医師であると考えます。多くの場合は上唇小帯異常と舌小帯短縮症が絡んであり、オペをしたら何がどのように改善して正しく哺乳を出来るようになるのかを知るべきです。当医院ではそのための時間を設けております。ひとりで悩まずに先ずは相談にお越しください。

               2025,8,22

聞く力

 セミナーに参加した時など全部を聞き漏らすまいとして必死に聞くものの、海外からお越しになるドクターの講演の場合には当方の語学力の無さもあり話の要点が分からなくなることがある。そもそも人間の集中力は何時間も持続するものではなく、その上自分の関心が向かない話ともなれば頭には残らない。親子ともなれば理屈云々抜きで親に正論を言われても聞く耳を持たないのはご経験のある方ならお分かりであろう。人は聞きたいこと、今必要としている言葉しか頭には入ってこないので、何か大切なことを伝える時はタイミングが大事なのです。これは当方の仕事においても同様で、主訴を抱えてお越し頂いた方に主訴以外の問題点を解説したところで多くの方はその場では危機感を募らせるが、時間が経てば「そんなこと以前指摘されましたか?」ということが少なくない。初診時の説明内容、所見を後日書面にてお渡しすることでより理解が深まると同時に、こちらの診断に至った根拠を振り返る資料となる。職種に拘わらず人間相手の仕事であれば、相手が何を求めているか聞く力が大事であるが、現代社会においてはこの部分が疎かにされている感が否めない。聞く側と伝える側の波長が合わなければ信頼には結びつかない。

               2025,8,21

体幹の歪みは乳幼児から始まる

 当医院にお越しになる不正咬合を抱えて成長している子供で姿勢が良い子は一人としていない。姿勢の歪みの発端が咬みあわせの歪み、頭蓋顔面発育障害に起因するならば、不正咬合に至った根本原因を取り除きながら咬み合わせのバランスを改善させ、同時に運動学を専門に学んでいる理学療法士による指導を受けることで、成長の適正化を行うことが可能である。当医院では7~8年前からスポーツトレーナー及び理学療法士との連携をとり、全身症状のある方は勿論、将来的な機能不全や機能障害を引き起こす予備軍と思われる方たちを紹介させて頂いている。本来リハビリテーションはRe(再び)+Habilis(適した、ふさわしい)の意味を持ち、日常生活や社会生活において適した機能に回復、適応させることを意味しています。身体には高い適応能力が備わっていますが、適応の裏には代償という反応があることを忘れてはいけません。もしも子供の時に僅かなズレだったとしても、そのまま放置したらどのようになるか想像できますか?身体も若いうちは各組織も軟かく何の問題も感じずに日常生活を送れるかも知れませんが、加齢とともに不定愁訴を抱えてくる半病人のような人が増えている現状を顧みれば、症状の有無だけでは人の身体の異常は判断できないと言えるのではないでしょうか。乳幼児の哺乳の仕方から始まると言っても過言ではない体幹の歪みの根本原因を歯科からのアプローチで防ぐことが出来る未来が広がっている。

               2025,8,20

乳幼児の母乳育児

 「母乳を上手く飲んでくれないので診て頂けませんか?」との新たな問い合わせを頂いた。当医院は歯科医院ではあるが、最近はこのような問い合わせが多い。今までであれば小児科への受診となるべきかと思われるが、小児科に掛かってからの問い合わせであることが皆さんの共通項である。思うに小児科での診断内容に納得されていないからであり、それはそれで問題ではないか。当医院を受診された乳幼児は何れも舌小帯の可動域が狭い舌小帯短縮症を有しているか、更には上唇小帯も歯槽頂まで入り込んでいることがある。これでは上下口唇を使って乳首を上手に咥えることは出来ないために母乳を飲み込むことが困難であり、栄養学的にも頭蓋顔面骨格の成長拡大においても機能の適正化、早期の改善が求められる。また乳幼児の正しい哺育の仕方をどこまで医療関係者が理解しているのかが気になるところである。少なくとも歯科大学の教育カリキュラムの中には組み込まれておらず卒後独学するしかなく、臨床現場においては助産師の協力を仰ぐ必要があるのだが、たとえ舌小帯短縮症や上唇小帯異常を認めたとしても体幹の力が育っていない場合にはオペをしたところで正しい嚥下が出来ない場合もあり、慎重な診査が求められる。

               2025,8,19

出場辞退の背景は

 夏の甲子園球場では熱戦が繰り広げられているが、部員の暴力問題による出場辞退が起きるなど、華やかな表舞台とは裏腹に根の深い問題が名門校で起きているようである。SNSによる匿名の投稿も如何なものかとは思うが、常習的に部員間で問題が繰り返されていたとなると、監督責任者である野球部の監督は何を指導していたのか、自ら弁明責任の機会を設けてはどうなのか。米国のある文筆家が残した言葉に、「凡庸な教師はただ喋る。よい教師は説明する。優れた教師は自らやってみせる。そして、偉大な教師は心に火をつける」とある。甲子園に出場してくるチームだけに監督の指導力はそれなりにあるのだろう。しかし指導する対象は高校生であり、勝利至上主義が一番の目的であっていいはずはない。部活動を通して人間形成を行うことが教育者たる本来あるべき姿ではないのか。指導の仕方に知恵を絞り、生徒の「やる気スイッチ」を入れる。あらん限りの情熱を注ぎ、暴力ではなく言葉を尽くして相手を動かす。そんな姿そのものがあるべきリーダーの姿として生徒にも伝わると思うのだが、事の詳細は分からないので憶測で物事を決めつけて言うのはよくないことは承知している。

               2025,8,18

口腔機能の適正化

 睡眠医学を学んでいく中で、「幼少期の睡眠不足が中学生(13歳~15歳)の記憶力に影響を及ぼす」との文献には正直驚いた。昨年の睡眠歯科学会で発表された内容を後日検索して調べなおしたに過ぎないが、ならばなぜ幼少期の睡眠不足が生じるのかという疑問にたどり着く。昨今の当医院で取り組んでいる幼児、小児への頭蓋顔面発育の適正化の治療から診えてきたことは、歯並びが悪い不正咬合に至る原因そのものが睡眠障害を引き起こしているということである。但し、歯科医が歯並びしか診断しない視点では、睡眠障害をはじめとした将来にわたって全身に影響を及ぼしかねない異常を見過ごすことになる。睡眠障害の最終的な診断は歯科医には出来ないため専門医への紹介が必要となるが、口腔に纏わる問題を問題としないできた歯科医療を根本的に変革すれば、世の中の不定愁訴の多くを改善できる可能性が見えてきている。「生物学的な老いのイメージはマイナスに偏りがちだが、社会や文化的環境との相互作用の中で、人間には成熟へと向かう老いもある」。こう指摘するのは、認知神経科学が専門の月浦崇京都大学教授だが、その生物学的な老いをよりスローにするには幼少期、更には乳幼児期の口腔機能の在り方が重要なカギを握っているのではないか。人の一生を長期にわたって観察、記録することは難しいが、口腔に関する研究はまだまだ手付かずの領域が多く残されていると思うのは、私が単に浅学菲才なだけなのだろうか。

               2025,8,17

良書を読む習慣を!

 雨戸をあけた瞬間に感じる異常な蒸し暑さに慣れることはなく、それでも体調管理、体力維持に向けて早朝ランを欠かすことはしたくない。今は人生百年時代と言われ、百歳まで生きるのに皆さん運動したりサプリメントを補給したりして栄養バランスにも気を配った食事をする人も増えてきています。あるいはコミュニケーションが大事だといってご近所さんで集まって仲間づくりに励んでいる高齢者もおります。ところが、脳の健康に関しては今一つ関心が向いていないように思えます。ここ最近は読書ネタが多くなっていますが、脳の活性化には年齢に関係なく読書の習慣化が欠かせなく、活字を読んで脳に刺激を与え、希望や志を惹起させる必要があるのではないでしょうか。中曽根康弘元総理は首相在任中の激務の中でも必ず30分は自分の時間を確保し、読書に時間を割いていた話は有名です。読書によって内面を磨き、国難を乗り越えて飛躍していった先人たちの生き方を見つめなおしていたと推察します。過去の歴史で自分以上に苦労の人生を歩いた人たちを知ることで、自分の置かれている状況を冷静に見極めることも可能となり、国の舵取りも見間違うことがなかったのではないでしょうか。我々の同様に、書物を読むことで自分の内面の強化に努めることが今は求められていると思います。退職代行なる会社が流行っている背景には、本を読まないまま育った若者たちの精神が脆くなり、我慢ができない人がそれだけ多い証拠でもあります。ひとり一人の文化的精神を育むうえでは良書を常に携えるぐらいの生活習慣を取り戻す必要があると思いませんか。

               2025,8,16

乳幼児は待ったなし!

 診療室はお盆休みを頂いていますが、授乳が上手くできない乳幼児には待っている時間の猶予はない。メールでの問い合わせは基本的には承っていないが、深刻な状況が伝わってくる母親からの問い合わせに見て見ぬふりなどできるはずもない。休み明け早々に時間を割くことにしたが、これだけ乳幼児の母乳保育が上手くできていない状況を、小児科の先生方はどのように捉えていらっしゃるのだろうか。当方が診察させて頂き、舌小帯短縮症の手術が適応と判断してオペを行った乳幼児の改善を見る限りにおいては、舌の機能回復、改善のためには避けては通れない手術であるとの認識である。舌の可動域が狭いというのは例えて言えば足首に鎖をつけて生活をしているような状態であり、常に呼吸も含めて苦しいのであり、それを筋トレをして鍛えろと言ってみたところで無理なのである。何もこの舌小帯短縮症(舌強直症、舌癒着症など呼び方は様々存在する)の手術自体は決して珍しい術式ではなく、以前(1960年代以前)は出産時に舌小帯が短ければその場でリリースしていたことがあると、現在は高齢ではあるが現役で活躍されている小児科医から話を伺ったことがある。今一度我々医療関係者は目の前で起きている現状を真摯に受け止め、何が求められ何をすべきかを自身で判断すべきではないだろうか。

               2025,8,15

母語を大事に!

 「子育てに正解はない」とは、当医院に通院されていた70代の紳士が語られていた言葉ですが、お子様の治療に付き添いでお越しになられる親御さんの言葉遣いに辟易することが多々ある。「お前のために金を使ってやるか~!」と子供の前で堂々とした口調で言う様には、こちら側が委縮してしまうほどである。勿論、そこのご家庭なりの愛情表現なのかもしれませんが、子供の表情はどことなく寂しそうでもあった。母語である言葉の使い方は非常に大事であり、言葉なくして教育は始まらないのである。また、教育の責任の一端は学校にもあるでしょうが、入学前の家庭教育がしっかりとなされていなければ、学校教育は始まらないのであり、順を追って考えれば教育の基本は家庭であり親にあることになる。日本の国力があらゆる分野で低下している根本原因には、国語教育が疎かにされ、目先の結果を重視する社会の流れがあるのではないでしょうか。読み書きはもちろん思考そのものも、すべての知的活動は国語が根本であり、国語を道具として行うものです。従って、教育において国語は最優先されるべきものであり、母語が身に付いていない幼児からの外国語の教育などというのは当方からしたら以ての外です。語彙力がないと学習力も身に付かないことは、塾通いしても成績が伸びない子供たちを見たら答えが出ています。また医療もそうですが、机上だけで考えるのではなく、問題は現場で起きていることから現場を知ることが問題解決の一番の近道であると考えています。一にも二にも、国民をあげて国語力の底上げが必要です!

               2025,8,14

夏の甲子園

 尋常でない猛暑の中、人生で初めて甲子園球場・夏の高校野球選手権大会を観戦してきた。第二試合、中越×関東第一の試合は10:45開始となったが、無風で高温多湿の甲子園球場は、野球どころか屋外でスポーツを開催するのは危険な状況であると察した。第一試合の後半からの観戦となったが、一度も汗が引くこともなく延々と全身から滴り落ちてきた。まるでランニングをしているかのような汗の量に、他の観戦されている方々もあの手この手と熱中症対策を講じていたが、最後は甲子園名物の〝かち割り〟を手にする方が徐々に増えていた。当方は帽子にサングラス、首にはタオルとそれなりに灼熱の太陽から身体を守ったつもりが半ズボンから露出していた足先は、不覚にも試合終了時にはありえない肌色となっていた。試合途中、関東第一高校の選手は立て続けに足が攣ったのか、一塁まで走塁途中で動けなくなる事態も起きるありさま。クーリングタイムの導入など暑さ対策は講じているものの、想定を超える気温上昇と湿度には打つ手がないようだ。選手の生命に危険が及びつつある現状を、今一度夏の甲子園の在り方を考える機会として頂きたい。

                2025,8,13

美意識

 就活を始める学生が、「どんな仕事に就いたらいいのか分からない。」と言い、親からは「あんたを採用してくれる会社ならどこでもいいから感謝しなさい!」と言われたそうだ。親の言うことは一理あるのは確かだが、〝仕事というのは、好きな仕事に就くのか、就いた仕事を好きになるか、の二つに一つである。〟というのが私の持論である。自分の将来を保証してくれる仕事など存在するはずもなく、自分が成長できる環境があるかどうか?あらゆる可能性を自己判断し、人生をかける覚悟が必要であろう。ヴィクトール・フランクルの著書『夜と霧』では、自分はどのように生きたいのかという〝美意識〟を持つ大切さが示されている。たとえどんな状況でも自分で物事を決め、一歩ずつ前進していけばいい。この本を読み進めると、その様な心境になってくる。人は物事を決断する時に、損得勘定や好き嫌いで決める傾向があるものだが、その様な時にはその決断に至った理由を、〝美しいか美しくないか〟という切り口でもう一度考え直してみると良い。少なくとも私はその様に生きてきて間違いはなかったと思っており、〝美〟は世の中を、人生を豊かにするキーワードのようにさえ思えてくる。学生さんの内面にある〝美意識〟は如何ほどのものか、気になるところである。

                2025,8,12

知恵の泉

 良書を読んで日本人としての知性と感性を磨く。廣池千九郎先生は、ある雑誌の対談のなかで、現代社会の最大の問題の一つは、精神文明と科学文明との深刻な乖離にあると述べており、如何にして個々人が知的座標軸を構築していくことが重要かと記している。当医院に検診でお越しになる中高生の中には、普段からあまり本を読まないとう若者もおり、本棚すらないというご家庭もある。読書には先人たちと対話し、大きな人格的感化を与える力があると、多くの教育関係者は口を揃えていうが、インターネットの普及と反比例するかのように読書に時間を割く子供達が減っている。我々ひとりの人間が一生に会って影響を受ける人物の数はたかが知れている。読書は時間、空間、人間(じんかん)の限界を超越し、無限の繋がりを結ぶことが可能であり、感性豊かな若いうちにその魅力に気付く必要があります。時代の淘汰を経て残っている良書は価値あるものばかりです。人生を切り開く上で大きな力を与えてくれる知恵の泉を、子供達は勿論、大人達もこの夏休みぐらい手に取りましょう!

                2025,8,11

脳の破壊

 1歳ぐらいの赤ちゃんをバギーに乗せたお母さんが、スマホの操作に夢中になって歩いている光景を目にすることがある。何か違和感を覚えませんか?さらに赤ちゃんまでも固定されたタブレット画面をじーっと見ていることもある。せっかく我が子と触れ合える掛け替えのない時間が、こんな形で過ぎ去っていく。スマホやタブレットを長時間使用したことによる脳への悪影響についての研究結果は報告されていないが、東北大学の川島隆太先生によると、デジタル端末を家に持ち帰って勉強する時間が長い子供ほど成績が下がっていて、文科省の調査でも学力に関してポジティブな影響はなかったと結論づけています。にも拘らず小中学校では一人に一台のタブレット端末が支給されており、脳への影響を国はどのように考えているのか問い質してみたいものである。デジタルの普及と読書力の低下によって、自分の頭で深く考える力が身に付かなくなっているのは、世の大人たちは気付いているはずである。何でも深く考えずに手っ取り早く答えを見つけようとする姿勢や、選挙にみられるような一方に極端に偏るいわば分断の背景にも、ネットの過度な利用による考える力を失った脳が関係していることだろう。

                  2025,8,10

舌は呼吸器官である

 連日乳幼児の舌小帯短縮症関係のブログになりますが、先日お越しになられた4ヶ月の赤ちゃんは、掛かった2件の小児科では体重は成長曲線の下限から出ていないから全く問題はないと言われたものの、何か釈然としないことから助産師さんの勧めでこちらを受診された。一方の小児科医には、「それほどまでに夜中泣き止まないのは脳に障害がある可能性があるので紹介先の病院で脳のCT撮影を受けたらどうですか?」とまで言われたそうである。当方は小児科医ではありませんので他領域の診査診断について見解を述べることは差し控えるが、赤ちゃんを診察するかぎり、鳴き声は弱く、舌小帯は明らかに短く舌の可動域もかなり制限されており、加えて上唇小帯も高位に付着しているので上唇の動きも制限されている。身体の緊張も強く、四六時中身体が強張っている状態で、本来であれば真綿のような柔らかい身体の赤ちゃんがなぜそのようになるかと言えば、呼吸が苦しいのである。以前、ある大学教授が「舌は呼吸器官である」と語っていたが、まさにその通りである。尚、誤解があるとよくないので付け加えておくと、全ての原因が舌にあると決して言っているのではなく、乳幼児を含めた全ての年齢層の健康状態を診査する際には、舌の可動域、状態診査を行うべきであるというのが30数年の臨床経験から診えてきた見解である。

                       2025,8,9

歯医者冥利

 世の中に、オペ中、そしてオペ後にこんなにも変化が認められる手術はあるのだろうかと感動すらしてしまうのが乳幼児の舌小帯短縮症リリースである。当方がこの手術を臨床に取り入れるようになった一番の理由は不正咬合になる根本原因を取り除くことであるが、学びを深めていくと、その不正咬合に至る原因の歯車一つひとつを適応と代償という視点で診ていくと、始めは小さな問題であったものでも放置することで代償反応によって身体の他の器官に問題、歪が生じ、その都度対処療法を繰り返しながら年齢を重ねていくと、体調を取り戻すために医者、歯医者にに掛かっていたにも拘らず、気が付くと全体像として悪くなっていることである。結果的に世の中に蔓延しているのは、医者による薬漬けや歯医者による治療の繰り返しであり、最先端の医療の進化は目覚ましいものがあるが、ミッシングリンクとして取り残された医療がある。それが舌と全身の関係であり、この世に生を受けて間もない乳幼児の場合は舌が口蓋に持ち上がらなければ正しく呼吸ができないばかりか母乳すら吸うことができず、思うように体重も増加しない。夜中も泣き止まないのは喋ることができない赤ちゃんの訴えであり、それを医療関係者が診て診ぬふりをしているようでは、予防できる全身の健康すら守ることができない。オペ直後に母乳および哺乳瓶をしっかりと口唇で咥えミルクを飲む姿に、どの母親も出生後から続く我が子への不安が一気に払拭されたかのような笑みを浮かべるのを見れるのは、歯医者冥利に尽きるとしか言えない。

                       2025,8,8

新時代の指導者

 夏の全国高等学校野球選手権大会が阪神甲子園球場で開催されているが、当方が高校野球に専念していた頃とは監督の指導方法が随分と変わってきているようである。「やらせる」ではなく「まかせる」、「教える」まえに「問いかける」、「正解」より「成長」を重視した“エンジョイ・ベースボール”で2023年夏の甲子園を制覇した慶応高校野球部は記憶に新しい。以前は高校野球の練習と言えば長時間が当たり前であった。それが今では練習のタイムパフォーマンスを重視するチームが結果を出し始めている。さらに週に1~2日の休養日を取り、身体を休めることで、休み明けの練習の集中力が増し、良い結果に結びついているという。監督の顔色を窺いながら練習試合に臨んでいた昔は、真の意味で野球を楽しんではいなかったと言える。青森県代表・弘前学院聖愛高校の原田監督は、「これからの世の中は(サイン通りにしか動けない)野球型の人間は通用しない」。ノーサインで試合を進める中で、各自が判断し、考え抜くことで自立心が芽生えてくるのだという。また、たとえ失敗をしたとしても、そのプレーを選択した根拠を言語化させることで、教え子の思考力に磨きがかかるとのことだ。常に知識だけではなく、考え方をアップデートさせていく姿勢からは、考えさせる環境を作ることが新時代の指導者なのだと明示しているように映る。

                       2025,8,7

乳幼児の正しい哺育の重要性

 情報過多の現代において、ネット検索にて真に正しい知識を見分けることは出来るのでしょうか。生後間もない乳幼児の母乳哺育の相談、問い合わせが、当医院では急増している。「歯医者さんが歯の生えていない赤ちゃんを診るの?何するの?」と以前から当医院に定期メンテナンスなどでお越しになられる方には質問を受けることもある。赤ちゃんが自分の舌を使って母親の乳首を口蓋に押し当てることでミルクを飲むことが出来るのだが、舌小帯が短い、及び上唇小帯の付着位置が異常な場合には、舌を挙上できないためにミルクを吸うことが出来ず、口唇で乳房を包み込むように咥えることが出来ないので哺乳不良となる。おっぱいを上手く飲めていない原因の多くは母親側ではなく乳幼児の舌と口唇周りの機能不全によるものであり、医療現場で行われている常識を疑ってみる必要がある。本日も生後4ヵ月の乳幼児の舌小帯および上唇小帯リリースを行ったが、術直後から力強い泣き声に変化し、おっぱいへの吸い付き方が明らかに改善されたのである。その違いの変化に母親が声を上げて驚く様を、多くの医療関係者は目に焼き付けるべきであろう。勿論一人ひとりは状態も状況は異なるが、もしこのような乳幼児が適切な処置がなされないまま「様子を診ましょう」と放置されたならば、その間間違った方向に成長は進むことになり、遅くなればなるほど身体の機能回復は難しくなることは容易に想像できよう。以下に、本日オペを受けた赤ちゃんの母親からの感想が届きましたので添付します。

 『6時半ちょうど(3時間)に起きて来て、普通の赤ちゃんみたいに授乳クッションで10分づつ左右両方のんで、一度も泣かずに、のけぞらずに、ゴクゴク音を立てて飲み切りました(泣く)

ちょっと飲ませすぎたのか10ccぐらい吐き戻しましたが、嬉し泣きしました🤭今回もスリングに入れた後は全然泣かなくて、涙が出てない健やかな寝顔を見れました(涙) 』

                       2025,8,6

問診の重要性

 不正咬合のお子様がお越しになられた場合には必ず出産時のことを問診する必要がある。なぜなら妊娠期最後の3ヵ月は、胎児は羊水を嚥下し吸啜嚥下反射の継続的な訓練をしており、これが十分になされない場合、高口蓋になりやすく、マッスルトーンは低下、結果的に低位舌を招き頭蓋顔面の形態異常と不正咬合をもたらすからである。また吸啜嚥下訓練の際、使える筋肉を総動員しており、そのことにより下顎骨と蝶形骨、口蓋骨、上顎骨の成長に繋がる。従って早産児が出生後に最適な状態を達成するのが難しくなるのは予想されることである。不正咬合の治療に際し、早産児の場合は出生前からの筋機能訓練が不足するため、出産後は機能不全と低下したマッスルトーンの状態からのスタートとなり、正常なポスチャー・機能が備わっていない(備わりにくい)中から発育していかなくてはならないということになり、子供たちの咬み合わせトレーニング指導も以下同文というわけにはいかない理由がここにもある。医療は常に個に対してどうあるべきかという視点を忘れてはならず、そのためにはひとり一人に掛ける時間を割くわけにはいかない。

                       2025,8,5

身体の適正化という視点で

 アデノイド及び口蓋扁桃肥大の最終確定診断を歯科医師は出来ないため耳鼻咽喉科に紹介することになるのだが、歯科用CTにて映し出される双方に気道を塞ぐほどの肥大が認められたとしても、今は摘出手術は行わず薬で経過を診ることが主流のようである。当方には手術による医療提供者側を守るためのリスクヘッジの意味合いが強いように思われてならない。勿論、手術を施さなくても良い結果が得られるのであれば、侵襲を避けるうえでもオペなど望むべくもない。炎症を和らげる目的であれば投薬で済むことは多々あるのかも知れないが、口腔機能、呼吸を正しく機能させる上では対処療法ではなく根本原因除去を行い、身体の機能が正しく働き子供達の成長が本来あるべき方向に進むよう、出来るだけ早期に成長の適正化を図るべきである。各科の専門医の見解は様々であり、それは歯科においても同様かと思われますが、成長途中の子供達を診査診断する際には、経過を診ることで、身体の適正化の機会を逸することも多々あることを医療関係者は認識すべきである。

                       2025,8,4

舌小帯短縮症のオペ後

 舌小帯短縮症のオペを受けた2人が術後の消毒でお越しになられた。6歳の男の子は術中も全く痛がらず、5分近くのオペ時間中もしっかりとお口を開けており、オペが進むにつれて舌の可動域も広がっていくのが目に見えて分かる状態であった。昨日の消毒時もほとんど痛みはなく、オペ約2ヵ月前からの術前舌トレーニングをしっかりと行ったことが、舌小帯リリースの効果を最大限に引き出したものと考えられる。また成人女性の方も、術前トレーニングを同様に継続されたことで術後の舌の可動域も良好(オペによる多少の痛みはあるものの)で、今後3ヵ月のトレーニングを継続して頂ければ、嚥下習癖の改善、呼吸の改善、更には首から肩周りの凝りの改善を実感されるものと確信をしている。子供の場合には早い段階で成長発育を阻害する因子を取り除くことで成長の適正化を図ることが出来、成人であれば舌小帯の可動域が拡がることで長年の機能障害を引き起こした根本原因を取り除くことになり、不定愁訴の改善、体調不良からの回復への環境が整う第一歩となる。

                       2025,8,3

歯科医療現場の問題点

 素人目には歯並びが綺麗に揃っているようでも、骨格的な咬み合わせ及び機能的な咬み合わせを診査すると、理想的な状態から逸脱していることが診えてくる。現時点における症状の有無で判断するのではなく、予後における問題の発現の可能性まで含めた診査診断を行い、想定される事案を分かりやすく本人に伝えることが医療現場では必要である。その結果、受診された方がどのように判断し、理解できない部分はドクターと納得いくまで話し合うことがことで、受診者と医療提供者の信頼関係が構築できるというものである。日本の医療現場ではこの当たり前のことが重要視されておらず、一方的に医療者側の説明だけで治療が進むケースが多いので、治療を受けた後に医療者に倒して不信感が募ることが多く見受けられる。少なくとも当医院にお越しなられる初診患者さんの口から出てくる表現に、「白衣を着た先生に、こうした方が良いですよ!と言われたら、それしかないのかしら?と思って治療をうけてしまいますよ。」ということがある。私は決まって言います。「自分の身体のことなんですから、白衣を着た人だからと言って遠慮したら駄目ですよ。気になること、疑問点はすべて質問して聞かないと!しつこく質問をして先生が嫌な顔をするようであれば、そんな先生の診察、治療を受けなければいいだけの話ですよ」。当方が治療をしたわけではありませんが、口腔内を下手にいじくりまわされて、手の施しようもない状態でお越しになられる方を診察すると、同業者として心苦しくなることが未だにあることが、残念でなりません。

                       2025,8,2

マジですか?

 「下顎が前方に出ているので矯正治療を受けていますが、Ⅰ期治療が終わったと言われました。でもどうみても元の状態に戻ってきているのでなんでかな~?と思っていたので、早く診て頂けたら助かります!。」という問い合わせを頂いた。9歳という年齢を考慮すると、成長発育の適正化をする時間に猶予はない。キャンセル枠が出たため急遽診察をさせて頂いたが、親御さんからは驚きの話を伺うこととなった。「最終的には下顎を外科的に切って顎を引っ込める必要があります」と担当歯科医師に言われたとのこと。成長発育途中、成長真っ只中にあるお子様の顎顔面骨格の成長発育を適正化するのではなく、このまま下顎の成長を待って下顎前突の場合は顎切りを行って上下のかみ合わせのバランスをとる。皆さん、何か違和感を覚えませんか?本当に下顎が前突しているの?上顎骨の劣成長が原因で下顎が出ているように見えているならば、上顎の成長の適正化を図るために,上顎劣成長に至った根本原因を取り除くことが優先されるべきであり、仮に今まで似たようなケースで顎切りをされたことがあったとしても、その治療法よりもより良い方法があるのではないか、この治療によるデメリットを避けるべき治療法は他にあるのではないか、という姿勢が医療従事者には欠かせないのではないでしょうか。一度確立された治療法だからそれでいい、その方法を目の前の患者に当て嵌めるなんてことがルーティン化されているとしたら、患者は堪ったものではない。医療には絶対ということがないだけに、治療を受ける際には慎重な関係の確立が求められる。

                       2025,8,1

読書は国防

 夏休みに入り、定期検診でお越しになる子供達が増えていますが、「宿題を全部終わらせたよ!」「学校の宿題を早く終わらせないと、塾の講習があるので時間がないんです」というお子さんがいた。「夏休み中にどんな本を読むのかな?」と聞いてみると、「本?とくに言われていないです」という返答には、驚きはしないものの残念である。以前のブログにも載せましたが、かつてのイギリス首相であるブレアさんが、「7歳児の読書量が20年後のイギリスの立ち位置を決めている」と語っていたが、今の日本の現状は全く逆を向いていると言えはしないか。一般庶民の識字率の高さが明治維新を成さしめた要因であったことは今や定説である。これからの日本を背負って立つ子供達や若者達のその読書力に陰りが生じている。『玉、磨かざれば器を成さず。人、学ばざれば道を知らず。』月に一冊も本を読まないどころか、一年に一冊も読まない大学生が増えているという。バイトに明け暮れ、スマホと睨めっこだけで過ごす毎日では、とても国の再生は期待できない。“読書は国防である”といった数学者の藤原正彦氏の言葉は至言である。

                       2025,7,31

ドーパミン

 スマホの長時間使用が脳にどのような影響を及ぼすのか、その長期的なデータはないが、その影響を指摘する脳科学者や関係機関の識者は多くいる。スウェーデンの精神科医アンデッシュ・ハンセン氏は著書「スマホ脳」で、人間の原動力ともいえる脳のドーパミンを放出させるのはお金や食べ物、承認そのものではなく「それに対する期待だ」と記す。現代に生きる人々にとってスマホは欠かせないツールとなっているが、世の中のデジタル化に伴い効率の良い仕事、生活を営むことが出来ているはずだが、効率化によって生まれた隙間時間にさらに用事を入れ込み、気付くと時間に追われて自分の時間を確保できなくなってきている。疲労困憊で頭を休める時間にスマホを手にすれば、いつまで経っても脳が休まる時間は訪れない。挙句の果てには対面による交流、意思疎通が減り、幸福感がないまま孤独感が募っていく人間の顔をした動物が増加中である。昔はもっとボーっとする時間を誰しも大事にしていたはずである。周りからの影響を受けないちょっとした時間こそが、我々人間にとって考えを深める貴重なひと時であり、自分の向かうべきものが見えてくる時でもある。ドーパミンを放出させるには、自分を掘り下げて見つめ直す時間が必要です。情報過多の毎日が、自分を幸せにしていますでしょうか?


                       2025,7,30

NO(一酸化窒素)の効果

 最近は、呼吸は鼻でするものであり口呼吸は良くないと言われ始めていますが、それは正しい咬み合わせを構築するためではなく、生体の免疫機能を向上させる上でも大変重要な働きがあります。副鼻腔では殺菌作用の働きのあるNO(一酸化窒素)を生成していますが、口呼吸が常態化していると、吸気とNOが混ざり合うことがないので、NOによる生体防御反応が鼻呼吸時よりも低下することが考えられます。NOは血管を拡張させる作用がありますので、高血圧や動脈硬化の抑制、血小板凝集抑制作用は血栓症の制御などにも関係してきます。鼻腔が働いていないと鼻粘膜の血流は悪くなり、粘膜そのものが炎症を起こし、加温、加湿の機能も低下します。アレルギー性鼻炎などで鼻閉状態が続いているお子様でも、咬み合わせトレーニングの一環で行う鼻トレで鼻が通ることが多々あります。なんでも薬に頼る前に、身体の持っている機能を改善回復させることで、少しずつ体調を整えていくことは、一生を通じて必要なことです。大人も子供も先ずは自分の身体と向き合ってみてください。


                       2025,7,29

適応と代償の結果・・・

 「There is a reason for everything!」。先月亡くなられたJohn Mew先生が生前よく語っていた言葉である。不正咬合は、生物学的問題であるにもかかわらず、なぜワイヤーなどを使った機械的なアプローチをするのか?不正咬合は多くの原因が複雑に組み合わさって起きるので、その原因を遡って取り除いていかねばならない。但し成人の場合は身体の成長は終わっているので成長に合わせた原因除去とはいかず、やむを得ず機械的に歯列弓形態や上下骨格的なポジションを改善し、併せて子供たちと同じように筋機能の改善を行う必要がある。一人の身体に起きている現症を適応と代償という視点で診ていくと、咬み合わせが理想的でない方の場合は、口唇、頬筋そして舌を含めた口腔周囲筋の動きが異常であり、それが習癖として身に付いて左右で咬み合わせの傾きに違いがある場合には、咬み合わせの低い側の方の肩が下がり、体幹のバランスを維持しようとする。そして側彎にもなりやすく、60歳前後になると脊柱管狭窄症を併発することも少なくない。幼少期からの機能低下、機能不全を抱えた状態で成人期を迎えると、それなりに適応はするけれども、高齢期には健常の方に比べるとリハビリなどで余計な時間を割くことになる。多くは思ったように改善はせず、「歳だからしょうがない!」となかば諦め気味の後期高齢者となるのである。当医院で子供たちの咬み合わせを重要視している背景には上記のような状態を繰り返してはならないと切に願うからである。

                       2025,7,28

ランニング

 二日酔いになるのでは?というほど日本酒を頂いたが、格別に美味しいお酒と心の通う会話が弾み、アルコールの分解速度も増したのであろう、いつも通り快調に早朝ランに出かけた。が、朝から異常に蒸し暑い。休日は普段より長距離を走る計画を立てており、横浜マラソン当日まで約3ヵ月を切った今、サブ4を目指す身としては妥協は許されない。しかし、高温多湿のなかを走っても、トレーニングの成果はなかなか得られないと、プロトレイルランナーの鏑木毅さんが語っている。熱中症から臓器の機能障害につながるリスクさえあるというから年齢を考えれば昔を思い出して走り続けることほどアホなことはない。大胆に思考を変えて、冷房の効いたスポーツジムでランニングマシンを活用することで、斜面の設定を変えて平坦地ではあまり使わない筋肉を鍛えることも、心肺機能の向上に役立つという。風景の変わらない室内を走る感覚に抵抗があり、ジムに足を向けることは今までなかったが、ここは頭を柔軟にして新世界を味わってもいいかもしれない。それにしても身体の可動域が若い頃とは違うことに年齢を感じざるを得ないのだが、スポーツトレーナーの指導を受けたり様々なツールを駆使して体幹の維持向上に努める毎日も、日常のルーティンとなってしまえば苦にはならないから不思議である。

                       2025,7,27

むし歯になった原因を理解していますか?

 幼児期からお越しになられている高校生男子の口腔内の状況が、この約1年間で急に状態が悪化してきていると担当の歯科衛生士から報告を受けた。過去の口腔内写真画像を時系列で比較してみると、以前から歯磨きは決してパーフェクトではないものの、う蝕リスクも低く推移していたので定期的な検診とクリーニング、記録写真撮影を継続し、定期管理に移行していただけに、複数のむし歯(う蝕)の同時多発的な現症の背景には生活習慣の変化以外考えられず、詳しくインタビューをすることとなった。高校受験の勉強の際に紅茶を飲む回数が増えたとのことで、その際ティースプーン2~3杯の砂糖を入れて飲んでいたとのことで、母親からも「急に砂糖の減りが増えた」と言われたそうである。ここで大事なことは直ぐにむし歯(う蝕)を治療するのではなく、砂糖の摂取量の増加がむし歯とどのように関係しているかを本人がしっかりと理解する場を設けることである。チェアサイドにおける通り一遍の説明では、説明を受けたことだけは記憶に残るかもしれないが、診療室を出たと同時に忘却の彼方に、なんてことになりかねない。原因を理解しないまま治療を受けるから、いつまで経っても治療で歯医者に通う羽目になるのであり、歯を削った瞬間から健康な歯の寿命は短くなる方向に歩み出すことは、今までの歯科医療が物語っている。むし歯で歯科に掛る方は減ってはいるものの、不正咬合による歯の硬組織疾患は増加しており、全てにおいて原因を知ることが何よりも優先されるべきである。

                       2025,7,26

舌の役割(2)

 連日の猛暑で体調を崩されて、治療の予約をキャンセルの連絡を頂く高齢者の方が少し出始めている。口腔内の急性症状が無いのであれば無理にお越しにならないことをこちらからも勧めたい。長く定期メンテナンスに通われている方で、いよいよ歯を保存するのも限界となり抜歯せざるを得ない状況になる高齢者の場合、注意しなければならないのは身体の状態が初診時とは異なり複数の薬を服用されたり、歯の治療には関係ないと勝手に自己判断で新たな疾患を伝えて下さらないことがある。勿論、処置が必要な時にはその都度確認はさせて頂くものの、念のため主治医に手紙で確認を取ると、目を疑うような複数の疾患名が列挙された返信が返ってくることがある。長年患うことで、病気への危機感が薄れたわけではないと思うが、これだけ薬を服用すれば逆に身体が参ってしまうと考えさせられてしまう場面にも遭遇する。昨日のブログにも載せましたが、そのような方の舌の可動域を診査すると4段階のGrade3に相当するほど舌の動きは悪いのである。これだけ舌が挙上できなければ普段から鼻呼吸は制限されて長い時間口呼吸であることが推測され、慢性過換気状態、つまりは低酸素状態であることが疑われるのである。薬で改善させることを考えるのではなく、機能面の改善を図ることで身体の生理反応を良くするという考え方が医療現場では欠けているのではないかとさえ日々感じている。

                       2025,7,25

舌の役割(1)

 舌に関する研究がここ数年で一気に加速している感がある。来年1月にはスイスのSt.Gallenにて「International TONGUEーTIE CONGRESS」が開催される予定で、世界の著名な臨床家が一堂に集まる。テーマも多岐に及んであり、新生児から高齢者までの舌小帯短縮症の管理、乳幼児の舌小帯短縮症における歯科睡眠医学と疼痛の管理、舌小帯、筋機能療法、舌間隙への機能的アプローチの進歩、他などについて、ワークショップも含めて3日間行われる。舌のポジションが変位することで気道狭窄が起きること、なぜ舌は口蓋に貼り付ける必要があるのか、など、決して難しくはないが考えさせられる学会となりそうである。それにしても日常臨床で舌が短く可動域制限があるだろうな?と思わされる場面がどれほど多くあることか驚かされる。「舌は呼吸器官である」とある大学の教授が語っていたが、その様な目で来院される方の口腔内を診ていると、全身の諸症状との関係性が深く疑われることが以前よりも少なくない。実際に「舌小帯短縮症」にて小帯およびFasciaをリリースしたことで、呼吸・姿勢・乳幼児の哺乳の仕方が術直後に改善された様子を目の当たりにすると、不定愁訴を抱えている方の改善の鍵は〝舌〟にあるのではないかとの思いを強くさせられるのである。

                       2025,7,24

勉強しようぜ!

