親御さんから「何歳ごろに矯正歯科治療を始めたらよいでしょうか?」という質問を受けますが、先ず最初に考えて頂きたいことは、不正咬合(かみ合わせ、歯並びが良くないこと)の裏に潜む問題は何かということです。そのまま放置したら何が全身にとってリスクなのかを理解することです。
※当医院では子供(5歳~12歳ぐらい)の矯正治療に関しては、顎骨が成長に沿って拡がらない原因が呼吸や舌癖などの口腔周囲筋の働きであるならば、装置を使わず(お子様の状況によっては1日1時間ぐらいの装置装着を行う場合もあります)に呼吸の改善、舌癖の改善、正しいオーラルポスチャーの獲得によって正常な顎顔面骨格の成長を促し、結果的に歯列、咬み合せも改善してくるという治療法にシフトしています。診療室での治療ではなくご自宅でのトレーニングが治療効果を左右しますので、治療結果は親御さんのご協力と、なんといってもお子様の治療を継続する意思次第になります。
詳しくはお越しいただいた際にお子様の口腔内の状態、姿勢などを診察させていただき、治療の考え方についてお伝えさせていただきます。
子供たちの歯並び、咬み合せを改善させる考え方について
現在先進国の子供たちの多くの歯並びが悪くなっていて、これは乳歯から永久歯の生え変りの際にスペース不足が原因で40年前にはあまりなかった現象であるとLondon Univ.EnglandのDr.John Flutterが述べています。現状では歯並びの改善を図るにはワイヤー装置を使った矯正治療が行われていますが、生涯リテーナー(保定装置)を装着することになり、それでも多くは後戻りがあります。12~13歳までに頭蓋顔面の90~95%は成長します。中顔面を構成する上顎骨、口蓋骨が正常に発育することによって歯が正常に萌出してきます。
言い方を変えると“頭蓋の顔面骨格が正常に成長すると正常な歯並び、咬み合せが構築される。逆に子供の歯並びが悪ければ頭蓋生育のどこかが悪いということになり、身体の健康を維持するうえではこの頭蓋が崩壊する過程を改善させる必要がある”ということになります。
一般に矯正治療というと歯列の不正を思い浮かべるようですが、実際には間違った呼吸(口呼吸)と間違った嚥下によって生じる、身体と顎顔面・脳頭蓋を含めた上下顎の発育不良が原因で多くの不正咬合が発生しています。この身体も含めた顎顔面・脳頭蓋の不正成長を解決しなければ、中顔面を構成する上顎骨の正常発達が進まず、歯が顎に収まらなくなります。ワイヤーによって歯をきれいに並べても原因である機能を改善されなければ、その歯は再び動いていくと考えるのが自然ではないでしょうか。
当医院では子供たちの歯並び、咬み合せを改善するために、正しい呼吸をするためのプログラムを導入し、“口呼吸と間違った嚥下による顎の発育不良の改善”を行います。オーストラリアのDr Chris Farrellが筋機能療法として開発したトレーナーシステムです。この治療法のメリットは何かというと、正しい顔貌の発育、非抜歯。あくまで正しい顔貌の発育を目的としています。
正しい呼吸は鼻呼吸です。舌が口蓋から離れてくれば自然と口唇が開き口が開いてきます。横隔膜を使った正しい呼吸が出来ていれば椅子の背もたれに寄り掛かったりしなくても座っていることは辛くありません。今小学校では授業中に口がポカン開いた口呼吸で姿勢の悪い子供たちが増えています。口呼吸では呼気が鼻呼吸よりも多くなるので肺に留めておくべき必要な二酸化炭素量が少なくなってしまいます。肺及び血中の二酸化炭素濃度が低くなると酸化ヘモグロビンが身体の各組織細胞へ酸素を供給しにくくなり、身体に様々な影響を及ぼすことになります。例えば夜寝ているときに口呼吸になっていると脳細胞への酸素供給量が低下することになり、睡眠時間は沢山取っているのに朝起きた時に“ボーとしている”、“身体がだるい”などの症状が出てきます。また血中二酸化炭素濃度の慢性的な低下は平滑筋のスパズム(痙攣)を引き起こすことになり、肺でそれが起きると気管支炎、気管支喘息のような状態になります。現在喘息の診断を受ける子供たちが増えていますが、本当の喘息ではなく喘息のような症状の子供が多くなっているのです。
口唇圧が低く、舌の突出癖があるお子様の歯並び・咬み合わせの改善には、筋肉の習癖を改善させることが必要である。
