人間は一生の約3分の1を睡眠に費やしています。1953年にレム睡眠が発見されて以来、睡眠と睡眠障害について多くのことが研究されてきています。昨今耳にすることが多くなってきた閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、人が夜間に呼吸困難に陥る睡眠関連疾患であり、心肺、代謝、心理的影響が罹患率と死亡率の増加につながることが分かってきており、睡眠時に上気道閉塞により上気道抵抗が増大し、いびき、無呼吸、低呼吸が頻回に起こることで睡眠障害とその合併症を認める病態のことを示します。
「舌は呼吸器官である」東京医科歯科大学矯正科の小野卓史教授の言葉ですが、当院における“咬み合わせトレーニング”を実践している子供たちが、舌を口蓋(上顎)に貼り付け口呼吸を鼻呼吸に変えることで、血中の二酸化炭素濃度や一分間の呼吸数が明らかに改善してくるのを目の当たりにすると、間違いなく舌が呼吸器官であることが実感できます。
従って皆さんにご理解いただきたいのは、呼吸器官の改善には舌の位置をコントロールするという概念が必要です。
日々の歯科臨床でさまざまな方の口腔内、咬み合わせを診査していると、個々の歯が内側に傾斜していたり、歯列弓(歯列のアーチ))が瓢箪形、トライアングル型など本来の半円形から大きく逸脱しているケースを多く見かけます。これらの場合、舌房が狭くなり、必然的に舌が後方に位置することとなり気道が狭小化し、その結果、呼吸機能が悪くなる可能性があります。
また、嚥下する際、舌を無意識に上下の歯の間に介在させて嚥下(異常嚥下)する方もいて、その場合は舌を含めた口腔周囲筋の動きが歯列及び顎骨の形態を歪ませる根本原因となります。
改めて睡眠時無呼吸の病態はどういうものなのか。
舌が本来の正しい機能を有し、安静時に口唇を閉じて舌を口蓋に貼り付けが出来ている方であれば、睡眠時であっても舌根が軟口蓋、そして咽頭壁を圧迫することはないと考えられますが、常に低位舌であったり、アデノイド肥大その他何らかの原因で気道が狭くなるような状況が作り出されると、呼吸流量が低下し「低呼吸」と言われる病的な状態になります。さらに気道が閉塞するような状況まで進行すると「無呼吸」という状態になります。
※口呼吸になっている方は舌が下がっているので舌が後方移動し、咽頭壁が閉鎖しやすい状態になります。
尚、歯科では睡眠時無呼吸の診断は行えないのでしかるべき医療機関(いびき・睡眠呼吸外来など)にて診断を仰ぎ、その結果によって睡眠時に閉塞する気道を拡げるための下顎前方誘導装置(OA Oral Appliance)作製し装着する流れとなります。
医科ではAHI(apnea-hypopnea index,無呼吸-低呼吸指数)>20もしくはREI>40に対してCPAP治療を行いますが、無呼吸-低呼吸であってもCPAPをするほどではない患者さん(5<AHI<20)は歯科においてOA(Oral Appliance)治療の対象となります。
但しOAにて根本原因を改善できるのではなく、あくまで対処療法であることをご理解ください。
当医院にも「いびき・睡眠呼吸外来」からの紹介患者さんが増えてきており、今後OSA(閉塞性睡眠時無呼症)患者さんへの歯科での対応が急増してくるのではと考えております。
歯列弓の狭窄によって舌房が狭くなることで舌は後方に位置することとなり、その結果舌根部が咽頭腔を狭くし睡眠時無呼吸が引き起こされやすくなる。