 「勉強というものはいいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間の許す限り勉強しておかなければならん。日常の生活の直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのはカルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事ではなくて、心を広く持つということなんだ。つまり愛するということを知ることだ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、必ずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一掴みの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようと焦ってはいかん。ゆっくりと、真にカルチベートされた人間になれ!」。-名文としか言いようがない。(太宰治 「正義と微笑より」)

                       2025,7,23

出産時期と不正咬合

 不正咬合になぜなるのか。とにかく最近の子供たちは正常な咬み合わせ、歯並びをしていない。また歯科医療従事者も不正咬合を毎日のように診ているせいか、そこに至った根本原因を取り除こうとするのではなく、とにかく患者さんの希望に沿うように綺麗に早く歯列を改善させる傾向が強いように思う。歯列矯正治療が終わってしばらくは治療を受けて良かったと大抵の患者さんは思うのだが、早ければ2~3年もすれば歯列や顎の位置が治療前の方向に後戻りすることが多いようである。重要なポイントは舌を含めた口腔周囲筋の安静時のポジション、嚥下時に作用する筋肉の動きであり、矯正治療前後のトレーニングは欠かせない。更に10歳未満の子供であれば、出生時まで遡ってインタビューする必要がある。なぜならば、胎児は嚥下の訓練をするときに、使える筋肉を総動員しており、絶え間なく吸啜・嚥下の訓練をしており、下顎骨の成長は吸啜・嚥下が断続的に訓練される妊娠後期に関連し、早産児が出生後に最適な状態に達するのは困難と考えられるからである。早産の時期によっては機能発達が低下した状態からの顎顔面骨格の成長トレーニングを始めることとなり、満期出産児よりも時間が掛かることも考慮する必要がある。

                       2025,7,22

子供の歯列矯正治療はいつから?

 「子供の歯列矯正治療はいつから始めたら良いのでしょうか?」と電話での問い合わせがあった。簡単にお答えできることではないので後日お越し頂き説明することになりましたが、「少なくとも永久歯が生え揃ってからでは遅いですよ!」とだけは付け加えさせて頂いた。一般の方は、歯の並びが悪いことが気になって矯正治療を考える傾向がありますが、歯および歯並びは身体の一部分であり、なぜ歯並びが悪くなるのかを根本から理解する必要があります。歯並びが良くなれば、猫背のような姿勢になっても良いわけではありませんよね。歯が重なって生えているからその歯を抜いて、そのスペースを利用して歯を綺麗に整列させるなんて考えの中には、不正咬合が体幹の歪み、発音障害、摂食障害、睡眠障害、そして発達障害とも関係している疑いがあるという概念はないのではないかとすら当方には思えるのである。矯正治療の考え方も歯科医師によって様々であるので、先ずは説明に納得のいかない場合には安易に治療を受けないことが基本姿勢であると思います。

                       2025,7,21

「ポッテンジャーの猫」

 現代社会において、少子化傾向にもかかわらず早産の件数は増加しています。妊婦さんの健康状態、生活習慣の乱れ、高齢出産など様々な要因が考えられますが、「ポッテンジャーの猫」という実験の内容は、この問題を考えるうえで参考になると思われます。900匹の猫を2つのグループに分け、片方には生乳と生肉、もう片方には生乳と加熱肉を与え、その後どうなるかを記録した内容です。1つ目のグループは健康に育ち、健康に出産、通常の死を迎えたが、2つ目のグループは次第に不健康になり、出産状況も流産などで良好ではなく、病気で死を迎えるケースが多かったというものです。そして2台目、3代目と状況は悪くなり、4代目には生まれなかったということです。生き残った猫たちに、改善のため1グループ目と同じ食を与えたところ、元の健康な状態に戻るのに4世代かかりました。これを我々の生きる現代社会に当てはめてみると、妊娠前からの、さらに言えば親の、またその親の、食生活を含む生活習慣の重要性が大変重要であることがわかります。不正咬合は勿論のこと、疾患やアレルギーも含め体質を「遺伝」の一言で片づけてしまう前に、いろいろと取り組むべきことがあるように思います。(小児歯科臨床 関口一樹先生著参照)

                       2025,7,20

現症と原因

 「下の前歯が見えないぐらいかみ合わせがヘンになってきたようなんですが、前と変わっていませんか?」と久しぶりにお越しになられた社会人女性。中学生の頃からの口腔内写真と比較してみると、前歯だけではなく奥歯の内側への傾斜が強くなってきており、全体のかみ合わせが低くなってきているのは明らかだった。「歯列矯正したら治りますか?」と質問を受け、「歯列矯正治療をすれば歯並び、前後的なかみ合わせは改善しますが、考えて頂きたいのは現状に至った根本原因をなくす、改善させるということなんです!言っていることは理解できますか?」と返答し、不正咬合の原因についてのプレゼンがそこから始まったのである。素人だから分からないではなく、本人が理解できるまで質問をするなりメモを取るなり患者自身が本気にならなければこちらも気持ちがこもらないというものだ。これは決して手を抜くということではなく、治療に対する考え方を共有できなければ治療を受けてはいけないし、こちらも治療をすべきではない。医療も他の仕事も同じですが、人の介在する仕事である以上は信頼関係の構築を抜きには語れない。また、医療従事者は「現症」に焦点を当てるだけではなく、「原因」を含む両面から解決していくことを常に念頭に置かなければならない。

                       2025,7,19

むし歯と咬み合わせ

 小さい頃から歯科衛生士さんに丁寧な指導を受け、定期検診にも通い問題なく過ごされていた30代女性の歯が遂にむし歯になってしまった。患者さん本人にとってむし歯は無縁のことであったので、患部を撮影した画像と動画で説明をするも表情は茫然としている。「〇〇さん、大丈夫ですか?聞いてますか?」。察するに、おそらく歯磨きには問題なく過ごしてきたのに何でむし歯になったのか・・という心境なのだろう。マイクロスコープで撮影した感染歯質を取り除く動画には、エナメル質表層に亀裂線がはっきりと映っており、上下奥歯の不自然な干渉(咬合性外傷)によって生じた亀裂から細菌感染が進行したものと推察される。余程の食生活習慣の偏りや歯刷子の使い方に問題がない限り、ひとは早々にむし歯を作る動物ではない。「咬み合わせによる外傷によってむし歯ができる???」と言われても一般の患者さんは意味が分からないのは当然であり、それを分かるように時間を割くのが臨床医の役目であり、使命である。因みに1984年に歯に掛かる引張応力によってエナメル質と象牙質の結晶構造が崩壊するとの論文が出ており、咬み合わせと咬合性外傷、そしてむし歯は常にリンクしているものと考えるべきである。

                       2025,7,18

症状の有無で決めていいのか?

 小児不正咬合についての学びを深めていくと、閉塞性睡眠時無呼吸と顎関節症に共通点があることに気付いてくる。それは中顔面、下顔面がともに本来あるべき前方への発育が不足した状態であり、舌位も後方に位置していることである。歯科用CT撮影では舌が挙上されているように見えても、それは舌房が狭いために舌の置き場所がなく口腔内を占領しているようなものであり、嚥下しようにも舌が後方に下がって気道を狭窄させるか、嚥下時に上下奥歯の間に舌縁を介在させて口腔内を陰圧にしなければ、食べ物や飲み物を咽頭に送り込むことが出来ないのである。小さな力であっても毎回唾を飲み込むときに舌が奥歯を押し込んでいたら臼歯部はどのような状態になるか想像して頂きたい。臼歯は圧下されることで下顎は低くなり、結果的に顎は後方に下がり長期的には顎関節にも負担が来て顎関節症と診断を受ける可能性が高くなる。閉塞性睡眠時無呼吸と顎関節症が具体的な症状を呈してくるのは成人期以降が多いですが、症状が発現していなくても問題がないということではありません。普段からいびきがある方は、それが普通ではないとの認識から先ずはその病態を理解して頂きたいと思います。

                       2025,7,17

口腔機能の改善とは

 最近の歯科業界において、舌のポジションはSpot、口蓋に張り付くことが当たり前のように言われ始めていますが、ではなぜ口蓋に吸い上げる必要があるかと問われると途端に怪しくなります。四足歩行から二足歩行になった人間にとって、『直立二足の姿勢をする人に常に求められる口腔機能は何か?』といえば、それは「鼻呼吸」と「嚥下」ということになります。だとすれば、「鼻呼吸」と「嚥下」が安全に機能するための舌位が、ヒトにとっての安静時の舌位だと考えられます。つまり、奥舌と軟口蓋の密着面こそが重要のです。ここが単に接しているだけではなく密着すれば、多少の鼻詰まりがあっても口呼吸にならず鼻呼吸が守られるだけでなく、奥舌が上方に立ち上がることで舌が前方へ移動し気道の狭窄が解消します。また、奥舌と軟口蓋の強い吸着から発生する強烈な陰圧による嚥下は、口蓋帆張筋と口蓋帆挙筋・上咽頭収縮筋・閉口筋と舌骨上下筋群の活動を向上させ一瞬で食塊を通過させることで誤嚥や咽(むせ)の予防になります。もちろん、奥舌と軟口蓋の密着により舌背は硬口蓋に吸い付き、舌尖はスポットへと誘導されます。このように舌のポジション一つとってみても、形態から機能の改善という視点で歯科医療は変わっていかなくてはなりません。

                       2025,7,16

睡眠呼吸障害をスクリーニングする

 皆さんは睡眠時間をどのくらい確保していますか?身体が疲れるとサプリメントや栄養ドリンク剤を補給してなんとかやり過ごしているなんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。必要な睡眠時間は年齢によって異なり、小さな子供は大人と比べるとより多くの睡眠時間を必要としますし、個人差もあります。乳幼児であれば12~16時間、6~12歳では9~12時間、18歳以上は7~9時間が目安と言われています。子供の睡眠時間が短い場合、一番問題視されるのは成長ホルモンの分泌が抑制されることであり、これには睡眠の質も関わってきます。大人であれば脳内の老廃物を除去するグリンパティックが働くのが夜間の睡眠中であることが分かっていますので、アルツハイマー病に関係するアミロイドβという脳内の有害な老廃物を素早く取り除く上では睡眠の量と質を保つことが必要となります。いつも治療に入ると直ぐに眠りにつく患者さんがいらしたので改めて問診をすると、睡眠時無呼吸症の疑いがあることが分かり、機能的気道スクリーニングテストにおいても明らかに睡眠障害を起こしていることが判明したのです。このように本人の自覚はないものの、隠れた疾患を抱えたまま過ごされている方が実際には多く存在するものと思われます。単にストレスで眠れないと決め込む前に、口腔内診査から睡眠のスクリーニングテストを受けてみることをお勧めいたします。

                       2025,7,15

がむしゃらに!

 幼少期から当医院にお越しになられてた女性の方が建築関係の仕事に就いたと、定期検診で来院された母親が仰っていた。毎日帰りが遅く、まるで昭和な働き方「24時間働けますか!」のようだとのこと。但し本人は辛いどころか雑務も含めてすべてが勉強になっているので良い職場に恵まれたと親の心配を意に介さないそうである。今の時代何かと損得勘定や好き嫌いで物事の価値を評価しがちであるが、それだけ夢中になれる環境があるのは間違いなく素晴らしいことであり、本人の仕事に向かう姿勢そのものが、この先どうのような形で花が咲くのか楽しみである。またそのように育てた親御さんも素敵であり、検診でお越しになられたにもかかわらず半分以上の時間は子育て論から世情など様々な話題で盛り上がってしまった。時代の流れとはいえ、自分としっかり向き合う時間、一つのことをじっくりと掘り下げて考える機会を設けようとしない人間のような顔をした動物が増えている。失敗したっていいじゃないですか。失敗のない人は、私に言わせれば一歩も踏む出さない人ですよ。若い時は特にがむしゃらに取り組むことが大事であり、それが将来の糧になることは言わずもがなである。

                       2025,7,14

哺乳障害と舌小帯短縮症&上唇小帯異常

 当医院では乳幼児の口腔機能相談を随時受け付けております。

 本邦では、「新生児期から乳児期前期の舌小帯短縮症は哺乳障害とは関係がなく、手術の必要性はない」との考え方が主流ですが、当方の30数年の臨床経験から不正咬合の発現と、不正咬合に至る根本原因の一つの舌小帯短縮症及び上唇小帯異常はあらゆる口腔機能の発達不全、更には頭蓋顔面発育障害を引き起こす可能性が極めて高いとの判断から、慎重に診査診断を行い、ご両親様のご理解を得られた場合にのみ必要に応じて処置を実施しております。

 尚、アメリカの小児科学教科書「CURRENT Diagnosis &Treatment Pediatrics2021-21」には、“哺乳障害を伴う舌小帯短縮症は新生児に切開すべき”と記載されています。

 舌小帯リリースに関する賛否は論文においても意見の分かれるところではありますが、実際に舌小帯短縮症の手術を受けた直後に正しく哺乳が出来るようになる乳幼児の姿からは、子供達の間違った成長発育をただ黙って経過を診ていては状況は悪化するばかりであり、“成長発育の最適化”を行う一環として乳幼児における舌小帯や上唇小帯の適切な処置は避けて通れないと確信するものであります。

                       2025,7,13

慢性上咽頭炎・自律神経のコントロール

 体調不良が続き、医療機関で検査をしても異常が認められず、原因を特定できないにも拘らず薬を処方され、「しばらく様子を診ましょう」などと医者から言われた経験のある方はいらっしゃるのではないでしょうか。世の中には不定愁訴を抱え、軽度の鬱(うつ)と診断され抗うつ剤などを服用されている方が多くいらっしゃいますが、長期服用しても根本解決に至らないケースが存在します。そのような方は一度「慢性上咽頭炎」を疑ってみてはどうでしょうか。上咽頭は気道の一部を構成しており、鼻から吸った空気は上咽頭で下方向へと向きを変えて中咽頭へと流れます。上咽頭は体内に取り入れられた空気の最初の通り道であるとともに、空気の流れの向きが変わる場所にあるため、空気中のウィルスや細菌がもっとも付着しやすく、慢性的に炎症を起こしやすい宿命にあるのです。ではなぜなぜ上咽頭の炎症を治すと、自律神経の調節異常が改善するのでしょうか?それは、上咽頭は自律神経のうち副交感神経の主体をなす迷走神経が広く分布しており、自律神経のコントロールに密接に関わっているからです。迷走神経は運動神経と感覚神経からなり、臓器の筋肉の運動などを調節しています。上咽頭が常に強い炎症を起こしていると、炎症による刺激が迷走神経の感覚神経を介して脳に伝わり、自律神経の中枢、すなわち視床下部にまで影響を及ぼします。視床下部は全身の全身の内分泌系をコントロールしている脳下垂体に指令を出しますから、上咽頭が慢性的に炎症を起こし、自律神経の中枢に強い刺激を受け続けていると、過剰な自律神経の反応を引き起こし、全身の臓器にトラブルが引き起こされてしまうのです。当医院の子供達の咬み合わせトレーニングを行っていると、アデノイド肥大や口蓋扁桃肥大によって口呼吸を余儀なくされているお子様がいます。そのようなお子様に共通して診られる状態は、朝起きられない、うつぶせ寝をしている、など睡眠障害の疑いもありますが、自律神経のバランスを崩していることです。子供達の出しているサインを親御さんは見過ごさないでください!

                       2025,7,12

ザリガニ

 幼少期に田んぼや池でザリガニ獲りをしていた当方にとって、ザリガニが夏の味覚だと言われても??でしかない。先日入った中華料理屋のメニューにニンニクやトウガラシを利かせた辛口の味付けが人気とあった。聞くところによると中国全土にはザリガニ専門店が数万軒あるというから、国が変わればというところか。食用に養殖され、経済の振興にも一役買っているとのことで、田んぼで稲作しながら育てられるので農家の収入アップにもつながり、更には雑草や害虫も食べるため減農薬にも効果があるそうである。幼稚園に通っていた頃は池にコンクリートブロックを沈めておくと、その中を枝で突っつくだけでザリガニがそれを掴んで簡単に獲れたものであり、獲ったザリガニをどうしたのか今となっては記憶していないが、食べた記憶も勿論ない。“郷にはいれば郷に従え”で、あちらの国に行く機会でもあれば食することもあるのかも知れないが、どうも子供の頃の記憶が蘇り、食欲は湧いてこない。

                       2025,7,11

今、汝はかぎれり

 「今、汝はかぎれり」。やってもいないのに始めから出来ないと決めてかかる消極的態度を戒め励ますために使われる表現だが、我々人間は自分で天井を決めてしまう特殊な動物であり、更には自分で能力の限界をつくり出す天才です。「どうせ俺には出来ない」「私の仕事はここまでなんだ」となってしまうと、本人だけでなく組織そのものの活性化が失われ、おそらく指示された最低限の仕事しかやらなくなり、そこからは決して生産的な良いものは生まれないでしょう。普段から軸をもって生活をする中で様々な情報に触れ、必要な情報を材料に自分の頭で考えて、自分の言葉で自分の意見やアイデアを発信できる人というのは、生きる姿勢そのものが前向きです。不平不満から何も生まれませんし、自己の成長にも繋がりません。今の世の中、直ぐに結果を求められるような空気が蔓延しているようにも感じますが、常に自分と向き合い自己改革を重ねていくうちに結果も付いてくるものだということを、社会経験の少ない若者や結果が出なくて悩んでいる方には気付いて頂きたいものです。

                       2025,7,10

求められるプレゼン力

 「急に顎が開き難くなって、開けようとすると痛い!」という主訴に対して我々歯科医師は急性症状を緩解させることと同時になぜそのような状況になったのかを明解に解説しなければならない。多くの患者さんは痛みが取れればそれで問題は解決されたものと思いがちであり、医療機関に掛る理由も「症状をなくしない」からであり、なんらそれが駄目だということではない。但し、外傷を受けた症状でない限りは、長年蓄積されてきた慢性的な根本原因を放置したことによる代償反応の結果が「現症」を生み出したのであり、一過性に症状が出たものは繰り返すことが十分考えられるのである。一昔前の診療は、歯科医師が口頭で説明をするしか方法がなかったが、今は歯科用CTレントゲン撮影、デジタルカメラ撮影、マイクロスコープ(実体顕微鏡)などを常設している医院も多くあり、一人の診察時間をしっかり確保さえすれば、素人である患者さんが理解できるプレゼンをすることは可能であり、一方的な説明ではなく、患者さんとキャッチボールできるような会話の中で、イメージを抱けるようなところまでのプレゼン力も磨く必要がある。

                       2025,7,9

頭蓋顔面発育障害から始まる口腔機能低下症

 口腔機能発達不全症であるにもかかわらず、適切な時期に適切な治療を受けないまま年齢を重ねると我々の身体がどうなるかは、多くの歯科医師が日々の臨床で目にしているはずである。しかし、そのような視点で患者さんの口腔内をはじめとした全身を含めた診査診断する目を持ち合わせていなければ異常を見過ごすことになり、患者さんは原因を残したまま成長を続け、代償に代償を重ねた結果さまざまな疾患を抱えることになる。30数年の臨床経験から診えてくることは、小児期の不正咬合を放置した場合には、成人期には解決されなかった「口腔顔面筋機能障害」によって、「閉塞性睡眠時無呼吸」「顎関節症」などが引き起こされ、本人の自覚がないまま代償反応が複合的に進行し、遂には「咀嚼障害」や「嚥下障害」をも引き起こすことになる。そしてこれらの問題を抱えたまま老年期を迎えると、健常な状態から機能低下するよりもはるかに重篤な状態になることは誰にでも想像できるのではないでしょうか。今、我々歯科医療従事者が発信すべきことは上記のことであり、急性症状の有無だけが問題なのではなく、身体のあらゆる不調、不定愁訴の根本原因は幼少期の「頭蓋顔面発育障害」にある可能性が高いということである。

                       2025,7,8

海外ラン

 講演会に参加するなどで地方の都市に出かけると、早朝ランニングすることがルーティンとなっている。この時期であれば5時過ぎに走り始めるのがランナーとしては比較的走りやすくもあり、人も車も少ない時間帯であるので街並みをゆっくりと眺めながらランすることで、ちょっとした観光気分も味わうことができる。先々週は札幌の北大構内、豊平川河川敷を爽快に走ってみたが、北の大地の木々の大きさに目も心も癒され、感性が研ぎ澄まされる感覚を感じるから不思議である。以前は大阪の御堂筋をやはり早朝走ったことがあるが、日中の通行車両の風景を目にしているだけに、車もまばらな時間帯を一人でランするのは、大阪の街を独り占めしているような知らない世界を垣間見た得した気分にもなるものである。学生時代は走ることなど最も避けたい人間であっただけに、バックパッカーとしてヨーロッパを旅していた頃を思い出すと、なんとも惜しいことをしていたものだと今更ながら思う次第である。なぜなら欧州の都市は日本に比べると街の規模が小さく名所などがコンパクトにまとまっていることが多く、電車やバスを使うような行程を、ランニングで手軽に見てまわることが可能だからだ。航空券も高騰し、仕事も忙しいことから長期休暇を取れそうにもないのが現実だが、9月にはイギリスでの学会もあり、初の海外ランを経験してみる機会となりそうである。

                       2025,7,7

原因と代償

 医療の究極のあるべき姿は、患者に対し医療介入の必要性がなくなることである。しかし現実は医者、歯医者、その他医療関係者が増えたにもかかわらず、医療機関に掛かる患者は減る傾向にない。子供たちの咬み合わせを治療していると必ず不正咬合に至った根本原因が潜んでおり、そこを改善しない限りは代償反応によって口腔内の状況は悪化の一途を辿ることになる。要は目の前の状態は何らかの「原因」を発端とする「代償」であり、医療の本質はこの「原因」に対していかに対応できるかに掛かっているのです。従って行うべき医療は、急性症状を抑えるための対症療法と並行して疾患に至った根本原因まで遡り、長期的な視野で医療改革を行うべきと考えます。また、歯科医療に関しては過去の経験を踏まえ、幼児からではなく乳幼児からの正しい口腔機能獲得を丁寧な診療体制の中で行うことで、不正咬合の原因としての口腔機能障害を十分に予防することが可能であると思われます。我々の身体は様々な状況、環境に適応出来ていると考えがちですが、適応の裏には必ず代償反応が起きるものであり、代償に代償を重ねた結果どのようになるかは、高齢化社会で起きている医療機関の現場を診れば一目瞭然であると言えるのではないでしょうか。

                       2025,7,6

顔面骨格の劣成長から診えてくるもの

 中顔面の劣成長を認めれば口腔内の状態を想像できる。なぜなら顔面骨格が本来の大きさが成長していなければ歯が萌出できるスペースがないわけで、歯だけではなく鼻上顎複合体部分が前下方に成長すべきところを後下方に成長した場合には、解剖学的な構造上、舌は後方に位置することになり、奥舌後方にある気道が狭窄することになる。順を追って考えて頂くと分かることなのだが、気道が狭窄すれば呼吸がし難くなり睡眠障害へとつながり、深い眠りにつくことが出来なければ子供たちの成長には欠かせない成長ホルモンの分泌に影響を及ぼすことになる。発音障害、咀嚼嚥下障害は勿論のこと、脳への酸素供給が低下すれば長期的には低酸素症を引き起こし、SDHDや発達障害へと繋がるケースも否定はできない。咽頭扁桃、口蓋扁桃肥大が存在すれば呼吸はし難いはずだが、子供はその状態を抱えて今日まで生活してきているので、苦しいという自覚はないことが少なくない。問診で子供が訴えなくても、本人や親が気付いていない身体へのリスクを探し出し、なぜ今治療が必要なのかをひとり一人の状態に合わせて解説し、それらの根本原因を放置することで身体の代償反応が起き、その代償原因ですら放置すれば、多くの大人たちが抱えている不定愁訴を引き起こすことに繋がることを理解して頂かねければならない。理解して頂ければ、あとは実践トレーニングを習慣化し継続するだけである。

                       2025,7,5

とにかく説明を!

 子供のかみ合わせが悪いので診てほしいとお越しになられた親御さんに、不正咬合の成り立ちを丁寧に説明させていただくと、「知人から歯並びを治すなら鼻が詰まっていたら駄目だよ!」と言われたという。そしてその理由がよく分かったということで、「なんでも原因があるのですね!私の歯並びが悪い原因も分かって良かったです。私も今からでも歯列矯正できますか?」と質問が続く羽目となった。実際に当医院では、お子様の所見とそこに至った原因を解説していくと、親が以前から疑問に思っていたことが晴れていくことが多くあり、子供の診査でお越しになられたにもかかわらず、自分の予約を取っていく親が少なくない。また、子供たちのかみ合わせトレーニングの成果は、この不正咬合を引き起こす根本原因を取り除かなければ子供たちの将来がどのようになるかをしっかりと理解された親御さんの場合には、いい結果が出ている傾向がある。以前、説明途中に父親から、「先生がやろうとしていることは、気道を拡げることになるのですか?」との質問が出た時には、思わず「お父さん、素晴らしい。その通りです!」とのやり取りがあり、理にかなった治療の仕方だとお褒めの言葉を頂いた。時間をかけて説明をすれば患者さんは理解できるのですから、治療よりも説明に時間を割くことが何よりも大切です。

                   2025,7,4

対処療法から医療の本質へ

 成人になって歯が痛くなり、むし歯だと自己診断して歯科医院を受診する。診察した歯科医師にむし歯になっていることを指摘され、その場で直ぐに治療を受ける、なんてことを未だに日本の歯科医院では当たり前に行われている。何か問題がありますか?という諸氏もおられることだろう。そんな方には考えて頂きたい。発熱したから解熱薬を処方してもらう、喘息傾向にあるので気管支拡張剤を使用する、むし歯になったから歯を削る。これらは典型的な対処療法であり、あるべき医療の在り方ではないと私は考える。全く必要がないと言っているのではなく、現状を疑って何かを変えていくべきことがあるのではないかということであり、昨日の赤ちゃんなどはその良い例であろう。舌小帯および上唇小帯をリリースしなくても生きていくことは可能であるが、筋肉の適正な動きが阻害されることで頭蓋顔面発育障害が進み、Fasciaの存在が体幹の緊張を生み、哺乳が正しく出来なければ体重の増加が望めないだけではなく、やはり顔面骨格の育成に問題を引き起こすことになる。すべての子供たちが必要な睡眠を毎晩確保し、健康で幸せになるために出来ることはたくさんあります。なぜ先進国日本で事態が悪化するまで待ってしまうのでしょうか?保険点数で請求するものがないからなのでしょうか?保険制度と子供たちの身体とどちらが大事なのか、子供たちに待っている余裕はないのです。20年後、30年後の日本人の疾患率を下げるには、子供たちの正しい成長発育を促すことにあります。歯科には医療の本質を変え、健康を提供できる環境があり、希望に満ちた未来が開けています。

                   2025,7,3

乳幼児舌小帯リリースが必要なわけ

 生まれてきた赤ちゃんが上手く母乳を飲めないのは、母乳の分泌が悪いからだと思い込んでいた母親は、小児科をはじめとした数か所の医療関係機関に相談に行かれたという。哺乳瓶でミルクをあげても体重が思うようには増えず、ある小児科医には「成長曲線の下限に近いですが、枠内には収まっていますから問題ないですよ」と言われてきたとのこと。それでも母親としては納得できず、遂には当医院のブログを見てこちらの医院に問い合わせをされたという。5ヶ月を過ぎるところということで急遽診察することにしたが、舌の可動域は狭く、明らかな舌小帯短縮症であり、加えて上唇小帯も乳頭歯肉(歯槽頂)に達しており、これでは哺乳はできない。赤ちゃんの出生後は、本能的に母親の乳首を探索し、乳首に達すると舌と唇で乳首の先端を硬口蓋と軟口蓋の境目付近まで咥えこむ。すると舌は前後方向へ波のように伝搬する収縮運動によって哺乳を開始する。乳首は舌によって硬口蓋に押し付けられ、乳汁は舌の前方から後方へと運ばれる。従って舌と口唇が乳頭および乳輪を十分に包み込み、舌が口蓋近くまで持ち上がらないと効果的な授乳はできない。舌小帯短縮症や上唇小帯短縮症が哺乳に不向きな所以である。ご両親様にはこのことをしっかりとご理解して頂き、本日小帯リリースを無麻酔科にてエルビウム.Cr:YSGGレーザー(波長2,780nm)を用いて行った。舌小帯リリースが出来た瞬間に舌が前方へ動き出し、呼吸が楽になったことによって鳴き声が変わり、顔色も赤みを帯びてきた。術後は母親に哺乳瓶で哺乳をして頂くと、「えっ、こんなに飲み始めるんですか!吸い付きが今までと全く違います!」。父親からも「こんなに力強く飲むことはなかったよね。目もパッチリ開いているしね~」と感想を述べられていた。これが臨床である。決して簡単なオペではないが、臨床医としてすべき準備を踏んで臨めば結果はついてくる。上手く哺乳ができないのは約9割で母親側ではなく赤ちゃんの舌小帯を含めた口腔機能異常と捉えています。論文ベースでは手術に関しては賛否はありますが、根本原因を放置した結果、様々な代償的原因が生まれ、その結果取り返しのつかない結果的原因になるまで何もしないでいることが、果たして医療なのかと考えさせられます。


                   2025,7,2

John Mew

 不正咬合の原因と治療について、私の長年の疑問をクリアにしてくださったJohn Mew先生の訃報が届いた。歯並びはきれいなのに上下的なかみ合わせが悪いのはなぜなのか。不正咬合は勿論、不正咬合を引き起こす原因に潜んでいる全身への影響は多岐に及んでいるが、それらを放置した場合の予測まで数十年も前から述べておられた臨床の目には敬服するしかない。昨年ソウルで開催された学会では車いす姿で30分の熱のこもった講演をされ、世界から集まった著名なドクターをも頷かせてしまう語り口からは、頭蓋顔面発育障害の改善、適正化こそが我々歯科医師が担うべき使命であり、その考え方を拡げていかねばならないとの決意を新たにさせられた。先生の蒔かれた種は日本そして世界で芽を出しつつあり、私などその種の一粒かもしれないが〝世の中から口呼吸により生じる形態的、機能的障害と苦しみをなくす〟ことを、たとえ小さくても真っすぐに前方成長する木でありたい。John Mew先生からの最大の学びは信念を貫き伝え続けた姿勢である。ご冥福をお祈りいたします。

                   2025,7,1

調べ方

 辞書代わりにネット検索、思い出せなければネット検索、仕舞いには分からないことは何でもAIに聞いてみる。我々はどこで脳内細胞を活性化させているのかというぐらい深く考えることをしなくなってきているのかも知れない。当医院の診療中ですら、口をゆすいで診療台に横になるちょっとした時間ですら、スマホ画面を見ないではいられないのはまさに〝スマホ脳〟であり、自分そのものがスマホに支配されていることに気付いていないようでもある。便利さと引き換えに目に見えない大事なものを失わせている代表的な代物がスマホである。手持無沙汰になれば、時にはボーッとしてみては如何ですか。一日を通して自分と向き合う時間はありますか。ネットが登場してから、調べることが簡単になり、先人の教えに素早く到達できるのはありがたいが、考えたり遠回りしたりする時間が減ってしまったのも事実である。タイパ、コスパの時代に到底受け入れられない提案になるが、考えるためには意図的に「ネットで調べない」ということを実践してみたら、何か脳内に変化が起きるだろうか。

                   2025,6,30

Evidence(科学的根拠)の構築へ

 むし歯ができたら歯医者が何かを詰めたり被せたりする。体調を崩して発熱があれば医者は解熱剤を処方し、喘息の発作が起きれば吸入薬を吸わせ、睡眠時無呼吸であれば夜間就寝中にCpapを装着する。これらはどれをとっても対処療法であり、根本原因を取り除く医療ではない。我々の目指す医療は対処療法なのでしょうか?〝上流が濁れば下流は濁る〟のであり、悪くなる原因を放置すれば必ず結果として症状は酷くなり、症状が悪化してから適切な対処療法を行ったとしても、手遅れにはならずとも回復幅は期待できるものではない。現にどんなに医療関係者が頑張って医療を提供しても、医者が貢献できるのは高々10%をぐらいであると、昨年の睡眠歯科学会で基調講演をされた先生が語っていた。では、それら人の体調を崩し始める根本、スターティングポイントは何処にあるのか?頭蓋顔面発育障害の一つの表れが不正咬合であるという視点で学びを進めていくながで診えてきたものが、まさに全身のコントロールを狂わせ始める脳の発育障害、呼吸障害から始まる睡眠障害、そして体幹の歪みである。Evidence(科学的根拠)が欠落しているとの否定的な意見があることは存じ上げているが、あえてEvidenceを構築途中であると言わせて頂きたい。

                   2025,6,29

パソコンクラッシュ

 プレゼン資料を作成しようとパソコンを立ち上げたものの、画面の様子やマウスをクリックしてもなんだが動きがいつもと違う。そうこうしているうちにフリーズし、あえなく強制終了をする羽目になった。再起動をすれば理由は分からないが何もなかったかのように動くものと安易に考えていたら、雲行きが怪しくなってきた。再起動後は開いたソフトを閉じることができずにカーソルの先も全く反応なし。昨晩までは普段通り快適にサクサクと動いていただけに、パソコンに特別詳しくない当方にとってはまさにフリーズする思いであり、フリーズした(笑)。講演開催日まで3週間あるのが不幸中の幸いだったが自力で回復させることは不可能であり、修理に預けるのしても出来上がって戻ってくるまで待つ時間もなく、やむを得ないので急遽明日にでも新品を購入することになりそうである。何の予兆もなくPCが使えなくなることは今まで経験がなかっただけに、まったくもって不便である。皆さんにもこのような経験はありますでしょうか?〝備えあれば憂いなし〟のためには何をしたら良いのでしょうかね。

                   2025,6,28

真の健康のために

 不正咬合を主訴でお越しになられたお子様の歯並びを治療するにあたり、歯並びだけの問題として捉えるのか、頭蓋顔面発育障害の一部の表れが不正咬合であると診断するかによって治療方針は全く異なると言っても過言ではない。歯が重なって(叢生)いれば、歯列をメカニカル的に何か装置で拡げれば、それなりに歯が並ぶかもしれないが、気が付くとその歯列弓はスクウェア型(四角)になっているなんてことはないだろうか。再三ブログにアップしていますが、歯が重なる(叢生)原因は何なのか?そこにアプローチせずして見た目の整った歯列形態を求めるのであれば、装置の力を借りて歯列のスペースを確保すればよい(当医院では行いません)。対処療法を繰り返す医療をいつまで続けるのか。真の健康を求めるのであれば今までの常識を疑う勇気も時には必要であり、一度確立した治療法を変えていくには相当のエネルギーが求められる。原因があるから結果が起き、その結果から我々医療従事者は何を感じ、どのように行動変容に繋げていくのか。少なくとも臨床医は、目の前の患者さんに起きている現実から目を逸らすのではなく、常に「なぜ?」を問い続けなければ新たなレベルの領域に足を踏み入れることはない。患者さん側も医者の言われるままではなく、疑問があれば質問することを躊躇すべきではない。

                   2025,6,27

親睦を深める

 普段お世話になっている歯科技工士及び関係者との年に一回の親睦会を今年も札幌で開催した。新千歳空港に到着すると、例年の気温よりも暑さを感じたものの、やはり湿気は東京とは違う。それでも市内を走るタクシー運転手の方からは、「北海道も蒸すようになってきましたよ!」と言われ、温暖化は北の大地にも及んでいることを実感することになった。6月の札幌はポプラの綿毛が舞う時期でもあり、北大キャンパス内及び中島公園をランしていると、その綿毛がところによっては絨毯のように積もっているのが目に入ってくるが、これがここ数年は恒例となりつつある。Zoomなどでお互いの顔を確認することは出来ても、実際に会って話をするときの空気感はオンラインでは得られず、情報のやり取りだけではなく心のキャッチボールが出来るためには、一杯飲み交わす時間は必要である。効率を求める社会になればなるほど何かを失っていることにはたと気付くことがある。心に余裕がないときは往々にしてそうである。時間に追われる毎日であっても、自分と向き合う時間は必要である。

                   2025,6,26

成長発育の適正化

 食事中に咽ることがある、喘息傾向がある、何か落ち着きがない、上手く食べられない、気持ちよく寝てくれない、言葉を発するのが遅いかも、これらは当医院を受診される子供達の主訴であり、約22年前に開業した頃には診られなかった現象である。過去には保育園の園医をされている方から、お昼寝の時間に眠ることが出来ない子供がいて、その子はお医者さんから睡眠薬を処方されているということを聞かされて、これはいよいよおかしい時代になって来たなと感じたものです。給食に出されたウズラの卵を喉に詰まらせて死亡した事故があったり、いろんな口にまつわる機能が衰えて何かおかしいとなっても、世の中が行っていることは何かと言ったら喉に詰まらせるようなものは食べさせないようにするといったことであり、結果的には眠れなければ睡眠薬、寝ている時に息をしていなければ機器を取り付ける、などといった根本原因を取り除くことからはかけ離れた医療なのです。不正咬合を頭蓋顔面発育障害という視点で捉えて原因を突き詰めていくと、成長発育の適正化が重要なカギを握っていることが分かってきたのです。

                   2025,6,25

常識を疑う

 頭蓋顔面発育障害のことを研究、学んでいくと、歯並びの悪い子供が5人中に4人、睡眠に不安、悩みを抱えている方が日本人の8割近くにいることが分かってきた。そしてアレルギー疾患、アレルギー性鼻炎の子供達は50%にも及ぶという。更に2~4%の子供達が睡眠中に息が止まっている。どうやらそういう状況に今の日本はなっていると、2月に開催されたNPD(日本小児口腔発達学会)で発表があった。平均が標準で、標準が健康であれば何ら問題はないが、どうやら今の子供達の平均は健康ではなさそうである。先進国日本において子供達の健康が脅かされているのはなぜか。医学、医療は進歩し続けているにも拘らず、このような子供達が増えているのは現実から目を背けているのか。何かがおかしいと気付かなければ、取り返しのつかないことになる。そんな危機感を感じながら日々子供達に向き合うようになってきた。医科歯科連携と言われ始めているが、もっと多岐に及ぶ多職種連携が進まなければこの問題解決には繋がらないことが見えてきている。当医院でさえ、助産師さんを迎い入れての診療が始まろうとしているのです。来月には、おっぱいを上手く吸えない赤ちゃんのオペも控えており、子供達の発達異常の芽を成長の初期の段階で摘むことが成長発育の適正化に繋がる第一歩なのです。幼児、小学生で既に姿勢が悪く、正しい呼吸が出来ていない子供の場合には、口腔機能の適正化とともに理学療法士やスポーツトレーナーの協力も欠かせなくなってきています。“木を見て森を診ず”のような医療からは脱し、今まで常識となってきたことも疑ってみることが必要な時代です。

                   2025,6,24

不正咬合を引き起こす原因を取り除く

 症例発表に向けてスライド作成を行っていると、開業当初の来院患者さんの口腔内には処置歯そして銀歯の装着率が極めて高いことに気付かされる。今でこそ銀歯を選択する方は減って来てはいるが、気になるのは治療が必要となる箇所である。銀歯がセラミックなどに置き換わっても、決して歯が健康な状態に戻ったわけではなく人工物が装着されいるに過ぎないので、何れ接着面が緩んだりすればやり替え、再治療に時期は必ず訪れることになる。奥歯の治療率が高いのは今も昔も変わらず、治療が必要になる根本原因が取り除かれないまま高額な費用を掛けて対処療法に終始しているケースを多く診る。かみ合わせがどのようにむし歯の発生と関係しているのかを理解しなければ、歯の本当の予防には繋がらないというのが持論であり、20数年の患者ファイルから言えることでもある。患者さんの中には、「むし歯になっても治療を受けることで問題なく過ごせているので、今さらかみ合わせを改善させなくても構わない」という方は多くいらっしゃる。勿論それは患者さんの選択ではあるが、口腔筋機能の習癖が不正咬合を作り出し、その代償反応が歯だけではなく全身に及んでいることを理解して頂きたい。姿勢、睡眠障害、発音・咀嚼障害、顎関節症、血圧などへの影響など多岐に及ぶ。但し、かみ合わせの改善は一日二日で行えるものではなく、薬を服用して解熱するのとはわけが違うので、即効性がないが為に頭で理解できても治療まで検討される方はそう多くないというのが現実である。であるからこそ、成人になる前に、不正咬合を引き起こす芽が出てきたところでその根本原因を取り除き、成長の適正化を進めることが求められているのである。

                   2025,6,23

誰のための医療ですか?