歯が並びきらないのは、全ての歯が萌出するのに必要な顎骨の成長がないからであり、歯並びをいじるのではなく、顎骨を本来の成長軌道に戻すことが優先される。
左のケースは診査の結果、呼吸に問題はないが、口唇と舌の動きに癖があり、2年間かけて習癖の改善に取り組んだ結果である。
年齢的にはワイヤー矯正治療が必要かとも思われたが、本人及び御両親様と相談の上、審美的な改善よりも身体の機能改善を優先させるという考え方の一致をみたケースである。
尚、身体は成長途中にあるので、半年ごとの診査、資料採得の継続は必要である。
主訴)前歯が開いてきたので嚙み合わせを治したい。(42歳女性)
所見)顎位が上顎に対して下顎が後退している状態。決して前歯が出ている出っ歯ではない。
この方の主訴は歯並びを治すことではなく、前歯が開いている“咬み合わせ”を改善させたいとのこと。
治療方針としては、本来であればワイヤー矯正治療が望ましいケースではあるが、この方の下顎後退の根本原因は咀嚼筋を含めた筋肉の習癖にあるので、先ずは筋肉の動きを呼吸から改善させることにした。但し、骨格の成長は年齢的に望めないので、子供たちのような歯列も含めた改善は難しいという条件ではあるが、本人の意思を尊重して筋習癖の改善に取り組んだ。その結果、約3年は要したが、本人の努力によって満足のいく咬み合わせを構築することが出来た例である。
治療とは、何事も後戻りできる処置であることが安全である。当症例では1~3ヶ月おきに患者さんにはお越しいただき、模型、画像診査、開口診査を継続しただけである。患者の病態、疾患へのしっかりした理解と治療内容の把握があれば、ドクターが過度に介入せずに改善するケースは他にもあることを疑わせる切っ掛けとなった例である。
左3枚の画像をご覧ください。3名の成人の下顎の歯列状態です。なぜこのように歯列弓が歪むのでしょうか?歪んでいるのは歯列だけですか?歯を支えている顎骨の形態も歪んでいることにお気付きでしょうか。顎を含めた口腔系は筋肉の複雑な動きによって機能しており、新生児~乳幼児~幼児~小児さらには成人に至る成長のどこかのステージにおいて、呼吸、咀嚼、嚥下、発音、表情などに関わる筋肉の習癖によって、顎骨の本来の正しい成長発育が行われない結果のなかで、顎骨内に歯が萌出するので歯列弓が歪みます。
当医院における矯正治療に入る主訴で多いのが肩こり・首の凝りの症状の軽減、改善を求める方、セラミックが頻繁に欠けたり歯が欠けたりしたことをきっかけとして咬み合わせの改善を図るケースが多いように思われます。咬み合わせの改善と言ってもどのような咬み合わせを理想としているのか?簡単に説明出来ることではありませんが、咀嚼器官としての口腔機能だけではなく日常の脳内ストレスを発散する場として歯軋りや食いしばりを行っても正常にストレスを解放できるような咬み合わせに近づけることです。(詳しくは当医院にてお聞きください)
歯を矯正して美しい歯並びを手に入れることには、次のようなメリットがあります。
1 | 日々のブラッシングがすみずみまでしやすくなり、虫歯や歯周病になりにくくなる |
2 | 物を咬み砕く力が上がって、いろいろな物をおいしく食べられる |
3 | 見た目が美しくなって自信につながり、精神的な安定を得られる |
4 | 頭痛や肩こりなどの軽減につながる場合がある |
当医院では、皆様のお口の状況やご希望に添って、なるべく負担の少ない矯正治療をご提案しております。目立ちにくい矯正装置などもございますので、お気軽にご相談ください。
歯並びが悪くなるのには、当然、原因があります。口呼吸、指しゃぶりなどの癖、柔らかい物ばかりを食べる食習慣など、さまざまな原因が考えられます。なかでも気を付けたいのが、前述の癖によってお口の周りの筋肉バランスが崩れることにより生じる「舌癖(常に歯に舌を押し付けている癖)」。舌癖により常に歯に力がかかり続けると、俗にいう「出っ歯」や「受け口」、上下の前歯に隙間ができてしまう「開咬」など、歯並びの悪さにつながりやすくなるのです。
舌癖を放置したまま矯正治療をしても、原因がなくなったわけではないため、治療が思うようにいかなかったり、歯並びが整っても後戻りしてしまったりといったことが起こるおそれがあります。そのようなケースに備え、矯正治療とあわせて「口腔筋機能療法(MFT)」も行うとよいでしょう。