 子供達の不正咬合を引き起こしている根本原因について学びを深めていくと、矯正治療などを考えたこともない患者さんからの素朴な質問に、明快に答えることが出来る。どういうことか。例えば舌の可動域が狭く、下顎の歯列弓形態も狭窄しているご婦人から、「朝起きると舌の周りと言ったらいいのでしょうか、歯が当たっているところが痛いんですよね~。これって治りますか?」と質問があり、舌についている圧痕が歯列形態と同じであることを画像で確認して頂き、舌の本来収まる場所、歯列が乱れた原因、口腔周囲筋の筋肉圧、当医院の子供達がワイヤー矯正治療などを行わなくても歯列、かみ合わせが改善していく状態を確認して頂くと、不安そうだった表情が嘘のように和らいでいくのである。人は不安要因の原因が分かるだけで心が落ち着き、気持ちが前向きになるものであり、そのような方は決まって「まさか歯並びの悪さが関係しているとは思わなかった」「今まで掛かっていた歯科医院では全く指摘をされなかった」「私も歯列矯正治療を行った方が良いのでしょうか?」と更に積極的に質問を投げかけてくる。その疑問に丁寧に答え、患者さんの悩み、不安を解消することが、医療従事者の務めであり、時間に追われて患者さんを捌くような診療体制では、決して納得のいく医療は提供できないものと確信している。

                   2025,6,22

母乳哺育

 9/17 10:00~12:00の間で、乳幼児の体重が思うように増加しない、母乳を上手く飲めていない、などの相談を受け付ける時間を設けることにした。この半年間で同様の相談で受診される方が増えており、主訴の中には「小児科では成長曲線の枠には入っているので問題はないと言われたんですが気になって心配なので・・・」という方もおり、診査したところ赤ちゃんがお母さんの乳首をしっかりと上唇と下唇を使って加えることが出来ておらず、その原因として上下の小帯(上唇小帯と舌小帯)の付着異常を認めたのである。母親は自分の母乳の出が悪いと思い込んでいたのだが、実は赤ちゃんの舌を含めた口腔機能に問題があったことが原因であり、しかるべき処置(小帯リリース)をすることでしっかりと哺乳できるようになったのである。世間では小帯リリースに否定的な意見や文献もあり、賛否があるのは承知だが、大事なことは乳幼児一人ひとりは決して同じではなく、どこまで正しく診査を行い現状を親御さんに理解して頂く環境を整えられるかということであり、そのうえで親が判断すべきことである。尚、9/17以前であっても乳幼児の母乳哺育のことでお悩みの方はご連絡ください。

                   2025,6,21

これからの歯科の役割

 「不正咬合を引き起こす原因に潜む身体への影響」~30年の臨床から診えてきた、子ども達、乳幼児への取り組み~ と題して講演依頼を頂いた。ブログにおいて咬み合わせの重要性、不正咬合を引き起こす原因そのものが全身に様々な影響を及ぼしている可能性が高いことを述べてきましたが、世間的な関心も徐々に広まってきた感がある。子供たちの診査においてCT撮影が出来ることは、鼻腔、アデノイド扁桃、口蓋扁桃の大きさを確認できるだけでなく、普段の舌位がはっきりと映し出されるのである。舌が口蓋に触れていないどころか、完全に後方に下がっている状態で確認できるときもあり、当然のことながら見た目は下顎前突傾向(実際には上顎骨の劣成長)となり、仰向けで寝るといびきが出るのでいつのまにか横向きで寝るようになる。鼻腔、咽頭領域の診査診断は耳鼻科領域になるので然るべき医療機関との連携が必要になるが、歯科受診によって機能的な問題点を見つけ出し、成長の適正化さらには睡眠障害のスクリーニングを行えることは、今までとは違うレベルでの役割を歯科が担うことが可能である。発達障害及び発達障害のような症状を呈している子供たちの根本原因に歯科が貢献できる手応えを感じている。

                   2025,6,20

子育て

 仕事を通じて知り合った方が、8月に3人目となるお子様が生まれる予定だという。なんともお目出度いことで、話を伺っているだけで幸せな気分にさせられる。子育てが分からず、育児書などを読み漁っているとのことだったが、「子育てに正解はないよ。子供は育てたように育つ!」と一言伝えると、盃を置いて当方の話などに食いついてきた。子供が出来れば健やかに育ってほしいとどんな親でも願うことであり、それだけで十分と思っていたはずなのに、子供の成長につれて欲が出てくるものなのかもしれない。昨今は子供の塾通いが低年齢化しており、その背景にはお受験なるものが存在していることは誰もが知るところである。親は子供が塾に行っていると安心なのだろうか。塾に通うことで心が成長し、人としての土台が出来上がっていくのだろうか。当方が子育てについて偉そうなことをいう立場にはないが、「7つ、8つ、9つと“つ”の付くうちは子供は親の言うことを聞く。10歳を過ぎると自我が出てきて躾けるのは難しくなる。」ということを、当医院にお越しになる親御さんには言わせて頂いている。土台と骨組みが強固な家は、地震に見舞われてもそう簡単には崩れないが、洒落た家でも土台と骨組みが脆ければすぐに崩れてしまうのと同じで、人間にとっての土台は何かと問われれば、やはり原理原則です。価値観や思考軸を強固なものにするためには、常に「学ぶこと」「知ろうとすること」「考えること」が大切であり、そのようなことは親の生きる姿勢から学び取るものだと思います。

                   2025,6,19

舌をなぜ口蓋に張り付けるのか?

 先月舌小帯と上唇小帯のオペを受けた赤ちゃんはその後毎日朝まで起きることなくよく眠れるようになったと母親から追加の連絡を頂いた。赤ちゃんとは言ってもオペ時に1歳2ヵ月でしたので正確には幼児にはなるのですが、夜泣きがひどく親も眠れないことが親子共々大変だということが悩みで、もしかしたら舌が関係しているのかもしれないという情報を聞きつけての受診であった。最近は歯科医療の現場において、「舌の位置は何処にありますか?」と舌は口蓋に普段から触れているものなんですよ、ということが言われ始めていますが、ではなぜ口蓋に触れていなければならないのかということをセミナーなどで出会った歯科医療関係者に尋ねてみると、多くの方は途端に怪しくなりはっきりとした回答がありません。「〇〇先生がそう言っていたから」「本にそのように書いてあるから」などと、個別の具体的、経験的な事実を集めて普遍的な正解のようにしていますが、本来二足で直立する人間に求められている口腔機能は何かと考えたら、鼻呼吸と嚥下となり、それらが正しく機能するには奥舌が軟口蓋と密着することで口呼吸にならず、奥舌が上方に上がることで喉頭蓋が閉じ、咽頭壁を通過した食物などが食道へと誘導されることになるのです。筋肉の機能に関しては直に動きを目視することが出来ないので患者さんへの説明にも難儀しますが、ここの理解が歯科医療従事者と患者サイドにも大変重要となってきます。

                   2025,6,18

歯医者の務めとは

 歯科治療を多く受けられている方には是非とも考えて頂きたい。同じ歯を何度も治療を繰り返していませんか。治療を繰り返す箇所は奥歯ではないですか?詰め物が脱離した、あるいは高い治療費を支払ったにも拘わらずセラミックの一部が欠けてしまったなど、理由は様々かも知れませんが、なぜ同じ歯なのか、なぜ奥歯に限局しているのかを不思議に思って頂きたいのです。世の中の出来事にはすべて原因があります。その原因を取り除くことをせずしてただ治療を繰り返しても、それは時間と費用の無駄になるだけではなく、身体が発している異常信号を見過ごしていることになります。歯は毎日きちんと磨いているはずなのに、定期検診に行くたびにむし歯の個所を指摘されて治療を受けているなどというのは歯磨きの問題ではない、他に原因が潜んでいるのでは?と考えて頂きたいのです。忙しくて度々歯医者に通院出来ないという方も、将来的に全身の不調に見舞われることがないよう然るべき口腔内診査を受けられることをお勧めいたします。歯医者は歯を削ることが仕事ではありません。一本も治療を受けることなく生涯過ごすことが出来るようサポートすることが歯科医療従事者の務めであり、それは赤ちゃんを診るとことから始まっているのです。

                   2025,6,17

乳幼児の舌小帯の拘縮

 当医院の今後の計画として、9月に「乳幼児の母乳哺育と口腔機能発達の関係(仮称)」なるセミナー及び上手く母乳哺育が出来ていないお子様の診査日を設ける予定です。乳幼児、つまり生後12ヵ月未満であれば無麻酔にて舌小帯、そして上唇小帯のオペを行うことが可能であり、当医院のErCrYSGGレーザーは通常のエルビウムヤグレーザーの波長(2.940nm)より低い2.780nmを発し、水への吸収が三分の一であることが分かっています(吸収されるとパワーが出ないことになります)。先月当医院で行った普段夜泣きがひどい1歳2ヵ月の幼児は、咬む力が既に強くなってきているのと歯の萌出もあり施術がしにくい状況下ではありましたが、無事に舌小帯と上唇小帯を無麻酔にて処置が出来、手術当日の夜から、「朝まで一度も起きることなくぐっすり寝ていました!」と親御さんからメールにて連絡を頂き、1ヵ月経過した今でも以前では考えられなかったぐらい親も朝まで眠れていますとの報告を受けた。舌小帯短縮症及び上唇小帯異常が存在すると、母親の乳房を上手に咥えることが出来ないために母乳を飲めないのです。また歯科的な視点で診た場合には、舌を含めた口腔周囲筋が正しく機能しなければ顎骨が適正に発育することには繋がらず、将来的な不正咬合を引き起こし、その結果的原因である不正咬合ですら舌の可動域をさらに狭くしてしまうという悪循環が続くのである。従って、かみ合わせが悪くなる最初の問題点である舌小帯や上唇小帯異常が存在するのであれば、きちんと評価したうえで拘縮した小帯をリリース(切離)することは、もっと評価されるべきと考えます。

                   2025,6,16

30年掛けて‥‥

 歯科大学生時代に学んだ幾何学的な顎の動きの授業は臨床と結びついていないこともあり全く理解が深まらず、ただ定期試験をパスするだけのための知識習得でしかなかったが、不思議なもので卒後最初に勤めた医院は院長先生が当時の顎関節症の第一人者と言われた先生であり、全国から不正咬合に起因すると疑われる不定愁訴を抱えた患者さんが多く受診されていた。新人の仕事はと言えばもっぱら患者さんの問診を行う日々であり、半年間は患者さんの口腔内を触ることすらさせてもらうことはなかった。院長先生の診査診断方法を学び、臨床の目を養う第一歩をその先生のもとで踏み出せたことが今の臨床に結びついていることは言うまでもない。それから約30年の時を経て、当時の疑問が次々と晴れていくことで患者さんへの説明に説得力が加わることになる。顎の運動をあまりにも細かく、分析的に捉える前に、人の生態学的、生物学的な視点で食べる行為や運動の仕方を認識しておくべきだったと思います。そこに気付くまで30年掛かったということなのかもしれませんが、これからの自分に期待もしております。

                   2025,6,15

猫背、クチャクチャ音は異常サイン

 歯科用CT撮影を診査に用いることで、従来では確認を出来なかったアデノイド肥大や口蓋扁桃肥大の程度を患者さんにお知らせすることが出来るようになっている。CTと聞くと放射線量を気にされる方もおられるかもしれませんが、一回の撮影当たり医科用CT撮影では5~30msVなのに対して歯科用CTは0.1~0.3msVと低く安全です。主にかみ合わせの診査と根管治療の際に撮影を行いますが、最近では子供達の咬み合わせ関連を主訴とした問い合わせが増えており、なかでも口呼吸、舌の可動域制限を抱えたお子様に口蓋扁桃肥大を認めるケースが多くなっています。扁桃肥大が存在すれば気道狭窄に繋がり呼吸はし難くなりますから気道確保のためには頭蓋を前方に傾けた姿勢、つまり猫背になるのです。付き添いでお越しになられる親御さんの中には、「子供の姿勢が悪いのでよく注意するんですけど全然気を付けないんですよ~、この子は!」と問診中に仰られる方もいますが、似たようなお子様がいらっしゃる場合には是非とも注意しないで欲しいのです。なぜならそのような姿勢をとらないとお子様は呼吸がし辛いからです。同じように食事中にクチャクチャ音をたてているお子様も、そのようにしないと食べることが出来ない舌を含めた口腔周囲筋の習癖があるからであり、それらの根本原因を取り除かない限りは本来の機能を取り戻し、正しい身体の成長発育を促すことが出来ないのです。お子様の発している異常サインを見逃さないでください。

                   2025,6,14

不定愁訴の原因はどこにある?

 待合室の椅子に座っている姿勢が既に歪んでおり、母親が問診票に記入している間は口を開けたまま母親のスマホをいじっている。最近では見慣れた光景となりつつあるが、身体の異常サインを発していることに我々歯科医療従事はいち早く気付かなければいけない。口が常に開いていることが主訴でお越しになられたお子様ですが、単なる口呼吸なのか、それとも口唇閉鎖不全によるものなのか、診査するまでもないが、何れにしても我々人間が身に付けるべき呼吸様式は鼻呼吸であり、いち早く原因を突き止め改善させることが望ましい。歯並びが悪くても生活することは出来ますし、そのような方は世の中に数えきれないほどいらっしゃいます。人によっては見た目も含めて歯並びなど気にされない方もいます。当方が訴えたいことは、歯並び、かみ合わせが悪くなった原因を改善しないまま成長すると、その代償反応が原因となって身体に様々な不定愁訴を抱えることになる可能性が高いということです。体調不良に陥り病院通いをするものの、原因不明のまま処方された薬を服用して更に具合を悪くされている方などを診ますと、身体の構造的・機能的回復をしなければ生理機能も改善しないということです。医療が進歩し、医者が溢れるほど存在するにも拘らず、医者通いの人間が減らない原因は何処にあるのか。薬で健康を取り戻すことは出来ないことに人々は早く気付くべきであり、もっと自分の身体と正直に向き合うべきと考えます。多くの原因はもしかしたら・・・。

                   2025,6,13

歯がゆい

 明らかに落ち着きがないのは普段の呼吸が苦しいからに他ならない。ではなぜ苦しいのか。それは気道が狭窄しているからであり、その気道狭窄を引き起こしている原因がどこにあるのかを母親には理解して頂きたい。数年前からお子様を定期的に連れてお越しにはなるのだが、歯並びを気にはするものの、中顔面をはじめとした顔面骨格の発育不良について指摘させて頂いても、現実を受け入れたくないのか理解しようとしないのか、頷くことがない。「姿勢が悪いんですよね~、それが気になっています。」と仰るので、改めてスライドなどを使ってプレゼンをさせて頂くも、口腔筋機能の異常発育と姿勢との関係を理解しようとしない事にはこちらは何もできない。乳歯列がそれなりに綺麗に並んでいるので問題ないと素人判断されているのだろうが、このようなケースをきちんと必要な治療へと導くことが出来なければ臨床医としての意味がない。勿論親の選択だからと言ってしまえばそれまでだが、このままでは上顎骨の劣成長を伴う反対咬合(下顎が前方に位置するかみ合わせ)となり、舌の可動域が狭いことから舌と顎の分離運動が上手くできない状態が続き、筋およびファシアの拘縮によって身体の歪みが生じやすくなると推察する。40~50年前に筋機能の改善を行っていればここまで口腔内も体幹も悪くならなかっただろうな、と思われる患者さんを嫌というほど診てきただけに、なんとも歯がゆい思いである。

                   2025,6,12

自分で取り組む

 久しぶりに競技場の外周をランニングしてみたが、梅雨の天候の影響もあるのか身体が重く感じられペースが思うように上がらない。一旦走るのをやめてストレッチなど入念に行い改めて走り始めると、前方に当方と同じくらいのペースで走るランナーがおり、一定の距離を保ってあとをついていくように走ってみると、これが思いのほかいいリズムで足が動くのである。過去のフルマラソンにおいても誰かの後ろを走ることで、自然とペースが上がり、普段とは違う走りを経験はしているが、なぜ一人の場合はしんどく感じることが多いのだろうか。トップランナーたちはラップタイムを計測することもありハイペースで走り続けるが、ペースランナーの有無によって何が違うかと言えば、目線がほぼ一定にあることで呼吸のリズムを整えやすいのかも知れない。子供達の咬み合わせトレーニングの中には呼吸トレーニングも含まれており、呼吸アプリを用いて目で画面のボールを目で追いながら理想的な呼吸リズムを身体で覚えるように指導している。目標とするところはアプリを使わなくても正しい呼吸を身に付けることであり、あくまで子供達が「自分で取り組む」までの形が出来るまでは大人がサポートをしますが、弱点補強の手段を自分で考えて行けるように、過保護にならないように徐々に干渉を緩めて自主性を促すことも子供の成長には必要です。子供達と2年間トレーニングを通して接することで、頭蓋顔面骨格の適正化と成長と共に、心身の成長を診れることは医療者冥利に尽きます。

                   2025,6,11

自学力

 “自分で課題を見つけ、自分で取り組み、そして課題克服のための手段を複数持って、自分であれこれ考えられる状態になること”を自学というならば、この自学という姿勢が身に付いていない子供達が多いように見受けられる。かみ合わせトレーニングの肝は“継続”であり、きちんとできている子供の共通点は低学年のお子様であっても自分で考え、関心をもってトレーニングに臨んでいることである。では自学を引き出す最大の仕掛人は誰かと言ったら親に決まっています。どれだけ多くの時間を使って子供の頭を掘り起こしているかが重要にはなりますが、子供が相手ともなれば単調になれば飽きてしまうのでここは難しいところでしょう。しかし我が子のことであれば、とことんお子様と向き合って様々なアプローチを仕掛けてお子様に刺激を与え一緒に時間を過ごしてください。子供の“やる気”に頼っては駄目です。少しでもやり続け、習慣化されるとやる気が出てきます。かみ合わせトレーニングを継続することで集中力も高まり、顔面骨格も改善し、さらにはやる気に左右されずに何事も習慣づけていく、これも自学する上では大事なことです。


                   2025,6,10

乳幼児と歯科の関わり方

 乳幼児の体重が増えない、おっぱいを上手く飲めていないなどの問い合わせが増えてきており、いよいよ当医院に助産師さんを向かい入れる時期が来たようである。幸いなことに当医院の診療姿勢に共感してくださる助産師さんが複数いらっしゃることから、皆さまの協力を得て乳幼児の検診も定期的に始めたいと考えている。なぜ現状のような歯科医院になって来たのか?それは純粋に求められているものを追求してきたからに過ぎない。むし歯を抱えた口腔内になりたくないから歯科医院に通っていたにも拘らず、むし歯を作って歯を削られた。自分は歯列矯正治療を経験したので子供には同じ思いはさせたくないと思って定期的に通っていたにも拘らず、そろそろ矯正治療を考えたらどうですかと提案されるのはなぜ?など患者さん側に疑問もあれば、治療する側からすると、どんなに丁寧な治療を時間をかけて行っても、必ず再治療をする時期はやってくるという何のための治療なのかというやるせない思い。それらの根本的な原因はかみ合わせにあり、そのかみ合わせが理想から遠ざかる根本原因は舌を含めた筋機能の習癖であり、そのスタートが乳幼児まで遡るということである。母乳が上手く出ない多くの原因は母親側の原因ではなく乳幼児の口唇と舌の使い方にあり、それらの診査には経験もある助産師の助けが欠かせない。当方の説明に矛盾があれば患者さんは継続してお越しになることはないはずであり、引き続き新たな領域の研鑽を積んでいく所存である。


                   2025,6,9

不正咬合の原因除去

 上顎骨が十分に前方に成長出来ていないと上顎前歯の歯列は直線的になり、場合によっては歯が重なる状態(叢生)となる。なぜそのような状態になるのかを考えずしてただワイヤー矯正やマウスピース矯正をしたところで、矯正治療が終われば後戻りが生じてくると考えるのは自然である。更には上顎骨の前方成長が抑制されたことで舌のタングスペースが狭くなり、舌が後方に位置するようになることで咽頭気道も狭くなり、呼吸障害を引き起こす環境になります。不正咬合の発生機序を辿っていくと、頭蓋骨の成長発育に問題があるからその結果として歯並びが悪くなるということが分かってきます。歯並びが良くない子に診られる共通所見に鼻詰まり、鼻閉がありますが、上顎骨を含めた鼻上顎複合体の前下方への成長発育が進まなければ、鼻骨の解剖学的な大きさも拡大されないため、鼻の通りも悪くなると考えるのは自然なことと思われます。従って、何よりもまずお子様の歯並びが気になっている親御さんに理解して頂きたいことは、下の前歯の歯並びが悪いからと言ってそこだけを問題視するのではなく、そのようになった根本原因は上顎が本来の大きさに拡大成長していないことにあり、ではなぜ上顎骨が大きく成長していないのかを考えて頂きたいのです。その原因を取り除くことこそ不正咬合治療の原因除去になるのです。

                   2025,6,8

教育の基本

 毎朝の早朝ランニングを継続していると、先週までは少し肌寒く感じる中を爽快に走っていたが、昨日ぐらいから梅雨の始まりを思わせるジメジメ感のなかを走ることになり、掻く汗の量が増えてきたことを体感する。最近は四季ではなく夏と冬の二季に移行していくと指摘する気象学者もいるが、この梅雨だけは相変わらず存在し続け日常生活を不快なものへと導いていく。道端に咲く紫陽花は梅雨の季節を彩る美しい花で、毎年足を止めスマホを向けて撮影し、オフィスのパソコン画面を飾っています。紫陽花の名前の由来や花言葉、色の変化など、興味深い話題がたくさんありますが、最近では「家族の結びつき」「団らん」といったポジティブな意味も広まっていますそうです。当医院には小さなお子様を連れてお越しになられる親御さんが増えて来てますが、待合室での親子の会話などから各ご家庭の雰囲気が伝わってきます。かみ合わせのトレーニングは毎日の継続が必ず結果として付いてくるのですが、親御さんの中にはお子様に注意を含めた指導へ上手く誘導できない方もいらっしゃいます。「先生から強く行って頂けませんか~、私の言うことは聴かないんです!」という親に決まっていうことは、「7つ、8つ、9つと“つ”の付くうちは親の言うことを聞きますから躾をするなら10歳前までが大事ですよ!」である。絆、団らんと仲良しは異なりますから、時には厳しく接することがあっても良いのではないでしょうか。教育の基本は家庭にあり!


                   2025,6,7

初診診査

 初診の方は口腔内の診査と共に口腔内写真撮影、レントゲン撮影、場合によっては嚥下の様子を動画撮影し、手際よく資料採りを行います。肉眼による視診では限界がありますのでマイクロスコープを使った口腔内診査では、詰め物や被せ物の適合状態まで確認し、歯の咬耗状態などからも現状に至った原因と予想される予後についてお話をさせて頂きます。その結果、それら資料をお見せしながら口腔内の現状をお伝えしていると、「えっ、むし歯ですか?3ヵ月ごとに検診で通っていたのに前の歯医者では何も言われませんでしたけど・・」「歯石ってそんなに直ぐに付くんですか?」「ゴムのシートを使った治療など受けたことはないですよ」などと言われることが多々ある。決して過去に治療したドクターに忖度して言葉を濁すことはせず、正しいことをお伝えしているだけではあるが、目の前に映る状態の悪さに驚きを隠せないといった方が少なくない。例えば30年以上に受けた治療であれば今とは治療技術も治療に対する考え方も異なるので致し方ない部分と、30年間症状もなく過ごされてきたという点において評価すべきと当方は判断するが、数ヵ月前に受けた処置にも拘らず、心無い治療痕を目にすると同業者としても心苦しくなる。また画像や動画を使って患者さんも確認できることは、何ら嘘偽りのないことをお伝えすることが出来るので、現状を把握して頂く上では非常に役に立つ。治療の有無も含めてどうすべきかを決めるのは歯科医師ではなく患者本人であり、素人である本人が理解できるようなプレゼンをこちら側は提供しなければならない。

                   2025,6,6

脳はアナログ

 世の中のデジタル化がさらに進んだとしても、我々の脳内システムは永遠にアナログである。しかし結論だけを早く知りたがる欲求はデジタル張りになっているようである。映画、ドラマ、アニメなどを手軽にサブスクで視聴し、早送りで観るのが当たり前のような会話を耳にする。時間を効率的に使う言わば現代の生活スタイルでもあるのかもしれないが、途中の展開をワクワクしながら過ごすこともなくいきなりメインディッシュが出てきて、それで満足できるのだろうか。治療前後の説明において、妙に納得顔で頷きながらこちらの話を聞いて下さってはいるものの、会計時の受付で、「私の説明を聞いていましたか~?」と尋ねたくなるような質問をされる方が中にはいらっしゃる。素人であるので説明全てを理解できるとは思ってはいないものの、前菜にもっと時間を掛け、お口直しをしたうえでメインディッシュの説明に誘導できれば、脳内定着率は上がるのかもしれない。セミナー同様に、演者がどれだけ素晴らしい講演をされたとしても、参加された聞き手の姿勢如何で受け止め方は様々である。アナログの良さを引き出しながら、真摯な対応に徹したい。

                   2025,6,5

乳幼児の舌小帯短縮症と上唇小帯異常

 4ヵ月の赤ちゃんなんですけど、体重がなかなか増えないんです。掛かっている医者には成長曲線の下のほうではあるけれども枠内に入っているので全く問題はないですよ!と言われています。おっぱいを上手く吸ってくれないので一度診て頂きたいのですが‥‥」と数日前にお問い合わせがあり、急遽診察をすることにした。待合室で抱っこさせて頂くと身体は反っており、口は常に開いた状態で舌は口蓋には貼り付いていない。笑って舌を前に出そうとしても舌尖が引っ張られる状態である。お母さんと膝を突き合わせた状態で赤ちゃんを寝かせて口腔内を診査すると、舌小帯の短縮と上唇小帯の高位付着を認めた。赤ちゃんが正しく哺乳するには口唇で乳輪を包み込むように咥え、乳首の先端を硬口蓋と軟口蓋の境目付近まで押し込み、舌を前後方向へ波のように伝搬する収縮運動によって哺乳を開始します。上唇小帯異常や舌小帯短縮が存在すると哺乳に不向きな所以はここにあります。従って母乳が出なかったというのは実は赤ちゃんの舌が正しく機能していなかったために哺乳が上手くできなかった可能性があり、母親には理解を深めて頂き後日ご主人様にも説明をさせて頂くこととなった。歯科臨床に携わって30年以上経ちますが、乳幼児に接する機会がなかったために赤ちゃんの哺乳がどの程度の割合で出来ていないのかは不明ですが、当医院を受診される乳幼児を診る限り舌の機能の適正化が必要な割合は高いと思われます。今後当医院では助産師さんと共に乳幼児を診ていく体制に移行することになりそうです。

                   2025,6,4

医療の質

 昨年11月に徳島で開催された睡眠歯科学会で講演された演者の先生のプレゼンの中に、「どんなに我々医師が頑張って治療をしても、良くなる人は10%ぐらいしかいない、という衝撃的な論文があるのでご紹介します」という話があったことが頭から離れないでいる。研究対象の母集団など詳細は分からないので当方が評価できるものではないが、日常臨床における感覚で言わせて頂くとすれば、歯科では歯を削った時点で生涯的には歯を失う方向へ舵を切ったことになるのは間違いのない事実であり、高額な費用を掛けてセラミック材料などで治療をされたとしても、失われた歯が元に戻ったわけではない。従って歯科で優先して考えるべきことは、如何にして歯を削らない環境を整えるかということであり、いつまでも“木を見て森を見ず”的な治療に終始していては、患者さんは歯科医院に通うたびに歯が悪くなる負のスパイラルから抜け出せなくなる。皆さんにはよく考えて頂きたい。一日の診療時間が8時間として、一人のドクターが診て治療することが出来る人数が8人の医院と、倍の16人、更にその倍の32人だった場合に、一人の患者さんへの説明と処置に要する時間はそれぞれ如何ほどになるのかを想像して頂けると、そこに日本の医療の問題点が浮かび上がってくるのである。我が国の保険制度は患者数を多く診なければ保険点数が上がらず収益が上がらない仕組みであり、結果的に一人ひとりの患者さんに割く時間が減り、結果的に医療の質の低下と医療への不信感が募ることになる。状態が悪くなってから手を施すのではなく、子供達の発している身体の異常のサインを見過ごすことがないよう注意深く観察するには、マニュアル的な診査方法では到底無理である。

                   2025,6,3

所見ファイル

 最近の診療における患者さんへの説明において、舌を含めた口腔周囲筋の機能について解説をしないことがない。なぜなら治療が必要となった歯の原因を遡って説明をするとほぼ咬み合わせに原因があり、そのかみ合わせに至った原因までを患者さんに理解して頂くには筋機能の働きについて理解が必要になるのである。当医院において治療よりも説明に時間を要する理由はここにある。説明だけではなく、患者さんの理解まで到達するにはこちらのプレゼン力が試される場面でもあり、約22年間の当院の患者さんの臨床データとその裏付けともいえる論文を揃えて提示することで、多くの方はその矛盾の無い説明に納得されているようである。但し人間たるものいつまでも記憶できる動物ではない。エビングハウスによれば、新しい情報を学んでも1時間後には約48%を忘れ、1日後には約70%が失われるということですので、当医院では2回目の来院に合わせて初診時に説明をした内容も含めた必要事項を所見ファイルとして作成してお渡ししている。後日、所見ファイルを読み込んだ患者さんから質問を受けるが、これが大事なのである。この質問を出来るぐらいご自身の口腔内に関心を持ち、治療の必要性の有無、治療内容の違いなどを文字にて記憶することで個々のデンタルIQが高まるものと確信している。

                   2025,6,2

同じことの繰り返し

 先月お越しになられた患者さんの中には、「奥歯の被せ物が2回外れて再度治療を受けているのだが、歯根にひびが入っていそうなのでこれ以上治療をすると歯が割れる可能性があると前の歯医者さんに言われた。」と問診時に述べてきた。同じ歯の治療を何度か受けている時点でなぜ?と患者さんは思わないのだろうか。それとも歯の治療なんて所詮そんなもの、と決めつけて諦めているのだろうか。被せ物が外れる原因は何か?同じ歯を何度も治療を繰り返す原因は何か?原因を突き止め改善させることが医療であるならば、問題を置き去りにして表面的な上物だけを挿げ替えても、それは臭いものに蓋をしただけである。“木を見て森を見ず”的な処置が繰り返されるのが歯科医療の現場で起きている実情だと、30年以上の臨床経験から残念だが確信している。この患者さんにも一緒に口腔内写真画像を見て頂き、説明を加えながら現状の問題点、現状に至った根本原因を理解して頂きながら、過去の治療履歴と照らし合わせて当方の説明と矛盾しないかを脳内で反芻して頂くことで、原因を改善しなければ再び同じトラブルが生じることを理解、そして納得して頂くことで、当方の説明に一点の曇りがないことを分かって頂くのである。今後必要と思われる治療を受けるかどうかは別として、素人なりに先ずは現状を受け止め理解することがなければ、ただ白衣を着た人の言いなりになるだけであり、時間が経てば不信感だけが募る経験をすることになる。

                   2025,6,1

達成感の無さ

 「全然割の合わない仕事なんですよね~!他の仕事も考えようかと思って~」と4月から新社会人として働き始めた方と美容院のスタッフさんとの会話が聞こえてきた。割が合わない・・・ということは給与が少ないと言いたいのでしょう。ここ最近の労働市場には「嫌な仕事にはいつまでも執着しない」「合わないと思ったらサッと次の仕事を探す」「転職は当たり前」といった考え方が広がっています。考え方だけではなく実際の行動としても目立つようになりました。そんな勤労者の気持ちに合わせるようにして就職斡旋業が活況を呈し、更には転職を後押しするようなサイトやCMが目白押しというような状況です。更に異常にも、退職を希望する本人に代わって勤務先に退職意向を伝えることを一つの業務として請け負う退職代行業なるものまで生まれる始末です。皆さんはこのような社会現象をどのように捉えておりますでしょうか。誰がどうみても理不尽な職場であれば問題外としても、入って直ぐに仕事や職場が自分に合っているとか合っていないとかを正しく判断することなどそもそもできないのではないでしょうか。失敗を繰り返しながらも、それを糧として何回かの成功体験をし、周囲からの賞賛や承認を受ける中で、仕事の楽しさや職場の良さを見出すことが出来るようになるものです。このお客さんのような会話を耳にすると、ちょっとしたことに対する人としての耐性の無さ、育ってきた環境の中において達成感を得るような経験が少なかった、もしくは皆無のまま社会人になったのではないかと考えさせられてしまいます。当方は経営者でもありますので、歯科医療という業務を通じて、当医院の仕事に対する考え方、目指す目標、行動規範といったものに共感、共有できる方と仕事が出来ることを望んでおります。8月からは経験豊富な看護師がスタッフとして加わることが決まっておりますが、歯科衛生士の方をもう一人募集しております。このブログに目を通されている歯科衛生士の方がいらっしゃいましたら、是非とも見学にお越しください。

                           2025,5,31

トインビーの忠告

 国連のパレスチナ代表の方が、「亡くなった我が子の前で母親が泣き崩れている姿を見てなぜ皆さんは黙って見ていられるのですか?」と涙を流し、イスラエルによるガザ地区侵攻を即座にやめるよう訴えていた。第二次世界大戦が終結後、粉争や戦争がこの地上から無くなったことはない。誰もが知るところではベトナム戦争、フォークランド紛争、アフガニスタン侵攻、湾岸戦争など枚挙にいとまがない。先日購入した1957年初版の古本A.J.トインビー著「歴史の教訓」のあるページには、“我々が歴史の教訓を学びとったというときには、それは過去に関する歴史的知識を習得するというだけではなく、そのような知識を修得してからその知識に基づいて効果的に行動するということ、すなわち、我々自身が同じ道をたどり、過去において衰亡した人々がやったのと同じ間違いを犯さずにすむように、その知識に照らして効果的に行動することを意味している。”とあり、先に購入された方が書かれたのであろう赤線が引かれている。トインビーがご存命だったら今の世界情勢を嘆くことだろう。今を生きる私たちは口にはしないものの、もし第三次世界大戦が起これば我々の文明は必ず破壊されてしまうということを知性のうえでは知っていおり、ごく一部の偏狭な考えを持った指導者たちによって平和の定義が歪められていることも理解している。過去を水に流してでもすべての争いごとを即座に止めることを望む。

                           2025,5,30

現状に至った原因を知る

 他院で数年前に歯列矯正治療をされた方が、歯並びの乱れを主訴にお越しになられた。成人矯正治療の9割が程度の差はあるにせよ後戻りすると言われている一例である。成人矯正治療であっても子供達同様に不正咬合に至った根本原因を取り除かなければ、ワイヤー装置やマウスピースを使わなくなれば筋肉の習癖によって矯正治療前の歯並びに戻るのである。長年身に付いた口腔周囲筋の筋肉パターンを変えていくのは頭で理解は出来ても実践するのを継続することが難しい。なぜならそんなことをしなくても生活の質は落ちないからである。来院された方には主訴以外にも気になっていることがあり、自分で唾を飲み込むだけでも咽ることが増えてきたとのことである。顔貌所見と問診から、この方の口腔内における舌のポジションは低位にあることが想像でき、姿勢は猫背で慢性的な首・肩凝りがある可能性があると指摘させて頂き、咽る原因についても舌の本来の動きを解説することで理解を深めて頂いた。この方がこれから先当医院で治療を望まれるかどうかは別にして、先ずは現状と、それに至った原因を本人の頭で理解することが何よりも必要であり優先されるべきことである。それ抜きにして患者さんが納得できる医療を受けることは出来ないものと確信している。

                           2025,5,29

小児の呼吸、気道を診る歯科医療

 なぜ子供達の不正咬合を改善させなければならないのか?母親は我が子の歯並びが気になって相談でお越しになられたが、父親からは「多少見た目が気になるぐらいで今は何ら困ってもいないのだから、何もワイヤーを掛けて歯列矯正をする必要はないんじゃないかと思っています。」とのこと。不思議なことですが、子供の口腔育成治療に関して反対するのは父親が多いのです。以前には、舌の可動域が狭く、舌と顎の分離運動もままならないお子様がいらっしゃいましたが、「食事も普通に食べているし運動も出来ている身体なのだから、本人が咬み合わせが気になるようだったら社会人になってから本人の意思でやったらいいんじゃないの?」とカウンセリング中に話しかけてくる始末。そういう方に共通しているのは、“歯列矯正治療=ワイヤー矯正治療もしくはマウスピース矯正で治療する”という固定概念から考え方を変えられないことです。当医院で取り組んでいる乳幼児から小児の口腔育成は歯並びが悪くなる根本原因を取り除くことであり、従って原因探しが最も重要になって来ます。合わせて親御さん一人ひとりにスライドを使用した丁寧な説明が必要であり、当たり前ではありますが以下同文のようなマニュアル的な説明とは異なります。最近分かってきたことには小児の不正咬合の症状は「小児OSA(閉塞性睡眠時無呼吸障害)」の症状と極めて近似しており、ただ不正咬合を治療するのではなく不正咬合の背後にある問題に対してもアプローチするということなのです。

                           2025,5,28

優先順位

 親は深刻である。子供の滑舌が悪いと感じ、診査を希望されてお越しになったものの、診断結果を聞くその姿に動揺の色を隠せない。無理もない、そんなことが我が子に起きていることをなぜ今まで気が付かなかったのか。今まで掛かっていた歯科では指摘をされなかったのに‥‥。結果には必ず原因があり、その原因を辿っていくと見えていなかったものが診えてくる。滑舌が悪いということは舌の可動域が狭いことを物語り、舌がきちんと挙上できなければ正しい嚥下機能が働かず、更には口蓋の理想的な拡大は望めず、案の定上顎歯列は狭窄を呈している。口蓋骨が小さければ上顎骨も本来の大きさには成長拡大することはなく、鼻上顎複合体の前下方への成長は抑制されるか後下方にのみ成長が進むことになる。口蓋が狭ければ舌は後下方に位置することとなり、気道を確保するためには姿勢は構造的に猫背になることが多い。原因をとことん突き止めると鼻閉と舌小帯の可動域制限が歯並びが悪くなる根源であることが理解でき、滑舌の悪さは舌に問題があることを理解せざるを得ないのである。原因が分かった以上はその原因を取り除くために行動に移すだけだが、塾などの習い事が多いと通院出来ないなど、身体を一番に考える環境が整わない。体幹が整わなければ机に向かっても集中力がそがれるばかりか睡眠障害も伴うことになれば成長ホルモンの分泌にも影響を及ばすことになる。心技体を整えるためにはプライオリティのトップに何が来るべきかを考えるべきである。

                           2025,5,27

読書

 待合室で待っている子供達の中で誰一人として本を読んでいる子はいない。暇な時間が出来るとスマホに手が伸び、おもむろに口を開けて瞬きもせず画面と睨めっこ。至る所で見られる現代社会の光景である。「楽しくなければテレビじゃない」とのスローガンを掲げ、ひたすら「娯楽を追求」の路線を突っ走ったテレビ局には大きなつけが回ってきた。日本は数々の内憂外患を抱えているが、その最たるものの一つが深刻な読書離れとそこに覆いかぶさってきたデジタル化の波である。教育現場においても活字を減らし、絵や写真入りの写っぺらな教科書が普及し、授業にもタブレット端末が当たり前のように導入され、文字情報を読み取ってそれを頭脳や心に焼き付けて蓄積するといった心や精神活動の源になる機会が奪われ、気付けば国際社会においても日本人の学力低下は明らかであり、それと共に国際競争力も低下の一途を辿り、国内においてはおぞましい事件事故が毎日のように発生している。政治家然り、国民受けするようなことばかり発信し続け中身も哲学もない、致命的なことにはしっかりとした国家観すらない人が選挙で選ばれる始末である。経済力が衰えるといった物質的な側面よりも、国民ひとり一人の心の衰え、向上心の欠如が今の日本の足かせであはなかろうか。今一度、幕末維新期の日本人のように読書に勤しむ姿を取り戻し、自国の歴史を学ぶ機会を国を挙げて取り組んだらどうかと提案したい。

                           2025,5,26

新患予約

 当方が歯科医院を開業した約22年前にはマイクロスコープ(実体顕微鏡)が歯科界において出回り始めたころで、根管治療をはじめとする精緻な治療はレベルを格段に上げて行えるようになった。その後それらの機器にはカメラやビデオも装着されるようになり、実際の画像や動画を使って治療内容の説明を行うことで、患者さん側にも状況は確実に伝わるようになったと確信している。我々がお世話になった諸先輩方の歯科医の先生方の時代には、インフォームドコンセントという概念もないまま治療だけを行うことも普通だったのかもしれないが、口にはしないものの治療に対する患者さんの疑問は少なからず存在したのではないか。肉眼でははっきりと見えない箇所が見えることによって治療の精度は当然向上するが、より精密な治療となるがゆえに一つひとつの治療には今まで以上に時間を要することになる。更に丁寧な説明を治療後に画像や動画を見せて行うわけで、一人の患者さんに要する時間が長くなることは容易に理解して頂けるものと考えます。となると、一人のドクターや歯科衛生士が一日の診療時間内に診れる患者数は限られてくるので、当医院では今現在大人の新規患者の受け入れを停止しています。治療枠に空きが出てくるようになればHP上でお知らせさせて頂きますので、当医院で治療、診査を希望される方は申し訳ございませんが今しばらくお待ちください。

                           2025,5,25

修正力

 MLBで活躍する大谷選手のプレーを観ていると、凡打する打席が続いたとしても必ずといっていいほど打撃フォームや打つタイミングを微妙に修正して残りの打席で結果を残す、そんなシーンを多く目にすることがある。その修正力こそが一流プレイヤーの証なのかもしれないが、修正すべきと気付く時点で非凡さを見てとれる。子供達の成長発達における身体の適正化をいつの時点で行うか、それは早ければ早いに越したことはなく、言語聴覚士のSharon moore氏によれば6歳までに少なくとも呼吸の仕方は改善すべきであると指摘する。問題は誰がそれを見抜き、指摘し、診査診断するかであり、当方の考えでは生まれたての乳幼児から歯科医が関わるべきであると考えます。なぜなら赤ちゃんが生まれた時点では頭蓋顔面の6割は完成されており、残りの中顔面、下顔面の成長発育が生後始まるからである。歯科医は口腔を診るという視点で歯並びを診てきましたが、不正咬合になる前段には顎が小さいという問題が起きており、顎が小さくなる原因には舌が口蓋に持ち上がらない、口唇が閉じられないなどがあり、さらに口唇を閉じない理由に口呼吸があり、その口呼吸の根本原因を探ると鼻閉と舌小帯、上唇小帯異常があることが分かってきているので、これらのどこに原因を抱えているかを総合的に診査診断できるのは歯科医であると思うのです。“成長発育の適正化”という視点で診査することが、子供達の将来抱える可能性が高い体幹の歪みや不定愁訴、呼吸障害による低酸素症から生じるADHDなどへのリスク低減に繋がるものと考えます。

                           2025,5,24

自己犠牲の精神

「口が常に開いているのでいつも注意するのですが、目を離すと直ぐにまた口を開けているんです。」と、お子様の咬み合わせが気になってお越し頂いたお母様の言葉。当医院に不正咬合の相談で来院される方からよく聞くフレーズですが、こちらから決まって言うことは、「そうやってお子様を注意しないでください!なぜなら口を開いていないと辛いから開けるのです。」と伝え、だからこそ口を開ける根本原因を改善させる必要があるのですと説明が続く。世の中の出来事には必ず原因が存在して結果がある。その原因にアプローチせずして表面的な部分のみ改善させても時間が経てばメッキが剝がれるようなものである。咬み合わせが悪くなる前には顎が小さいという問題が存在し、なぜ顎が小さいかと原因を辿ると舌が挙上されていないなど複数の問題が浮かび上がってくる。そのような考え方を親御さんに理解し共有して頂くためにはひとり一人向き合って話をする時間が必要であり、紋切り型の診療スタイルでは患者さん側の信頼には到達できない。日本の医療に欠けているのはこの部分であり、抜本的な改革を進めるのであれば医療現場の現実を直視すべきである。目先のこと、利害関係、肩書云々を排除し、日本の将来を案ずるならば少しは自己犠牲を払ってでも変えていく気概がなければ大きな岩はいつまで経っても動きはしない。

                           2025,5,23

スマホストレス

 通勤途中の人の中にはスマホを片手に持つだけでなく、画面を見ながら起用に障害物を避けて歩行しているの見かけるが、皆さんはどう思いますか。人に迷惑を掛けないように行動することがマナーであるならば、現代の通勤風景を見る限りマナーの存在など何処へやらといった感が否めない。前方を歩く人が遅いから右から抜こうにも対向車が来ればそうもいかず、よくよく見ればスマホ画面に気を取られるあまりの迷惑歩行である。電車の乗降時もワンテンポ遅いと気付くとスマホでゲームに夢中など、周囲を気に掛けることなど皆無の様子には唯々呆れるばかりである。四六時中完全にスマホに支配されてしまったスマホ脳では、人がもつ無限の可能性ある能力がスリープ状態になりやしないか。勿論スマホが悪なのではなく、それを使いこなす我々人間の問題なのだが、私も経験上調べものなど用が済んだら閉じれば良いものを次から次へとネットサーフィンに陥ったことはある。全くの時間の無駄であり、意味あるものは脳内には何も残らない。当医院の待合室でも幼児が騒げば直ぐにスマホを渡す親もいて、他人ながら「それでは躾にも何にもならないでしょ!」と聞こえない声で叫んでいる。便利さと引き換えに形に見えない大切なものを年々失っている日本の現状は、結果的には国力の低下につながっている。「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」では済まされない現実を変えていくことは可能なのでしょうか!

                           2025,5,22

乳幼児の小帯リリース

 “もし間違った電車に乗ったら、最寄りの駅で降りて下さい。降りるのに時間が掛かればかかるほど、帰りの料金が高くなります”。これは先日もブログに載せましたが、電車であれば料金を払えば時間は掛かっても目的地に到着します。しかし我々の身体はそうはいかないのです。悪くなってから時間とお金を掛けても多少の症状の改善はみられたとしても元の状態には戻らないのです。健康を損なってから初めて人はこのことに気付きます。もしこのまま放置すれば健全な身体の成長発育に支障をきたすことが分かっている、もしくはその可能性が過去の臨床および文献等から高いと推測できるのであれば、医療関係者はただ様子を診るという消極的姿勢でよいのか一考すべきです。親から見せて頂いた1歳2ヵ月のお子様の就寝中の動画では、舌位は常に低位で口蓋から離れており、夜泣きも酷く毎日が大変であるとのこと。身体の反り返りも強く、普段の呼吸が苦しい状況にあることが予想される。口腔内診査では上唇小帯および舌小帯の異常を認め、ともにリリースの適応と診断し、ご両親様、そして祖母の方にも現状と予後について詳しく説明をおこなうことで理解を深めて頂き、一旦持ち帰って考えて頂いたうえでオペを希望するのであればご連絡を頂く運びとなった。そして本日、当医院にある波長2,780nmを発するEr.Cr:YSGGレーザーにて無麻酔科で処置を行い、出血することもなく無事に終えることが出来た。帰宅後も何ら痛がることもなく普段と変わりなく過ごされており、処置個所のマッサージも嫌がることなく出来ているとのご連絡を頂いた。事前の入念な診査診断が必要であることは言うまでもないが、親御さんのご自身が理解、納得するまでの時間をしっかりと待つことが何よりも大切である。

                           2025,5,21

Can a magnesium-rich diet reduce dementia risk?

 先月来日されたオーストラリアの言語聴覚士の先生のFBには最新の研究論文が頻繁に掲載されているのですが、今回のこの文献にによると、高マグネシウムの食事は脳の老化を遅らせ、認知症のリスクを低減させる可能性があるとのこと。

 オーストラリア国立大学の研究によると、マグネシウムの摂取量が増えると、年齢に応じた脳の低下から保護し、特に女性に利益をもたらす可能性があります。研究者では、40~73歳の6,000人以上の参加者からのデータを分析し、食物繊維の摂取と脳容積と白質病変への影響を追跡した結果、 毎日550 mg以上のマグネシウムを摂取している人は、摂取量が低い人に比べ、脳が55歳までにほぼ1年若く現れていました。

 更に更年期の女性が最大の神経保護効果を経験したことも明らかになり、マグネシウムの抗炎症作用によるものと考えられています。葉物野菜、豆類、ナッツ類、全粒粉などの食品に含まれるマグネシウムは、長い間健康効果で知られてきましたが、この研究では認知症予防の潜在的な役割を示しています。 認知症の治療法がない中で、専門家は脳の健康維持のための食事戦略の重要性を強調しています。

当方は普段のランニングにおいて、足がつるのを予防する意味合いでマグネシウムを多く含んだブロッコリーなどを意識して摂るようにしていますが、認知症予防にも役立っていたとは目から鱗です。

                           2025,5,20

添加物

 賞味期限切れの市販のウィンナーソーセージを使って歯科用レーザーの切削深度や切開面の確認を定期的に行うのだが、今回気になったのはレーザーではなく、賞味期限が3ヵ月も切れているにも拘らず一向に腐敗してこない肉の加工品である。加工品に含まれている防腐剤に相当する添加物がよほど含まれているのだろうか。噂では耳にしたことはあるが、日常的に我々の身体に吸収されているとしたら、生体内で何も害がないとは言い切れないのではないか。食品会社にしてみれば安全との認可を頂いているということにはなるのかもしれないが、消費者側は今一度自分の身体と相談してみては如何だろうか。念のため付け加えておくが、あくまで見た目と匂いで問題ないと判断したのであって、3ヵ月過ぎたものを口に入れたら味そのものは賞味期限内のものとは異なるのかもしれない。今の世の中、一切の添加物、人工物を口にしない日は皆無かもしれないが、短期ではなく長期的に蓄積された物質が我々の身体の細胞にどのような影響を及ぼしているのか、文献ベースで調べる価値はありそうである。

                           2025,5,19

診断力

 知人の歯科衛生士から、「私が見た感じでは口唇は閉じているのですが、その子の母親からは普段口が開いていると言われてます。以前お世話になった〇〇先生にも相談してみたのですが、特に今何かする必要はないのでは?と言われました。どうしたら良いでしょうか?」と相談の連絡を頂いた。的確な診査診断が必要な所以である。従来の子供の口腔内を診るような診査では、目の前の子供に起きている頭蓋顔面発育障害を見逃し、身体を適正化する時機を逸するのである。目の前の患者さんに起きていることを真摯に受け止め対応するのが臨床医であり、過去の知識に凝り固まっていては脳内アップデートがいつまで経っても始まらない。歯科業界も情報過多の傾向にあり、真贋で見る目を持たなければ月刊誌、オンラインセミナーなどに振り回されかねない状況である。医科で解決、改善できない問題を歯科からのアプローチでその糸口を見つけられる可能性が高まりつつある現在、今まで以上に日々の臨床の診断力を研ぎ澄ませ、向上させることが求められている。

                           2025,5,18

習慣

 “他人と自分を比べて考える習慣は、致命的な習慣である”という文言の張り紙を、立ち寄った蕎麦屋の厨房の壁で見かけた。その時は何ら気に留めることもなく注文した蕎麦を食べて店を後にしたのだが、数日後にふと頭に浮かんできたのである。日頃から時間の使い方が下手だと認識してはいるものの身に付いた長年の生活習慣を簡単に変えることはそう簡単ではなく、学会などに参加し講師の先生方のプレゼンを見るたびに、「普段の臨床もある中で、よくもそこまで資料収集や文献検索、症例作成など完璧にできるものだ」と感心していたが、それ自体が自分と向き合っていないことに気付かされた思いである。あのラッセルは『幸福論』のなかで、“他人と比べて自分には才能がない、お金がない、という思考習慣は、死に至るくらい致命的なことだ”と述べています。時間を無駄にしない生き方というのは、とにかく今やるべきことの優先順位を間違えないという、実にシンプルなことの繰り返しなのかもしれません。あの蕎麦屋の店主は60歳代後半とお見受けしたが、人生経験を重ねて思うところがあったのかもしれませんね。

                           2025,5,17

“Lack of Evidence is not Evidence.”

 専門家などで作る研究会が公表した赤ちゃんへの授乳方法の調査結果をNHKのニュース番組で放送していたが、その内容が非常に気になった。2014年と昨年を比較すると、母乳のみ、または主に母乳と回答した母親は78%から51%に減少、一方で育児用ミルクのみ、または主に育児用ミルクを与えていると回答した人は17%から29%に増加しており、授乳の仕方が大きく変化している。番組内では研究会の話として、この背景には共働き世帯の増加などが挙げられるが、10年前と比べるとミルクに対する心理的なハードルも下がっていることが考えられると述べている。ある大学の専門家は、「母乳は栄養価が高く免疫力も高めるなどの数多くのメリットがあり、そうした点を知ったうえで授乳方法を考えてほしい」と指摘されている。さらに「母乳であろうがミルクでも子供はきちんと育つ。大事なことは授乳の時間にスキンシップ、赤ちゃんとコミュニケーションをとること」と述べられていて、口腔機能に関しては一切触れられていない。栄養が取れていれば良いというのは先進諸国での話ではないと私は考える。舌を含めた口腔筋機能が低下、機能不全に陥ることで子供や高齢者、あらゆる年齢層の人々の健康が損なわれていることを認識しなければならない。哺乳瓶では、乳幼児がお母さんの乳首を口蓋に押し付けて口蓋骨に力を伝える代わりにはならない、頭蓋顔面発育障害の一つが不正咬合として現れているのであり、その原因を辿っていくと舌の機能に目を向けないわけにはいかない。“Lack of Evidence is not Evidence.”

                           2025,5,16

歯科用レーザー治療(Er.Cr:YSGGレーザー)

 2年ほど前から当医院の治療にはレーザー照射治療も導入している。HPの項目にその欄は設けていないが、先日治療を受けた患者さんからの指摘もあり、近日中に掲載することにする。お陰様で当医院には治療ではなく定期的な口腔内メンテナンス、経過写真撮影でお越しになる方が多くいらっしゃり、積極的に治療する医院から最低でも現状維持を目的とする医院への理解が浸透してきている。勿論、乳幼児、幼児、そして学童においては頭蓋顔面骨格の正常な発育を促進させるために不正咬合の芽が出始めた際には適正化に努めている。そのような中でやむを得ず治療が必要になった際には、治療の選択肢に歯科用レーザーが用いられることがある。歯科用レーザーには種類があり、Er:YAGレーザー(エルビウムヤグレーザー)、炭酸ガスレーザー、半導体レーザー、Nd:YAGレーザー(ネオジウムヤグレーザー)などが使われており、当医院では通常のエルビウムヤグレーザーの波長(2,070nm)より低い2,780nmを発するEr.Cr:YSGGレーザーため、他のレーザーよりも低い出力で高い切削力を示し、組織に含まれる水分子の瞬間微小爆発によって感染個所を取り除きます。またレーザーの熱には殺菌効果があるため、細菌を原因とする歯周病、根管治療に効果的であり、さらに治癒を促進する効果もあるので小帯切除、歯肉の切開にレーザーを使用すると短期間で治癒する傾向にあります。詳しくはHPに載せることにしますが、理想はレーザーによる治療も必要がない環境を整えることであることは言うまでもありません。

                           2025,5,15

信頼の低下

 「20数万の費用を掛けて約1年前に被せたんですよ~、被せた後からものが詰まると何回もその先生に言ったのですが、フロスと歯間ハブラシで磨けば問題ないって言われたんです。」とは初診患者さんの主訴、というよりは歯科医に対する不信感と苦情にも似た訴えである。通常の診査を実施すると、カメラによる口腔内撮影及びマイクロスコープで診るまでもないぐらい被せ物の不適合状態を確認でき、なぜこの状態で前医が良しとしたのか不思議なぐらいである。「高い費用を掛けてセラミックや白金加金のメタルを装着しても適合が悪ければ何の意味もないですよ!」としか言いようがない。このような診療が日本で行われていることは残念至極であり、歯科医師の技術力、診査診断力の問題ではなく人間性の問題でしかない。白衣を身に纏った人間であれば常に完璧を求めなければならないが、結果として力及ばずということがあったとしてもそれは人間である以上致し方ないと当方は考えるが、これは次元の異なる話である。宣伝文句のように医療機関の広告では“患者さんを家族のように思って!”などの文言を目にすることがあるが、目の前の患者さんを自分に置き換えて診査される身、治療される側に常になって接していれば、今回のようなケースはなくなるはずである。昨今どの業界においても人間力の低下は指摘されており、先ずは家庭教育、そして日本の教育を立て直すことをしなければ、この国はいよいよ立ち行かなくなるのではないでしょうか。

                           2025,5,14

海外で活躍されている方からの刺激

 当医院には海外協力隊として働きながら一時帰国時に検診にお越しになられる方が数名おり、それ以外にも海外でご活躍されている方も少なくない。把握している限りですが比率では8:2ぐらいで女性の方が多く、その方たちと話をさせて頂くと現地で起きている生の情報を耳にすることが出来るので、いつもながら治療時間を削ることになってしまう。そんな皆さんに共通している点は目が輝き、目的に向かって迷いなく仕事されている姿である。派遣された途上国では挫折感を味わう人も多いと聞くが、管理された日本の職場とは異なり、自分の判断や行動が途上国の社会的解決に繋がっていることを実感できるところに最大の魅力があるようである。ではなぜ女性が多いのかということだが、学生の留学率も女性が多いことからも、今の時代は若い女性のチャレンジ精神が高いのか、今までも女性はそうだったのだが活躍する場がなかっただけの話なのかと思わされる。当方の仕事は日々同じような診療をしているように思われるかもしれませんが未だに多くの気付きと学びがあり、臨床に関しては積み重ねてきた経験値と疑問、文献検索によるEvidennce融合、そして世界で活躍、実績を残されている先生方の生の声をオンラインで聞くことできるという刺激は、未知の領域へ誘ってくださる機会でもあり、いつの間にかベテランと言われる領域に入っておりますが、気持ちと脳内だけは若いつもりでおります。

                           2025,5,13

必要な早期治療とは

 素人的には咬み合わせに問題はないとみえる口腔内について、問題が潜んでいることを気付かせることが臨床医の務めであるならば、その説明にはそれなりの準備が普段から必要である。なぜなら説明するだけなら簡単だが、相手が理解、納得できる状況を作り出すには無駄のないプレゼンと時間が要るからである。下顎前歯部が生え変わる小学1年生から2年生の時期に、もし永久歯の萌出するスペースが無いとしたらそれはなぜか考えて頂きたい。親御さんからは、「今まで掛かっていた先生には歯が大きいと言われましたけど‥‥」、「親に似て遺伝だと思っていました」、「現代の子は顎が小さくなっているから」など様々な意見が寄せられる。説明をどこからすればよいか。人類が4足歩行から2足歩行になったことで‥‥と話を始めるときもあれば、頭蓋顔面発育障害の一部という切り口から入るときもある。上唇の裏側にある上唇小帯が上顎前歯にまで伸びていると何が良くないのか、舌小帯はなぜ存在し、それが咬み合わせとどう関係があるのか、など、そのお子様の状態とは無関係そうで実は根本原因であることをお伝えしなければならない。今はパワポや様々なツールを使ってその気になれば説明ができるが、昔の先生方は大変だったことだろう。目指すべき医療は「Health  Care=0」であり、上流の部分に問題があるならば早期に正すことを躊躇ってはならない。

                           2025,5,12

文献と臨床

 当方が大学を卒業した当時は文献を検索するとなったら大学の図書館まで行き、幾らか使用料を払って文献を探し、複写可能なものはコピーをして持ち帰っていた。しかしそれも頻繁になると段々と億劫になり、医局に残っている同級生にコピーを依頼するようになっていた。それが今では世界の論文をいとも簡単に手に入れることが出来、更には英文に行き詰まったら直ぐに翻訳機能で解釈することが可能である。最近では小児の睡眠時歯軋りについて、長年の疑問が解けたような文献に辿り着くことが出来た。具体的には、1)小児の睡眠時歯軋りは、鼻呼吸障害、舌の可動性の制限、扁桃腺の肥大と関係していた、2)舌の可動制限は小児の歯軋りの独立した危険因子であることが判明した、3)扁桃腺肥大、舌の可動制限、鼻閉は小児の歯軋りに相乗効果を及ぼす可能性がある、とのことである。文献というのは賞賛されるものがあれば反対意見を述べるものもあり、最終的にどちらの論文を選択するか、正しいと判断するかといえば、当方の臨床において起きていることを裏付けるほうである。臨床医は論文と臨床の現場で起きていることを常に照らし合わせる意識を持つべきであり、真摯に臨床と向き合ってさえいれば、自ずと結果は見えてくる。

                           2025,5,11

目覚め!

 親は子供の身体を考え不正咬合を改善させることに必死であるにもかかわらず、子供が取り組むべき毎日の咬み合わせトレーニングに向かう姿勢に真剣身が伝わってこない。理解が難しい幼児ならばいざ知らず、小学高学年ともなれば意識次第で変化を起こすことは可能な年齢である。今月も課題の達成率が6割に満たなかったら今後のトレーニングの打ち切りを提案させて頂くと、朝の院内ミィーティングで担当スタッフにも伝えた。なぜならこのまま当医院に足を運んだところで成果は上がらないだけではなく、費用を頂いているにも拘わらず結果が伴わなければトラブルの種にもなり兼ねないからである。夕方の予約時間に来院された女の子が持参した記録表には、毎日全ての項目を達成したチェックが記入されていた。“‥‥本当に?”とスタッフと私の脳裏に一瞬過った疑いは杞憂に終わった。「〇〇ちゃん、やっと目覚めたか!」の声掛けに満面の笑みで返してくれたその表情に院内は爆笑の渦に包まれ、辛抱強く我が子が行動に移すまで待たれた親には流石の思いである。「咬み合わせトレーニングは口だけではなく、子供の生活習慣の改善にも役立っています!」とのお言葉に、スタッフ一同救われた思いで一日の診療を終えることが出来き、子供達の頑張りが我々の原動力となっていると再認識させられた。

                           2025,5,10

読書量が民度を決める

 連日のように通り魔的な事件が発生し、物騒な世の中になってきたと良識ある国民は思っている。犯人に共通することは何か存在するのか、対策を取れと言ったところで何に対する対策か、このような類の事件はいつ頃から増加傾向にあるのか、など人間社会の荒廃が端的に表れてきているように思えてならない。むかし日本は読書立国と言われ、江戸末期、江戸に来たイギリス人達は、普通の庶民が本を立ち読みしている姿を見て「この国は植民地にできない」と早々に諦めたという。なぜなら、「自国を統治できない無能な人民のためには我々が代わって統治してあげる」というのが植民地主義の論理でしたが、庶民が立ち読みする光景に民度の高さを悟ったからだと言われています。年々書店の数は減り続け、年間一冊も本を読まない大学生も存在し、多くの日本人の活字離れが進んでいる。齋藤孝先生の書かれた本には、「語彙力の乏しい人には、自分の意識と言葉が自由にならないもどかしさが常にあり、どうしていいかわからず、その結果、周囲に感情をぶつけやすくなる」という一文があります。母語をしっかりと身に付ける家庭教育の見直しと学校における正しい日本語の習得、日常生活の中でストレス耐性をいかにして高めるかなどは、歴史的時間でみれば少し前の日本を取り戻せば良いだけのことであり、特別難しいことを取り入れるまでもない。「7歳児の子供達の読書量が、20年後のイギリスの立ち位置を決めることになる」と言ったブレア元首相の言葉は的を得ているとしか言えない。

                           2025,5,9

身体の異常サインを見逃すな!

 当方の拙いブログをお読みいただいている方には、“不正咬合の原因は舌にある”となんとなく頭に定着していることと存じます。低位舌は口腔発達のみならず全身発達に悪影響を与える最も大きな因子であると考えており、主に乳幼児期に生じた鼻閉塞や舌小帯短縮症、上唇小帯異常の代償として生じた現象であると捉えております。従ってそれらの要因を放置すると、口腔顔面筋機能障害を生じさせ、さらに頭蓋顔面の硬・軟組織の形成に悪影響を及ぼすことになります。身体はご存じの通り複雑な仕組みで構成されており、悪循環は順番に起きるのではなく同時に複雑に絡み合いながら進行していくため、診査は全体像を踏まえつつ整理する必要があり、医療従事者側の総合力が求められます。来院されたお子様の待合室での姿勢、口唇の開き具合、診療室に入る際の歩行姿勢などから口腔内の状態は推測可能であり、そのような普段の無意識下での状態に改善すべきポイントが多く含まれています。お子様の咬み合わせ、体調不良などでお悩みの親御様には、普段から口唇は閉じているか、上唇が富士山型を呈していないか、食事の際にクチャクチャ音を立てて食べていないか、いつもうつ伏せ寝をしていないか、など見慣れた光景の中にある将来的な身体の異常なサインを見逃さないでください。

                           2025,5,8

口腔筋機能療法だけでは・・・

 2年間の咬み合わせトレーニングを終了しても、目標としたゴールにまで辿り着く子供もいれば思うような結果にならない子供がいる。その原因は何かといえば、不正咬合に至る根本原因にアプローチ出来ていないからである。歯および顎が大きくならない原因に低位舌、お口ぽかん(口唇が閉じない状態)があるが、そのことによって何が問題になるのかを親御さんはしっかりと理解しなければいけない。いくら筋機能療法と呼ばれる治療、トレーニングを行っても、それらが生じる根本原因を正さなければ筋機能は改善しない。成果が上がらないケースの多くは鼻閉や舌小帯短縮症及び上唇小帯異常を放置したまま形だけのトレーニングを行うからである。成長途中にある子供達の不正咬合を改善させるためには、歯並びだけをワイヤーやマウスピースを使って治療を施してもほぼ後戻りが生じる。それはしつこい様だが根本原因を取り除けていないからであり、生体に起きている不自然な動き、生理反応を見逃してはならない。結果的原因は代償反応の産物であり、代償反応には必ずその原因が存在する。将来を担う子供達の健康を取り戻すためには、確かな診査診断と親の理解が不可欠である。


                           2025,5,7

変えていく勇気を!

 お子様は、普段から、またちょっとした拍子に口が開いていませんか?食事の際、クチャクチャ音を出していませんか?普段の姿勢が気になっていませんか?猫背でいることが当たり前ではないですよ!うつぶせ寝ばかりしていませんか?

                            “If you get on the wrong train, 

                                      get off at the nearest station,

                                     the longer it takes you to get off, 

                                the more expensive the return trip will be.

                           2025,5,6

Oral dysfunction as a cause of malocclusion(不正咬合の原因としての口腔機能障害)

  臨床経験を重ねるなかで、理屈ではなく現場で起きていることへの疑問が解決されないまま時が過ぎてきた感がありましたが、2019年に発表されたDr.Linda D`Onofrioの文献内容は、当方の臨床の疑問とそれを解決へ導く指南書であります。言語聴覚士である彼女は論文の中で、妊娠期母体の健康・乳幼児期における最適ではない母乳育児がOrofacial Myofunctional Disorders(OMDs):口腔顔面筋機能障害を引き起こし、その結果顎が拡がらず、歯並び、かみ合わせ状態も悪くなる、さらにその代償として咀嚼嚥下障害や睡眠時無呼吸、その先の更なる代償として心疾患、脳血管疾患などを引き起こすという、生涯にわたってのネガティブな連鎖が続くと語っています。つまり、最初は鼻づまりや舌小帯短縮などほんの小さな問題だったものが、解決されないまま雪だるま式に問題が増え大きくなり、人生の後半では歯の欠損、全身疾患の悪化、体幹の歪みなど後戻りできない状況になり対処療法を繰り返すという仕組みです。何らかの原因により引き起こされた代償は、さらに悪化させる因子になるということです。学童期以後はこのOMDが問題の最も上流にあるものとなり、持続的に影響を及ぼしていきます。従って、人生のどの時点で治療を始めたらよいかと考えて頂けたら自ずと理解して頂けると思います。

                           2025,5,5

子育てのスタイル

  耳にすることが多くなった「ダイバーシティ」「インクルーシブ」は、響き自体は新しく聞こえますが、その意味自体は広く日本でも醸成、大事にされてきたものです。当医院にお越しになられる子供達を診ていても様々であり、得意なことと苦手がある子、あまり積極的に話をしない子、そして障害のある子などがいて、子供達はいろいろな差異の中で生きているのだと気付かされます。多様性尊重が過大に叫ばれるようになった背景には、もしかしたら外国人の増加による価値観の違いもあるのかも知れません。我が子を育てるにあたって総論では多様性を尊重しつつも、いざ自分のこととなると別という方もいらっしゃるのではないでしょうか。多様よりは同質が安心という姿勢が、小学校や中学校の「お受験」を通して当方には映ってしまいます。いろいろな特徴を持った生徒と共に学び生活するからこそ、子供達は互いに様々な学びを得、違いがあるそれぞれを仲間として認め合い、ともに成長していくのです。親の許容値が狭い、価値観を押し付けるような教育では、子供達の潜在的な能力が伸びないのではないかと考えさせられる場面に遭遇することがあります。子供の成長は数値化できませんから、形に見えないと今の親御さんはどこか不安なのかもしれませんが、“余計な口は出さず、手も出さず、しかし目は離さず”というスタンスでお子様を見守る余裕が欲しいですね。

                           2025,5,4

虐待、ネグレクトと口腔機能発達不全

  子供の虐待は、虐待死の7割は3歳未満の子供に生じており、これははるかに多くの子供達が虐待の危険性にさらされていることを推察させる。虐待、ネグレクト=親の問題、と世間は受け止める傾向にあるが、子供の育てにくさからくる親のストレスの背景には、子供の口腔機能不全が関与していると診る歯科医は意外と多いのではないか。虐待の分類と定義と兆候を調べてみると、1)身体的兆候の中には栄養不良による体重増加不良、低身長、喘息などの継続管理が必要な疾患、2)多動、衝動性、愛着行動の不自然さ、3)乳児の哺乳や食事に困難があると、無理矢理飲ませる、食べさせるために損傷が起きる、他とある。舌小帯、上唇小帯の付着異常により乳幼児の舌が口蓋に上がらなければ母親の乳首を抑え込む込むことが出来ないので上手く吸啜できない状態となり、体重増加不良の一因となる。鼻呼吸をするためには同じく舌の後方が挙上して軟口蓋を塞ぐことが必要であり、それが出来なければ口呼吸が身に付くこととなり、舌圧による口蓋および上顎骨の本来の成長拡大が進まないことになり、生理学的にも十分な酸素が身体の隅々の細胞に供給されにくい状態となって注意欠如・多動症(ADHD:Attention-deficit/hyperactivity disorder)を引き起こす要因となると考えられる。人間、呼吸が上手くできなければどうなるかを想像して頂きたい。苦しくなって身体を捩じらせたりして何とか気道を確保させて空気を吸う行動にでる。それが乳幼児、幼児に起きているとしたら、夜間は夜泣きなどの症状を呈して親も満足な睡眠を得ることが出来なくなり、ストレス過多となって親自身の身体的、精神的な疲弊を来すことに繋がる。虐待に至る背景の一つには、乳幼児の舌小帯、上唇小帯への適切なアプローチが施されていないことで、子育てがし難くなっている可能性を日々の臨床現場で感じている。当方の現状における舌小帯短縮症(舌癒着症)および上唇小帯付着異常への見解としては、慎重な診査と親御さんのご理解の上、適切なリリース(切離)を行うべきと考えます。

                           2025,5,3

口腔機能の最適化をする時期はいつ?

  口腔機能の最適化を行うには当たり前のことではあるが口腔機能が正しく機能しているかどうかを診査しなければ分からない。「口腔機能発達不全症」という病名が保険収載されても一般の方にはピンとこないでしょう。公的健診の目的の一つは、罹患していないと思われる人の中から、罹患している可能性のある人を大まかに選別するスクリーニングにありますが、成長の早い乳幼児の場合は継続的な細かな診査記録を残すことで、口腔内の比較診査することが可能です。口腔の変化はまず、5~6ヵ月では授乳を受けているのでまだ歯は生えていません。口蓋は母親の乳首をくわえ込むために吸啜窩が存在します。7~8ヵ月で下顎の前歯が生えてきます。吸啜反射は終わり、離乳食の開始時期になります。9~11ヵ月では上下の前歯が生えてきて、口唇と舌の動きが分離されやすくなり、食べ物を口唇で取り込んだ後、口唇をしっかり閉じて舌で食べ物を処理するという動きが獲得されやすくなります。次に12~15ヵ月で乳臼歯が生えてきて、前歯で咬み切り、奥歯で食物をかみつぶすという歯を使った咀嚼が獲得されます。18ヵ月になると乳犬歯も生えてきて、食べられる食品の幅も広がっていきます。そしてこれらの過程における口腔内の変化をかかりつけの歯科医院で写真撮影をするだけでいいのです。歯並びは勿論、顎の大きさが適切に大きくなっているかどうかを点ではなく線で診ることで、適切な指導に役立てることが出来るのです。

                           2025,5,2

効率を求める社会

  ベテラン保育士さんから伺った話は、現代社会のどの業界においても通じる内容と思われた。経験の浅い保育士さんたちの研修において、子供を観察することや、それらをどう記録するかを講義したところ、「たくさんの記録を書くことは事務量を増やすことになり、効率が悪い」との声が上がったというのである。確かに記録を書くという作業は手間暇の掛かることであり、便利なアプリでも使えば「らしいもの」にはなるかも知れません。当方が新社会人になったころはカルテ用紙に患者さんの言葉をそのまますべて書くように院長先生に指導を受け、今でこそレセコンに変わったものの、要約ではなくそのままをすべて書くことで脳内に患者さんの主訴を焼き付けることが出来ている。その保育士さんによると、他の園ではコピペと思われる記録も出てきているという話も聞いているとのことで、事実よりも効率のほうに価値を置く社会の一端をみるようである。なにせフェイクニュースも繰り返し大合唱すれば本当になってしまう世の中である。そんな世の中で人間としてまともに生きていくには、常に自分と向き合うことが求められている。

                           2025,5,1

臨床の現場で何が起きているのか

  情報の真否を如何にして判断するか、これは専門外の人にとっては至難の業である。当医院でも必要に応じて行う「舌小帯短縮症」「舌癒着症」「舌強直症」と呼ばれる舌の可動域を拡げるオペに関しても、ネット上では様々な意見が飛び交っている。「もっと早く知っていればよかった」「手術は受けたものの、思っていたほど変化がない」など賛否もあり、舌のことで指摘を受けた方の中には何を基準にして判断したらよいのか分からなくて相談にお越しになられ方もいる。否定的な意見を持つ医療関係者に共通しているのは「エビデンス(科学的根拠)はあるのか」ということであるが、数日前のブログにも載せましたがLack of evidence is not evidence.(証拠がないことは証拠ではありません)”というのが30数年臨床の現場を診てきたものとしての率直な感想であり、それが真実でもあります。白衣を着ている人間が初めて診る患者さんを目の前にしてどれだけ注意深く全体をそして細かなところまで診査診断出来ているのか、今の医療に欠けているところはそこではないのか。持ち合わせている診断および治療の引き出しでは対応できないからと安易に「様子を診ましょう」と患者さんに言ってやしないか。分かっていないところをどうにかする目を持たなければ医療の現場は変わっていかない。誤解があるといけないので付け加えておくが、決してEvidenceを軽んじているのではない。

                           2025,4,30

関心の向いた時でないと・・・

  “嚥下(えんげ)”はあまり耳にしない言葉かもしれませんが、問診及び治療説明など行っていると患者さんから「あまり気にはしていなかったのですが、最近咽ることが多くなった気がします」「子供の頃から錠剤が上手く飲めないんです」といった声を聴く機会が増えてきた。その背景には、歯の治療をきっかけにその歯が悪くなった原因を遡て考えて頂くように解説を加えていると、ほぼ全員の方が説明が腑に落ちると仰ってくださり、今まで疑問に思っていたことを矢継ぎ早に聞いてくるのである。その過程において舌を含めた口腔周囲筋の筋肉の働きについて説明を加えると、嚥下、誤嚥、嚥下障害について深掘りした内容になるのである。多くの方は加齢とともに筋力が衰えて飲み込みにくくなると思われているが、そうではなくて元々上手く飲込み(嚥下)が出来ていない方が加齢という要素が加わることで、誤嚥しやすくなるのである。原因をさらに辿ると、ではなぜ嚥下が上手く出来ないのか?ということになる。そこで舌の可動域が問題として挙がってくるのである。人は誰しも疑問を持った時でないと真剣に考えないものであり、関心がないときにこちらがどれだけ熱弁をふるったところで心には響かない。そんな経験を多くしてきたからこそ、その経験が今生かされている。

                           2025,4,29

乳幼児の口腔機能回復

  「赤ちゃんの口が常に開いている状態は普通なのでしょうか?」と電話での問い合わせを頂いた。電話無料相談室ではないので基本的にそのような問い合わせにお答えはしないが、受診される乳幼児、およびそのような主訴で受診希望をされる親御さんが増えてきている。背景にはネットで得た情報をもとに本当のところはどうなのかを知りたいのだろうが、先ずは受診して頂き実際にお子様を診察させて頂かなければ、なぜそのような状態になるのかを説明して理解して頂けないのである。以前お越し頂いた7ヵ月の乳幼児は、当医院の待合室で眠っていたのでそっと下顎を引いて開口させてみると舌が口蓋から離れており、舌の根元を触診すると明らかに舌小帯が短く、舌小帯の拘縮による口呼吸が引き起こされている状態であった。人間は鼻呼吸する動物であり、口呼吸では本来の身体の生理的機能が働かなくなるだけではなく、舌圧による顎顔面骨格の拡大成長を抑制させてしまう結果となり、顎が小さく歯が入りきらなくなって数年後には不正咬合が出来上がるのである。ここで皆さんに伝えたいことは、歯科的な不正咬合も問題ですが、不正咬合に至る原因を遡って考えて頂くと、それらの原因一つひとつが悪い姿勢や将来的な体調不良及び不定愁訴の原因になっていることです。当医院では乳幼児の口腔機能回復のために、必要ならば舌小帯およびFasciaのリリースをご提案させて頂いております。子供達の成長は待ったなしです。“様子を診ましょう”などといって身体の成長を適正化する時期を逃さないでください。

                           2025,4,28

“The Enemy of thriving is arriving.”