当医院では、矯正治療と平行して、口の周囲の筋肉の機能改善をする訓練法である「口腔筋機能療法(MFT)」をご提案しています。口腔筋機能療法では、専門的な器具を使った舌や唇の筋肉トレーニングや、食べ物を正しく飲み込む練習をします。
当医院の治療のコンセプトは“機能”を始めに、“歯”は最後にです。上顎の拡大は歯ではなく舌のために行い、一旦上顎が十分に拡大されれば、舌を訓練することで上顎のアーチ(歯列弓)をサポートできます。
口腔筋機能療法は、舌、唇や頬など、お口周りの筋肉の力をつけることによって、舌を正常な位置に戻すことを目標にしています。なお、歯並びの悪さが軽度のときは、この口腔筋機能療法のみで乱れた歯並びが改善する場合もあります。また、「食べ物を正しく咬み砕けるようになる」「正しい発音ができるようなる」などの効果も期待できます。
MEAWとは、Multiloop Edgewise Arch Wire という英語の頭文字をとったものです。このMEAWの意味は、ループを使って自由に歯を動かすことができるワイヤーという意味です。また、この治療法に、オーストリア咬合学というかみ合わせの概念を組み合わせることによる矯正治療には、多くの利点があります。
1.歯を抜かずに矯正治療を行なえます。(※親知らずは抜歯する場合があります)
2.従来の矯正治療に比べて治療期間が短い。(従来の約1/3~1/2に短縮)
3.今までの矯正と違い、見た目だけではなくかみ合わせのバランスを整えることができます。
まず1つめの”歯を抜かずに矯正治療を行なえる”ですが、そのまえに従来の矯正治療ではどのようにしているのでしょう。
従来の矯正治療では、歯が重なってガタガタになってしまっている場合、歯が並びきらないという理由から生えている歯の中間にある歯(前から4番目もしくは5番目の歯)を上下左右4本抜いてしまいます。
これはただ単に ”並ばない” という単純な理由からです。しかし人間にとって初めからいらない歯というのはありません。すべての歯にそれぞれの役割があります。
ですから抜いて治療するよりも、人間の本来持っている正常な状態にしてあげることこそが、治療になります。
では、なぜMEAWを用いた矯正治療では、歯を抜かずに治せるのでしょうか。
それは歯が並びきらないなら、単純にその下にある骨自体を矯正治療をしながら歯が入るように大きくしていく、また歯を後ろに動かしてすき間をつくってあげるということをしているからです。
従来の矯正の方法では、このようなことはできませんでした。しかしMEAWを使って矯正すればできます。それは、ループを使うことで、歯を1本1本ゆっくりと動かしていくことができるため、無理な強い力がかかりません。だから歯を抜かないですむのです。
2つめの”従来の矯正治療に比べて治療期間が短い”のはなぜか。
従来の矯正治療は、大体2.5年から3年、長い人で5年もかかっています。MEAWを用いた場合、大体6ヶ月から1.5年、長い人でも2.5年程度で終わります。これは、その人の歯並びの状態によってかわってきます。
この治療期間の大きな違いは、ワイヤーの形の違いです。MEAWは、ワイヤーの形が歯を動きやすいように1本1本の歯の間にループが入っています。そのためすべての歯を同時に自由に動かしていくことが可能なのです。これは、列に並んでいる人が、1人づつ前に動くのと、 ”せーの” で全員でいっぺんに動くのとの違いです。
3つめの”かみ合わせのバランスを整えることができる”というのは、治療前の診断・治療方法の違いです。
見た目はきれいになっていたとしても、かみ合わせがしっかり合っていないまま、矯正治療が終了してしまっては意味がありません。また、従来の方法だと、歯を前後に動かしてガタガタをとるということだけしかできませんでしたが、私たちの行なっているMEAWは前後だけでなく、上下にも動かすことができるため、全体のバランスを整えることができます。治療例を見ていただければ、顎のバランスが変わっているのがわかると思います。
このように、MEAWとオーストリア咬合学を合わせた矯正治療は、非常に多くの利点があります。