  世界的に著名な耳鼻咽喉科医の講演は衝撃的な言葉から始まった。「メディカルスクールで学んだことの半分は、卒業後5年以内に完全に間違っているか、時代遅れであることが分かります」。ー“The Enemy of thriving is arriving.”‥‥20%頭の中で新しい発想があって、80%日々のルーティンをしていると、なかなか成長は出来ないーでは、これをどうやって80%New thinking、20%をExisting thinkingにできるかというマインドセットの変化が非常に重要になってくると言われているが、本日の演者は正にこの考え方を実践されている稀有な先生である。いざ自分を振り返ってみると、良くないと感じながらも日々の臨床に追われている部分が少なくなく、20%だけではないものの前者に当てはまるようである。しかし、以前であれば歯科領域ではないと決めつけていたような症例でも、歯科からのアプローチで改善の道筋を患者さんに提供できるところまで来ていることもあり、日々“New thinking”が当方の脳内を覆いつつある。ある意味では道なき道を進むようなところもあり、前進には勇気も求められるが、演者の先生には背中を押された思いである。30年以上の臨床経験を積んできても新鮮な気持ちで患者さんに向き合えることに、自分の可能性を信じたい。

                           2025,4,27

子供達の正しい成長発育を願って

  「Health care=0」を本気で目指すのであれば我々の身体に備わっている本来の機能を取り戻すべきであり、その歯車が狂い始めた初期の段階に医療関係者が必要最小限の介入で済むような医療体制に変えていかなければならない。つまり真の意味での予防である。薬を処方するのが医療ではなく、根本原因を断ち切るために結果的原因を分析し、そこまで悪くなる前には何が問題だったのかを追求する、どこまでも原因を追い求めていかなければならない。子供達の不正咬合を改善させるため、そして不正咬合にならないようにするために、徐々にすべきことが明らかになってきている。不正咬合でいえば、ワイヤーやマウスピースなどの装置を使って歯列を動かしたところで、かみ合わせが悪くなった原因がなくなったことにはならない。不正咬合の原因を探るなかで、舌の可動域、機能が呼吸、姿勢、自律神経系他多くの身体の器官、組織に主体的な影響を及ぼしていることが、一部の耳鼻咽喉科医、歯科医のあいだで共通認識となってきている。就寝中のお子様は穏やかな顔で仰向けで寝ていますか?それとも毎晩横を向いて寝ていますか?もしかして鼾(いびき)もしていませんか?それらの原因を理解できれば、お子様が健全な発育下にあるかどうかは診えてきます。お子様は身体の様々な情報を発信していますので、何か気になる点があれば、お問い合わせください。

                           2025,4,26

Lack of evidence is not evidence.(証拠がないことは証拠ではありません)”

  歳を重ねたことで健康観が変わってきたのだろうか。初診から10年以上経過した今、「最近よく咽るんだよね~、先生が以前から言っていた舌のことって、この事と関係があるのでしょうか?」と定期メンテナンスでお越しになられた方が、担当歯科衛生士に質問をしてきた。更に「膝も急に悪くなって手術しないといけないって言われているんです。」とのことである。“咽る=舌の筋機能低下”でもあるが、元々舌を含めた口腔筋機能が正常に機能していないところに加齢という要素が加味されたことで、以前の異常嚥下が嚥下障害(誤嚥)になりやすい環境になってきているのである。幼少期から舌の正しい機能が獲得され可動域が確保されていれば、頸椎の歪みや肩の歪み、そして体幹の歪みも最小限で済むところが、舌の可動域が狭いことで食べ物を上手く咀嚼することや活舌良く話をする機会も失われてきたと言えるのではないか。Lack of evidence is not evidence.(証拠がないことは証拠ではありません)”。子供の頃から一人の人間を数十年にわたって経過を追うことが難しい中で、どのようにしてEvidenceを作り上げていくか。今、歯科は変わろうとしている。歯科からのアプローチで、世の中の不定愁訴を改善できる可能性が見えてきている。週末にはアメリカから著名な耳鼻咽喉科医が舌に関する最新研究データを発表しに来日する。当医院での臨床の幅が更に拡がる機会となりそうである。

                           2025,4,25

親として

  待ちわびた高校生活での部活動に黄色信号が灯っている。子供の頃から野球が好きでよく父親とキャッチボールをして過ごしてきて、地元の少年野球チームには所属せず、テニスや陸上部で身体を鍛えてきたという。新入生の体力測定、様々な記録会においても常にトップの数字を叩き出し、周囲からは一目を置かれる存在か。そんな子供が悩んでいると、治療にお越しになられた母親が語り始めたのだ。憧れの高校に入学し、晴れやかな気分で野球部に入部したものの、部の雰囲気は毎日暗く沈滞ムードが漂い、練習及び練習試合におけるミスに対して指導者からは怒鳴り声を浴びせられるとのこと。「先輩からは、俺が一年の春に戻ったらこの部には入らないな!」と言われたそうだ。勿論詳細は知る由もないが、一昔のような理不尽な指導、根性論が蔓延るような部活であれば、生徒一人ひとりは指導者の顔色を伺いながら時間を過ごし、潜在的な能力の発揮どころか委縮しながら白球を追いかけることにもなり、心身の成長の妨げになるのではと心配至極である。親として思うところは多々あるにも関わらず余計なことは言わずに「あなたの判断をお母さんは尊重するから、急がずにこのまま続けるかどうかをしっかりと考えてごらんなさい。」とお子様に伝えたという母親からは、子供を信じる親の温かさを感じ取れた。

                           2025,4,24

フィロソフィ

  本棚に目をやると、『京セラフィロソフィ 稲盛和夫』が目に入って来た。「常に謙虚に素直な心で」「常に明るく前向きに」「真面目に一生懸命に仕事に打ち込む」「地道な努力を積み重ねる」「感謝の気持ちを持ち続ける」などといった、人としてあるべき姿、人としてなすべき「善きこと」について書かれており、更に「人生の中で一番大事なことは、世のため人のために役立つことをなすことが人間として最高の行為である」と続く。亡くなられた今でも私淑する偉大な方である。少しでも稲盛さんに近づきたい、稲盛さんのような価値観、判断基準で仕事に向き合い、経営にあたらなければならないと考える人間は少なくないはずである。医療においても同様であり、もしこれらに一つを加えるとしたら、「自己犠牲」ということになるのだろうか。形になるものだけしか評価しない世の中では、いつのまにか心が荒んでいく。個々人が軸のブレないフィロソフィをもって歩んでいくのはいつの時代においても必要である。

                           2025,4,23

適正化(optimization)

  乳幼児の舌小帯および上唇小帯が短いことが母乳哺育を難しくしている現状があるにもかかわらず、「何ら問題ないですよ!」と小児科の先生に言われたという1歳3ヵ月になるお子様を連れてお越しになられた方が以前いらした。上手く母乳が出ないから、赤ちゃんが吸ってくれないからという理由で哺乳瓶に切り替えたと仰っていたが、粉ミルクでもある程度の栄養を摂れることに間違いはないが、舌を含めた口腔機能の発育に関してはどうかという視点で捉える小児科医は果たして存在するのかと思わされるほど、舌の可動域への関心が低いようである。Lack of evidence is not evidence.(証拠がないことは証拠ではありません)”と常々思うのだが、臨床の現場で何が起きているのかをしっかりと医療関係者は診なければいけない。頭でっかちのままでは一度確立された治療法は改善されることなく提供され、真実から目を逸らすことになる。日々かみ合わせの悪い患者さんばかりを診ていれば、それが当たり前となって何の疑問も持たずに診査診断をしてはいないか。医療は健康を損ねる原因を取り除くことにあるならば、数に追われる診療をしていては、いつまでも真の気付きには到達しない。歯科からの適切なアプローチで、身体の適正化を推し進めるべきである。

                           2025,4,22

様子を診てはいけない!

  子供の咬み合わせ相談でご両親がお越しになられた。父親曰く、「歯列矯正治療は永久歯が生え揃ってからするものではないのでしょうか。私が子供の頃に掛かっていた歯列矯正の先生にそのように言われて、中学生になってからワイヤーを掛けて矯正治療を受けました。」とのこと。今でもそのように言う歯科医は多いのが現状ですが、考えてみて下さい。歯並びだけを綺麗に並べれば良いのでしょうか?なぜ歯並び、かみ合わせが正常から逸脱した状態になるのですか?歯はどこに萌出してきますか?顎顔面骨格の顎骨に歯が生えてくるのであり、その土台となる顎骨が大きく成長していないから歯が入りきらずに歯並びが乱れてくるわけです。であるならば、7歳で治療を開始せず13歳ぐらいまで何もしないで永久歯の萌出を待ったとしたら、その間に顎の骨はどうなりますか?骨は筋肉によって形作られます。従って、舌を含めた口腔周囲筋の習癖が存在するのであれば、その習癖を取り除かない限り顎骨は大きくなりませんし、結果的に歯が入りきらずに不正咬合になってしまうわけです。歯並びが悪くなった原因を取り除くことが歯列矯正治療の本来の目的であり、成長途中にある子供を何もしないで「様子を診ましょう」というのは、原因を放置するだけでなく、成長の適正化の機会を奪っていることになります。適切な対応、処置を受けるようにしてください。

                           2025,4,21

万博・iPS細胞の実用化へ

  大阪・関西万博はSNSによって来場者が増えてきているようで、当医院の患者さんの中にも「イタリア館はもう一度見に行きたいです!」と仰る方もおり、あまり関心が高まっていないというのは杞憂に終わるかも知れない。万博は将来の実用化を目指す最先端技術が多く展示されており、当方が関心を寄せているのは空飛ぶクルマiPS細胞由来の「心筋シート」である。とくにiPS細胞は、山中伸弥教授が皮膚や血液などの細胞から体の様々な組織になる性質を持つ細胞を作る方法を見つけたものであり、いよいよ臨床に応用される段階へと歩み出しています。2012年にノーベル生理・医学賞を受賞された際の会見で、「まだ誰も救っておりませんので、これからだと思います。」と述べられていた姿勢が印象的で、現在の大阪万博では、そのiPS細胞を心臓の細胞に変化させ、シート状にしたものが展示されており、脈を打つように拍動する様子が報道されています。実用化できるように国に申請も出しているということで、もし認められれば、iPS細胞を使った製品では初めてとなります(当方の知る限りでは)。尚、万博で展示されている心臓シートは期間中も培養が続けられているため、拍動が今より強くなる可能性もあるとのことですので、時間を捻出してでもこの目で確認したいものです。

                           2025,4,20

治療の考え方

  インプラント治療によると思われるしびれを訴える患者さんが友人にいると患者さんからの相談を受けた。当方が診断はしていないので確かなことはその方にも申し上げられないと断ったうえで、インプラントを埋入する前に考えなければならないことは、なぜインプラントを選択するような口腔内の環境になったのかをしっかりと理解しなければならないということをお伝えさせて頂いた。どういうことか。おそらく抜歯に至った歯は過去に何度も治療を受けたうえで最終的に抜くことになったのではないか。ならばその治療を繰り返した原因はどこにあるのか。食生活習慣にあるのであればショ糖の摂取量が原因の一つになるだろうし、機能的な咬み合わせに問題があるならば上下的な歯のあたりを改善させなければ何度も詰め物や被せものを装着しても、歯に掛かる力の外傷は変わらないので再び同箇所に問題が生じることになる。たとえそこにインプラントを埋入して被せものを装着したとしても何ら問題の解決にはつながらず、今度はインプラント補綴物もしくはインプラントの対合歯(かみ合う相手の歯)に損傷が起きる可能性があると考えるのが自然ではなかろうか。当方は決してインプラント治療を否定しているのではない。歯を失う原因を突き止めることもなく、無くなったところに義歯やインプラント補綴で欠損部を埋めるだけの考え方は目先の改善に過ぎないと申し上げたい。

                           2025,4,19

時間の余裕

  最近の高校生の部活動には親の参画も求められているようだ。お子様が高校生になった御さんが言うには、昔で言う部活の連絡網がグループLINEで作られているとのことで、半強制的に入らされることに抵抗があると仰っていた。仕方なくグループに登録したところ、今度はチャットを使って・・・とやらで、その方は普段からLINEを使用されているわけではないので、“すごくストレスなんですよねー!”と嘆いていた。まあいろいろな考え方がありますので個々人が判断すればよいことではありますが、その方は単なる連絡網として使わせて頂いて、その他の部活のことに関しては親は関知しないとの姿勢でいたいとのことでしたので、全てを周りに合わせる必要もないのではないでしょうかと当方からも話をさせて頂いた。アナログからデジタル社会になったことで最大のメリットは効率化にあることは言うまでもない。そのことで空いた時間を有効に使うことが出来るはずだったにもかかわらず、実際のところは空いた時間にさらに余計な?他の仕事などを入れて更に忙しく、自分の時間を確保できなくなってきているのが今の世の中である。時代の流れ、速さについていくことは必要ですが、時には立ち止まって時間の在り方を見つめなおす余裕も欲しいところですね。

                           2025,4,18

サブサービスの評価

  当方の開業地に以前からパン屋が多く存在すると認識していたが、今朝がたあるテレビ局で“パン屋の激戦区”として取り上げられたいた。当院にお越しになる患者さんや、仕事のサポートを依頼している助産師さんからも、「先生のお勧めのパン屋さんはどちらかありますか?」と尋ねられることがあり、その都度数店舗の候補を挙げさせてはもらっているが、正直なところどちらのお店のパンもそれぞれの特徴があって美味しいのである。約22年前にこの地に開業して以来、同業者も含めて多くのテナントの入れ替わりを見てきたものとして思うところは、“いかに求められているものに対応しているか!”という点に尽きる。飲食店であれば提供される料理の味、商品であれば物の価値、美容院であれば満足のいく髪型、ということになるのだろうが、それらはそれぞれの業種におけるコアの部分が当たり前として提供される部分であり、そのコアの価値を高めるものが敢えて言えばサブサービスであり、それはヒューマンスキルがものをいう部分であり、どんな時代であっても不変のものである。医療においても同様であり、日進月歩の医療でエビデンスは勿論、技術、診断力を高めていくことは医療従事者としては当然のことであり、その価値を評価して頂くためにも、自分自身が教養ある身だしなみ、言葉遣い、態度をとることのできる人間でいることが大切であると考えています。

                             2025,4,17

他者と比較しない

  通勤通学時間帯の電車内における高校生の会話が耳に入って来た。「部活どうする?どこに入るか決まった~?」、「野球部を考えているけど、ラグビー部もテニス部も気になっているので一応体験には行ってみようと思っている」。毎年この時期に交わされる新入生の会話にはどこか期待と不安が入り混じっていて、遥か彼方の昔の自分を思い出す時間となる。見学に行ってしまうと断り切れなくてそのまま流されて入部させられてしまう、そんな怖さにも似た緊張感が先輩後輩の関係にはあったが今はどうなのだろうか。高校進学を機にあえて中学までとは違う部活に入入り可能性の枝葉を拡げる生徒や、更に同じ競技を極めようする希望に満ちた15歳もいることだろう。切磋琢磨し、見える能力と見えない能力をそれぞれ伸ばして青年から成人への階段を自分のペースで登っていけば良い。ちょっとした躓きで自信を失うこともあるだろう。そんな時には他人と比べて、自分には才能がないなどと決して思わないことだ。ラッセルは『幸福論』のなかで、“他人と自分を比べて考える習慣は、致命的な習慣である”と述べています。自分の意志さえしっかりあれば、他人と比べない習慣を身に付けることが出来るものです。常に心の安定を保つ秘訣は、“他者と自分を比べない”ことにあるのではないでしょうか。

                             2025,4,16

成長発育の適正化

  睡眠ほど人間の身体にとって重要なものはない。子供の睡眠不足は成長ホルモンの分泌抑制に、全世代にわたっての睡眠不足は脳の老廃物アミロイドβを除去する生理学的なメカニズムにも影響を及ぼすことが分かってきている。以前当医院にお越しになられた4歳児は、毎晩12時間の睡眠をとっているとのことで時間としては十分ですが、その睡眠中に何度も寝返りをしていたとのこと。更に、時には壁を叩いて一晩中動いているような日もあったとのことです。なぜそのような行動になってしまうのでしょうか。皆さん、鼻を摘まんだ状態を維持するとどうなりますでしょうか。そうです、苦しくなるので身体を動かして何とか呼吸をしようときっとしますよね。この4歳児のお子様は先ずは呼吸が上手くできていないと診るべきなのです。呼吸が上手くできない(口呼吸になる)原因の70~80%は鼻閉にあります。10~20%は舌小帯と上唇小帯の付着異常によるそれぞれの可動制限が関係しています。残りは生活環境の変化、そして2~5%が遺伝と考えられています。歯医者なので歯並び、かみ合わせという表現をしますが、不正咬合に至った原因を探っていき、その根本原因が上記に当てはまるようであれば、治療すべき対象は歯並びではなく根本原因なのです。根本原因を解除したうえで代償性の原因を改善させ、結果的原因である不正咬合を正していくという考え方が必要なのです。子供の成長発育過程のどこの時点で適正化を図るべきか。それは年齢が低ければ根本原因を除去しやすいということになります。お子様の口は常に開いていませんか?呼吸は口唇を閉じて鼻でするものです。

                             2025,4,15

AIの有効活用

  AIやロボットは我々の仕事を完全に奪うようになってしまうのか。人間はいるのに働き手の減少が止まらない日本において、仕事はどこまで自動化が進むのだろうか。大阪万博では未来を見ることが出来るようだが、歯科医療の未来展示ブースなるものがあれば覗いてみたい。歯科の臨床現場ではCAD/CAMも導入され、技工物の設計から製造まで効率化が図れているところもあるが、ただ物を作るという視点で見た場合はある意味では自動化が導入されている。出来上がった技工物の精度という側面においてはまだまだ改良の余地が多く残されており、人間の指の熟練したレベルの器用さは機械では再現できていないというのが実感である。尚、当医院ではCAD/CAMは導入しておりません。当方の日々の臨床で難しいところは、こちらの説明を患者さんが本当に理解しているのか、わかっているフリをして本当はわかっていないのか、などを読み取るところであり、勿論こちらの人間力が試されている場面ではあるが、AIが100%の確率でそこを判断出るのであれば、患者・医療者側双方にとって間違いのない極めて有効活用できる存在となる。

                             2025,4,14

Noと言える日本人?

  街中のコーヒーショップにてLサイズのホットコーヒーを注文したところ、どうみてもRサイズと思われるカップで手渡しされたので、「あの~、Lサイズをお願いしたのですが‥‥」と店員さんに確認したところ、「ハイ、Lサイズです!」と当たり前の顔で返答があった。本当に??と固まっていると、Rサイズを受け取りに来られたお客さんが手にしたカップは何と小さいことか。世の中全ての商品が値上がりはしているものの、値段を据え置いた分、容器が小さくなったのだろうか。ならばSサイズとRサイズとメニューの表示を変更した方が親切ではないかとさえ思えてきた。賃上げしろ、備蓄米を放出しろなど御上からの要請は如何なものかと思っているが、他国の関税措置も含めて忍の字でガタガタせずにどっしりと構えてみることもあっても良いのではないでしょうか。大国のリーダーの発言に右往左往させられている我が国の在り方を見るにつけ、骨太の英知に富んだリーダー、国会議員が存在しないことに、国の威信の低下を憂慮しないわけにはいかない。良識も見識もない相手国に対して「それがどうした!」ぐらいの覚悟をもって交渉に臨むことができるかどうか。「Noと言える日本人!」を見せつけてきて欲しいものである。

                             2025,4,13

大阪万博

  大阪万博が開会し、大阪及び関西エリアは賑やかになっているのかもしれないが、当方の周りでは話題に上がることは今のところない。各国のパビリオンは資材の高騰、出店国の政情など様々な理由はあるにせよ、5ヶ国が完成出来ていないとのことで、以前であれば考えられないことである。半年間の開催期間があるので、今の時代は来場者のSNS発信などで情報は拡散され、より周知されることになるのだろうが、魅力ある先進的な各国の取り組みがどのようなものか個人的には気になるところでもある。年間約3,700万人の外国人が訪れる観光立国となりつつある我が国を他国の人はどのように評価し発信するのか。経済効果を期待して訪日客の取り込みに力を入れてきた政策の一環でも、日本の代名詞“おもてなし”を実感してもらわなければ、真の意味で日本そして日本人の奥ゆかしさを理解して頂けない。先ずは万博を訪れる人と迎い入れる人との素晴らしい出会いが生まれ、我が国の良さが世界に発信出来きれば、万博開催もより意義あるものと評価されることだろう。

                             2025,4,12

浪人時代の経験

  「雪深く路見えず、今しばし待たれし」とは、約40年前にある国立大学から送られてきた電報である。一次試験の不出来を二次試験の小論文で挽回しようと奮起したもののあえなく撃沈させられ、その後の多浪生活への入り口となった。1年目は“負けてなるものか!”との思いも強く、夏ごろまでは学力の向上を期して予備校へも休むことなく通塾したものの、数回に及ぶ模擬試験において結果が伴うことなく迷いと自信喪失によるマイナス思考が徐々に我が身を包み込むようになっていった。振り返ればメンタルの弱さが浪人生活に至った原因だったと結論付けられるが、2浪目が確定したこの時期のあまりの喪失感に何も手が付かず、日々、時間だけが過ぎていったことが昨日のことのように思い出される。自分がこんなにも思い悩み続けているにもかかわらず、世間の人は何事もなかったかのように過ごしていることがなぜか理不尽にさえ思えたこともあった。そんなある日、衝動的にローカル線に乗ってちょっとした旅に出かけてみると、会話を楽しむ人々や楽しそうな家族連れ、部活帰りの高校生、一人物思いに耽っているような中年の男性など普段であれば気にも留めない人々が目に入り、人はそれぞれだと気付かされたことで、受験の失敗などは些細なことだと思えるようになった経験がある。勿論親の支えがあっての浪人生活ではあったが、人生はちょっとした切っ掛けで一歩踏み出すことが出来るものだと知り得た貴重な時間だった。

                             2025,4,11

歯並び相談の急増はなぜ?

  歯並び相談の親子が後を絶たない。もしも当方のブログを見ている方の中にお子様の歯並び、かみ合わせ、そしてお子様が落ち着きがない、口が開いているなどで気になっている方がおられたら、先ずは不正咬合はなぜ生じたのかを順を追って考えて頂きたい。身体の成長を歯車に例えて考えると、様々な歯車が組み合わさって我々の身体は出来上がることになる。歯並びが良くないということは、どんな歯車が上手く機能しなくなったのかと考えて頂くと、顎という歯車が大きくならなかったからということになる。次に顎が大きくならなかった原因の歯車として低位舌とお口ぽかん(口唇が閉じていない)が挙げられる。舌が口蓋につくことで上顎骨は拡大するのであって、低位舌では拡大にはつながらない。そしてこの低位舌とお口ぽかんの状態では、正しく嚥下(飲み込むこと)が出来ないので表情筋や口輪筋、頤筋など本来は動かさない筋肉を使って嚥下するようになるので、余計な力が顎骨及び歯列に掛かることになり、様々な歯並びが生じることになる。ではなぜ低位舌とお口ぽかんになるのかと考えると、そこには口呼吸という間違った呼吸様式が存在するのである。まとめると、これら低位舌、お口ぽかん、異常嚥下、口呼吸が存在すると、正しく口腔機能が働かない状態となるので、今では口腔筋機能療法がおこなわれるようになっているのである。しかし、これら4つが身に付いてしまう根本原因を正さない限り、口腔筋機能療法だけを行っても思うような効果は出ないのが現実である。では何が根本原因として挙げられるのかと言えば、1)上唇小帯異常、舌小帯異常、2)アレルギーによる鼻閉、3)生活習慣、4)遺伝、なのである。このなかで歯科でアプローチできるのは1)と3)であり、2)に関しては耳鼻咽喉科領域となる。お越し頂いた親御様には上記の内容を説明させて頂いたうえで、気道狭窄、睡眠障害、発達障害へと繋がる考え方を詳しく説明させて頂いている。そのうえで、今後何をどのように進めていくのかを一緒に考え、その考え方を共有できた時点で、かみ合わせのトレーニングを始めることになる。

                             2025,4,10

吉田松陰の言葉

  幕末の志士、長州藩の吉田松陰の名言に、“夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、故に、夢なき者に成功なし”という言葉があります。成功する人に夢や理想があることは間違いありませんが、夢があれば必ず成功するわけではなく努力が必要であることも事実です。右も左も分からない歯科業界に飛び込んで約31年が過ぎようとしていますが、むし歯を見付けてはきちん治療を行うことに全力を傾けていた時代から、いまや如何にして歯を削らないで保存できるかという真の意味で予防が叫ばれるようになり、う蝕罹患率も極めて低くなっている。一方で、咬み合わせが良くない不正咬合は年々増加しており、5人いれば4人が歯並びが悪い状況にまでなってきている。今更夢なんて・・・という年齢かも知れませんが、もし松陰先生に夢を語れと言われたら何と答えるか。今の言えることは、「頭蓋顔面発育障害をなくして子供達の成長軌道を適正化し、心身ともに健全な身体にする。それが出来るのは歯科医師である。」ということになる。“Health care=0”、世の中から医者がいなくても困らない世界実現に向けて、誰も通っていない道を進むだけである。

                             2025,4,9

-最も困難な道に挑戦せよ-

 「Always do what you are afraid to do-最も困難な道に挑戦せよ-」を合言葉として、伝統として「学習活動」、「学校行事」、「部活動」のすべてに全力で取り組んでいる高校がある。この三つの教育活動のスパイラルな展開を経験することで、生徒たちは「見える学力」と「見えない学力」の双方を向上させ、極めて高いレベルの文武両道を実現させることが出来ている。それは卒業生の社会に出てからの活躍ぶり、社会貢献度をみれば証明されているといえよう。この-最も困難な道に挑戦せよ-に今の当方は背中を押される思いである。日本のガイドラインでは、母乳哺育と舌小帯との関連は否定され、早期アプローチは奨励されていない。しかし、亡くなられたある耳鼻咽喉科医のもとには母乳育児が上手くいかず、しかるべき処置を希望して多くの母親、乳幼児が日本だけではなく世界から来院されていた。術後にこれだけ劇的に変わるオペは世の中に存在しないと感じたあの真実の瞬間を正義感だけで安易に取り入れることは出来ない。必要なのは、学びと経験と環境と、そして覚悟。放置すれば成長発育の適正化が行われないまま子供達の身体は望まない方向へと進んでいく。今ここで何とかしなければ。

                             2025,4,8

舌小帯の拘縮と脳の機能異常

 当医院において乳幼児の母乳の哺育状態を診察するようになってからというもの、なぜ舌小帯への関心が医療関係者の中で重要視されていないのかが不思議である。高齢ではあるが現役の小児科医の言葉では、昔は赤ちゃんが生まれたその場で舌小帯が短ければ切離していたが、1970年以降急速に世の中に粉ミルクが普及し始めて(粉ミルクはそれ以前から存在)からは、母乳哺育が出来なくても栄養面の心配はないということで舌小帯のリリースをする必要性がないと言われ始め、それ以来オペはしない方向にあるとのことである。栄養面では・・・というのはある程度理解できるが、舌の機能に関しての考察はどうなってしまったのかという疑問が残る。約20年後の1990年以降、不正咬合を抱えた人が増えてきたという実態は、舌小帯リリースの機会が減ったことによる機能異常と何らかの関係があると診るべきではないのか。また、脳の機能異常と言われている発達障害、自閉症スペクトラム症の患者さんはいつ頃から増えてきているのか。もしも1970年以降増加傾向にあるとしたら、呼吸器官である舌との関係は無視できないのではないか。あくまでごく普通の歯科医が日常臨床で経験していることからの推測であることを付け加えておく。

                             2025,4,7

歯の再治療は必要か?

 これだけ世の中に情報があふれている中で、未だに加齢で歯が悪くなったと思い込んでいる方がいるのは意外である。口腔ケアに関して国民のデンタルIQは30年前に比べたら雲泥の差があり、来院時にネット情報が正しいのかどうかを確認したいと質問してくる方もおられるぐらいである。「歯は毎日磨いているんだけどね~?」と言いながら歯の痛みを訴える患者さんに多く診られるのは、歯磨きをしていても歯をきちんと磨けていない、ただ歯ブラシを動かしているだけのケースである。むし歯でもないのに歯が痛いと訴える方の多くは、咬み合わせによる外傷(咬合性外傷)がらみの疼痛の発現であり、根本的には咬み合わせを改善させなければ症状は繰り返すことになる。理想的な歯並び、上下顎的にも安定した咬み合わせ、口腔ケアも行き届いていれば、たとえ食いしばりや歯軋りが発現したとしても歯を失うほどのトラブルにはつながらない。しかし、どれだけ丁寧に写真やスライドを使って時間を割いて説明を行ったとしても、患者さんの理解度を推し量ることは出来ないのが臨床である。1~2カ所のほどの治療箇所であればまだしも、複数歯の治療を要する歯がある際に、個々の説明ごとに承諾のサインを頂くのは、如何なものかと常に頭をよぎる。歯の治療は決して元の状態に戻ることはないという大前提を理解して頂いた上で、そのまま放置するよりは然るべき処置を行うことで歯の延命が図れる可能性がある場合のみ治療を受ける、ということを理解しなければいけない。

                             2025,4,6

授業に集中せよ!

 せっかく第一志望の高校に合格が決まり塾から解放されたと思いきや、「高校の数学に付いていけるか不安なので引き続き塾に通う予定なんです。」とは、なんとも勉強熱心なお子様なのか。先取りの勉強をすることになるのかもしれないが、今どきの高校生は塾や予備校通いをしながら高校生活を送るのがごく普通なのだろうか。当方の高校時代とは違うとはいえ、何か違和感を覚える。高校そして大学に行く目的は何か。“学び方を学ぶ”のが学生のあるべき姿勢であり、それは古今東西、どんな時代においても変わらないもではないか。だから教員の資質が問われるのであり、同窓のカラーというものが有形無形に子供達の内面の成長に影響を及ぼすのである。決して放課後の塾通いを否定するものではないが、高校生活を過ごしていく中でしっかりと自分と向き合い、それからどうしても外部の力を借りたいという判断に至るのであれば、それから塾なりを選択しても良いのではないか。何でも予防線を張って生きていくことは、心や精神が逞しく育つ機会を逸してしまうように思えてならない。先ずは高校の授業に100%集中し、授業中にすべてを理解できるような環境づくりをすべきと提案したい。

                             2025,4,5

成長発育の適正化

 原因不明の症状を抱えた方への問診から診えてくるものは、既存の治療法では一向に改善されていないことである。原因が掴めていないにもかかわらずとりあえず薬を処方して様子を診ることが医療の現場では行われていることが多い。勿論薬の副作用などを患者サイドにも理解して頂いた上での治療とはなるのだろうが、それでも期待するような結果が伴うことがなければ患者さん、そして親御さんは落胆の繰り返しとなる。約15,000ほどの病名の付かない疾患があると言われる今、やむを得ない部分もあるのかもしれないが、可能性のある治療に関してはたとえEvidenceが確立されていなくても一歩踏む出すことも必要なのではないか。自閉スペクトラム症はこれまでのところ確実にそれと断定されている原因はないが、先天的な脳の機能異常により引き起こされていると考えられています。この考えられているという表現は絶対ではないのであり、なぜ脳の機能異常が起きるのか、脳への酸素供給量が低下した状態で成長が進んだらどうなるかと想像してみることは果たして無駄なことなのか。常に口呼吸が身に付いている人は身体に必要量のCO2を貯蔵できないために、血中の酸化ヘモグロビンが身体の各組織の細胞に酸素を供給しにくい状態が継続し、それが脳で慢性的に起きていると仮定したらどうなるかと想像して頂きたい。不正咬合になる根本原因を辿っていくと歯ではなく舌の可動域、舌を含めた口腔周囲筋の習癖改善、頭蓋顔面発育の成長、呼吸、そして生理学的なメカニズムの適正化が避けられないことが分かってくる。子供達の身体の機能の適正化に医療従事者はフォーカスすべきであり、そこに薬の処方は必要ない。

                             2025,4,4

終わりのない旅

「専門家は専門能力があるからといって無教養だったり、もろもろの事柄に無知だったりしていいのか」との文言が痛切に私の心に響いてくる。なぜなら日々教養の無さを嘆いているからである。教養とは決して知識の多寡のことではないが、この年齢になっても知らないことが多いと気付かされることが少なくない。本日の日経新聞には、日本アスペン研究所の3代目理事長の紹介文に経済界や政官界の指導層たるものは古典、歴史、哲学、宗教、文化芸術、自然科学、なかんずくリベラルアーツの素養を身につける。これを実践する研究所を率いる。」とある。このリベラルアーツを身に付けることはある一時のことではなく、生涯を通じて求めていかなければ人間力は高まらず、仕事に必要な左脳だけでなく、右脳を全開にして新しいものに出合う機会すら手放すことになる。自分を掘り下げて謙虚に向き合うことで、先々すべきことが見えてくるというものか。人生は終わりのない旅である。

                             2025,4,3

想像力

人間の身体の正しい成長発育を先ずは医療関係者が学び直さなければならないのではないか。そんなことを考えさせられるようなお子様の受診が相次いだ。親御さんは我が子の健やかな成長を願い、毎朝元気な声で「おはようございます!」という第一声で子供が起きてくる、そんな当たり前の日常生活を送りたいだけである。そんな日々の中で子供のちょっとした体調の変化や所作の違いに戸惑いを覚え、もしかしたらと不安を抱えて医療機関を受診する。何でもないことを願いながらも、頭の隅には稀な疾患でも見つかるのではないかと気が気ではないはずである。そんな時に、「まだ成長途中にありますから、暫く様子を診ながら過ごしてみてはどうでしょうか?」と医者が言おうものなら、その様子を診ている期間は身体が適正化されないまま成長が進むことになる。外傷を受けて患部が治癒するのを経過観るのとは異なり、診断が出来ずに「様子を診る」という医師の言葉ほど見過ごすことは出来ない。勿論原因不明の疾患は多々存在し、医師が絶対ではないことは誰もが知っていることではある。我々の知識には限界がある以上、臨床医は想像力をもって診断にあたらなければならないのではないでしょうか。

                             2025,4,2

読書

ネットの普及に伴い、現代人は今や様々な情報に瞬時にアクセスできるようになりましたが、反比例する形で読書をする時間が減ってはいませんでしょうか。かつては電車の中で読書をしている人を必ず見かけたものですが、今ではスマホの画面に釘付けという方が非常に多いです。また書店では“なぜ働いていると本が読めなくなるのか”というタイトルの本が売れているそうです。決してスマホが“悪”で読書が“善”なわけではありませんが、スマホを片時も手放さない人が多すぎるのが気になります。診療室で治療を受けている時でさえ手にスマホを握っていて、口をゆすぐ際に必ず画面をチェックするのです。そんなこと別にどうでもいいだろと言われればそれまでですが、常にどこかとコミュニケーションの形が継続されていることで、自分自身に向き合ったり、自分自身を掘り下げて考える時間が足りなくなっているのではないかと危惧してしまいます。それに対して読書は著者との対話、思考を深める時間ではないでしょうか。読書を通じて様々なことを理解する読解力を身に付け、得た情報や思考を咀嚼し、自分を創り上げていく一つの作業でもあると思います。年度も変わり新たなことに挑戦を始める方も多くおられるのかもしれませんが、今一度“読書”と向き合う時間を日常生活に取り戻してみませんか!

                             2025,4,1

誤嚥を防ぐための手引き??

こども家庭庁が保育所や幼稚園など向けに、乳幼児の食べ物の誤嚥を防ぐためイラスト付きの手引をまとめたと今朝の新聞に掲載されている。使用を避ける食材として粘着性が高くて飲みにくいもの、球型や大きさから気道に入りやすく詰まりやすい、弾力性があり噛み切り難いものなどを挙げている。更に食事の際は、水分でのどを潤す必要性を指摘している。いやはや困ったものである。乳幼児を預かる側の万が一を避けるためにリスクを考慮してのことだと理解はするが、誤嚥はなぜ起きるのかを根本的に考えないといけない。ブログでも再三述べさせて頂いているが、舌の可動域制限があり、舌を口蓋に張り付けることが出来なければ正しい嚥下は出来ないのであり、先ずは乳幼児、幼児たちの口腔機能の診査を優先させるべきであり、どこの組織機関がこのような働きかけを国にしたのかは知る由もないが、全くの的外れな指導手引きには呆れるばかりである。国の手引きに沿えば、ジェル状の流動食でも摂っていれば栄養は摂れて誤嚥をすることはないと解釈もできる。毎食ジェル状のもので過ごすことになれば、口腔機能はどうなるかを想像して頂きたい。舌を使って食塊を丸めることも左右に寄せる必要もなくなり、口蓋に這わせて舌を挙上して口腔咽頭へ送る必要もなくなり、益々機能低下が促進されることにもなろう。どんなものでもしっかりと食べ、正しく嚥下が出来るように指導するのは歯科医療関係者である。身体の健康は口からというのは栄養だけではなく機能も含めてのことであること理解して頂きたい。


                             2025,3,31

頭蓋顔面発育の適正化

子供の歯並びを気にされている親御さんからの質問で多い項目の一つに歯の抜歯がある。「今まで掛かっていた歯医者さんでは歯を抜いてから矯正治療をしないと歯は揃わないですよって言われたのですが、こちらでは抜かなくても出来るって聞いたものですから一度お話を伺いたいと思いまして・・」という方が今月もお越しになられた。歯列矯正治療というと未だに審美的な改善を目的とした治療と受け止めている方が多いようだが、不正咬合に至った原因に身体の機能的な問題が潜んでいるのであって、そのまま放置したら成人になってから様々な不定愁訴を抱えることになるので、その原因を取り除きましょうというのが当医院で行っている子供達の機能的歯列矯正治療の考え方であり、行っていることである。永久歯が生えてからでも歯列矯正治療は出来ると考える歯科医師は多いが、そこまで放置した場合に子供達の顎の成長はどうなるのかを考えなければいけない。なぜ口が開いているのか?なぜ活舌が悪いのか?なぜ落ち着きがないのか?なぜいびきをするのか?頭蓋顔面発育障害の一つに不正咬合が認められるのであり、子供達の頭蓋顔面の成長を適正化することが全ての症状を改善させることに繋がるのである。


                             2025,3,30

Health care=0のために

「Health care=0」が医療関係者の願うところである。どういうことか。身体の不調を訴えてから医療機関に掛る今の医療の在り方ではなく、将来的に内科的疾患、体幹を含めた歪みなどの兆候を認めたのであれば、その時点で予防策を講じ、患者本人もきちんと理解したうえで身体を正していく努力をする。そうすることで医療費の削減は勿論、当の本人にとってもっとも幸せな環境を作ることが出来るのである。現在の医療現場では医師、歯科医師の診査診断によって病名がついてはじめて保険請求できる仕組みだが、病名が付かない疾患が約15,000ほどあるとの指摘もある。当方の歯科医療においても「〇〇の疑い」と診断することが少なくはなく、主訴に対する診断のためには患部だけの問題ではないことが多い。症状が発現するに至った原因を遡ると過去のある時点において然るべき予防策を講じることが出来てさえいれば、ここまで酷くなることはなかったのではないかと考えさせられる場面に遭遇すると、症状の有無だけで身体の問題を判断してはならないと感じている。今の医療現場に足りないのは一人の患者さんに割く時間であり、「20~30年前に比べたらそれでも良くなった」では駄目なのである。とことん患者さんと向き合う中で主訴以外の問題が浮き出てくることは多々あり、潜在的な問題が枝葉のように広がることもある。主訴を抱えた患者さんの問題をクリアにすることは勿論であり、それに加えて20~30年後に大人になる今の子供達の健康維持のために、歯科の医療現場で出来る予防策が多々あることを実感する日々である。


                             2025,3,29

You tube!

春休みに入り、多くの子供達が定期検診で来院される。「〇〇君こんにちは!休み中は何処かに行ったりするのか?」と尋ねてみると、「どこにも出かけないよ。だいたい家でYou tube!」と答えが返ってくる子供が多い。外で汗をかいて遊ぶなどという子は誰一人としていない。親御さんに話を聞くと、「先生、5~6時間なんてもんじゃないですよ!朝の9時過ぎから夕食前まで部屋に閉じ籠ってばかりですよ。変ですよね~。このままで大丈夫なのかが気掛かりです。」とのこと。当方の感覚からすると極めて異常であり異質な世界にいるとしか見えないし、アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏は、決して自分の子供にipadを与えることはなかったことから推察すると、動物である人間がモニターの前で長時間過ごすことの弊害を分かっていたはずである。脳の専門医でもない当方が脳について述べることは些か気が引けますが、一般的に思考や記憶などを司る前頭葉のピークは12歳頃で、その後は脳の神経シナプスは減っていくと言われています。社会人のコミュニケーション力不足が指摘される背景には、このような他者との関わりを避ける環境下で自分の世界だけに没頭することが大きく影響しているように思えてならない。便利さと引き換えに、何かを失いつつなければよいのだが・・・。


                             2025,3,28

組織としての成長を!

時代の波に左右されずに成長発展を続ける企業、会社組織というのは、そこで働く個人、社員との間にお互いが信頼し合い、貢献し合い、そして成長し合う横の関係が成り立っている。一方で、従来型の組織と個人の“ロイヤルティ関係”では、あえて言うならば、封建時代の君主と家来の関係に似ており、個人は組織に対して忠誠心をもって働く駒のような縦の関係にある。今の時代、どちらが生きがいを持って働くことが出来るかと問われれば言わずもがなである。組織である以上は規律を遵守することは当然であるが、たとえ末端の社員であったとしても自分がトップの経営者だと思って会社を支える、コントロールしていると思えるようでなければ活力ある現在進行形の組織とはならない。つまり、給料を貰っている立場なのでというサラリーマン意識ではなく、自分がこの組織を成り立たせているぐらいに思っていなければ、責任あるは任せてもらえないでしょう。それは当医院のような小さな組織であっても同様であり、実際にスタッフが全てを決めることはありませんが、“自分の働きが医院の業績を左右する”くらいの高い貢献意識を持って皆さんが働いて下さっています。この度、看護師さんの採用が新たに決まり、当医院の診療の中身にさらなる厚みが出てくるものと思います。皆様の健康維持のお役に立てるよう精進してまいります。

                             2025,3,27

全ての価値向上のために

時々ではあるが、当医院のHPにある通院患者専用「お問い合わフォーム」に、当医院とは関係のない方から様々な質問を投げかけてくる方がいる。業者関係者の売り込み、現在通院中の医院で受けた治療に関する質問、治療に使う材料についての問い合わせ、その他であるが、そもそも『通院患者専用』と記載しているにも拘らず、それを無視して更に必要事項も入力せずの問い合わせには辟易する。勿論返信することはないのだが、顔を突き合わせて話をすることが少なくなっている現代社会においてはこのようなケース、要は相手のことは考えず自分本位の発言、主張を何の悪気もないのかも知れないが平然とされる方がいる。そこには日本の伝統的な礼儀作法に基づいた対人応対力、品格ある人間としての在り様の欠片は微塵も感じません。そんな場面に遭遇することは、拙い当方のブログを読んでくださっている方々のなかにもいらっしゃると思います。日常のそのようなちょっとしたことでも人は気分を悪くするものであり、改めて人としての礼儀には気を付けたいと気付かされます。電話の受け答え一つで人の印象、会社組織の雰囲気は伝わるものです。“相手に対する敬意の最高表現は、自分自身が教養ある身だしなみ、言葉遣い、態度をとることのできる人間でいることに尽きる”と当医院では開業以来徹底して意識し、当医院にお越しになられる方には接しております。本来であれば足を運びたくない歯科医院ではありますが、お越し頂いて良かったと思っていただけるように、治療技術の向上に努める機能的価値と、人間力の向上に繋がる情緒的価値をさらに高めていきたいと思っております。


                             2025,3,26

医療の質

“おもてなし”という言葉は医療現場には必要ないかもしれないが、“患者に寄り添う”という意味では、医療現場で働く関係者には潜在的に持っていて欲しい心である。以前は大学病院などでは「3時間待ちの3分診療」などと揶揄された時代がありましたが、そこには多くの「患者さんを診る」というよりは結果的に「患者を捌く」ということで、医療収入は上がるものの患者サイドからは医療不信、不満に繋がる要因の一つでもありました。昨今の人件費も含めた社会全体の物価高は、大規模病院、個人医院に限らず、原価経費の増加分を価格に転嫁することが困難な保険診療中心の医療機関全体の収益悪化を招いています。となると、収益改善のために出来ることといえば、以前のように患者数を効率よく捌く診療システムを構築するか、医療の質を維持、向上させるために一人当たりの単価を上げ、一人のドクターの診察、治療に掛ける時間を充実したものにするかの二つに一つしかないのではないでしょうか。残念なことではありますが、当医院で診させて頂く患者さんの口腔内からは、もう少し心ある治療を提供できなかったのか、と思われる方が多く来院されます。患者さんの主訴、今までの治療履歴を含めた現状に至った原因、これからの予後についてお話をさせて頂く中で、当医院で治療を検討されるかどうかを時間をかけて考えて頂くことが、一人ひとりにとって価値あるものに繋がると確信しております。

                             2025,3,25

鼻閉は鼻だけの問題ではない

鼻閉があると呼吸をしづらいのでどうしても口呼吸になる。花粉が飛散するこの時期になると夜間口テープを貼って寝ることが難しい子供が急増する。既製の咬み合わせトレーニング用のアプライアンスを装着して寝る際に口テープを貼っているのだが、この時期は難しくなる。そもそもアレルギー性鼻炎になる前に、不正咬合を抱えたお子様たちに共通することは口蓋が狭く、深いことが多い。それはなぜか?ブログでも載せているが、普段の舌のポスチャーが口蓋に位置しておらず低位舌にあると、口蓋骨が前方、側方に拡大せず、骨の形態に沿ったトライアングル型やスクウェア型の歯列弓形態になる。鼻骨は上顎骨に含まれる(鼻上顎複合体)ため、口蓋骨が拡大しなければその上の上顎骨及び鼻骨は拡がらず、鼻気道も狭くなるのである。従ってお子様の場合には何よりもまず舌の挙上が出来たうえで舌を口蓋に触れた状態にしておくことが必要である。子供達の成長は大人とは違い日々進んでおり、不正咬合の予防、口腔機能回復は時間との勝負である。

                             2025,3,24

論文検索から見えてきたこと

当方が歯科医師として働き始めた約30数年前は、文献検索は大学の図書室まで脚を運び書棚から探し出してコピーをして持ち帰っていた。それが今ではネット環境さえあればキーワードを入力するだけで瞬時に目にすることが出来る。なかにはフルセンテンスまでを閲覧することが出来ないものも含まれているが、目的と結果、結論までは見ることが可能である。昨日に続き文献の話題になるが、睡眠医学界でリードするスタンフォード大学が中心となった閉塞性睡眠時無呼吸と口腔顔面筋機能療法との関りを示す論文からは、双方の関連性を示す多くの証拠から口腔顔面筋機能療法の有効性を証明しています。臨床現場では筋機能療法が重要視されない今日ではありますが、小児へのアプローチだけではなく成人期から老年期までの継続した効果のある非常に有用な治療法であることが分かってきています。口腔のみならず全身まで包括した治療として、今後より重要視されるべきと考えます。

                             2025,3,23

Critical role of myofascial reeducation in pediatric sleep-disordered breathing

睡眠呼吸障害(SDB)は小児における病的状態として認識されつつあり、その有病率は最大約25%です。睡眠医学の権威であるスタンフォード大学の故Christian Guilleminault は睡眠医学の父とも呼ばれる存在であり、睡眠時無呼吸に関する様々な研究と治療を行い、睡眠医学の発展に貢献されてきました。そのGuilleminault先生の論文の一つである「Critical role of myofascial reeducation in pediatric sleep-disordered breathing」では、限定的な研究ではあるがと前置きはあるものの、我々歯科医がSDBを有する子供達の治療に積極的に関与すべき内容となっています。SDBの原因のひとつである腺扁桃摘出した群および歯科矯正を終えた群の睡眠検査では正常であったグループに対して筋機能療法を22~50ヵ月行ったところ、24ヵ月間の筋機能再教育を完了した11人は全員健康的な結果を示したとの報告です。これは、口腔筋機能療法を行わないとSDBが再発する可能性があることを示唆しています。従って、当医院における子供達の咬み合わせトレーニングが歯並びだけではなく、良い睡眠に繋がるということがご理解して頂ける内容となっています。

                             2025,3,22

多職種連携の歯科医院とは

以前こちらのブログでも載せましたが、舌小帯およびその奥に存在するFasciaをリリースすることで頭蓋を常に傾げた子供達の姿勢が改善し、それに続く呼吸・口腔周囲筋のトレーニングを継続することで6ヵ月もすると目に見える形で歯列の形態が変化してきています。子供達のトレーニングで難しいことは何と言っても飽きさせないで毎日欠かさず継続させることで、年齢にもよりますがご両親様の協力が欠かせないのはこの点です。親に言われてする勉強ほど嫌なものはありませんが、「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。」のごとく、楽しまないと続かないのです。当医院でも飽きさせないトレーニングを試行錯誤しながら取り入れておりますが、子供目線で考えるのは保育園や幼稚園の先生方の方がよりプロフェッショナルであり、未就学児の指導、対応には多職種連携の観点からも欠かせない存在です。そう遠くない将来、当医院には助産師、スポーツトレーナー、理学療法士、そして保育士が常勤できる体制が構築できると、ワンストップで一人の子供を診ていく理想的な歯科医院となります。ご興味ある方はコンタクトあれ!   

                             2025,3,21

治療レベルの向上

根拠のない思い付きでことを進めるのは至って危険であるが、数十年の経験から身に付けた匠の技のように、臨床医であれば長年の経験値というものが確かな臨床診断に導くことを経験しているはずである。当医院では、過去には3人の歯科医から揃って抜いてインプラントしかないと診断を受け、患者本人もその選択しかないと思いつつも最後に藁をもつかむ思いでお越しになられた方がいた。具体的には左上の小臼歯2本に不良補綴物(被せ物に隙間がある状態)が装着され根管内の感染も進み、歯根の健全歯質も薄いため感染根管治療そのものが可能かどうかという臨床判断を迫られるケースがあった。抜歯してからインプラント埋入という治療判断は当方に言わせれば簡単なことである。但しそこには患者の心理までを含めた臨床判断には至っていないことが大きな問題であり、更には悪くなった根本原因を取り除く説明が一切ないことがインフォームドコンセントとしては不十分である。形に見えるものの評価は医療以外でも比較的分かりやすいものだが、“Yes or No”だけではなく中庸をとる、そしてこの方のような場合はEvidenceを軽視するつもりは毛頭ないが、とことん最後まで歯の保存にトライする姿勢が白衣を身に纏ったものの役目であると信じて疑わない。以前であれば保存不可能であった歯でも、医療機器・器具の進歩によって格段に治療レベルが向上し、奇跡と思われるケースが度々起きている現実からは、〇〇ありきの診断はすべきでないと声を大にして叫びたい。因みにこの方の歯は約8年経過した今でも何の問題もなく機能している。       

                             2025,3,20

知性の必要性

昨今は超大国と呼ばれる国のリーダーや、我が国における政治家の一部および選挙立候補者の発言、主張からは、正義は必ず自分たちの側にあり、異なる意見をするものは不正を働いたり、悪であるといった偏った考えを持っている傾向にあるように映る。昔からそのような人間は存在し、今はSNSなどで彼らの言動が世間に周知されやすくなっただけのことかも知れないが、歴史を遡れば常識や良識を懐疑し、倫理観や論理性に欠けた議論に欠け、感情的な好き嫌いでそのような指導者を選ぶ人間が多くなってきている社会そのものが大変危険である。確かな情報かどうかを吟味することもなく全てを鵜呑みにしてしまう背景には、問題解決の際に求められる個々人の知性の欠如しかないのではないか。知識ばかりを詰め込んだものの、それらを考える力に繋ぐことが出来ずに右往左往している間に刺激的な言説に出会うと信じ込んでしまう、要は深く考えることが出来ない人間が社会に増殖してきるいる感がある。教育の基本は家庭にあることはどんな時代であっても不変だが、その家庭が崩壊してしまえばその先の学校教育も成り立たないのではないか。世界が崩壊する前に人間社会である以上、心の荒廃を何とかして止めなくてはならない。 

                        2025,3,19

不正咬合と高血圧

 勤務医時代に原因不明と言われている本態性高血圧の患者さんを治療させて頂く機会があり、臨床経験が浅い当方にとっては普段よりも緊張しながら処置に入った記憶がある。それから約30年は経過しているが、未だに本態性高血圧と問診表に記入される患者さんを診ていると、当方が診てきた限られた患者数ではあるが、皆さん共通して顎位が悪い不正咬合を有している。高血圧と咬み合わせが関係しているとは誰も思わないのだが、見た目の咬み合わせではなく骨格的な不正咬合にまで発展すると、頭蓋を支えている第二頸椎への重心軸が傾くことから頸椎周りの筋肉が拘縮(緊張)し続けることになり、太い動脈である椎骨動脈が長時間圧迫を受ける状態となる。皆さん想像して頂きたい。水の通っているホースを途中で踏んだりして凹ませるとどうなるか。難しい話ではなく、構造的に同部位が圧迫を受けることでホースの内圧が高まることは容易に理解できるのではないか。ホースであれば物理的な障壁を取り除けば直ぐに内圧を開放できるが、身体の場合はそう簡単ではない。その方の生きてきた年数を掛けて動脈が徐々に圧迫を受けてきたとするならば、その圧を構造的に解除する必要がある。当方には勤務医時代と開業後を含めてミニスプリント(口腔内に装着する部分的な装置)を用いて患者さんが服用されていた降圧剤の量を減らすことが出来た方が数名いる。そのうち2名の方は機能的歯列矯正治療まで行い、血圧と腕のしびれの改善に至った。不正咬合と血圧との関係をEvidenceで示せと言われるかもしれないが、臨床においては後戻りできる治療の中で状態、症状の変化をつぶさに診ながら進めていくことで、改善に至るケースは多々存在する。但し、そこには薬を飲んで劇的に変化するような即効性はないだけに、患者さんがこちら側の説明と今まで受けてきた様々な科の治療履歴を振り返って考える時間が必要である。本態性高血圧の多くは不正咬合に発する体幹の歪み、特に頭頚部の筋肉の拘縮から来ているとしたら、降圧剤で治すのではなく、高血圧患者さんを歯科で治していく、そんな時代になってきているのかも知れない。

                         2025,3,18

不正咬合の原因を取り除く(1)

 お子様の咬み合わせ相談でお越しになられた方が、友人の方にも話を聞いて理解してほしいとのことでお二人でお越しになられた。主訴は、11歳の男の子の出っ歯が気になる、ということだが、素人的には出っ歯に見えるが、実際には下顎が後方に下がっているために上顎の前歯が出ているように見えるのである。ではなぜ下顎が下がっているのか?ということになる。水を飲む際に撮影した動画を観て頂くと何かがおかしいのだが、お二人は全く気が付かない。3回繰り返し観て頂いても、モニターとにらめっこ状態である。母親からしてみれば毎日目にしている我が子の水飲み風景なので、異常な動きに気付かなくても致し方ない。指摘した点の一つは、嚥下(飲み込み)の瞬間に首を垂れる癖があるのと同時に目を閉じることである。嚥下するには口腔内を陰圧にする必要があり、本来であれば口唇を閉じて奥歯を軽くかんだ状態で舌が自然と口蓋に触れることで嚥下反射が起きるのである。この一連の動きがスムースに進まないと身体の適応と代償反応が生じ、あるべき機能が働かなくなり、適切な力が顎顔面骨格に働かなくなるので顎骨の成長抑制が起き、歯が並ぶスペースが出来ないのである。矯正治療は小さな顎に無理やり歯を並べようとするが、小さな顎になる根本原因を取り除くことが当医院で子供たちに行っている咬み合わせの治療・トレーニングなのである。

                         2025,3,17

受験から見えてくるもの

 中学を卒業されたと思われる子供達が受験結果について話している会話が気になった。「高校受験では〇〇くんに負けたけど、大学受験では頑張るよ!」。エッ、受験は勝ち負けなの?、生徒同士が競うものなのか、と心の中で反芻して電車の座席シートに座りながら、目を閉じて立ち話を聞き入った。福沢諭吉の『学問のすすめ』には、“人間は様々な悪徳を持っている存在だが、その中で最も有害なのは、人の成功を羨む気持ちである”といっています。つまり、自分が持っていない他人の能力を羨むこと、また他人がその能力の結果として成功するのを羨むことなのです。これは裏を返せば、自分の能力や自分にできることが何であるかを問うことにもなります。高校に進学する意味は?大学を受験する意義は?など深く考えてはいないのでしょう。合格することが難しい大学に受かったら、何か人生の成功保証でも手に入るわけでもありません。学歴ではなく、“何が何でもやり遂げる”という不退転の決意をもって学び、そうした学びから見えない物が見えてくることで、気付くとそれが自分の軸となっていくのだと思います。高校は大学受験のための予備校ではありません。物事の判断を下すにあたって、判断の基準を他人に依存することなく、すべてを自分自身で整理し順序立てる、そんな姿勢を高校生活で身に付けることが出来たら良いですね。

                         2025,3,16

知性の力

 「私が子供の頃はもっと情緒豊かな社会だったように思います。今はなんだか人間関係が殺伐としていませんか・・・」とは、治療の麻酔が効くまでの時間に患者が話してきた会話である。昔は何でも良かったとは言いませんが、ノスタルジックに思い出しているうちはとてもいい時代に思えるものです。例えば昔のライフスタイルに戻りたいかと問われれば、利便性や高度なサービスに慣れた現代の生活からタイムスリップするのは望まないと思います。一度覚えた快適さを捨てられないのが大方のヒトではないでしょうか。また、昔を懐かしむ人に共通した点は、急激な時代の変化についていけてないことが事実としてあるようにも思います。ダーウィンは『種の起源』において、自然淘汰がこの世界の原理であり、自然の変化に適応できた種だけが生き残ることを示しています。適応出来なければ極論ではありますが滅んでしまうのです。現代は間違いなく物凄いスピードですべてが変化し続けており、その変化だけを追い求めていくと自分を失いかけることにも成り兼ねません。常に立ち止まって考える時間を取り、困難や厳しい現実に直面した時にその原因が何かを見極め、社会から求められていることに対応していくには、今まで以上に知性の力が必要とされている。単なる物知りではない知性を鍛えることで、普遍的な考え方を維持したいものである。

                         2025,3,15

Evidence(科学的根拠)

 いつまでも当医院で治療および定期メンテナンスを受けたいと仰って頂けることは有難いことですが、最近は「先生はいつまでお仕事をされるつもりですか?」と尋ねられることが少なくない。俺はそんなに老けたのか(笑)と心で受け止めつつも、当方の恩師は80歳を過ぎた今も現役で臨床をされている姿を見ても、体力が続く限りは年齢は関係なく仕事は出来ると思っている。一般社会では58歳ともなれば定年が頭を過るのかもしれないが、臨床現場で働く身としては今までの経験値と昨今のデータベース、文献検索のしやすさも相まって、臨床の中身がより充実するとともに、真の健康のために歯科医療従事者が果たす役目が大きくなってきている実感があり、日々の仕事は充実度が増すことはあってもストレスが溜まることも飽きることもない。新型コロナ以上の“不正咬合パンデミック”が1990年以降急速に先進諸国で起きていることは単なる偶然ではなく、その原因を探ることで口腔だけではなく全身疾患、体幹の歪みなどとの関連性も多く指摘されるようになってきている。Evidence(科学的根拠)を待つだけではなく、現在はそれを創り上げていく段階にいるのだと日々の臨床でひしひしと感じている。

                         2025,3,14

筋機能の適正化

 構造的に問題のある車が走行を続けたらどうなるか。ねん挫した状態で競技を続けたら身体はどうなるか。何れも結果は言わずもがなである。咬み合わせが構造的に狂い始めたらどうなるか。咬み合わせの影響は上記2例とは異なり直ぐには結果として現れてこない。極めて当たり前のことだが、子供の不正咬合を放置すればそのまま成人期における不正咬合となり、身体の成長に合わせて様々な問題を引き起こすことに繋がる。しかし全身の不調、不定愁訴がまさか咬み合わせからきていると考える人は未だ少なく、歯科医師ですらそのような目で診査診断をしているとは限らない。不正咬合自体も問題ですが、皆さまにお伝えしたいのは、構造的な問題は代償反応の結果であり、なぜそのようになってしまったかということです。むし歯の処置に例えるなら、歯を削って詰め物や被せものを接着したとしても、それは構造(形態)的な問題を表面的に回復させただけであり、むし歯に至った原因を取り除いたわけではありません。不正咬合は歯列矯正治療を行うことで見た目(構造的)は回復するが、不正咬合を引き起こした機能回復には至っていない。成人矯正治療の多くが後戻りするのは、この機能回復に割く時間を省いているからである。とにかく子供であれば口腔筋機能の適正化、成人であっても毎日の習慣化によって筋肉パターンを変えていくことで機能の改善を行うことが重要です。

                         2025,3,13

いびきと咬み合わせ

 「主人にいびきがうるさいって言われることがあるんです・・、ちょっとした悩みなんですけど何科で診てもらえば良いのですかね?」と相談を受けた。然るべき医療機関にご紹介は出来るが、なぜいびきをするのか理解して頂くことが大事である。当医院に10年近く定期的に通われている方なので、折に触れて咬み合わせと睡眠障害の関連性を説明はしてきたが、人は自分の関心事でないことを指摘されても記憶の定着までにはならないものである。埋伏歯と言って本来歯列に並ぶべき歯が顎骨の中に潜ったまま萌出してこなかったので、歯列のアーチが小さくなっている。この説明も正しくは“顎骨が大きく成長発育しなかったことで歯が萌出できるスペースがなくなった”というべきであり、その顎骨が大きくならなった根本原因がいびきと関係しているのである。つまりは“低位舌”、舌のポスチャーが口蓋に触れていないので睡眠時には舌根が咽頭壁を塞ぐようなポジションになるので人によっては口蓋垂が振動することでいびきが生じる。こういう方は仰向けから横向きに体制を変えると気道が拡がることで一時的に空気の通りがよくなりいびきも治まる。構造的に舌を口蓋に張り付けにくい、もしくは舌が持ち上がらない場合には嚥下時に誤嚥する可能性高まると考えられるので、やはり舌の機能改善が急がれる。尚、いびきといってもどこの個所が振動しているのかによっていびき音も異なるので、症状の程度によっては睡眠外来の受診も勧めております。

                         2025,3,12

不正咬合と脊柱管狭窄症

 「咬み合わせが脊柱管狭窄症と関係しているんですか?」と不思議がられることが不思議である。John Mew先生の“全てのことには原因がある”という視点で不正咬合の成り立ちから体幹の歪みを捉えると疑う余地はない。ただそこにEvidence(科学的根拠)を示すだけの資料の積み重ねがないので、経験値だけで語られても説得力に欠けると、口腔内しか診ていないドクターには言われることが多々ある。ならばということで、21年の患者データを分析してみると、舌の可動域が狭くなるほど不正咬合の度合いはひどくなり、その割合は約7割にも及ぶ。では残りの3割の方は理想的な咬み合わせをされているかというと決してそうではなく、不正咬合に至った原因そのものが顎関節に影響を及ぼし続けた結果、口の最大開口量が小さい(顎関節の器質変化が生じている)が為に相対的に舌の可動域制限が少ない結果となっているだけのことであり、当医院の全患者数の約9割の方が舌の可動域と不正咬合の間に何らかの関係性を有していると確信している。そしてその9割の中で体幹の歪みのある割合のデータを得ることが出来れば、舌の可動域制限ー不正咬合ー脊柱管狭窄症の関連性を数値的に示すことが可能である。先日の言語聴覚士・シャロンムーア先生の講演の中で多職種連携の必要性が語られていたのは、極めて自然なことであると認識させられる。

                         2025,3,11

歯の移植

 過去にむし歯の治療を繰り返し、歯の神経まで抜いてセラミック冠を被せてある歯の歯根が破折し、抜歯してインプラント治療をするしかないと言われたという患者さんがお越しになられた。抜歯⇒インプラント、とは昨今歯医者が安易に患者さんに説明をする際に使う文言のように聞こえてしまうのは当方だけか。抜歯する前に、なぜその歯の治療を繰り返してきたのか。歯医者通いをしてきて歯が良くなっているのか?などを患者さんはしっかりと立ち止まって考えて頂きたい。治療を繰り返した根本原因が咬み合わせにあるのなら、先ずは咬み合わせを改善させることを優先させるべきであり、インプラント治療を受けたからといって歯が再生されたことにはならない。ちなみにこの方には健全な智歯(親知らず)が存在するので、当医院での治療の第1選択は歯の移植である。親知らずの移植は当医院では比較的多く実施しており、過去には4本移植を行い、15年以上問題なく過ごされている方もいらっしゃいます。インプラント治療を否定はしませんが、なぜ歯を失う状況になったのかをしっかりと考え、同じ繰り返しを経験しないためにも担当する歯科医によく質問をし、納得できる説明を受けてから治療を受けることを勧めます。

                         2025,3,10

15の春

 私立高校の無償化云々が騒がれていましたが、当医院にお越しになられる方々との会話から高校からではなく中学から私立を受験させるご家庭が多いことに以前から驚きと違和感を感じております。私立であろうと公立であろうと通うのは親ではなく本人であり、“所詮本人次第でしょ!”というのが当方の思いですが、日本みたいに「決まった日に受験する」ような形はアメリカやカナダには存在しない。中学に限らず大学でもSATという共通テストの結果に、高校の成績、芸術が得意、部活動に熱心、地域ボランティア活動しているーなどの取り組みを総合的に判断して合否を決めるとのこと。今は筆記試験で問われるような暗記型の能力は、人間よりもAIの方が上であり、先進諸国ではかなり前から筆記試験だけを重視する受験は減ってきているそうです。かわって暗記よりも探求する力を育む教育が求められている背景があります。当医院に通う中学生の中には志望する高校に合格できなかった方がいます。不合格という結果に落胆する気持ちは、複数回大学受験に失敗した経験のある当方にはよく分かります。しかしここでの躓きはマラソンに例えたら42,195Kmの1Km地点での順位でしかありません。ゆっくり自分のペースで順位を上げてけば良いだけのことですと、受験で結果を出せなかった諸君に伝えたい。

                         2025,3,9

モスクワ

 学生時代のバックパックを背負って“ヨーロッパ2ヵ月個人旅行”は今となっては貴重な体験であった。家庭教師のアルバイトをして貯めた資金をすべて投入しユーレイルパスを購入したり、当時はまだネットで宿の予約などは出来る時代ではなかったのでFAXを送信して主要な都市だけは渡航前に宿泊場所を確保しながらの旅であった。当然各社の格安航空券を比較し、帰国日も決めずにオープンチケットを購入して最初に降り立った地は、なんとモスクワである。トランジットホテルといっても軍の施設内の宿泊施設に空港から連行されるようにバスで移動させられ、着いた先では片言の日本語を喋る怪しい女性が1,500円でモスクワ市内を闇案内すると声を掛けられた。いったいここはどんな国なんだと思いつつも好奇心から日本円を支払い赤の広場などの案内を受けた。今であれば日本人であるだけで危険な目に合うのではないかと想像してしまうが、当時のモスクワではお金や煙草をワンカートンを渡せば何でもできる闇世界が存在していた。日本人のように勤勉に働く国民性ではなないように当方の目には映ったが、先進諸国からの制裁を上手く逃れている今のロシア・モスクワの市民生活は如何なものか訪ロしてみたいものである。

                         2025,3,8

睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群)

 「だから初診時から〇〇さんの咬み合わせであれば、いつ睡眠時無呼吸の疑いがあると言われても不思議ではないですよって言ってきたじゃないですか~。」とは、70歳を超えた男性患者さんとの会話である。10年以上治療から定期メンテナンスで通われている方ですが、これまでに歯根破折で複数本抜歯を行い、被せ物が外れては再治療となり、兎に角治療の終わりがない。根本的な原因は、骨格的な不正咬合と睡眠時の歯ぎしりによる咬合性外傷であるので、機能的歯列矯正治療と舌を含めた口腔筋機能訓練を徹底的にするしかないと提案はしてきたものの、聞く耳を持たないのか、理解は出来ても治療自体が嫌なのか、かみ合わせと睡眠障害が関係あるなんて聞いたことがないということで、なんでもかみ合わせの原因にするなと思っていたのかも知れない。しかし、今日ばかりは当方の説明に真剣に耳を傾けて聞いていた。おそらく医者に睡眠時無呼吸と言われたからである。かみ合わせが関係していることは間違いないと確信しているが、正確には現状の咬み合わせに至った原因が睡眠時無呼吸と関係しているのである。歯列矯正治療と聞くと未だに見た目、審美的な改善を目的とした治療という認識が多いようだが、この方のように機能的な問題が時間をかけて命にかかわる問題にまで発展していることは、決して珍しくないというのが30年以上の臨床経験から言えることである。

                         2025,3,7

救え、子供達の身体を!

 なぜ口腔機能の適正化が求められるのか?乳幼児、幼児であれば、これから身体が出来上がっていく初期の段階で筋肉、軟組織が正しく機能することで本来のあるべき骨格、頭蓋顔面発育の成長が進み、成人であれば長年身に付いた間違った習癖を正すことで誤嚥を防ぐ一番の予防手段となる。正しい機能獲得が出来なかったとしても我々の身体には適応反応と言って他の器官が代わりに働くことで、一見すると何の問題もなく生活が送れているように見えてしまう。しかし、適応の裏には代償という結果が待っており、それが口腔、頭蓋顔面で起きれば頭蓋顔面発育障害という形で現れ、顎が発育していないので歯が入りきらなくなるのである。つまり不正咬合を有しているということは、口腔周囲の筋機能が正常に働いていないことの裏返しであり、頭蓋を支える第二頚椎への負担から側湾症、脊柱管狭窄症へとつながる体幹の歪み、更に将来的には病院などの診査検査では異常は見つからないものの本人の不定愁訴だけは依然として残り、何で体調が悪いのかという周囲にも理解してもらえない状況に追い込まれて精神的にも追いつめられる方も少なくない。20~30年、それ以上の年月をかけて体調不良に陥るその入り口で機能の適正化を図ることが出来れば今の子供達の健康を将来にわたり守ることが出来ると思えるからこそ、診療システムを変えてまで早急に子供達のトレーニングを行う意味はそこにある。

                         2025,3,6

歯列矯正治療をする目的は何ですか?

 お子様の不正咬合が気になって受診される親御さんは当然歯並びを改善させたくてお越しになるのだが、歯並びを改善させる目的は何かを初診時に問うようにしている。それは未だに歯列矯正治療を審美目的としか捉えていない方が多く、また残念ではあるが歯科医側からもそのような説明に終始している先生がいる現実があり、不正咬合治療の概念を変えていく必要があるからである。「歯並びが悪いのは、小さな顎に大きな歯が入りきらないからであり、小臼歯を抜いてスペースを確保してそこに重なった歯を移動させて歯列を整えたら綺麗に収まりますよ。」といった説明を受けた方はいらっしゃらないだろうか。実際に当方が診査診断を行ったわけではないので、仮にそのような説明をドクターから受けたとしてもご本人が納得されたのであればとやかく言う必要はないかも知れない。但し、矯正治療を受けたにもかかわらずあまりにも酷い結果になって相談にお越しになる方を診ていると、やはり矯正治療に対する考え方の違いを説明しなければならないという責任感に駆られてしまう。重要なことは「なぜ顎が小さいのか?」を真剣に考えて頂くことであり、長期的な視野に立った時に、顎が本来の大きさに成長発育しないことで身体にどんな問題が生じる可能性があり、実際に顎顔面発育障害のまま成長した子供たちが成人になって不定愁訴を抱えている現実があることを抑えておかなければならない。不正咬合は歯の問題ではないのです。

                         2025,3,5

安易にインプラントを選択?

 「右下の奥歯の根元が腫れてきたので近くに歯医者で診てもらったら、根っこが特殊な形態をしているから抜歯してインプラントするしかないかな・・・って言われたので不安になって来ました。」という方がお越しになられた。患者さんの言うことですので診察したドクターの言葉をそのまま正しく再現できているかどうかは分かりませんが、抜歯⇒インプラントのように方程式のような治療の進め方は一度立ち止まって考えて下さい。なぜ抜歯するほどその歯が悪くなったのでしょうか?その原因を取り除くことが医療であり、インプラント治療を受けたとしても歯が悪くなった原因は残されたままなのです。見た目ではなく機能的に上下の歯が機能しているかどうか重要なポイントであり、咬んだ状態で下顎を左右に動かした際に奥歯がいつまでも上下で当たるようであれば、それは夜間の無意識時の歯ぎしりによって歯の堅い組織にかみ合わせによる外傷(咬合性外傷)が生じ、エナメル質や象牙質、場合によっては歯根までひびが入ることで歯の歯髄組織(神経と血管の組織)が感染し症状が発現することになります。従ってこの方のように抜歯せざるを得ない歯の場合、かみ合わせが原因で治療を繰り返した挙句抜歯に至るケースでは、その後抜歯窩にインプラント補綴をしてもかみ合わせが変わっていないのだからインプラントもしくは咬み合う相手の予後においてトラブルが生じる可能性が高いことは容易に想像できるというものだ。目先の結果だけを求めようとすればするほど治療を延々と繰り返し、歯医者に行くことで更に歯を削られて健康な歯が失われていくことに、どこかの時点で気付かなければいけない。機能的歯列矯正治療の需要が当医院で高まっている背景には、このような要因が考えられる。なんでもそうですが、治療を受けるまでにはしっかりじっくり考えて、先のことを考えるべきであり、白衣を身に纏った人の言うことが必ずしも正しいと決め込むことは避けて頂きたい。

                         2025,3,4

慢性炎症の全身への波及

 口腔内しか診察をしない、出来ない歯科医でよいのだろうか?眼科、耳鼻咽喉科、整形外科など医療は多くの科に分かれているが、人の身体は都合よく分かれているものではない。人が勝手に細分化しただけであり、どの科の医療従事者であっても全身の中での専門科という認識が備わっていなければならない。「原因不明の頭痛に何年も悩まされていて脳神経外科でも調べてもらったが問題はないと言われた」というご婦人が以前お越しになられた。機能的な咬み合わせに問題を認め、過去に複数の神経を抜く処置を受けている歯が存在し、何れの根管治療も満足のいく治療レベルではなく、根管内の腐敗及び感染が根尖性の歯周炎を引き起こし、炎症性サイトカインによって局所的に骨細胞も溶かされ、結果的には感染根管が離れた組織のトラブルを引き起こしている可能性があることから、根尖病巣を認める歯の再根管治療をするに至った。すると何が起きたか。嘘のように頭痛がなくなったと複数回の根管治療後に仰ってきたのである。これはよく診られることであり、口腔や上咽頭の慢性炎症は全身に波及していることを物語っており、根本原因を改善させなければ薬で対処してもそれは典型的な対処療法ということである。この方も、機能的な咬み合わせに問題がなければ、個々の歯の神経を抜くような処置には至らなかったと思われるだけに、幼少期からの舌を含めた正しい口腔機能の獲得が如何に重要かを思い知らされるケースでもある。

                         2025,3,3

口腔機能適正化の時期

 子供達の正しい口腔育成を構築するためには全身との関係を視野に診査診断することが求められます。先日の講演会では多職種の関係者の出席が多数あり、これまでの歯科学会ではないほどの盛り上がりを見せ、何が求められているのかを直に感じる時間となりました。「呼吸」「姿勢」に焦点を当てれば理学療法士の先生方の教えが必要であり、顎の発達や歯列形成にも大きな影響を与える重要な要素です。全身の発達の成り立ちを診れば、赤ちゃんがお母さんのおっぱいを吸うところからの診査介入も必要であり、当医院でも生後1,5ヵ月の赤ちゃんを哺乳状態を助産師立会いのもと診るようになってきました。現状で起きている問題を見つけ出し、そのまま放置したら将来的のどのような問題が起こり得るのか推察し、現に放置されたまま成長発達が進んだことで大人たちの身体に様々な不定愁訴、不具合が生じていることを診れば、子供達の口腔内及び体幹の適正化は待ったなしの喫緊の課題です。あなたの傍にいる小さなお子様は夜中にいびきをしていませんか?子供はいびきをするものでしょうか?落ち着きがないのは子供の性格なのでしょうか?身体の異常も日々のこととなると慣れてしまうものですが、子供達はSOSを発信しています。決して“様子を診ましょう”などといって、身体の適正化する時期を逃さないでください。


                         2025,3,2

睡眠は「生活必需品」

 Sharon Moore先生は著書の中で、子供の健康にとって睡眠が「生活必需品」であることを強く訴え、特に睡眠関連呼吸障害(SDB)の影響とその対策について述べられています。近年、子供の睡眠不足が世界的な健康問題となっており、多くの子供達が生活習慣の乱れや睡眠障害に悩まされています。特に未治療のSDBは睡眠を断片化し睡眠効率を低下させることで、脳の成熟、身体の成長、免疫機能、社会的・精神的・情熱的な発達に悪影響を及ぼし、将来の健康や生活の質にも深刻な影響を与える可能性があります。先日のご講演では、睡眠を健康の重要な柱として捉え、子供の成長と発達において適切な睡眠と呼吸が果たす役割について述べられ、特に「6歳までに修正する(Fix Before6)」という理念に基づき、SDBのリスク要因を早期に特定し、3~6歳という「スイートスポット」での適切な介入が必要で、睡眠呼吸障害の構造的、機能的リスクを可能な限り早期に見極め、顎顔面系の成長を促し、上気道の開存性を維持するための実践的な手法について具体的に解説してくださいました。現代の医療システムが疾病治療に偏りがちな中で、「健康中心」の視点を持つことが重要です。当医院を受診される年齢層も近年は幼児、そして今年に入ってからは乳幼児もお越しになられるようになっています。睡眠と気道の健康スクリーニング、タイムリーな治療、保護者への教育を通じた予防的アプローチによって、子供達の長期的な健康と発達を支える方法を、当医院においても早急に構築することが求められています。


                         2025,3,1

納得いく治療説明とは

 「歯が凍みる!」という主訴でお越しになられた方の口腔内診査を行うと上下奥歯の強い干渉を認め、明らかに不正咬合と夜中の歯ぎしりがリンクして歯に不正な力が掛かり、歯の根元の硬組織が抉られるように楔状になっていることから、咬合性外傷を取り除かなければ程度の差はあるにしても日によって症状が発現することは十分に考えられるとプレゼン、説明をさせて頂いた。このようなケースで患者さんからよく聞かれることとしては、「マウスピースでも装着した方が良いですか?」である。その目的を尋ねると、「歯軋りを防止したいから・・・」という返答が多いが、マウスピースを装着したところで歯軋りは止まりませんし、止める必要もないとお伝えしている。なぜなら歯軋りは生体が必要があって行う反応、大脳新皮質のストレスを開放するための生理的な反応であり、仲良く付き合っていく必要がある。となると、歯ぎしりをしても問題がないような咬み合わせを構築するという考えが出てくる。子供であれば口腔筋機能の働きを改善させることで顎骨、頭蓋顔面骨格の適正化を成長に合わせて行うことが可能だが、成人の場合は成長が終わっているためにワイヤーなどのメカニカルフォースによって歯を動かし、並行して舌を含めた筋機能を適正化(習癖の改善)を行うことで、誤嚥などになるリスクを下げるという考え方が必要である。また一口に歯列矯正治療と言っても矯正治療の考え方・治療法もドクターによって異なるので患者サイドとしては何を信じたらよいのか分からなくなるのである。そんな時には目の前のドクターに、「私と似たようなケースがあれば写真で見せて頂けませんか?」と尋ねてみたらよい。今はデジタルカメラで記録写真を簡単に保存できるわけだから、そのぐらいは何の手間にもなるまい。自分の身体のことを治療してもらうわけだから、患者さん自身でドクターの診断をしてみたらよい。


                         2025,2,28

医療を変える

 時代は急速に変わっている。敷居の高かった学会も、運営者側の考え方ひとつでこうも変わるものかと実感させれた二日間であり、新たな知見も瞬く間にSNSにて世界に広まっていく。あとは聴講した関係者たちが日々の臨床でどのように活用し、社会に還元できるかということだろう。なぜ歯医者が睡眠なのか?簡単に言えば不正咬合になる原因を掘り下げて探っていったらそこまで辿り着いたということであり、科学の進歩によりCBCTによって頭蓋顔面の状態が確認できるようになったことで、不正咬合を有する子供達の舌位、気道の状態を視覚的に確認できることに尽きる。子供の早い時期に睡眠と気道の健康が最適化できれば、子供の発達のあらゆる領域において、良い睡眠と呼吸がもたらす恩恵を享受できる絶好の機会が到来している。優れた睡眠と呼吸のための最良の機会を提供することで、仮に問題があったとしてもすぐに修正することが可能になってきたと実感しております。Evidence(科学的根拠)がないからと言って、このまま放置すれば先々生きづらくなることが分かっている子供達に対して“様子を診ましょう”というのは余りにも無責任ではないでしょうか。原因が分からないものに対して“とりあえず薬を飲んで”と当たり前のように処方するのは果たしてどうなのでしょうか。薬で根本解決出来ているのなら、医者も歯医者も今ほどの数は要らないはずです。日本の医療を変えていきましょう。

                         2025,2,27

眠りで子供は変わる

 先日のSharon Moore先生の講演内容を思い出すと再び熱いものが蘇ってくる、今までにそんな講演会はあっただろうか。悶々として形に見えない漠然とした問題点を見事に言語化されていた。睡眠には生物学的必要性があり、脳の早期成熟、身体的成長、免疫、及び社会的・精神的・情動的発達(発育)を促し、子供の健康にとって非常に重要な側面を持っている。睡眠障害の原因が何であれ、それを放置すれば不十分な睡眠が子供の日々の生活の質や将来に悪影響を及ぼします。今日の世界では、医療は“病気”の治療に向けられていますが、「健康に焦点をあてた」視点を持つことにより、私たち医療従事者は幼児の睡眠と気道の健康を作り出し、生涯に亘り効果をもたらすことが出来ると確信しています。今、目の前にいる子供達を診ると何か様子が違う、変な状態があるなと気付いているんだけれども、それを「様子を診ましょう!もう少し大人になってからでも良いんじゃないですか?」などと言って本当に良いのでしょうか。実はそこにかなり深い問題が隠れているということに医者も歯医者も、そして医療にかかわるすべての人が気付かなければ駄目なんです。子供達の成長は待ったなしです。“Now or never”

                         2025,2,26

睡眠の質

 寝息が荒い、いびきをかく。寝相が悪い、おねしょが続く。寝起きが悪い、口が開いたまま。口が乾燥する、口臭が気になる。歯並びが悪い。これらの原因はそれぞれが異なるのでしょうか?うちの子供はずっとそうだから気にしていないでは済まされません。子供達の正しい成長、我々の身体に起きている異常について理解が必要です。子供達の口腔機能の改善に取り組んでいる同僚の歯科医師のところに通院されている保育園児の一人は、お昼寝のために医者に処方された睡眠薬を服用し、小学生のなかには落ち着きを保つために精神安定剤を服用しているお子様がいるという。発達障害が増えていると言われる今、その多くが「睡眠障害」による症状と酷似している可能性がある。昨年11月に徳島で開催された睡眠歯科学会における専門医の発表内容、先日の日本小児口腔発達学会における言語聴覚士Sharon Moore先生の講演内容は、顎の発育不良、頭蓋顔面発育障害に至った原因がまさに当てはまる内容であり、歯科にお越しになられる子供達の睡眠障害の可能性をスクリーニングにて調べるべきであると感じている。因みに当院では昨年からスクリーニングを実施しており、その中から程度の違いはあるものの睡眠障害の可能性がある数名を睡眠外来に紹介させて頂いている。睡眠の質は成長ホルモンの分泌に大きく影響を与えるので、早寝早起きは言い得て妙である。

                         2025,2,25

Sharon Moore(言語聴覚士)に感謝!(2)

 2日間の学会講演が終わり、言葉にするのが難しいほどの、熱量と学びの詰まった時間だったと実感している。普段の臨床で感じている漠然とした疑問、違和感は当方だけではなく会員の皆さんも共有していることが分かった。知識が更新される瞬間、常識が覆る瞬間、未来が見えた瞬間。この学会に参加したすべてに人は、知ってしまった以上は行動に移すしかない、そんな思いで家路に着いたことだろう。不正咬合に至る根本原因を突き詰めていくことで見えてきた全身への影響。もはや目の前の患者さんは歯科医だけで抱え込むのではなく、多職種連携を真剣に考える時を迎えている。全ては子供達の正しい口腔機能の発達、成長の適正化を図るためであり、原因の本質に迫る医療である。世間的にもかみ合わせの悪い子供達が増えてきているとの認識は拡がっており、歯科医師も歯列矯正の必要性を説いているが、そこで終わってはいけない。歯列矯正治療も所詮対処療法なのである。歯並びが悪くなる原因を取り除くという考え方、視点が重要なのであり、顎が小さいから歯が並びきらないと考えているようでは不正咬合の原因は取り除けない。なぜ顎が小さいのか、その原因は何なのか。そしてその原因は身体にどんな影響を及ぼしているのかを紐解いて患者さんに伝えていかねばならない。改めてSharon Moore先生に感謝である!


                         2025,2,24

Sharon Moore(言語聴覚士)に感謝!(1)

 「小児の睡眠呼吸障害(SDB)や長期の鼻呼吸障害では睡眠中の努力性呼吸・日中の鼻閉や開口習慣が後天的要因として上顎と下顎の劣成長を引き起こす」と提言したのは故Dr.Christian Guilleminaultである。一見すると睡眠と呼吸は単純なことのように思えますが、睡眠関連疾患や呼吸障害を抱えたお子様の機能障害、発達への影響、何もしないことがもたらす結果について、オーストラリアのSharon Moore先生の講演を拝聴する機会を得た。言語聴覚士である彼女は、子供の睡眠を改善するために、子供の日課や環境を最適化する行動学的アプローチをとっており、そして、健康な気道を作るために口腔筋機能療法が果たす役割の重要性を説いています。これは非常に重要なトピックであり、科学的根拠に基づいたデータにおいても、閉塞性睡眠時無呼吸の治療において口腔筋機能療法は気道を広げるうえで非常に重要な役割を果たすと述べられていました。実際に当医院において子供達の睡眠呼吸障害(SDB)のスクリーニングは行っており、かみ合わせのトレーニングプログラムを開始する前に中等度以上の睡眠障害が疑われるお子様については然るべき睡眠外来を紹介している。皆様も睡眠の重要性はご理解されていると思いますが、運動、栄養摂取、ストレスマネジメントの面においても満足のいく睡眠は確保されなければならないのです。子供達の身体は待ってくれません。根拠なき“様子を診る”は、傷口が広がるのを待つだけだということになりませんか。


                         2025,2,23

食事に飲み物は必要ですか?

 子供達に「トレーニングの4つの目標は何だっけ?」と尋ねてみると、「・・・唇を閉じる。舌を上に持ち上げる。鼻で呼吸をする。・・・きちんと飲み込みが出来るようにする」と、何とか答えが返ってくる小学生もいれば、「えっ?覚えていな~い!」と平気で答える子もいる。目的をもってトレーニングに励んでいる子供の口腔内は当然目に見えて変化し、トレーニングが日常生活の一部となっている。一方で、親には子供を良くしてあげたいという強い思いがあるにもかかわらず、当の本人が出された課題をきちんと実施してこないとなれば結果の差は歴然であり、場合によっては治療(トレーニングのプログラム)の継続を断らざるを得ないこともある。また、決められた回数、課題をきちんと熟していても普段の日常生活の中で改善されていなければ、改善の度合いは遅くなる。例えば、舌を口蓋に張り付ける練習が出来ているにも拘わらず、食事の際に必ずコップに水が用意されているようでは食塊を流し込んでいることが予想されるため、舌の貼り付けも練習のための練習となっている。正しい咀嚼が出来るためには正しい舌の動きが出来ていなければならず、間違った日常の何気ない習慣を改善させなければならない意味はここにある。因みにですが、当医院の咬み合わせトレーニングを希望されているお子様の9割以上は食卓に飲み物が用意されている。全く必要がないにも拘わらずである。


                         2025,2,22

機能的歯列矯正治療の目的

 大人の機能的歯列矯正治療は装置を外して保定装置を装着しただけでは多くは後戻りをする。それはなぜか?不正咬合に至った根本原因が取り除かれていないからである。当方のブログを見てくださっている方であればその理由をお分かりかと存じますが、口腔周囲筋の習癖を残したままでは不正な力が歯および顎骨に掛かり続けるため元の状態に戻ろうとするのである。現在矯正治療中の方の舌のポスチャーが正しいかどうかを確認するために、「普段、舌はどこにありますか?」と尋ねてみると、「エッ??」の反応である。本来舌は・・・と説明を行い、矯正治療に入る前のCT画像にて確認をしていただくと舌は口蓋からかなり離れており、普段から低位舌であることが疑われ、幼少期からの舌の正しくないポスチャーが不正咬合に至った原因だと改めて説明をさせて頂いた。矯正治療に入る前の診査診断時に説明を行うも、全てを理解し記憶している方など皆無と言っても過言ではない。当方が他科に掛かって説明を受けた場合を想定すれば言わずもがなである。機能的歯列矯正治療を行い、そこに至った根本原因を改善することで代償反応もなくなれば、理論的には体幹は改善される方向に向かい生理的な機能も改善されるので、原因不明の不定愁訴で悩まれている方にも笑顔が戻ってくるのである。但し、この治療、考え方には即効性がないことを忘れてはいけない。

                         2025,2,21

歯医者の仕事は何??

 当医院にお越しになられた患者さんが偶々そうなだけだと信じたいが、まったく抜歯する必要もない歯を抜いてインプラントを勧められたという患者さんが年明けから数人いらっしゃる。“抜歯する必要もない歯”とは、当方の診査診断では通法通りの根管治療を行い補綴(被せる治療のこと)治療まで行えるという意味であり、もしも予後に不安が残るようであれば最終的な被せ物を被せるのではなく、精密な暫間的補綴物を接着して数ヵ月~数年経過を診ればよいのである。治療の目的が白くて綺麗なセラミック冠(クラウン)を被せたいのか、それとも理想はセラミックだが抜くことよりは歯を保存できた方が良いと考えるのかによって、治療のアプローチの仕方が異なるのである。もっとも一番考えなければならないことは、なぜその歯がそこまで悪くなってしまったのかということであり、治療履歴を遡って原因を探す必要がある。仮に抜歯してからインプラントを埋入した場合、天然の歯が抜歯するに至った根本原因を取り除かないまま欠損部にインプラント補綴をしても、抜歯した歯と置かれた環境は同じであり、インプラント補綴物や対合歯(インプラント補綴物と咬み合う相手の歯)の破損、もしくはインプラント周囲の支持骨がダメージを受けやすくなることは容易に分かるようなことである。“抜歯=インプラント埋入”がともすると方程式のように当て嵌めようとする治療を目にすることがあるが、“抜歯にならないように先ずは全力で歯の保存に取り掛かる”ことが歯医者の仕事ではないのだろうか。誤解しないで欲しいのだが、インプラント治療を決して否定しているのではなく、“インプラントありき”の診断では、患者からの信頼を得ることも、期待に応えることも出来ないのではないでしょうか。

                         2025,2,20

舌小帯と成長発育障害

 ここ最近、乳幼児や幼児の舌の形が気になるとの問い合わせが増えてきている。「助産院では舌のマッサージだけでは良くならないかもしれないと言われたのですが、どこで診てもらったらいいのか分からなくて・・。こちらのホームページを見てご連絡をさせて頂きました。」など、どこの診療科を受診されたら良いか分からない、迷っている親御さんからの問い合わせである。“舌小帯短縮症”というキーワードで検索すると、様々な意見、感想が載せられていることから、何を信じたらよいのかも分からないというのである。情報過多で頭でっかちでお越しになられた親御さんに必要なことは、当医院で行われている実際の情報と、何もしない現状のままで様子を診ることをした場合にお子様の身体にどのようなデメリットが生じる可能性があるのかを理解して頂くことである。説明には当然時間を要するが、そこは避けて通れない。仮に舌小帯短縮症であったとしても命にかかわる問題ではないので、親御さんによっては気にされない方もいらっしゃるかも知れない(そういう方にはお目に掛ったことは今までのところないが)。しかし、身体の成長が進むにつれて、機能障害、機能不全という目に見える形で周囲の子供達との違いを感じ取ることになる。小さな異常も早期に改善できれば、将来的に医療機関に足を運ぶ機会も少なくなるに違いない。子供達の健康阻害を防ぐためには、如何にして頭蓋顔面発育障害を予防するかという点に尽きる。

                         2025,2,19

医療は方程式ではない

 子供達の健康が守られない。なぜ歯医者は歯および歯並びしか診ないのか。むし歯なら処置をすればそれで問題は解決したと言えるのか。歯並びが悪ければ、装置を付けて力ずくで歯を綺麗に並べたらそれで問題はなくなったと言えるのか。“健康=Health careゼロ(医者がいなくても困らない)”が医療の目指す究極の目的であることが頭にあれば、原因を取り除くことをしなければならない。むし歯になった原因は何?不正咬合になった原因を取り除かなければ、装置を外したらどうなるかは言わずもがなである。唾の飲み込みを診れば、口腔内に隠れている歯並びがどのようになっているか想像がつく。子供達は日々サインを出しているにも拘らず、親や医療関係者がそれに気付いていないだけであり、世の中に将来の体調不良予備軍が溢れている。不定愁訴を抱えた大人たちはあちこち病院を変えては医者の悪口を言い、次から次へドクターショッピングを繰り返す、それが表には出てこないが現状である。原因不明の体調不良に薬で対応できるのか?「とりあえず飲んでみて下さい」というのは診断が付かないからであり、その根本原因は遡れば鼻腔、咽頭、口腔内にあることは多々あると思われる。一度確立された治療法を変えていくにはエネルギーを要するが、目の前の患者さんを時間をかけて診査すれば見えないものが診えてくることが歯科に関してはまだまだ存在する。小さな子供達の歯に方程式のようにワイヤーを掛けるのを、立ち止まって考えてみませんか?

                         2025,2,18

自己の考え

 自分の考えを持つことが難しい世の中になってきているのかも知れない。先日のセミナー後の懇親会で、ある先生が「○○がこう言っているああいっているという話ばかりで本人の意見が全くない人が結構いませんか?」と喋り始めた。周囲の反応は「そうですね、もっともらしいことを言っていると思って聞いていると、○○にそんなようなことが書かれていたので‥‥なんてことを言う人もいますね」との声に頷く面々。あまりの情報の多さに取捨選択するでもなく鵜呑みにしていると、うわついたものにいつの間にか流されてそれが当たり前になってしまっているのか。当方が漠然と感じている今の世の中は、なにか人の繋がりがバラバラになってきており、その原因の根底には日本人が築き上げてきた教養や修養といった共通の知的基盤がなくなってきたことに起因するのではないだろうか。教養と修養は、人が人として生きていくためには理屈抜きに不可欠であり、そこがおろそかにされてきたこ結果、日本だけではなく世界的に道理の通らないことがまかり通ったりして世の中が何か悪い方向に向かっているような空気が漂っているように感じている。しかしそんな時こそ自分と向き合い、自分を俯瞰し続けることで、軸のブレない考えを身に付けられるのではないでしょうか。

                         2025,2,17

脳の機能

 子供達の咬み合わせのトレーニングを行っていると、こちらの指示を落ち着いて聞いていられないお子様が中にはいる。要は集中していられないので、こちらの情報をしっかりとキャッチできないのだ。母親に家庭での様子を伺うと、見たことは比較的覚えているような傾向があるとのことなので、目からの情報であれば集中力も持続できるものと判断し、ビジョントレーニングを取り入れることにしてみた。これは感覚統合という考え方に則った身体の育て方の一環でもあり、ピラミッドの基礎部分が揃っていなければてっぺんの部分まで満足に整う(成長する)ことはないのである。永六輔さんはその著書「伝言」に「聴覚は人間の五感のうち、胎内からご臨終まで、いちばん長く働いています」「ラジオのおもしろいところは、ここです」と記している。当方は子供の頃、母親が台所でラジオを聴きながら食事の用意をしていたことを記憶しているが、人によっては五感の中でも得意とする感覚は違うのかも知れない。複数の感覚を整理したりまとめたりする脳の機能は、乳幼児期の発達において特に重要であり、発達の土台となっています。学習面において思うように学力が伸びないと感じている親御さんは、学習内容について反復練習をするのではなく、難しさの要因つまりピラミッドの下の段階である、認知機能や運動、感覚機能にアプローチすることで「学習」に良い影響を与えると考えることは非常に重要であると思います。

                         2025,2,16

15の春

 受験真っ只中のこの時期に、なんとも遊び心のある応援メッセージが神奈川県のある県立高校の校庭に書かれていた。受験日当日に書かれたその文字は、校庭に「入試」とかけて「バレンタインデー」ととく。そのこころは「義理(ギリ)でもOK」。さて受験生たちは、校庭にまで目を行き渡らせる心の余裕はあったのだろうか。当方の高校受験当日の心境はどうだったかのか思い出せないぐらい遠い昔のことであり、第一志望はランク的にはリスクが高いと担任の先生に諭され止む無く志望校を変更したことだけは記憶している。結果的には定員割れの受験生全員が合格したとかしないとか。今となっては、行ける高校よりも行きたい高校に挑戦すべきだったとの思いが数十年時が経った今でも思う。さて、校庭に書かれた「義理でもOK」は、受験を終えた生徒たちには「義理でも合格」と思いたかったのではないだろうか。試験と聞くとフリーズしてしまう私の脳みそは、トラウマとなっていつまでも身体に宿っている。言うのは簡単だが、苦手克服というのはメンタルの部分が原因の大半を占めており、受験生には自分の弱さとも向き合って成長していって欲しい。皆さんが素敵な15の春を迎えられますように!

                         2025,2,15

永久歯に生え変わってからの矯正治療で良いのでしょうか?

 通院中の患者様から、『2年生の子供なんですけど、今掛かっている歯医者さんに「下の前歯が隠れているから咬み合わせが深いね~。永久歯に生え変わったら矯正治療が必要かもね。」と言われんですけど、そのまま何もしなくても良いのでしょうか?』と相談を受けた。実際にそのお子様を診察したわけではないのではっきりとしたことは申し上げられないが、永久歯に生え変わるまでただ待っているということは、その間顎を含めた顎顔面骨格の成長はどうなるのか?という考察が欠けていると言わざるを得ない。なぜ咬み合わせが深いのか、そのようになった原因を取り除くことが不正咬合を改善させることになり、その原因を取り除かないまま成長すると身体にどのような弊害が起きるのかを考えなければいけない。「様子を診ましょう!」というほど無責任な診査診断はない。咬み合わせが深い=頭蓋が前方に位置している=猫背になってい=頬の張り出しが弱い、などの所見があるはずであり、睡眠障害も例外ではない。口腔内の問題が将来的に全身の問題を引き起こすとの認識のもと、歯科医の診断力を上げていかなければならない。

                         2025,2,14

内政問題

 「高額療養費の引き上げ」と「高校の授業料無償化」が与野党にて議論されているが、率直な感想として、無償化をする財源があるならそれを限りある命の治療のために何とか治療費を捻出されている患者さんのために充てたらどうかと思うのだが、そのような思考回路は国会議員の先生方にはないのだろうか。子育て世代の経済負担を軽減させるという名目は悪くはないが、優先順位というものがあるのではないでしょうか。家族構成、所得格差など様々なケースが考えられるが、無償化という響きは良いがその付けは必ず今の子供たち世代が追うことになり、1300兆円を超える国の借金を抱える中で、無償化を急ぐ意味はあるのか疑問である。それは誰だって“お金がかからない”ことに越したことはないと頭のどこかでは思うものでしょう。“財布の紐を締める”なんて言葉もあまり耳にしなくなってきたが、国が破綻する前に議員バッジを付けた先生方には国民受けをする政策だけでなく、20年,30年先を見据えた軸のぶれない骨太の方針を示してほしい。“103万の壁”の178万円への壁引き上げに伴う税収減は、7~8兆円とも試算されているが、減収分はどうされるのかはっきりしていない。そもそもこれを提言された議員の方は品格のない方だったように思いますが、そのような方が国をリードしている時点で国会議員の資質は問われなくなっているのですかね。話が脱線しましたが、国力の低下に伴い内政問題がいろいろと浮き彫りになってきましたね!

                         2025,2,13

健康になるために

 口呼吸と歯列不正がどのように関係しているのか、ブログでもその関係性を説明してきましたが、文章であるがゆえにイメージが湧きにくいかも知れません。当医院の患者さんの治療前後の写真を掲載できればより詳しく解説も出来るのですが、ホームページ上に載せることは法的にできないとの事なので、当医院にお越しになられたときに皆様には自前のプレゼンもさせて頂き、ご理解して頂いております。そうはいっても口呼吸がなぜ良くないかを今日は改めて述べさせて頂きたいと思います。本来我々人間の生理的な呼吸は鼻呼吸です。鼻呼吸をすると、鼻腔内の構造によって空気が浄化されます。そのため、鼻と口腔咽頭に入る空気は、喉のアデノイドと扁桃腺のリンパ組織に大きな影響を与えません。アデノイドと扁桃腺は、空気が肺に到達する前に空気中の有害な粒子を捕らえる最後のバリアです。従って浄化された空気が肺に入りやすくなり、呼吸器系の感染を防ぎます。一方口呼吸ではアデノイドと扁桃腺がある喉に直接空気が入ります。そのため、口から体内に入る空気は事前に浄化されておらず、アデノイドと扁桃腺のリンパ組織が空気中に含まれる有害な粒子に対する最初の防御バリアになります。そのため口呼吸の子供に多いのは扁桃腺を腫らして発熱することで、年に2~3回繰り返すようであれば外科的に切除することが望ましいと以前は考えられていました(口腔機能の視点からは切除が望ましいケースが多いと感じておりますが、現在は薬で散らす考えが主流のようです)。口呼吸になっている=舌が下がっている(低位舌)、ということでもあり、舌尖が下の前歯の後ろを押すようにもなり、同時に舌が口蓋に張り付いていない状態でもあります。口蓋・上顎骨は舌が口蓋に張り付く力で拡大するので、舌が常に下がっていると頬の力に押されて形態がV字形になり、歯が並ぶスペースが狭くなり、上顎が内側に押されるため顎骨の成長と発達に影響を及ぼします。代償反応の結果出来上がった狭い口蓋によって舌は更に口蓋に張り付くことはなくなり、1日に2000回前後の嚥下をする度に舌は口蓋を押すことなく他の代償機能を使って口腔内を陰圧にして嚥下するようになります。これが異常嚥下が身に付いてしまうメカニズムです。繰り返しますが、こうした機能障害、口呼吸、舌の誤った姿勢、口を開けたままの姿勢、誤った嚥下などは、上顎と下顎の成長と発達に影響を及ぼし続け、その結果、歯のためのスペースが少なくなり、歯列が曲がってしまいます。鼻は呼吸するためのもので、口は食べるためのものであることを忘れないでください。鼻で呼吸し、口唇を閉じて口を保つことは、上顎と下顎の成長と発達を促進しますが、さらに重要なのは健康になることです。

                         2025,2,12

錠剤を上手く飲めない?

  錠剤の薬を飲みやすくするため砕いて粉にする便利グッズについての記事がネットに載っている。薬によっては砕いてはいけない錠剤もあるので注意を促す内容だが、当方が気になったのは、「錠剤を飲み込むのが苦手な人のほか、飲み込む力が衰えた高齢者や錠剤に慣れない子どもなどが対象になっている」という箇所である。“飲み込むことが苦手”というのは正しい嚥下(飲み込み)が機能として身に付いていないからであり、“飲み込む力が衰えた高齢者”というのも、もともと異常嚥下で過ごされてきた方が高齢になって筋力が衰えたことで、より誤嚥になりやすくなっていると理解しなければならない。普段から食事の時に咽たりすることがある人も同様であり、正しい嚥下が出来ていないのであればなぜ出来ないのかを真剣に考えて頂きたい。“そんなこと気にしなくても食事はできるし飲むことにも不自由はしていないから大丈夫!”という方は、それらの機能を他の器官を使う“代償反応”によって適応しているだけであり、それらがいずれは時間の経過とともに身体全体、つまりは体幹の歪みへとつながり、50歳代前後になると不定愁訴を訴えるようになるのである。皆さんは舌全体(舌の後方も含めて)を口蓋に張り付けることが出来ますか?張り付けた時の開口量(上下前歯の切端距離)は何ミリぐらいありますでしょうか?まさか20mm以下ではないですよね。

                         2025,2,11

口が開いているのはなぜ?

 「口が開いていて舌が見えているんです。何件か歯医者さんにも診てもらったのですが、下顎が出ているから矯正装置を付けて治療をした方が良いとか、歯が生えてくるスペースがないから装置で歯並びを拡げることをしたら舌も見えなくなる、とか言われて、なんか違う気がして・・・」と、9歳の女の子を連れてお越しになられたお母様が語り始めた。問診をしている傍から女の子は口唇が開いており、明らかに鼻閉が不正咬合を引き起こしている大きな原因の一つであると推測できる状況にあった。口腔内及び全身写真撮影、口腔機能の動画撮影診査を済ませ、親御さんにも一緒に状態を診て頂きながら、何が良くないかを考えて頂いた。先ずは水を飲む様子を診て頂くと、口に含んだ水を一旦口唇周りに行き渡らせてから口唇及びオトガイ筋を緊張させて飲み込み(嚥下)をしているのである。これは飲む瞬間に口腔内を陰圧にするための代償反応であり、本来であれば舌が口蓋に張り付いてゴックンと飲み込むので口唇はもちろん口角周りやオトガイ筋、表情筋は一切動かないのである。従ってこのお子様は無意識に唾を飲み込むときにも同様の飲み込み方をしているので、約1800~2000回/(日)唾を嚥下する際に間違った力の作用が顎骨に働くことで顎顔面骨格(特に中顔面)の成長抑制が起き、結果的に歯が並ぶスペースがないので不正咬合になるのである。ではなぜ異常嚥下が起きるのかということに話は続く。皆さん何故だと思いますか?その原因を取り除くことがこの女の子と親御さんの主訴に対する解決方法なのです。

                         2025,2,10

平和を実感

 今回の講師はイスラエルからお越しになられており、懇親会の席において自国の状況について説明し始めた。だれも望んでいることではないことが現在進行形で起きており、先のことは全く分からないが一刻も早く平和が訪れて欲しいとセミナーの時とは違い、うつむき加減で一点を見つめていた。海に囲まれた島国で育った日本人には、国境を挟んだ民族、宗教観の相違からくる理屈では分かり合えない感覚は理解しようにも想像の域を超えている。決して語学が達者ではない当方にとって安易な声掛けも出来る雰囲気ではなかったが、セミナーについての質問をすると熱く語りはじめ、時には冗談交じりに笑いを誘っていた。またイスラエルのワインは品質も良く評価が高いにもかかわらず、多くが自国で消費されてしまい外国にはほとんど輸出されていないことを振ってみると、なんでそんなことを知っているのかと驚きながらも誇らしげにイスラエルワインのレクチャーが始まった。明日からは京都への観光も予定されているとのことで、束の間の平和かも知れないが日本の“ライスワイン”も是非と勧めさせて頂いた。

                         2025,2,9

年齢には関係なく

 「1916年、アルバート・アインシュタイン博士が自著“量子論”でエネルギーの自然/誘導放出の基礎理論を発表。後にデンマークのボア博士の“ボアのモデル”でレーザー理論の基礎が確立される」と、この週末に参加したセミナーの最初の講義で紹介があった。まるで物理学の授業が始まったかのような出だしであり、当方の脳内にて歯科臨床とリンクさせることに時間が掛かりそうな予感がした。なにせ理系に進んだにもかかわらず物理はどうも好きになれなかった科目であり、まさか卒後30年以上も経って量子論を学ばなければならないのかと、内心うんざりであった。歯科におけるレーザー治療は未だ普及しているとは言えないが、レーザーにも種類があり、歯の硬組織(エナメル質、象牙質など)や軟組織(歯肉)、骨などの治療に応用されており、レーザーの出力、波長、振幅の調整によって最小限の侵襲によってむし歯の治療も行うことが出来る。但し、基礎理論が分かったうえでの臨床応用であるので不足している知識のアップデートに時間を割かないわけにはいかないが、セミナー参加者の中には80歳になられる著名な先生の姿もあり、いつまでもご自身のアップデートに余念がないことに学びを得た思いである。

                         2025,2,8

舌のポスチャーは正しいですか?

 子供達の不正咬合を改善させるには、歯だけを診ていてもその不正咬合に至った根本原因は診えてこない。鼻閉があれば口を開けて口呼吸となって舌は口蓋から離れ低位舌となる。また舌小帯もしくはオトガイ舌筋周りのFasciaが邪魔をして舌の可動域が狭いようであれば、同じように舌が口蓋に貼り付くことはないため,静的なポスチャーとしての舌の正しい機能が営めなくなる。“舌は呼吸器官である”と言われた東京科学大学の小野教授の言葉が意味するところは正にここである。舌のポスチャーが頭蓋顔面の発育に関わっているとブログでも述べさせて頂いているが、皆さんの舌の動きはきちんと機能していますでしょうか?一度口を開けて頂き、今度は唇を閉じてみて下さい。その状態で舌を口蓋に張り付けてみると瞬間的(反射的)に嚥下(飲み込み)が起きませんか?この時に口腔内は陰圧になり、上下の奥歯が咬みこんで上下の顎の位置が維持されるのです。従って、常に舌のポスチャーが正しくないとこの一連の動きが出来ないために、本来は動かす必要のない表情筋やオトガイ筋などを使って口腔内を陰圧にして嚥下するために、異常嚥下という動きが確立されてしまいます。それは原因に対する代償反応であり、早い段階で原因を取り除かなければ一生その嚥下が身に付くこととなり、異常嚥下から始まる体幹への歪みと繋がります。感覚統合の視点で捉えれば、姿勢を維持出来なければ勉強はじめ物事に集中できなくなるのは言わずもがなであり、塾通いする前にすべきことがあるのではないでしょうかと多くの親御さんには声を大にして言いたい。

                         2025,2,7

耐用年数

 道路陥没事故によるトラック運転手の救出活動にに消防、自衛隊はじめ多くの関係者が24時間通しで急いでいる。戦後約80年が経過し、インフラの耐用年数を超えているところも多くあり、国土が狭く建造物に多く囲まれた日本は地震立国でもあるがゆえに特有のリスクが潜んでいる。高速道路のトンネル崩落事故、橋梁の取り換え工事、水道管、今回の事故現場からは普段目にすることのない地下にも日常生活を円滑に営むために造った技術者達の構造物が埋設されている。どんなに頑丈に、精巧に造られたものであっても半永久的に保存、維持できるものではない。それも常に過酷な環境下に置かれていればなおさらである。歯科治療とて同様であり、どんなに精密な治療を終えたとしても、飾り物ではなく機能している構造物である限り、必ずやり替えの時期が来る。それも不正咬合、歯並びの悪いことが原因でう蝕(むし歯)が出来たのであれば、根本的な原因である咬み合わせを改善させなければ再治療に至る期間は短くなると考えるのが自然である。また歯や歯肉だけではなく、顎骨、顎顔面骨格、体幹という視点で診ていくと、特に永久歯の治療を繰り返し受けている方の場合は適応の裏には代償反応があり、必ずその代償の結果がその後の人生の中で不定愁訴という形で発現すると認識しておくべきである。たまたま片頭痛がある、肩凝りがひどいのではなく、その原因はどこにあるのか過去を遡って考えて頂ければ解決策は見えてくるはずである。

                         2025,2,6

バージョンアップ

 全国的に大寒波の襲来で広範囲にわたって積雪による交通障害や被害に見舞われているようで、関東地方は降雪はないものの冷え込みが一段と厳しくなってきている。あまりの寒さに早朝の走り込みもここ数日はご無沙汰しており、月間の目標走行距離数には早くも黄色信号が点滅している。そんな中、先日の別府マラソンで山中伸弥先生がなんと3時間20分で完走したことを知り、タイムもさることながら35キロ過ぎから足が痛くて走れなくなったと語っていたことに、サブ4を達成できていない当方にとっては気持ちを再起動させられた思いである。走れない?走らない?言い訳をすれば幾らでも出てくるものだが、幸いなことに仕事の充実ぶりに反比例するかのように睡眠時間が削られて起床時間が遅くなることが続いており、このままでは“睡眠負債”から脱却できなくなりそうでもあり、頭のCPUの性能を高めなければならない。年明けに入れ替えた診療室のPCの動きは至ってスムースであり、人間も都合よく部分的にでも入れ替えが出来たら処理能力も上がるだろうにとしょうもないことが頭をよぎった。山中先生の足元にも及ばない歯医者の端くれだが、そんな当方でも頼ってお越しくださる方々のために、常にバージョンアップだけは心掛けたい!

                         2025,2,5

難しいのは・・・

 ブログに小児の咬み合わせと全身との関りを載せている影響かも知れないが、問い合わせが増えてきている。新規の予約は約1年先までお待ち頂いている状況だが、お子様の場合はその限りではない。なぜなら子供の成長は待ってくれないからであり、不正咬合があるということは後天性の頭蓋顔面発育障害を有していることにもなり、その影響は口腔内に止まらないから一刻も早い治療、対応が必要とされる。不正咬合の患者の共通項は口呼吸であり、上唇の形態が富士山型を呈していることが多い。口呼吸であれば舌は自然と口蓋から離れた低位舌となり、その状態で唾を無意識に飲み込もうとすると舌のポスチャーが正しくないので異常嚥下となり、不必要な口腔周囲筋も動かすこととなり、負の連鎖の始まりとなる。不思議なことだが、ご両親で子供の咬み合わせの相談に来られると、よく理解し早く治療を受けさせたいというのは大概母親であり、父親が言うのは決まって「今は普通に生活も出来ているのになぜ咬み合わせのためにトレーニングをする必要があるのか?」と聞いてくる。内心こちらの説明の何を聞いているんだ?と聞き返したくなる気持ちを抑え、「今は勿論、将来にわたる体調不良、体幹の歪み、そして機能不全に陥らないようにするために子供のうちにその芽を摘むことが必要なんです!」と言わせて頂いている。参考までに、「何パーセントぐらいのお子様が良くなっていますか?」と尋ねてきた親御さんは数人いらしたが、何れもその後はお越しになられていない。難しいのは子供の治療、トレーニングではなく、理解しようとせず他人任せにするモンスター〇〇〇であるのはどこでも同じようである。

                         2025,2,4

紛失物

 診療後に掛かってきた受話器を取ると、「あっ、先程治療をして頂いた〇〇ですけど、そちらにスマホを忘れていませんでしょうか?」と、慌てた様子で話をしてきた。スタッフとあらゆるところを探してはみたものの見付からず、無い旨を伝えると消え入るような声で、「お騒がせして申し訳ありませんでした。」と電話を切られた。その後のことが気になっていたのだが、本日治療にお越しになられた際に、「申し訳ありませんでした。あの後ダメもとで駅前の交番に行ってみたら、ちょうど拾って届けて下さった方がいらしたんです!」とのこと。「いやいや日本もまだ捨てたものではありませんね!」と会話が弾み、当方が過去に拾った財布を交番に届けた際にも偶然落とし主が現れ、なんとも似たようなことがあるものだとお互いに感心した。日本を訪れた外国人の中には、ホテルや旅館の部屋のセキュリティボックスを使わなくても日本は安全だから大丈夫だという方もいるらしいが、いつまでもそのように思われるような国民性やお国柄であり続けたいものである。さらに付け加えるとしたら今なら“楽しい日本”ということにもなるのかも知れませんね!

                         2025,2,3

ファシア(Fascia)

 ファシア(Fascia) をネット検索すると「全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム」とある。不正咬合と体幹の歪みは非常に関連があると言わざるを得ませんが、その際のキーとなるものがこのFasciaであると考えます。全身の筋肉はそれぞれ単独ではなく、複数の筋肉が連動しコネクションを形成し、一つの線として存在します。全身に張り巡らされた数種類の中でもDeep Front Lineと呼ばれるものは、口腔発達と関連がある舌に始まり、呼吸と関連する横隔膜、姿勢と関連する大腰筋・腸骨筋、そして足の指先まで繋がっています。従ってこのFasciaに緊張が掛かり続けた場合、口腔、呼吸、姿勢にも関係してくることは容易に理解できるわけで、昨日のブログで述べたお子様の姿勢が改善されたケースは、舌周りのFasciの緊張が取り除かれたことで呼吸と姿勢に良い影響が及んだものと考えられます。数年前に亡くなられたある耳鼻咽喉科医の先生がなさっていた舌の手術を受けた方々の術後の感想の中に、「呼吸が楽になった」、「空気がスーと入ってくるようになった」、「慢性的な首や肩の凝りが嘘のように無くなった」という表現が多く見られたのは、このようなことだったのかと実感している。

                         2025,2,2

口腔機能発達不全症と体幹の歪み

 2018年に「口腔機能発達不全症」が保険導入さたこともあってなのか、不正咬合を抱えた子供達にファンクショナルアプライアンスを装着する歯科医院が増えてきたようである。大事なのはなぜ不正咬合が生じたのかという原因を正すことであり、現症のみを改善させるだけでは不十分であり、不正咬合に至った背景にある根本原因が身体に及ぼす影響までを理解する必要がある。普段から姿勢が悪いのは果たして姿勢だけの問題なのか。食事の際にクチャクチャ音をたてるのは単なる癖で、気を付ければ改善できるものなのか。夜寝つきが悪く、朝も起きられないことと咬み合わせが関係しているとは誰も思わないかもしれないが、不正咬合に至った原因と密接に関係している可能性を示す文献を目にする機会も増えており、我々歯科医が子供達の不定愁訴を取り除くべき役割を担っていると実感する日々である。数か月前に舌の可動域が狭い低学年の女の子のオペを実施し、その後頭蓋を常に傾げていた姿勢が自然と改善されてきている姿を見ると、もしも何もしないで過ごしていたら、このお子様は頭蓋の傾きから始まる体幹の歪みを成長と共に大きくするだけだったのはないかと推察することができる。老齢期に「オーラルフレイル」という状態に陥らないためにも、小さな子供のうちに悪くなる芽を摘むことが必要である。 

                         2025,2,1

白衣がなんぼのものや

 小児の咬み合わせ治療における資料採りで撮影したレントゲン診査では、重度の慢性副鼻腔炎を発症していると思われる不透過像(当方は耳鼻咽喉科医ではない)を認めたため、以前からお世話になっている耳鼻咽喉科の専門病院を紹介し、やはり慢性副鼻腔炎との診断であった。但し通院となると小さな子供達を連れて長時間移動するのは大変だということから、居住地に近い総合病院をそちらから紹介された。しかしである。慢性副鼻腔炎と診断が下った副鼻腔の炎症に対する新たな紹介先での診断は、「全く問題ないですよ!」とのことで、薬すら処方されずに帰ってきたと連絡を頂いた。当方の専門領域ではないが、2件の耳鼻科での診断がここまで異なるとなった場合、次の一手が出てこない。歯科においてもドクターによって診断がことなることは多々ある(困ったことではあるが)のだが、なぜこのようなことが起きるのか?学術的な勉強不足、目の前の患者に起きている症状に対する洞察力不足、経験不足、思い込み。何れにしても、相手(患者)が納得できる説明を出来ないのであれば、言葉を濁したりするのではなく、他のドクターの力を借りるなどして患者一番の対応を望みたい。白衣を身にまとっていても、白衣を脱げばただのヒトであり、問われるのは人間性でしかない。  

                         2025,1,31

日本語

 日本語の上手な外国人がいる一方で、聞くに堪えないほど乱れた母語を喋っている人の会話を電車内で耳にした。他人事と言えばそれまでだが、日本語が置かれた状況は大丈夫かと心配である。「阿吽の呼吸」、「わびさび」などの感性は日本人独特のものであり、Google翻訳でさえ適切な表現はないのではないか。明治大学教授の齋藤孝さんは「日本人は日本語を母語として育つ中で、日本人的な思考や感性を身に付けてきた。私たちが個人的な考えや感情と勘違いしているものの多くは、脈々と継承されてきた精神に他なりません。」と述べています。ネット社会、一人一つのスマホ時代にあえて紙媒体の書籍を手に取って時には素読をしてみると目の前がパッと開くような、子供なら尚更ですが成人になってからでも言葉を身体に刻むことで海馬が活性化され、思考がクリアになるものです。新聞も電子版になるといつでもどこでも読めると思うからなのか、以前よりも目を通す時間が減ってしまったことは想定外であった。新鮮な活字に触れ語彙を身に付け母語を大切にし、いつまでも美しい日本語を誇りに思えるよう過ごしていきたい。   

                         2025,1,30

感覚統合と不正咬合

 「発達障害および発達障害のような子供達、気管支喘息及び気管支喘息のような子供達が先進諸国において増えてきている」と5~6年前にイギリスからお越しになったDr.John Flutter先生が講演会で述べられていたが、当医院にもそのようなお子様が増えてきている。いったいその背景には何があるのでしょうか?以前、歯並びが良くないことを主訴として来院された4年生の男子は、診査時から落ち着きがなく、診ようによっては挙動不審でもあった。当時は直感的に歯並びが良くないのは単に舌を含めた口腔顔面筋機能障害があるからではなく、感覚統合が上手く発達していないことに起因しているのではないかと察したが、歯科医院で感覚統合が上手く発達していない子供に対して何ができるのかと試行錯誤しながら治療に取り組むしかなかった。2年間通い続けた中で取り組んだことは、先ずは正しい呼吸が出来るように仰向けになってお腹を膨らますところから始まった。四肢の動きにも不自然さがあり、身体を触ると全身に緊張があることが分かり、身体をくすぐるなりしてほぐすことも徹底的に行い、その後水を口に含んで正しく飲み込む練習、目のトレーニング、筋機能装置を夜間装着して朝まで口テープを張って寝るなど継続すること1年が過ぎたころ、学校の担任から、「家で何かされているのでしょうか?」と、その子の行動の変化に驚いた様子だった。我々には聴覚、視覚、嗅覚、触覚などだくさんの感覚がありますが、その時々に必要な感覚に絞って意識を向けることが出来ますが、この感覚を整理する能力が弱いと、本来集中すべきもの以外のことにも気になってしまい、落ち着かなかったり、集中することが難しくなったりします。この子の場合は本来であれば幼少期の頃に身に付いているべき正しい呼吸の仕方をこのタイミングで獲得したことで、感覚統合でいう土台の部分が出来上がり、感覚や動きの改善へとつながったものと考えられます。     

                         2025,1,29

歯の移植

 「銀歯の被さっている歯の歯肉が腫れてきました。痛くはないです。悪くなっているんですよね~?」と半年ぐらい前にお越しになられた方の歯は、過去に歯髄組織(歯の神経と血管の組織)が腐敗して根管の中を掃除する処置を受けた痕がレントゲン画像で確認できたが、その根管治療自体が雑な治療をされてしまったようで、冠を除去すると歯根の腐敗は進んでおり、抜歯以外の選択肢ななかった。通常抜歯後は欠損箇所に何らかの補綴処置が行われるが、選択肢としては義歯、ブリッジ、インプラントがある。ここで考えなければならないのは、なぜ抜歯せざるを得ない状況になったのかであり、その原因(病因)を改善しないまま対処療法を繰り返しても、同じことを繰り返すということを患者サイドで理解することである。多くは咬み合わせが遠因としてありかみ合わせを改善させる必要があるのだが、簡単に歯列矯正治療までを決断は出来ないので、問題個所のみの治療で終わるケースが多い。この方の場合は上記の選択肢のほかに智歯(親知らず)が残存していたので、智歯の抜歯窩への移植を提案させて頂き実施するに至った。移植後の経過も順調であり、先日最終的な処置まで終え定期メンテナンスに移行となった。当医院では歯の移植術は積極的に行っており、過去には智歯4本を悪くなった奥歯4か所に移植したこともあり、20年近く経過した現在でも問題なく過ごされている。何事も原因があるから結果があるのであり、治療にばかり関心が行くかもしれないが、当該箇所が悪くなった直接の原因とそこに至った遠因をしっかりと医療者側は説明し、患者サイドは理解することが必要である。なぜならどんな医療であっても“絶対”などは存在しないのだから。           

                         2025,1,28

貴方のお子様は大丈夫ですか?

 最近つくづく名言だと思っているのが次の言葉です。「天下の難事、必ず易きより作り、天下の大事、必ず細より作る」老子の言葉です。あの時にしておけばよかった・・・とは、ある程度人生を歩んだ方であればそんな経験の一つや二つはあるのではないでしょうか。物事は育ち、大きくなり、そして厄介になるとは実に的を得た表現ではないでしょうか。小児の咬み合わせ治療の目的は、まさに身体の成長が始まる初期の段階でちょっとした習癖を取りのぞいて改善し、正しい成長発育軌道に戻すことにあります。歯医者の「様子を診ましょう」は、良くなるどころか成長抑制を加速させてしまう極めて危険な診断と思わされるケースに遭遇します。小児の不正咬合といっても、乳歯列期、混合歯列期、永久歯列期とあり、それぞれの段階に応じた適切な対応が求められるのであり、どの段階であっても不正咬合に至った根本原因を取り除くことに主眼があれば、自ずとどのような処置、指導をすべきか診えてきます。子供達の成長は待ってくれません。理想的な咬み合わせをされているお子様で姿勢の悪い子供は当医院においては一人もいません。不正咬合=体幹の歪みと言っても過言ではありません。姿勢が悪いのは身体の代償反応であり、重要なのはその原因(病因)を考え、直ぐに解決することです。           

                         2025,1,27

口腔顔面筋機能療法(OMT)

 最近は以前から定期メンテナンスで通われている方への説明のなかでも口腔機能について時間を割くことが多くなってきている。口腔顔面筋機能療法(OMT:Orofacial Myofunctional Therapy)の概念は遡ること100年以上前に、歯科医であれば誰もが知っているEdward Angle先生が筋機能の重要性を世間に知らしめた。つまり「調和のとれた歯の位置と歯列弓の大きさは、筋肉の力によって決定されてくる。」とすでに述べていたのだ。この数年でOMTに取り組む歯科医院が増えてきているようだが、裏を返せばそれだけ機能に関しては臨床現場において注目されることはなかったということでもある。歯列の形態、舌の可動域、歯の咬耗状態、左右の歯冠距離などから食事の際に咽る可能性が高かったり、睡眠障害のスクリーニングを行い、予後について説明をさせて頂いている。「歳のせいかよく咽るんですよ~」と言われることも多くなり、決して加齢で咽るのではなく、もともと正しい嚥下が出来ていないところに筋力の低下が起きるとより嚥下しにくくなるという現象が起きているのである。何事も原因があるから結果があるのであり、患者と医療従事者の考え方が供用されてはじめていい結果に結びつく。理解の先には実践があり、頭で理解できても必要なトレーニングを僅かな時間だけでも日々継続することはなかなか難しい。むし歯がないから歯医者に掛からないという時代はとうに過ぎており、心当たりのある方は口腔顔面筋機能療法を積極的に実践することを勧めます。

                         2025,1,26

保険診療とは

7~8年ぐらい前に手にした「The Cause and Cure of Malocclusion」(John Mew著)には、「There is a reason for everything.

(すべての事には原因がある)」と著者のフィロソフィーが論じられており、医療の原点である“原因をなくす”ことにも通じている。また、日本の歯科医療の発展に寄与されたDr.Daryl Raymond Beachは「Health Care=0」という概念を提唱し、「医療の究極の目標は健康管理の必要性がなくなること」であると述べられていた。これらの素晴らしい考え方を臨床現場で医師、歯科医師を含めた医療関係者全員が実践できているのであれば、医療に対する信頼はもっと高まっていてもよいと思うのだが、来院される初診患者さんの口から語られる言葉には未だに不満が少なくない。共通して感じることは、医療者と患者側とのコミュニケーション不足であり、時間と患者数に追われる診療をして居る限り、この溝はいつまで経っても変わることはあるまい。一人ひとりの説明に割く時間を掛けても請求できる保険点数は何もないとなれば、経営を考えたら時間を端折ることにもなるだろう。国民皆保険という世界にも誇れる保険制度ではあるが、2年に1回の保険点数の改定は行われているものの、医療の本質を高める、改善させることには繋がっていないというのが私見である。

                         2025,1,25

医療の盲点

口蓋扁桃肥大が明らかに呼吸抑制を引き起こしているにも拘らず、ガイドラインに沿っての判断なのかもしれないが摘出手術の適応ではないと紹介先の耳鼻咽喉科から返されてきた。2年前に亡くなられたある耳鼻咽喉科医であれば、独自に考案した手術方法でアデノイド肥大及び口蓋扁桃肥大も必要とあらば摘出してくださっていた。耳鼻科にはそれなりの見解があることは理解できるが、子供達の機能発達という観点から今一度ガイドラインの再考を願いたい。口呼吸、扁桃肥大、Tongue-tiedを有しているお子様で理想的な咬み合わせ、歯並びをされている子は少なくとも当医院にお越し頂いている中では皆無である。先日いらした小学生の男子も、常に頭蓋を前方に傾け猫背であり、水を口に含んで嚥下する際にはオトガイ筋の緊張、頬筋の強い緊張、そして瞬間的に下を向かなければ上手く飲めないのである。2002年に掲載された論文には、「健康関連の行動や社会的・環境的要因が生存率に影響する割合は40~60%、医療の有効性や質に起因する10%よりも大きい」とある。つまり医療者がどんなに頑張っても10%しかよくならないのだと。果たして本当にそうなのだろうか?傷口が小さなうちに身体の成長プログラムを最適化するすることで健全な身体に育ち、成人になってからも医療に頼る機会を減らすことができるのではないか。発達障害の疑いと診断を受けたお子様が、2年かけて口腔顔面筋機能療法を実施したことで途中から通常クラスに入り、その後中学に進学しテニス部で活躍している姿を見ると、医療の盲点があるように思えてならない。

                         2025,1,24

イチローさん

米国野球殿堂入りのメンバーは過去にMLBで活躍した選手の実に1.3%だけしかいないというから、そこに選ばれたイチローさんの快挙は偉業と言われるに相応しい。日本球界では入団当初は独特の打撃ファームでは打てないとコーチに言われ二軍での修正を命じられたというが、自分の信念を貫いて好成績を残し、初の200安打も記録した。「遠回りすることが一番の近道だと思ってやってきている」との言葉に膝を叩いて勇気づけられた諸氏もいることでしょう。イチローと一緒にプレーをしたMLBの選手たちの評価は、「彼の試合に臨む前の準備はいつだって学ぶべきものが多い」と口を揃えて言う。当方にはイチローさんとのエピソードが一つあり、事前に予約をしていた店の女将から「金澤さんの予約が先に入っているのですが、どうしても個室で予約を取りたいという方がおりまして、金澤様が宜しければ今回だけお譲りして頂けないでしょうか?」と連絡を頂いたことがある。因みに、どんな方がお越しになられるのか尋ねてみると、「なんか、イチローとかいう方なんですけど・・・」との返答があった。当日知人と会食をしていると、二階の部屋から彼の高笑いが聞こえてきたのが今となっては懐かしい。これからも野球界の宝として、子供達の目指す人として輝き続けて頂きたい。

                         2025,1,23

医者である前に・・・

何処に行くにも親が一緒だった小さな頃、親は自分を守ってくれる絶対的存在であったし、人混みで親を見失い迷子になった時の涙が自然と出てきたあの不安に駆られた心理状態を誰もが経験済みではなかろうか。同じように言葉にはできない身体の不調を抱えた子供達は、どこかで親が何とかしてくれると思っているに違いない。医者はそんな声なき声を聴き、出来る限りのベストを尽くそうと日々研鑽を積んでいるのではないか。紹介先のある耳鼻咽喉科医が、「ここはなぁ、どこに行っても良くならない患者が来るんだよ!何で他の耳鼻科にもかからないでうちに来たんだ?」と信じられない暴言を親子に吐いた。父親は「金澤先生、気を悪くしないでくださいね。俺、本気でその医者をぶん殴ろうかと思いましたよ!」と後日言われ、学会で登壇して発表しているからと言って心ある医者だとは限らないのだと、まさかの思いである。白衣を着ていれば患者さんからは先生と言われるが、白衣を脱げばただのヒトであるというのが持論であり、国会議員も議員バッジを外せばただのヒトであるのと同じである。医者を志した動機は何だったのか。先生先生とチヤホヤされていい気になってしまったのだろうか。スポーツ選手、芸能人、政治家、そして医者、歯医者も含めて人間性を問われるような事柄が年々増加しているように思うのは私だけか。人は謙虚に謙虚に生きて行くべきではないですかね。

                            2025,1,22

頼りになる仲間たち

半年に一回ぐらいの頻度で気の合う仲間と会食を共にしているが、それぞれの職種が異なることで知らない情報交換の場と定着しつつある。私以外の4人は当方よりも年上で人生の先輩でもあり、国際政治や業界の難しい話をしていたかと思えば記憶にも残らないようなくだらない話まで、脳内をリフレッシュさせてくれる貴重な友人たちである。今回は当医院の人材不足を話題にすると、「もっと早く言ってよ!私のところのスタッフが先生の所ならお手伝いに行くっていうに違いないから聞いてみるね!」とのこと。皆さん仕事がある中で時間を見つけて応援に駆けつけてくださるというその心遣いに不覚にも涙腺が緩んだ。翌日さっそく連絡を頂き、4月までの仕事の空き日にお越し頂けるとのことである。どこの業界も人手不足ということだが、会食したところのお手洗いにも求人募集の張り紙がされており、高額な時給に二度見してしまった。大手企業の大卒初任給が先日話題になっていたが、今さら言うのもなんだがお金だけが注目される世の中では大事なものが失われてしまわないか気がかりである。そのお金の新一万円札の肖像となった渋沢栄一は「論語と算盤」で、道徳と経済という異質なものをつなぎ合わせ、新たな価値を作ろうとした。そこに必要なのは、物事を俯瞰する目とそのベースとなる好奇心と想像力であり、当方を支えてくれているこの仲間たちには気付くとそれらが備わっている。まさに「財産は人」であると実感する時間であった。

                            2025,1,21

口腔顔面筋機能の最適化

 子供達の不正咬合の診査診断を行い、それに基づく治療計画を立てたとしても、計画通りに進むかどうかは患者である子供の取り組み姿勢や親の理解度、協力度、生活スタイルによって変わってくる。今までの歯列矯正治療の概念では、定期的に歯科医師が装置やワイヤーを調整することで歯並びを改善させてく治療でしたが、当医院で行う子供達の矯正治療は根本原因の一つでもある口呼吸を鼻呼吸に変える、いわば機能の習癖を改善させることにあり、日々の徹底したトレーニングを実践するための指導となります。6~7歳でトレーニングを開始する場合は本人の理解が追い付いてこないので親が付きっ切りでないと実践はできませんし、自我が出てくる10歳前後では本人の本気度に左右されるところが多分にありますので意識づけが重要となります。子供の成長は待ってくれません。頭蓋顔面発育障害の一つの表れが不正咬合であると考えていますので、特に中顔面(鼻上顎複合体)は学童期の段階で発育がかなり進んでしまいます。歯並びだけの問題ではないとの認識を持っていただき、望ましくない方向に発育が進まないよう口腔顔面筋機能の最適化を行っていきましょう。

                            2025,1,20

耳垂れと咬み合わせ

中耳炎によくなるというお子様の咬み合わせ、嚥下の仕方を診てみると、下顎は後方に下がり上下前歯部には叢生(歯の重なり)があり、コップの水を飲み込む際にはオトガイ部、口唇周り及び表情筋すべてに瞬間的な緊張がある。「耳と咬み合わせは関係あるのですか?」という親御さんの質問に対して、「咬み合わせがというよりも、今の咬み合わせになった根本原因の舌を含めた口腔周囲筋の間違った動きにある可能性がある」と説明をさせて頂いた。勿論口頭だけでは理解できないでしょうから自前のプレゼンでその関係性をお伝えさせて頂いたが、「原因は分からないけれども耳垂れが続くのは良くないですから手術をしましょうと耳鼻科の先生には言われています。」とのことである。耳鼻科医の診断であるので当方がそれに関して口を挟むことは差し控えたが、舌根部周囲の咽頭収縮筋は耳管とも関係しており、正しく嚥下できていないことから先ずは口腔機能の改善が優先されるべきではないかと所見を述べさせて頂いた。しかし、「原因が分からないから手術をする・・・」というのは如何なものかと思うのだが、素人の患者さんの言葉でもあるので正確なドクターの言葉かどうかは分からない。それにしても口腔機能が正しく獲得されていない子供の多さには驚くばかりである。

                            2025,1,19

一緒に働きませんか!

当医院のスタッフを募集しているのだが、思うようには声が掛からなくて苦慮しています。歯科衛生士は勿論ですが、アシスタント兼受付も急簿です。このブログを見ている方の中で仕事探しをされている方がおりましたら是非ともお声がけ下さい。アシスタント業務は単なるお手伝い的な仕事ではなく、患者応対から子供達のトレーニング指導まで幅広く活躍できる職種です。当医院の未来展望としては、この2~3年以内に乳幼児~10歳前後までの患者層が50%、10歳代が30%ぐらいに推移すると思われます。なぜなら世の中には医者にかかっても原因が分からない疾患、不定愁訴が溢れており、そのような方の口腔内を診査すると不正咬合に端を発した咬み合わせの崩壊が起きているケースが多くあり、根本原因を遡ると幼少期における正しい口腔筋機能の獲得が出来ていないことにあります。体調不良は身体の免疫力の低下によるものであり、その免疫力の低下はなぜ起きるのか?口呼吸を鼻呼吸へ、舌を口蓋に張り付ける、口唇閉鎖、そして正しい嚥下が出来るようになってこれらが定着すると身体の各器官の細胞は適正量の酸素を供給されるようにもなりますし、構造医学的には中顔面が後下方ではなく前下方に大きく成長することで鼻上顎複合体が理想的に成長し、鼻腔口腔だけではなく気道が本来あるべき容積に発育します。今の子供達が20年後、30年後に医者に極力掛からないような身体にするためには生理学的な機能が本来あるべき状態になることが優先されるべきであり、我々歯科医療従事者はその環境づくりが出来るのです。ご興味のある方は、働ける時間帯も含めてお問い合わせください。

                            2025,1,18

大いなる決断

成人女性の大いなる決断である。子供の頃から歯並びが良くないことは気になっていたが、歯列矯正治療まではする気にはなれなかった。しかし御自身のお子様の不正咬合を改善するにあたり、なぜ不正咬合に至ったのか?その原因を放置すると後天的に身体にどのような問題が生じる可能性があるのかを知り、普段の食事において咽ることが多いこととも関係していることを理解したことで、将来を見据えた時に筋肉の動きも含めて歯列を改善する決断に至った。初診来院時から6年の月日が経っている。人は痛いなどの症状がなければ身体の異常に気付くことはまずない。人間ドックなどで検査数値が標準値から逸脱していると、医師の指摘で人によっては何とかしないといけないと初めて行動に移すぐらいである。しかし、不定愁訴を訴える方の異常所見は検査数値で現れないことがほとんどであり、原因が特定できないまま「様子を診ましょう」となるケースが多いのではないでしょうか。本当に様子をみていいのでしょうか?身体が構造的に無理が生じてくるとどんな症状が起きてきますか?それを放置していたらどうなりますか?誰かと似たような症状であっても、一人ひとりの身体は異なります。情報過多の今の世の中で何を信じればよいのか分からなくなることも多いと思いますが、治療を受ける際には現状に至った原因を理解することが先決であり、なぜその治療を受けるのかをきちんと納得してから受けることが基本です。

                            2025,1,17

健康管理

冷蔵庫を開けた時のような空気の冷たさを感じる今朝、耳当て、ネックウォーマー、手袋など完全装備で早朝ランニングに出かけたが、それでも身体が温まるまでは時間が掛かる。ランニングを始めた約11年前のこの時期に、まだ陽も登らない時間帯の大男のランニング姿はパトロール中の警察官には不審者にしか見えなかったのだろう。ヘッドライトをパッシングしながら走っている当方に近づき、助手席から降りてくると職務質問をし始めた。「こんな時間に何している?」と聞かれても見ての通り「ランニングをしています」としか答えようがない。続けて「身分証明書は?」と尋ねられてもランニングをするのに身分証明書などを携帯するはずもなく、住所氏名年齢を口頭で伝える羽目になった。なんとも気分の冴えない早朝だったが、今ではちょっとした笑い話として機会があるごとに使わせて頂いている。走り始めた切っ掛けは、締まりのない身体になってきた自分が許せなくなり、可能な限り引き締まった体形に戻したいという一念であった。その甲斐あって最初の一年間で約10キロは減量に成功し、体脂肪率も標準値以下まで下がり、人間ドックでは内臓脂肪も劇的に減ったことから、「何かお薬でも飲まれていますか?」と看護師から指摘されたほどである。職業柄、人の身体を健康にする仕事なゆえに自身の健康管理が成っていなければ説得力もないというものだ。但し走り始めから11年経った今、11年歳をとったという現実を受け入れながらも無理をしない範囲で体調管理には留意したいものである。

                            2025,1,16

不正咬合を放置するな!

「子供が朝起きれないんです。ですので毎日学校へは遅刻していくか休むことになってしまって・・・」と親の心配、悩みは深刻であり、その原因を学校関係者はじめ周囲の人々が良く理解できない、本気で理解しようとしないことが親子を孤立させてしまう、極めて由々しきことが子供達の身体に起きている。姿勢が悪いのはなぜか真剣に考えてみてください。理想とされる姿勢ではその子は辛いのでじっとしていられないのです。なぜ辛いのか?呼吸が苦しいから辛いのです。生き物である以上人間も呼吸をしなければ生命維持は出来ず、何よりも優先して呼吸ができるように気道確保に自律神経系は働きかけます。その結果、頭蓋を前方に傾け気道を広げ、スウェイバック姿勢になるのであり、口蓋扁桃肥大が存在すればより気道は狭窄し、呼吸がし難くなるのは明らかです。口腔内所見から子供達の睡眠障害のスクリーニングを行い、中等度以上のスコアが記録されればしかるべき医療機関にて診査診断、処置が必要になるかも知れませんが、当医院においては今のところ正常咬合のお子様で睡眠障害の疑い、ADHDのような症状のある方はおりません。つまり、不正咬合を抱えたお子様の中には既存の医療機関の診査・検査では異常は認められないものの、上記のような不定愁訴を抱えた体調不良児が潜在的に多くいる可能性が高いのです。そのようなお子様がいらっしゃる方は是非とも歯科にて口腔内の状態を確認して頂きたいと思います。

                            2025,1,15

確かな診査診断

皆さんが歯科医院に掛かる目的は何でしょうか?歯が痛くなった時に症状を取りたい、夜中の歯ぎしりが強くて顎が痛くなるからマウスピースを作りたい、歯石を取りたい、定期検診とクリーニングなど様々な理由があると思いますが、歯科医院ではどのような診査を受けますでしょうか?レントゲン診査、歯周組織検査は必須ですが、動的診査を受けられていますでしょうか?歯の咬耗、摩耗状態を診るのは静的な状態ですが、それは原因に対する結果としての代償です。顎を上下左右動かしたときの細かな歯の接触状態、歯の咬耗面が合わさるときの顎の位置はどうなっていますか?つばを飲み込むときの口の動きは?鼻で呼吸が出来ていますか?舌の位置は普段どこにありますか?動的な状態に問題があるにもかかわらず、静的な状態での診査しか行わなければ、問題の確信部分は見過ごされてしまいます。見当違いの診断をされて、治療後に???なんてことはありませんでしたか。時間に追われるような診療をしていては、理想的な医療は提供できません。

                            2025,1,14

正しい機能獲得への取り組み

臨床にまつわる内容が続きますが、正しい嚥下(飲み込み)が出来ているかどうかは皆さん分かりますでしょうか?かみ合わせ云々を考える前にこの基本的な機能が正常に働いていなければ、その後の口腔内に生じるトラブルに対してどのような処置をしたとしてもそれは対処療法でしかなく、根本解決には繋がらない。「一旦口を開けて、それから唇を閉じて舌を口蓋に張り付けて下さい。その瞬間に反射的にごっくんと嚥下が起きませんか?この動きによって食塊や空気が咽頭壁に押し込まれ、口の中が陰圧(真空状態)になります。その結果、上下の歯が軽く当たって最小限の咀嚼筋の筋活動によって口を閉じることが出来るのです」と親御さんや患者さんに説明をさせて頂いている。上下顎骨、頭蓋顔面骨の成長発育が筋機能の働きが大きく関与している理由はここにあり、正しい機能獲得を妨げている因子があるならば、早期に取り除かなければならない。従って、不正咬合を改善させるためには不正咬合の裏に隠れている原因を探し出す必要があり、従来のような評価や臨床における取り組みだけでは不十分である。当医院では現時点で考えられるアプローチをさせて頂いているが、この領域は日々のアップデートが欠かせない。

                            2025,1,13

鼻呼吸の大切さ

“お口ぽかん”状態の子供達の共通して診られる所見は中顔面の発育不良である。オギャーと生れた時点で上顔面の60%は出来上がっており、その後の成長発育の中心は中顔面、下顔面となってくる。我々の上顎骨は一枚の骨で構成されているのではなく、複数の骨が合わさる縫合性の成長をして大きくなっていき、正常に発育すると前下方へと平行に進みます。この上顎部の成長は主に鼻呼吸によって促進されるため、何らかの原因で鼻閉があると、下鼻道を拡大させることが出来なくなります。不正咬合を抱えた子供達は鼻閉を伴っている割合が非常に高く、歯科医院でありながら鼻閉の改善に取り組むことが優先される理由はここにあります。口腔内所見及び歯科用CT撮影によってアデノイド肥大や口蓋扁桃肥大によって気道が極めて狭くなっている場合には耳鼻咽喉科にて摘出手術を依頼することになりますが、昨今の耳鼻科におけるガイドラインでは、よほどの気道閉塞状態になっていないと摘出手術までは行わず、投薬にて肥大が縮小するのを待つ傾向にあります。しかし、子供達の成長は刻一刻と進みますので、機能回復という視点ではとにかく扁桃摘出を行って頂きたいものです。当方が耳鼻咽喉科医とのダブルライセンスの資格を持っていればより理想的なアプローチが出来るのにと思う所以です。知り合いの歯科医師の仲間には昨年から医学部に進学し、将来的に口腔と鼻腔の両面からの診察治療に備える人も現れました。今まで以上に歯科から子供達、そして成人の身体を守るアプローチが出来ることを確信しています。

                            2025,1,12

正しい口腔機能の獲得

毎年正月三が日に餅などをのどに詰まらせて救急搬送される事案が後を絶たないが、中でも高齢者の誤嚥は要注意である。加齢と共に筋力が衰え、正しい嚥下様式が以前から獲得されていない場合には、咽る回数が増えたり咳払いも強くできなくなってくる。唾や水を口に含んで嚥下して頂く診査をすると、子供だけではなく不正咬合を抱えたほとんどの大人たちは口唇周りや頤筋、頬筋に異常な力を入れて嚥下している。痛いなどの症状もなければ医療機関に掛かることもなく、何の疑問も持たずに日常生活を送っている人達である。身体の本来の機能が失われていても他の器官による代償反応によって我々は一見すると問題なく生きている。但し、正常な機能の働き、動きから遠ざかるほど、時間の経過とともにそのしわ寄せは生じるのであり、中年と言われる年代になると原因不明の首肩凝りや腕のしびれ(頚腕症候群)、腰痛に悩まされるようになる。ストレッチやマッサージをすることで一時的な回復をみるものの、2~3日もすれば辛い状態が戻ってくる。根本的な原因が改善されずに残っている証拠である。話を元に戻すと、誤嚥は正に幼少期、若い頃からの正しい口腔機能が獲得されてこなかったことによる結果そして弊害であり、年齢に拘わらず気付いた時から舌をはじめとした口腔周囲筋のトレーニングを始めることを勧めたい。

                            2025,1,11

睡眠歯科

「眠りが浅いことと咬み合わせは関係があるのでしょうか?」と定期メンテナンスでお越し頂いている方からの質問である。この方には10年以上前の初診時から、かみ合わせが全身とどのようにかかわっているのかを機会があることにお話をさせて頂いてきたが、その蒔いてきた種がやっと実る時期が来たようである。本人の自覚がないものに対していくら懇切丁寧に将来の身体に生じる可能性がある問題点を指摘したところで、身を入れて聞くことはない。まあ逆の立場になって考えてみれば分かることだが、蓄積された予備知識があったからこそご自身で身体の異変を“もしかしたらかみ合わせから・・・?”と考えるに至ったと語っていた。本人は年々かみ合わせが変化してきていることにも気付いており、就寝中は口が開いていびきもしていると家族にも指摘され、最近はものすごく精神的にも凹んで過ごしているとのことである。この方の質問に対する答えとしては、「不正咬合に至った原因そのものがある種の睡眠障害(全ての睡眠障害と関係があるとまでは言えない)と関係があり、口呼吸であるなら口呼吸になる原因が関係しているとも言える。」と説明をさせて頂いた。ところで皆さん、睡眠の役割って何でしょうか?また睡眠は長ければよいというわけではなく、質とリズムも重要で、睡眠で休養がとれている感覚が大切です。近年睡眠医学では、歯科からの改善アプローチも求められており、睡眠へのフォーカスが一気に高まってきている。

                            2025,1,10

医療の可能性

“人生が変わる日”になってほしいと親御さんは思っているに違いない。よく眠れない、夜中に目を覚ます、など睡眠障害を抱える子供が増えている。全ての結果には原因があり、原因があるから結果がある。舌小帯の可動域が視診では明らかに狭く、計測値においても本来の1/4程度までしか動かないとなれば、普段から口蓋に舌が持ち上がることもなく口呼吸であることは容易に推察され、正しい嚥下機能も望めない。そのまま成長が進めばこの子の身体にどのような代償反応が起き、将来的に様々な機能障害が生じる可能性は、今を生きる大人たちの不正咬合と体幹の悪さ、不定愁訴を抱えながらドクターショッピングしている人の多さを見れば予想がつく。出生時の様子、哺乳の仕方、アレルギーの有無など様々な問診、診査を経て、3か月に及ぶオペ前舌トレーニングを行い、いよいよ舌小帯及びオトガイ舌筋周りのFaciaをリリースする手術を行うに至った。本人と親の協力のもと、オペ後のトレーニングをしっかりと継続することで正しい機能獲得が出来るようになり、呼吸の改善、体幹の歪み、姿勢の改善に繋がることになる。「The Case For More Active Policy Attention To Health Promotion」には、“健康関連の行動や社会的、環境的要因が生存率に影響する割合は40~60%、医療の有効性や質に起因する10%よりも大きい”と、医療関係者を落胆させるレポートが出されている。つまり、我々医療従事者がどんなに頑張っても不調を抱えた人の10%ほどしか改善させることが出来ないと言っているのである。果たして本当にそうなのだろうか?今まではそうだったのかも知れないが、今後10年、20年、そして30年経ったときには、異なるレポートがパブリッシュされていることだろう。

                            2025,1,9

受験の在り方

今月18日19日に大学入学共通テストを控える中、大学受験予備校が「破産申立て」をしたとの報道があるが、頼りにしていた受験生たちの精神状態は大丈夫か気になるところである。勉強は本人がするものだから、予備校云々に左右されているようではそもそも勉強が足りていないのではないかという厳しい意見を述べている方がいたが、それはそれとして予備校経営者の無責任さには呆れてしまう。当方も大学受験は複数回、しかも複数年に亘って経験をした身ではあるので、この時期のあの何とも言えない妙な緊張感をもった毎日を過ごす時間は早く過ぎ去ってほしいものだ。受験と言えば2月には県立高校の試験もあるが、驚いたことに年明けから中学校を欠席して朝の9時から高校受験予備校に足を運んで受験対策をしている生徒が少なくないとのこと。愚息のクラスも数人の生徒が地元の予備校・塾で缶詰状態で勉強をしているらしいと学校から帰宅して喋っていた。予備校や塾の指導の在り方も問題だが、それを容認している親がいること自体が家庭教育の問題ではないかと思えてならない。学校の存在意義は?学校は何を学ぶところなのでしょうか。因みに当方の中学3年生は、「そんな奴らに負けてたまるか」と闘志を燃やしている。世の受験生よ、もう少しだ!最後の最後まで自分を信じて頑張れ!

                            2025,1,8

継続することの大切さ

何事も上手くなりたいなら練習が必要であり、周りよりもより上手くなりたいなら人の2倍、3倍の努力、練習の積み重ねが欠かせないことは言うまでもない。しかし、そのような経験をしてきたことがない子供達にとって単調なトレーニングを毎日継続することは、面白くなければ辛いだけであり、積極的に取り組むことを期待するのは難しい。子供達の口腔筋機能療法の目的は、口、顔、のどの筋肉を意識し、コントロールできるようになることで、目標は、呼吸、嚥下(飲み込み)、咀嚼の際の正しい筋肉の動かし方の習慣を身に付け、それが自然にできるように筋肉を訓練することにあります。ほとんどのエクササイズは簡単なものですが、毎日の習慣化が難しいようです。新しいスキルは、一夜にして身に付くものではありません。親御さんには是非ともこの機会に、継続することの大切さを子供たちに教えて頂きたい。

                            2025,1,7

不正咬合の根本原因を取り除く

 不正咬合を抱えた子供達の治療をする際に、単に歯並びを改善させる治療だけでは表面的な問題を改善したに過ぎず、そこに至った原因を取り除くことが真の意味における歯列矯正治療と言えるのではないか。ブログでも再三述べさせて頂いてますが、口腔及び頭蓋顔面の構造的な問題は、口腔を取り巻く筋機能が本来の働きをしていないことから生じており、これは子供だけの問題ではなく成人では未成熟な機能であっても身体の代償反応によってそれなりに日常生活を送ることが出来てしまうが、そのまま年齢を重ねると正常な機能を獲得した生体と比較すると必ずと言っていいほど体幹に歪みが生じ、リハビリが必要になるケースが多いと思われる。従って子供達の不正咬合を改善させるための治療プログラムは決して子供だけに適用されるべきではなく、全世代の人達にとって取り入れられるべきトレーニングであると考えている。睡眠障害、学力低下、注意欠陥多動性障害(ADHD)、キレやすい、などが口腔機能発達不全に至った根本原因と深く関係していると診るのか診ないのか。歯科的なアプローチから原因不明の諸症状が改善される日がそう遠くないと確信している。

                            2025,1,6

睡眠時間

 年末年始を規則正しい生活で過ごされた方はどのくらいいらっしゃいますか。日頃の睡眠不足をここぞとばかりに寝だめをされた方もいるのではないでしょうか。人生の約1/3を費やしているとされる「睡眠」ですが、現代医学のブラックボックスと呼ばれるほど不明なことが多く、多くの研究者の方がその実態解明に取り組んでいます。昨年11月に徳島で行われた「睡眠歯科学会」において千葉伸太郎先生から、「日本人の睡眠時間は世界で最も少なく、1964年の東京オリンピック以降、就寝時間が遅くなってきた」との発表がありました。その背景には生活スタイルの変化があり、世の中にテレビが普及し始めたことで夜遅くまで家庭で観る時間が多くなったことがあるとのことです。今はネット、スマホによてその頃とは比較にならないぐらい睡眠の重要性の認識が薄れて来ているようにも見られます。「国民健康・栄養調査」によると、現在は20~59歳の各世代において、睡眠時間が6時間未満の割合が約30~50%を占めていますが、睡眠時間が6時間未満になると死亡リスクが有意に高くなるとされており、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では少なくとも6時間以上確保するよう推奨しています。因みに小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間を参考に睡眠時間を確保するよう勧められており、必要な睡眠時間をしっかりとることによって成長ホルモンの分泌も促されることになります。記憶の定着のためには睡眠が必要であり、受験生も含め睡眠時間の確保に努めて下さい。

                            2025,1,5

「・・とか」

「待ち合わせの時間は10時とかでいい?」、「会食は中華とかで良いですか?」と耳にすることがある。意味は通じるが、何となくしっくりとしないのは私だけか。世間では「とか弁」とも呼ばれているようだが、はっきりとさせない曖昧表現を用いることで、相手を尊重する、強制的な物言いをしたくない思いが背景にはあるらしい。「私的には・・・」なども、意味をぼかすという意味で自信のない表れのようである。いつ頃からこのような言葉を使う人達が増えてきたのか。少なくとも当方の世代ではそのような表現は用いていないので、今の40代以下なのか。相手への配慮は必要だが、公の場で使うと責任回避や優柔不断と受け止められやしないか。人である以上は意見が異なるのも不思議ではなく、相手を尊重するのであれば普段の会話から相手の心理状態を理解して言葉を使う気遣いをし、表現の仕方に磨きを掛けたいものである。そんな私は日頃のボキャ貧に悩まされている。

                            2025,1,4

インフルエンザ感染予防

年末年始、寒くて完走した日が続いていますが、体調を崩されていませんか?昨年の12月下旬には、風邪、インフルエンザに感染して当医院でもキャンセルの方が相次ぎました。どうにかして感染を予防できないものか。当方も所属している日本病巣疾患研究会の今井一彰先生から耳寄りな情報が寄せられました。

鼻の粘膜はウィルス、菌、花粉などをブロックして身体を守る優秀な機能があります。この鼻の粘膜が乾燥するとバリア機能が低下して感染症、風邪、インフルエンザ、コロナに罹りやすくなります。花粉症などのアレルギーの悪化を招くこともあります。乾燥した部屋で過ごす人、寝る時に口を開けて口呼吸になっている人は鼻や口の粘膜が渇いてバリア機能が下がって、弱くなってしまいます。ですので乾燥させないことがとにかく大事です。手軽な方法で鼻の粘膜を潤す方法が0.9%生理食塩水による点鼻です。部屋に加湿器を置かれている方も多いと思いますが、鼻を乾燥させないことが一番なんです。鼻のバリア機能を強化して、インフルエンザや風邪の予防になり、もしも感染したとしても回復するのが早くなると、医学雑誌のLancetに掲載されました。論文では、感染症の治療として使われる点鼻のお薬と生理食塩水の点鼻の効果がほとんど同じだったということです。これは今からでもすぐにできる風邪やインフルエンザ予防に使えると思います。(Nasal sprays and behavioural interventions compared with usual care for acute respiratory illness in primary care: a randomised, controlled, open-label, parallel-group trial)

                            2025,1,3

挑戦

 当方が子供の頃は大晦日と言えば家族そろって紅白歌合戦を炬燵に入って観るのが定番であったが、いつ頃からか過ごし方も多様化し、家族揃ってテレビの前で過ごすなんて光景は近年はない。約30年ぐらい前には「最近の若い人たちの歌はどこがいいのかよく分からん」と親父が言っていたが、今では歌どころか歌手すら分からなくなっている。不勉強と言われればそれまでだが、昭和の歌謡曲全盛時代に育った世代には、紅白で初めて知る楽曲も多いのではないでしょうか。大晦日に発表されるレコード大賞はストリーミング大賞と命名してもよさそうですし、レコード、カセットテープレコーダーなどはZ世代には無縁でしょうし、ストリーミングやライブ配信で好きな曲を聴き、共感はSNSで広がる、そういう時代である。世の中の様々な変化に適応していくのは人によっては容易なことではない部分もあるが、未知の領域に踏み出すというと大げさかもしれないが、知らないことを知る機会を放棄するのは自ら成長を止めるようなものである。巳年の今年はヘビは脱皮を繰り返し成長することから「復活・再生」の象徴ともされる。いったいどんな年になるのか、吉兆を信じて自分の可能性に挑戦していきましょう。

                            2025,1,2

備え

 新年あけましておめでとうございます!🎍

石川県能登地方を震源とする地震が起きてからちょうど一年が経ちますが、現地では未だ復興が進まず、不自由な生活が余儀なくされています。当時幹線道路も寸断されて救助活動は難航し、建物の崩壊による避難所生活による疲労や精神的なストレスによってその後亡くなられた方もおりました。家屋には辛うじて住めるものの地質移動などによって従来の生活が営めないなど、平時では想定できなかったことが現状を好転させられない要因となっています。東日本大震災を経験した我々は、日頃からの防災への意識を高めていたはずですが、想定を上回る被害が出るのが自然災害です。逃げようにも逃げ場もない地震立国日本では、いつどこで誰が同じような被災者になるかも知れません。自助は勿論のことではありますが、いざという時には公助、普段は会話もすることのないご近所さんかもしれませんが、皆さんで助け合いながら生活を送れる、そんな社会でありたいものです。南海トラフ地震は30年以内に70~80%の確率で起きるとされています。日頃からの地震への備えを年初に再確認しておきましょう。

                            2025,1,1